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魔物資源活用機構  作者: Ichen
異界と馬車歌
2554/2961

2554. 夜 ~世話焼きの助言『死なせるな』・『生かす殺す』の矛盾・トゥと可能性と不明瞭

 

 誰かが気付いても良さそうなもんだ・・・ くわっと髭に包まれた口を開け、白い煙を輪にし、天井に向けて吐く。



「どうした」


「ん。()()()()()にな。毎度のことだ」


「バニザットから見れば、殆どの人間が未熟だろうに」


 フフッと笑ったメーウィック姿のラファルが、窓際の椅子を立つ。魔導士は、彼にも煙草を出してやり、受け取った煙草の先に火をつける(※気配りまめ)。ラファルが咥え煙草で『未熟っていうのは』と先を促し、魔導士の目つきに察した。


「ああ~、彼らか。あんたも世話焼きだ」


「お前と一緒にいる時点でな」


「悪いな。()()()


 謝る男をお前は構わんと止め、『冗談だ』気にするなと配慮の一言をつけると、苦笑したラファルが頷き、『気になるなら出かけても』そう言って表へ顔を向けた。


「最近はあんまり・・・あんたも俺から離れないだろ。イーアンたちがどうしているかと思っていたんだ。まだこの国に来たばかりで、大きな問題も起きていないのかもしれないが」


 問題大有りだとは言えない魔導士。今朝も犬っころ(※女龍)に面倒臭い話を聞いたばかり。

 とはいえ、ラファルに話すようなことでもない。三度目の旅路で、ラファル(この男)ほど気の毒な状態はないと思う。


 ラファルに心配をかけないよう、魔導士は煙草を指に挟んだまま、少し煙の立ち上がる様子を眺めてから『ちょっと浜に出る』と呟いた。


「浜ってそこか」


「そうだ。知り合いを呼び出す」


 リリューは外にいるので、魔導士は後を任せて外へ出る。ほんの少し歩けば、波打ち際。魔導士の唇から、吐き出した煙と呪文が流れ、紺色の夜に緑色の魔法陣がゆらめいた。



 ヨーマイテス。どこにいる―――


 魔法陣で獅子を探す、数十秒。待っていると呪文の光の上に、金茶色の毛が一本出た。ヨーマイテスに呼び掛け、待ち合わせ場所を指定すると、金茶色の毛は了承を示し、魔方陣を消す。


 緋色の魔導士が風に変わり、島が見える範囲の空に旋回する。獅子が近くの岩の上に現れたのを見つけ、離れ岩に降りた。


「何の用だ。どうでもいいことで呼ぶな」


 相変わらず、会えば確実に機嫌斜めの獅子。魔導士は呆れがちに『()()から離れるのは、そんなに嫌か』とバカにした。獅子はそれを無視(※今更の質問)し、とっとと話せと吐き捨てる。



「僧兵の話だ。今日、コルステインとイーアンに聞いてな」


「お前に関係ないだろう。若干、手伝わされたってだけで」


「俺も手伝いたいと思わんし、関係ないとも決め込みたい。だが俺が嫌でも、お前らが不甲斐なさ過ぎて、()()()()()()()()()()()()()にもなれ。俺しか気づいていない問題が」


「無駄はよせ。用を言えよ」


 早口で捲し立てられる嫌味をざくっと断ち、獅子は鬱陶し気に急かすが、魔導士が先に気づいた問題があるとすれば、それは『間違いなく問題』と分かっている。獅子の聞く姿勢を二秒黙って見つめ、魔導士は教えた。


「僧兵は、()()()()()戻ってくるらしいが。戻ったところで狙われて殺される、なんてことは」


「あるな」


「だろ?」


 夜の潮風に、黒髪と緋色の僧服をなびかせ、腕組みした魔導士は、岩に立つ獅子を見下ろす。だから?と無言で見上げる獅子に、『気にならないのか』を問うと、獅子は顔を背けた。


「イーアンにもコルステインにも会ったなら、ザッカリアの予言も知ってるだろ。放っておいても来る」


「放っておいて、いざ見る機会が来たら『死体』かもな。それでも『予言は外れていない』と言えなくもない」


「何が言いたい。俺に探せとでも」


「他にどう聴こえる。お前以外にどこでも動く奴がいるか?」


「動く理由が、俺にない。気になるんなら、お前が行けよ」


 獅子が突っ撥ね、魔導士は目をぐっと細め、『この馬鹿』と一言放つ。碧の瞳がぎらついて、見下す魔導士は、ケッと吐き捨てた。


「分からんか。どこまで温くなったんだ、お前は」


「言葉に気をつけろよ、死にぞこない」


「馬鹿でかい毛糸玉(←獅子)より、マシだ。精霊が俺に手伝わせ、コルステインが対処に乗り出し、イーアンが異世界を懸念している相手だ。ただの脇役でも、()()()()()()()()と言われてるようなもんだと」


「失せろ。お前と話すと、ムカついて仕方ない」


 牙を光らせ唸った獅子に、従う意思を見た魔導士は、フンと鼻を鳴らして『用はこれだけだ』と残し、さっさと風に身を変えて消えた。



「バニザットと大違いだ(※名前は一緒)!ちくしょう、なんで俺が」


 サンキーの工房に出かけた息子とタンクラッドに付き合った今日。帰りはトゥだというから、俺はサブパメントゥを抜けて戻っていた最中、呼ばれて何かと思えば! 来るんじゃなかった、どうでもいいことだと、獅子は愚痴が止まらず、息子の待つ宿へ帰る。


 だが、分かってはいる。魔導士が指摘した『僧兵を死なないように』の意味。


 あの男が重要なんじゃない。あれの背負った役目だけが、俺たちにとって重要だということを。

 僧兵が俺たちを、重要なこと(それ)に引き合わせる日まで――


「ちっ。だからって」


 むしゃくしゃしながら、獅子は夜の宿の影に滑り込む。

 部屋にいたシャンガマックは、影を飛び出た怒りの形相の獅子にびっくりするも、圧し掛かられて『どうしたの』と宥めながら、獅子の愚痴に付き合ってやった。そして・・・目と目が合う。獅子は嫌そう。シャンガマックは仕方なさそうに。



「探しに行かないと」


「お前ならそう言うと思った」


「あの男、戻ってきたらすぐ、古代サブパメントゥに殺される可能性が高い」


「当然だ。だからコルステインがああしたんだ」


「ヨーマイテス・・・ 俺も行くから」


 床に押し倒された姿勢で、大きな獅子の顔をよしよしする騎士(※飼育員さんのように)。ぶすーッとした獅子が、『お前は寝ろ』とか『お前まで巻き込みたいと思わない』とかブツブツ言うのを、そうだねそうだねと往なして、結局、二人で出かける。



「どこにいるか。何の見当もつかないね」


「動いては、千里眼だ。それで間に合わなければ、()()()()()で」


 苦笑するシャンガマックも頷いて『運任せだ』と、まずは千里眼で僧兵を探し始めた。



 *****



 夜に出かけた二人は、あちこちへ移動しては千里眼で僧兵を探し続けた。


 途中、『クフムと交代する男』これについて、シャンガマックは何度か考えていた。先日、ミレイオたちとの話題に出た『クフムの服の効果』・・・も気になり、それをヨーマイテスに話したところ。


「倒された可能性がある」


 僧服に力を忍ばせたサブパメントゥの操りが消えたのでは、と推測し・・・ 二人は『神殿に係わるサブパメントゥを、誰かが倒した』なら、その続きはどうなるかと目を見合わせた。


「一人じゃないよね?何人もいるだろう?」


「何人か。そうだな。その一人が倒れたとして」


 獅子はここでも、僧兵と古代サブパメントゥの、疑問ある緊密な関係に、留意する。


 コルステインによって僧兵が消えた後・・・夕方、ミレイオが僧服の変化に気づいた。

 あの男には、古代サブパメントゥの『欲しい何か』があったのだろう。本人も分かっていないような・・・ それが、俺たちへ知らせなければいけない『役目』かと、ここまで考えて、なんとなーく全貌が見えた。



「ああ・・・そういうことか。俺はもう、興味もなくなったからな。気にもしなかった」


「え?何に」


 焦げ茶色の大男の独り言に、シャンガマックは目を丸くする。


「俺もなぜ、今まで無視できたかと思う。ホント、どうでもいいんだよな(素)」


「何のこと?俺に話せることであれば」


「お前がいれば、俺はもう他に要らないと言ったろ。それが理由で見ていなかったことだ」


 なんだか嬉し恥ずかしな返事に、シャンガマックはちょっと照れる。でも、うんと頷いて『そういうことなんだね』(?)と、続けて聞きはしなかった。



 ヨーマイテスは千里眼で探しながら、見落としていた『理由』を改めて考えてみて納得する。


 古代サブパメントゥが、わざわざ道具補助や手伝いまでして、あの僧兵に付き合っていた理由。あの男自体が、幻の大陸(アスクンス・タイネレ)の通路を()()()()()からか、と。


 イーアンと僧兵の会話、確認。コルステインが、あの男を飛ばした先。

 この世のものではない記憶を訴えて確認され、『どこかへ通じる大陸』行きの強制発射を執行されたとなれば、まず当たりだろう。


 だが、僧兵に何が動かせるわけもない。だから、存在を知ってからはつかず離れずで、大陸へいつ繋がるとも知れない『きっかけ』を見張り、残党の輩は待っていた。


 古代サブパメントゥが、足を踏み入れられる場所ではないにせよ、だ。

 あいつら、バカだからな・・・・・ そう、軽く詰った直後。ヨーマイテスはもう一つ思い出して、ハッとした。


 トゥか。 トゥが居るからか―――


『双頭の龍が道を作る』 創世のサブパメントゥに残る説。

 正確には『双頭の龍』で、トゥではないが・・・ 現時点で、トゥの姿が()()と思い込んでいる輩は、イーアン(女龍)の側から離れない二つ首が、常に近いことから。


 もし、もしも。アスクンス・タイネレへの道が開いた時、双頭の龍さえいれば。空へ行けると思ったのか。



 ヨーマイテスが気付いた、このこと。魔導士は気づいているかどうか。コルステインは気づいたのか。


 そして、アスクンス・タイネレの影が見えないのに、不安定な時空が繋がっていた事実―― 僧兵の存在  ――が、旅の仲間に()()()()()と急かしている。だが、おかしい。



「コルステインが手を打った以上・・・僧兵は。つまり。そうすると。いや、変だ」


「ヨーマイテス?」


 千里眼の手を下げて、眉根を寄せて呟く大男は、不安そうな息子の顔を見下ろして暫く黙り、言おうかどうしようか考え、やはりやめた。これは、俺が伝える立場ではないと思い直す。



「今は言えない。とりあえず、探すぞ」


 頷く息子に少し微笑み、ヨーマイテスは再び探すが。おかしな点が気になり続けた。



 ―――残党のやつらは、僧兵の可能性を待ち、奴らにしては辛抱強く、道具と手まで貸したが。


 しかし、僧兵が俺に捕まった、あの日(※2522話参照)。手の平を返すように、呆気なく奴を殺そうとした。こっちが一歩出遅れていたら、僧兵は殺されていた。


 トゥが近くに来て、幻の大陸に生きて関わっている男がいて、あと少し・・・だったわけだろ? あとは、僧兵に変化が起きれば、あいつらは動きを変えるつもりだったはず。



 俺からコルステインへ伝えられると困る、と。それだけの理由で、殺しにかかるか?早々、出会うことのない()()()()()を。

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