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魔物資源活用機構  作者: Ichen
烟雲の如し
2547/2961

2547. 宿の昼・オーリン談『証人準備』 ・埋もれる魔物

☆前回までの流れ

コルステインに連れて行かれた僧兵。コルステインの指示を受けて、テイワグナで待機したヨーマイテスとシャンガマック。僧兵は、アスクンス・タイネレから漏れた影響を受け、別人の意識を混在させた奇妙な存在として、コルステインはこれを運に託しました。

今回は、することのなくなった船での場面から始まります。

 

 コルステインが連れて行った僧兵は、戻ってくる雰囲気はあれ、いつと分からないイーアンは。


 あの後・・・船で何をするでもなく、皆で宿へ帰ることにした。イングは魔力の都合があるようで、一度引き上げる。でも『また来る』と言っていた。



 午前の用事を終えてからの、慌ただしい僧兵移動の一幕は、意外に時間が経っていたため、気が付けば昼近い。


 宿にいたオーリンは、皆に用事がどう終わったか、それと()()()()()()()続きを尋ね、クフムの見張り番を交代し、ミレイオの結界を張って、一部始終を教えてもらう。


「じゃ。今はもういないのか?」


 驚いたオーリンは、僧兵がコルステインの用事で引き取られたことに意外そう。そうですとイーアンは小さく息を吐いて『あの方が使う、というなら』と言いながら、未消化を表情に浮かべた。


「クフムの報告と、ザッカリアの予知と、イングの見越しから推論したイーアンの見解が一致。えーっと・・・でも、普通の人間なんだろ?鬼畜だが、人間には違いないと」


「人間ですね。ティヤー人で・・・人間にない能力は、持っていません」


「それなのに、他の人間の生きた意識が入ってい・・・ええ?なんだそれ」


 言われたことを繰り返しつつ、首を傾げるオーリン。理解に難しいと訴える彼に、『私に理由がわかるわけもなく』イーアンもそれしか言えない。


「とにかく、用事が済み次第。コルステインは、あの男を戻すはずです。戻ってきてからの扱いを、それまでに固めておきたいです」


「そうだな。神殿が探しているか、知らないが。その内情だと、ただの僧兵扱いじゃないだろ。神殿の手駒でも特別な人材だ。探していると思って間違いないだろうな。クフムと交代した後、僧兵もうろうろなんてさせられないぞ」


「当然です。うろうろしながら()()()()と思う」


「冗談にならないな。笑えない」


 気が滅入る、と溜息を盛大に落とす女龍の、げんなりした顔を覗き込み、オーリンは『閉じ込めておけよ』と妥当で無難な提案をした。結局のところ、皆もそれしか最良が思いつかないのは同じ。そうですねと頷いて、イーアンはまた溜息を吐き、椅子を立った。


「お昼にしますか。それと・・・情報共有は終わったので、午後の予定を」


「あ。それなんだけどな。クフムは寝ているし、俺は出かけたいんだ。ルオロフを通訳に借りたい」


 出かけたいと言ったオーリンは、壁の外を見るように視線を向け、『眠っているクフム』を示す。


 なぜか・・・クフムは、イーアンたちが戻ってくる少し前『猛烈に眠い』と眠気を訴え、寝台に頭を付けるや否や、ぐぅぐぅ眠ってしまった。


 この報告を聞いた時、イーアンたちは少し奇妙な感じもしたが、オーリンが『あいつたまにあるんだよ』と、これまでも急に寝た時があったと話すので、そうなのかと受け入れた。



「手が掛からないだろ。食事するわけじゃないし」


「んー、まぁ。普段も特に手間なしな人物ですが(※クフムは大人しい)。分かりました、オーリン外出。工房へ行くの?」


 手間なしクフムの見張りは楽として、他の仲間が午後にすることがないなら。オーリンはコアリーヂニーの工房へ行きたいと話し、イーアンも皆も了解する。ルオロフも勿論、了解。



 ということで、オーリンとルオロフは出張する。

 オーリンは一応、小さい弓だけ持ち、ルオロフも『では私も』と宝剣を剣帯に下げ、昼は現地で食べるとこれを挨拶に、ガルホブラフを呼んで、二人はさっさと飛んで行った。



 *****



 ルオロフを借りたオーリンは、空の上なので(※安全)先ほどの報告で、一部気になっていた箇所を話題に出す。


「僧兵のさ」 「はい」


「やり取り・・・あれ。動力でやり取りした、アイエラダハッドの」


「ええ。イングが契約の紙を再現してくれました」


「そこに在った名前、やっぱりゴルダーズ公なのか」


「・・・はい。他、私の知らない貴族の連名もありましたが」


「ふぅん」


 オーリンはそこで一旦切る。何かなと、少し気にするルオロフ。数秒の沈黙を置いて、振り向いたオーリン。


「動力の設計図を、ミャクギー島の神殿に返却しただろ?下手に持っている方が不利かもしれないし、返却して良かったんだろう。

 ただな。設計図(あれ)は元々、ゴルダーズ公の持ち物だ。彼からミレイオに託され、ミレイオがイーアンに渡して、イーアンがクフムに確認を取るために使い・・・最終的に、クフムが神殿へ運んだ。

 クフムの報告では、彼が届けたことに、神殿は何も指摘していないが、それはミャクギーが『数年前に受け渡しした場所』じゃなかったからだろうな。

 設計図が()()()()()()()()()()()()()。それだけデカい秘匿内容なら、受け渡し現場で、図の保管先も決めていたんじゃないかと、俺は思う」


「ゴルダーズ公が保管先。それを神殿は知っていると」


「その可能性はある。もしそうであれば・・・俺なら」


「オーリンなら?」


 ドキッとしたルオロフは、弓職人が何てことなさそうに話す展開を急かす。オーリンは肩越し、若者を見て教えた。


「イングが再現した紙にある、取引場の神殿に、『クフムという僧侶が、ミャクギーに設計図を返した』ことを知らせて、なぜ最終保管先ではないクフムが運んだのか、違和感を与える。神殿が、アイエラダハッドにいる、ゴルダーズ公の現状を確認するよう、動きを煽る」


「そんなことをしたら、アイエラダハッド貴族が崩壊したことが知れてしまいます」


「そうでもない。アイエラダハッドに行った遣いを、捕らえるから」


「なん」


「捕らえる。そいつを証人にする。ゴルダーズ公に()()()()()にね」


 ぽかんとしたルオロフが、言葉を探している間に、オーリンは下方に目安を見つけ『降りてくれ』と龍に頼んだ。



「オーリン、証人って。その遣いを?」


「そうだ。そいつなら、取引も僧兵も知ってるだろう。誰にでも話せる内容じゃない上に、大貴族相手、顔見知りでもない、どこぞの馬の骨を送り込むとは思えない。

 サブパメントゥに探らせる手段はない、と考えていい。ゴルダーズ公から経緯を聞き出す、そんな複雑な心の動きは操らないそうだから。

 つまり、『人間の関係者』が直々に出かける・・・そう思」


 えないか?と言いかけて、オーリンの背中にルオロフの頭が当たり、止めた。ルオロフ、驚きと感動。


 どうしたと尋ねる弓職人に、額を付けていたルオロフが『あなたはそんなことも考えて』と顔を上げる。


「すごいです。オーリン」


「当たってから褒めてくれ」


 ハハハと快活に笑った弓職人に、ルオロフは『いや、凄いです』ともう一度、感動を伝えた。


 龍は海辺に添う、細長い砂浜に降り、ルオロフとオーリンも砂を踏む。地図で説明されていた雰囲気そのものが、二人の前に広がっていた。


「ここからはお前の出番。ルオロフ、住所を探してくれ」


「はい」


 いつもより笑顔眩しい赤毛の貴族。その熱こもる眼差しに、大袈裟だぞとオーリンは苦笑して一緒に歩いた。



 *****



「ここかな」


 中天を過ぎた太陽は、まだまだ明るく、影が短くしか落ちない。暑いですね、暑いなと言いながら、二人は汗を拭き吹き、砂浜を歩いて『漁師小屋』を覗き込む。


 網だらけだからと、コアリーヂニーに目安を伝えられていた。実際、オーリンも砂浜と漁師小屋並びに、いくつも置かれた網を見て、龍を降ろしたのだが。漁師小屋はあるけれど、工房はない。そして何軒も軒を連ねる小屋に、人が一人もいなかった。



 住所・自分がいる時間帯、不在時の連絡先――― これらが紙には書かれているのに、住所は正しいはずでも工房と呼ぶには足りない建物(※小屋)だし、人はいないし、時間帯は『いる』予定の昼間。


 長屋の漁師小屋、開いたままの戸ばかりだから、ルオロフとオーリンは壁沿いに歩いては、戸口の中を覗いていた。


「失礼かなと思いますが・・・ここも、誰も」


「失礼じゃないよ。住所、合ってるんだろ?不在時の連絡先も、『工房並びの隣家』で」


 そうですねぇと頭を掻くルオロフ。オーリンは『暑い』とぼやいて、ズボンの裾を数回巻き上げ、ルオロフもそれに倣う。


「隣家がないじゃないか。全部、小屋だぞ。漁具と使っていない舟が置いてあるだけの」


「変だなぁ。住所は合っているのに、なぜ・・・あ」


 首の汗を拭ったルオロフは、気づく。黄色い瞳と視線を合わせ『お昼、違う場所で食べているのでは』と一言。


「こっちが腹減っているってのに」


 それは関係ないですから!と笑う貴族に、オーリンは疲れた暑いを繰り返し、短い庇のわずかな影に立つ。

 だが、この予想は外れで、もっと深刻なんて、二人は思わない―――



 戻るかもしれない相手。待つにしても、工房ではない漁師小屋で待って、人が来るのかどうか。



 ぐぅっと腹が鳴り、腹に片手を当てたオーリンは、白い日差しに目を細め、ルオロフが手元の紙に考え込む横で、ふと・・・魔物の気配を感じて、小屋の中を見た。


 開いたままの扉。底を上にして置かれた小舟、丸めた網、壺、他あれこれ、まとめて寄せられている小屋の中。何かが、動いた。


「ルオロフ」 「はい」


「剣を抜け」 「はい」


 外の明るさに反し、暗い小屋を見据えた黄色い目は視線をそのまま、腰に下げた小さな黒い弓を帯から外す。赤毛の貴族も、鞘の押さえを滑らせて剣を抜いた。

 オーリンの真横に寄り、彼の肩の高さに頭を下げたルオロフは『()()ってことはありませんよね』と囁く。


「ないと思う。まずはここに一頭だ」


「分かりました。オーリン、矢は」


 矢のない弓をちらっと見た若者に、オーリンは『特殊でね』と一言答えると、弓を持つ手と反対の手をぐっと握った。

 コリッと音がした瞬間、ルオロフが矢の有無を尋ねるより早く、バカンッと何かが板張りの床を突き上げた。


 床に被った砂を散らし、薄橙の肉の塊が天井を砕く。ルオロフがオーリンの横から消え、肉の塊が横半分にずれたのは次の一秒。ルオロフの剣の唸りは後から続き、赤毛の若者が部屋の端に飛びのく。太い肉塊はブルッと揺れて上半分が落ち、下は床下に素早く消える。



「早い」 「倒していません」


 目にも止まらぬ動きの赤い狼に苦笑しつつ、『次は俺が』とオーリンは小さな弓の弦を引き、直径2mほどの割れた床穴に三連発で打ち込む。ん?とルオロフが弓職人を見たすぐ、バッとまたも肉塊が突き出し・・・その根元と思しき埋まった場所へ、オーリンが再び打つと、ブシュウと臭い煙が上がった。


「ルオロフ、出ろ」


 煙を確認したオーリンが小屋を離れる。ルオロフもさっと駆けて出た直後、もうもうと黒灰色の煙が増し、異臭と共に肉塊はのたうち回って、数十秒後に動きを止めた。


「何をしたんですか」


「イーアンがね。前・・・使った方法だ」


 後で話すよとオーリンは呟き、『まだいるから手分けだ』とルオロフに指示。魔物の気配が濃くなった、砂を被った通りに、二人は50mほど間隔を開けて立つ。


 人っ子一人いない事情はこれかと、息を吸い込んだルオロフが剣の柄を握りしめ、オーリンが腰袋の『矢代わり』をざらっと片手に掴んだとほぼ同時、ドッ、ドッ、ボッと鈍い地鳴りを伴い、長屋状の小屋が連続で壊れる。


 ブワーッと砂の山が弾かれ、木片が飛び散る空中に、先ほどの肉の塊が日差しを受け立ち上がった。黒い柱のように影を落とし、薄橙の濡れた塊が、先端をオーリンとルオロフめがけて叩き落す。


「口?」


 赤毛の貴族には緩い動きの相手、先端に黒い輪がついたぬらつく肉の魔物は、輪がびよっと広がり、歯のようなものが中に見えた。何列にもある歯。これは気持ちが悪いと、飛びのいたルオロフは剣を滑らせ、まずは分断。恐ろしく切れ味の良い、魔物製古代剣。


 切り捨てた肉が落ちた輪切り、形状が『管』と理解する。一頭目を分断したが、管が突き出るのであれば、本体は地中。最初の攻撃を思うと、オーリンに任せるべきか。


 ルオロフがオーリンの方を見ると、彼も同じことを思ったようで『お前は()()を切れ』と叫ばれた。


「俺が、()()」 


「頼みます」


 ここからは連携。切った側から砂中に潜る魔物は、どれも行動が同じ。ルオロフが切り裂き、下半分が戻った穴に、次の攻撃より早くオーリンが射る。何を矢の代わりにしているのか、オーリンが数回弦を引いた後、確実に煙が上がり、下にいる残りが出てきてじたばた暴れた。そして煙に包まれて動きは止まる、これを繰り返した。


 砂の通りで、赤毛の貴族と弓職人の魔物退治、10分あるかないか。最後の一頭を倒したオーリンは『終わり』と離れたところのルオロフに、片腕を挙げて報告。


 びたん、と煙まみれの肉の塊が動きを止めたのを最後に、オーリンの腹が鳴った。


「こんなの食いたいと思えるのは、イーアンくらいだ」


 冗談を呟きながら、側に来たルオロフに手を伸ばす。ぱん、と軽く手を合わせた若者が笑いかけ『空腹でもこれは嫌です』と・・・聞こえていたオーリンの呟きに答え、二人で笑った。



 イーアンは(※魔物)食べるんですか? 前に食べたんだってさ(※暴露)。 そんなことを言いながら、砂に少し咳き込み、ルオロフは剣を鞘に戻し、オーリンも弓を腰に下げる。


「あ。もしや」 「お、そうかな」


 人の気配を感じたルオロフが、通りを挟んで向かい合う建物の並びに視線を走らせ、オーリンも砂巻き上げる風に目を凝らす。砂浜・長屋の漁師小屋・通り、この向かいも倉庫ほどの大きさで建物が並ぶが、脇から人が数人現れた。


「倒したのか」


 ティヤー語で、驚きを呟いた相手に、ルオロフが『はい』と答えた。


「お前・・・なんだ、オーリンじゃないか!」


「コアリーヂニー?」


「なんてことだ。二人で倒したのか」


 顔を見合わせるルオロフとオーリン。ぞろぞろと建物脇から出てきた中に、コアリーヂニーが混じっていて、彼は駆け寄って笑った。


 彼は片手に海賊の剣を持ち、もう片手に、風変わりな鞭のような武器で、これから倒そうと準備していたと話した。コアリーヂニーの他、十五人ほど。同じような装備のティヤー人が二人を取り囲み、褒めてくれた。


「仲間も集めたが、出番なしだな。有難う」


「礼は良いから、何か食わせてくれないか」


 オーリンの腹がまた鳴って、顔を俯かせて笑うルオロフも頷く。臭う煙の上がる、魔物だらけの通りで、一コマ。時刻は、昼下がり―――

お読み頂き有難うございます。

この魔物のイメージは、砂浜に縦穴を作る貝です。絵にしたかったのだけど、私がこういうの気持ち悪くて(書くので精一杯)絵は断念しました~ 

形状のイメージは、白ミルです。ワタクシ個人的には、大変嫌です~ 絶対に食べられません~

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