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魔物資源活用機構  作者: Ichen
異界と馬車歌
2553/2961

2553. オーリンの『強化金属粉アルミナ系』・新たな道具を・自首の理由

 

 ()()()()にいた。

 そんなことを気づくわけもない僧兵が、母国に戻され、波打ち際で濡れた砂に倒れている所を、近所の漁師に発見された頃―――



 遠く離れた港に浮かぶ、黒い船では。


 ルオロフとオーリンがコアリーヂニーの工房へ行った、その翌日。

 調べもの・魔導士に情報収集・空で回復を終え、午後に戻ってきたイーアンは、宿へ戻るなりオーリンに『船で話が』と言われて、一緒に船へ。

 今日はタンクラッドがシャンガマックと出かけており、トゥはいない。船に結界も何もないので、イーアンは一応、龍気の膜を張る。


 正直、イーアンは『魔導士からコルステインの話を聴けること』が気になっていて、オーリンに相談を持ち掛けられても、いつ魔導士が来るかそわそわしていたのだが。


「中身?」


 話の途中から『相談内容=弾に入れる内容物』と知り、何を考えているのかと身を乗り出した。話しながら台所へ行く。


「とりあえず、食べながら聞きます・・・昨日のお夕食、買っておいて下さったの?んまー。食べそびれました。申し訳ない」


 前夜の買い置きは、漏れなくタンクラッド行きだったと聞いて、イーアンは謝るが、『聞いただけで、俺が買ったわけじゃない』とオーリンは流した。

 停泊中の船の台所。食材は傷むので、少なめにしか積んでいない。気温が25度以上常のティヤー本島、常温保存で問題なさそうな乾物(※干物の魚)を取り出し、イーアンはボリボリ齧る。


「で?コアリーヂニーは作って下さるんでしょ?」


「そう。中身の話で、彼もちょっとピンとこないと言うかね。何を詰めるか、重さと量の話になってさ」


「容量だけではなく、ですね」


 そうそう、とオーリンは頷き、台所の壁に寄りかかって、腰袋から二つの弾を出した。一つは、弾そのもの。もう一つは、ルオロフが割った片割れ。


「断面ですか」 「一刀両断だよ」


 すごいわねと感心しながら、手の平に乗る二つを摘まみ上げたイーアンは、じっくり両方を見つめて『うむ』と唸る。


「1ml、くらいか。実用したのですか」


「『ミリリットル(※こっちにない単位)』が、なんだか分からないけどさ。実用済みだよ」


 すごい少ないなと思ったイーアンだが、それは口に出さず、どんな用途でどんな効果があったかを尋ねる。すると驚いたことに、オーリンは『目灰を強力にした』のを詰め、砂浜に出てきた肉の塊のような魔物をそれで退治したと言う。効果を具体的に聞くと、過去はディアンタ僧院の滝の魔物と同じような状態だった。が。


「これっぽっちで?!うっそ~」


「本当だ。ルオロフも見ている。俺を信じないのか」


「信じるけどさぁ(素)・・・だって、これですよ、これ。何発だって?(素×2)一頭に平均10発?どんな効果ですか」


 信じてなさそうな驚き具合に、オーリンが驚く。イーアンだって使っただろうにと、以前の話を出す弓職人に、イーアンは思いっきり首を捻って『何したの』と直球で質問した。


「目灰は私も使いましたよ。でも量が全然違うでしょう。使う時は、ばさーっと、どさーっとです、毎度。あなたは強化して、こんなちょっとの量で」


 で・・・言葉を止め、イーアンは断面に視線を留める。粉が。オーリンは自作で削ったから、金属粉? 


 ちょっと考えて、もしやと顔を上げる。じーっと見ている黄色い瞳に『あなた、目灰をどこから出しました』と質問を変えた。


「荷馬車だ。積んであるだろ」


「ありますが・・・奥の」


「いや、手前にあるのから使ったね」


 手前の袋。目灰ではなく、硫黄では。隣り合う袋は、袋同士が接触しないよう、板で仕切ってある。これはイーアンが、揺れる馬車の心配でこうしたのだが。


 でも。一緒に硫黄を集めたオーリンが、()()()()? 臭いもあるし、色もあるし。テイワグナで集めた硫黄(※1300話参照)は、砕いたらさほど黄色くなかったから、暗い馬車の中でよく分からなかったのか。それか、忘れているのか。


 首を傾げて眉根を寄せる女龍に、オーリンは『何』と促し、女龍は言い難いけれど『硫黄だと思うんですが』ぼそっと一言。すると、弓職人は目を瞬かせ、はぁ?と返す。


「硫黄くらい、俺が分からないと思うか?」


「いいえ。ごめんなさい。でも、その。強化の意味をまだ聞いていないから」


「俺が話す前に質問を変えただろ。硫黄くらい分かるよ」


 機嫌を損ねたオーリンに、女龍はもう一度謝る。こそっと馬車を調べて(※どれ使ったか)みようかしらと少し思ったが、その必要はなく、むすっとしたオーリンは息を吐いて『君に教えてない』と言う。


「俺は目灰に混ぜ物をした。その混ぜ物は、()()()()()もあるけど存在を教えていなかった」


「はい?私のおかげ」


 オーリンの話を聞くと・・・もしかして、この世界初の『アルミナ』では、と驚いた。いや、探したらあるかもしれないが、そもそもボーキサイト系の産物を見たことがない。


 入手の初っ端もびっくり。全然、気にしたこともないけれど、言われてみれば。


 彼の龍ガルホブラフは、高熱を発する攻撃。ガルホブラフが溶かした岩で、オーリンは気に入った物を集めていた。

 その一つがたまたま、何かの拍子で落とした私の雷で変化し(※電気分解で酸素と分かれた残りが)、柔らかい金属になった。オーリンは、何かに使えると考え、金属を削って粉を作った。


 これを目灰と混ぜて・・・ それでも、使用量が微量過ぎるため、すさまじい効果を生んでいると思うが、多分、アルミニウム粉末と石灰を混ぜた感じの反応を起こしたのだろうと、イーアンは理解した。


 たかだか1~2ml程度の粉末入りの弾、10発くらいで、巨体の魔物が湯気を出してのたうち回り、倒せるとは。


 相性が良かったのかもしれない―― 『ものすごい()()()()()魔物』と捉えることもできる。



 イーアンは大まじめに考えていたが、『おい』と声を掛けられ、ハッとした。


「すみません。すごい驚いて」


「うん。まぁ、それなら(※機嫌戻る)。かなり話が逸れているから、相談に戻すよ。銃をダメにする中身を入れたいんだが、俺が考えているのは、今教えたやつじゃなくて」



 ―――オーリンの考えている『銃をダメにする弾』。内容は、偶然を装う目的だった。


 暴発させると、偽弾に気づかれる可能性があるからと気にしたオーリンは、数回の使用で、引き金が動かせなくなる状態を望む。


 暴発にせよ、引き金膠着にせよ、弾も原因として調べられたら、混入には気づかれるかもしれないが・・・ 『不出来な銃』の『不具合』、疲労劣化が早い結論になれば、()()()()()()()()選択も――― 今後に影響はすると、イーアンも思う。



「近いうちに、()()ましょう」


 話を聞くだけ聞いて、イーアンは答えた。彼が予定した材料は、調整した方が良い。

 ()()と言うと大げさだが、確実に仕事をしてくれる状態と、バレない徹底がいる。そのためには、偽弾を方々へ配った後、どこで使用されても同じ結果が出るように・・・イーアンはそう伝えた。



「俺は、君のそういう徹底するところが好きなんだ」


「とりあえず、目的が目的なので。私たちの手を離れて、長期戦で暗躍してくれる偽弾のために」


「うん。でさ、もう一つ話があるんだけど」


 連続でもう一つ、それは何かと思ったら。オーリンは『アイエラダハッドに、神殿のやつを向かわせたらどうか』と言った。ルオロフにも話したそうで(※2547話参照)、イーアンもちょっと意外。


「仕向けるのですか。動いたものを捕まえるのね?鳥文という可能性もありますよ」


「それなら鳥文が届くかもしれない、とゴルダーズ公に先に伝えておけば良くないか」


「そうですねぇ・・・ 見張りに立つのを誰か、ちゃんと決めないと。逃がしたらまずいです」


「イーアン、俺がこれを君に話したのは。君には強力な友達がいるからだ」


「・・・・・ ダルナのこと?」


 ダルナじゃなくても、と弓職人は頷く。あんまりあてにすると、それもどうかなぁと、イーアンは即答できず目を逸らした。


「無理にじゃないけどね。一個提案、だ」


 そんな女龍に、オーリンはやんわり下がり、イーアンは困った顔で微笑んだ。



 しかしこの話は、二人が思いもしない方向で解決する。それを知るまで、あと少し―――



 *****



 夜。あの後、オーリンと宿へ戻ったイーアンは、夕食前に魔導士に呼ばれて出かけた。

 魔導士は空に浮いた状態で、『調べてやった』話を聞かせ、イーアンはコルステインがとった行動の・・・続きは()()()()()()()、それを知っただけに終わる。


 魔導士が、直にコルステインに尋ねたが、コルステインも多くは話さず、僧兵を待っていれば再び現れるだろうと、そこが結論だった。

 コルステイン曰く、『あの男は二人ではなく、一人になって戻るはずだ』と、この言葉だけは意味深で引っかかった。


 イーアンが魔導士と分かれ、宿へ戻った時間―――



 遠い島の漁師の家で、食事をもらう僧兵は、黙々と食事をし、自分の身の振り方を考えていた。


 親切な漁師の家族は、治っていない傷が顔にある男を気にし、薬を用意してくれたが、僧兵は『こんな傷に勿体ないから』と断った。一食の礼を言い、まだ休んでいけばと止める彼らに少しだけ微笑んで、外へ出た。


 この島に来たことがない。

 ここにいるとサブパメントゥに知られれば、俺は殺されるだろう。

 どこまで歩けるだろう。

 金がないから舟は借りられないが、人間殺しは()()()()()


 星空を見上げた目に、降るほどの白い星が映る。当たり前の風景でも、何となくじっと見つめた。


 漁師の家から歩いて通りに出る。近い港を勘で探し、灯台手前まで歩いた。

 思うことは繰り返しで、サブパメントゥに見つかれば殺される・いつまで歩けるか・舟を借りられない場合、どうするか・・・これらが頭を巡った。


 舟を借りた続きは、ぼんやりと決まっている。『自首』の状態に近い。


 判決で晒し首を受け入れるほど、反省してもいなけりゃ、懺悔も後悔もない。単に、自分の見切りがついただけで。神殿の僧兵は危ない。それが最初にある。確実に、サブパメントゥに狙われる。


 獅子と外国人に捕らわれた日。サブパメントゥが俺を殺しにかかったのを感じた。撤回されているとは思えない・・・ 一度殺すと決めたら、サブパメントゥはあっさり実行する連中。



『ウィハニの女』呟いた口は、少し傷が開いて血が滲む。じくっと痛む口に指を当て、歯が折れたせいで発音がおかしいと、今更思った。こんなことが気になった自分に、奇妙さも感じた。


 ウィハニの女に会えるまで、生き延びれば。

 神殿と、サブパメントゥに、目をつけられるより早く。ウィハニの女に接触して、彼女の守りの範囲に入れば。


 そのためには――― 何が起きたかを、ウィハニの女の仲間『粗暴な奴』に話そうと考えた。


 あいつは、神殿の取引と銃や火薬について、まだ探っているはず。俺の言葉を聞く余地は、今もあるだろう。



 運命の輪は、軋みを立てて回り始める。

 無差別に大勢を殺したことに対し、反省も後悔もしない男が、『一人分になった自分』の続きを取り返したくて、黒い船を目指す。

お読み頂き有難うございます。

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