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魔物資源活用機構  作者: Ichen
烟雲の如し
2542/2964

2542. 対話版ルオロフVS僧兵

 

 僧兵の話を最初から知り、ルオロフを呼ぶようにイングは呟いた。



「ルオロフに何をさせるのですか」


「話をさせる。お前は、僧兵から見えない場所に立て」


「あなたが誘導しますか?」


「ルオロフが行うことだ。俺には関係ない」


 何か、先を見越したように青紫の男は、静かに促す。ダルナは不思議な力を持つので、こんな会話でもイーアンは信じてしまうのだ・・・が、ちょっと危なくないか?と、当然戸惑う。


 打ち合わせくらいしようと言うと、イングは『面倒だな』で終わらせた(※そんな考えてない)。



「ルオロフが僧兵を前に、どうすると思うのです。蒸し返されたところで、僧兵は彼に、真実を話す理由がありませんよ。私と話した時だって、僧兵は大まかにしか」


「それは大した問題じゃないし、狙いでもない。イーアン、お前が命じれば、俺はお前の()()()()()()()()。ルオロフが僧兵から聞き出す言葉を、物質に換えたら」


「・・・む。何の話ですか?」


 意味が分からずに眉を寄せる女龍だが、イングが鼻で笑ったので、はたと気づく。


「まさか、あなた。消失した『金属棒の袋』を再現する気では」


()()出来ないこともないと思わんか」



 ぐわ~・・・使い道あり過ぎ~(※再現魔法) ビビるイーアン。思いつかなかっただけに、それが出来たら確かに前進するかもと急いで考える。


 金属棒の袋は、サブパメントゥによって消された証拠品。そんな消滅でも再現できるのか驚きだが、本当に再現するなら、カーンソウリー北の警備隊も押収した時に目にしている分、証言が取れるし、イライス・キンキートにも有利。

 が、その金属棒が『銃だ、武器だ』と論点になるかどうかは、別。


 ブツブツ女龍の呟く心配に、耳を傾けていたダルナは、それにも答えは用意してある。


「捕まえた目的を果たせ。盗難と殺人の証拠が要るなら、まずはそれだ。その男の思念を基に、モノは俺が再現してやってもいい。武器と見做せる証明も、モノがあれば探りも利く。神殿との主従関係もだ。ルオロフに煽らせて、僧兵が頭に浮かべた『物質』を出す」


 イングの、水色と赤の混じる瞳がきらっと光った。『どうだ』と返事を求めるダルナに、イーアンは『お願いします』と即答した。



  イーアンが呼びに行った先は、最初がオーリン。オーリンは部屋でモノづくり中。起きていてくれたので、クフムの見張りを変わってくれないかと頼んだ。


「いいけど。長引きそうかよ」


「長引くかも。寝る?」


「いや、そうじゃない。うーん、工具持ってきとくか」


 時間未定で起きている用事となれば、作業続行してもいいかとオーリンは思い、次の工程に使う工具を持ってくることにし、馬車へ取りに行った。


 オーリン部屋を出たイーアン、次はルオロフがいるクフムの部屋。

 見張りが同室で休むわけではないが、ミレイオの結界を張ってあるにしても、就寝までは一人がつくよう決めてある。これも、この先は考えないといけない部分だけれど、今は置いといて。


 こんこんとノックしたイーアンに、ルオロフの声で『はい』と戻る。

 扉に近づく足音数回、続いて戸が開いて、赤毛の貴族が『こんばんは(※礼儀正しい)』と挨拶。イーアンも会釈して、こんばんは。


「オーリンと交代して頂いて良いですか。もうすぐ彼が来ますから・・・あ、来た」


 オーリン?と聞き返したルオロフ。扉の向こうにクフムがいて、こっちを見ている。イーアンは彼にも『オーリンが来ます』と伝え、頷くクフムを見たところで、階段を上がったオーリンが、工具を持った片手を振り、『いいよ』と声をかけた。


 後をお願いし、イーアンはルオロフと自分の部屋へ戻る。

 事情を聞いていないルオロフが、『どうかしましたか』と小声で尋ね、イーアンが扉を開けて『お話をしてほしいのです』と中へ招いた。


 青紫の大きな男がいると、部屋が小さく見える。ルオロフは目を瞬かせ、イーアンをさっと見て『彼とですか』と少し驚いているが、これにはイングが答えた。


「いいや。俺じゃない。あいつがお前の相手だ。ルオロフ、情報を聞き出せ。お前の事実を直にぶつけろ」


「あいつ、とは。もしかして」


 イングの視線が止まった先に、赤い布の籠を見て、ルオロフは戸惑う。『中に僧兵がいる』と聞いていたので、今すぐあの男を相手に喋るのかと、目で尋ねた。横に並んだイーアンは、ルオロフの顔を見上げる。


「イーアン、これはどうしたことですか?情報を聞き出すとは?」


「急でごめんなさい。イングが、あなたと僧兵の会話から『証拠品を探り』ます。あなたは唯一、あの事件の最初から終わりまで、僧兵を誰と知らずに会話し、やり合った事実があります。あなたしか言えない言葉があり、あなたしか見ていない現実を伝えられたら、僧兵もそれには応じるでしょう」


 分かり難いイーアンの説明は、説明と呼んでいいのか微妙だが、ルオロフは機転が利く。女龍とイングが何を求めているか、すぐに理解した。


「つまり、私があの男とのやり取りを、会話で()()()()()を取ることで、話中に上がる発言からイングが・・・ 」


 ふと、呼び捨てで良いのか止まったルオロフに、イーアンは『続けて』と促し、イングも無表情なので、頷いてルオロフは最後まで確認する。


「イングが、証拠となる何かを確定してくれるのですね?この場にお二人は参加せず、私とあの男だけで話す、そうですか?」


「素晴らしいです、ルオロフ。よくまとめて下さいました」


 分かりましたと、赤毛の貴族は引き受ける。それからイングを振り返り、『あなたは』と最初の言葉の意味を手繰る。


「私に『情報を聞き出せ、事実をぶつけろ』と言いましたが」


「そうだ」


()()()()()()に聞こえますが、その解釈で正しいですか」


()()()()だ」


「承知しました」


 あっさり飲み込む、堂々としたルオロフ。かっこいい~とイーアン、心で拍手。さすが、三回生まれ変わっただけある(?)と斜めに感心していると、『イーアンも位置につけ』とイングに指摘され、そそくさ籠の裏に回る。


 イングもイーアンの横に行き、僧兵の気を散らさないよう、籠の裏側に立つ。籠を挟んで、ルオロフ。良いですよ、と薄い緑色の瞳を向けたルオロフに、イングはイーアンを見て『始める』と一言。


 イーアンの手が赤い布をずらし、同時にイングの魔法で、部屋の扉の鍵がカチャンと掛かる。


 籠の後ろ半分に赤い布が下がり、前半分は露出。ルオロフの目つきが変わり、彼が口を開く前に『お前か』と籠から声が聞こえた。


「赤毛のガキめ」


「相変わらず、口の悪い男だ。()()()()と似合って、皮肉だな」


 相手を侮蔑するルオロフの、普段は見せない表情と口調に、イーアンはドキドキする(※母が知らない、子の一面を見る心境)。


 僧兵が籠の中で動き、立ち上がったようで柵を掴み、籠が少し揺れる。イーアンの手が押さえているので、倒れたりはしないが、興奮する速度が速いなと思った。それほどルオロフは、苛立たせる相手なのか。間髪入れずに答えが出る。


「あんな化け物じみた動きで、人間のつもりか?お前もその辺の魔物と変わらないのに、ウィハニの女の仲間とはな。俺に何をさせる気か知らないが、お前を殺すならまだしも、それ以外」


「耳障りな声で、よく恥ずかしくないものだ。もう少し喉の奥まで、杖で壊しておくべきだったか」


 怒りがこみあげていそうな僧兵の罵りを、冷ややかな貴族の嫌味が閉ざす。僧兵の舌打ちが聞こえ、ルオロフは小さく息を吐く。


「舌打ちが可能とは、生意気な。舌ごと潰さなかった私も甘い」


「この・・・野郎っ!」


「それとも、お前が殺人に使った武器で、仕留めておく方が良かったか」


「武器?()()()だ」


 僧兵の返事は、いきなり熱を引く。ルオロフの蔑む眼差しは変わらず。


 ここはしらばっくれるのねと、イーアンは後ろで聞いていて、首を傾げる。取っ掴まって、銃の話をあれだけ出した後で、ルオロフには隠すの?と変な感じ。


 疑問そうなイーアンの考えは見当がつかなくても。ルオロフは、目端に映した彼女の反応から、ここを掘り下げることにする。

 捕獲後の僧兵とイーアンの会話初回では、銃について認める発言があった、と聞いている。


 昨日行われた二回目の会話は、まだ報告を聞いていないが(※2540話後半参照)、初回同様に『銃の話題』は出ているだろう・・・ ルオロフは、とぼけた僧兵を鼻で笑った。



「私の仲間に、散々『銃』の話をしたそうじゃないか。それで私には、白を切るのか」


「・・・・・ 」


 答えない僧兵に、ルオロフが小馬鹿にして笑った。ハハハハハと軽く笑い、ハッ・・・と乾いた笑い声を切る。薄い緑色の瞳は、ランタンの明りを受けて冷たく鋭く輝き、籠の内にいる男を突き刺すよう。イーアン、見ていて怖い(※ルオロフいい人のイメージがガラガラ壊れる)。



「ここから出たら、お前を殺す。赤毛」


「私を?手も足も出なかったお前が、私に息を吹きかけるのさえ無理だ」


 歯軋りの音と、憎々し気に柵を握る動きが、籠を伝う。僧兵がルオロフに怒りを滾らせているが、ルオロフは煽り出す。


「目的に移るか。頭の悪い人間と長話は、私も遠慮したい」


「俺が喋ると思うか?殺す予定のやつに」


「お前がラィービー島で殺人に使った、『銃』はどこだ。殺人現場で回収された金属の部品、と言った方が良いか。杖で突いたなんて、バカな言い訳はするなよ」


 この質問に、今度は僧兵が笑う。イーアンも、おや?と思ったが、決してこちらと目を合わせないルオロフの微表情から『知らないふり』と読み取った。だみ声で笑った僧兵は、『知るか』と吐き捨てる。


「さてな、赤毛・・・()()()()()()に『銃』と決め込んだようだが、お前が見たのは、本当に『銃』か?」


 先ほど白を切ったのをひっくり返され、僧兵は呆気なく銃の名称を口にするが、行き先をはぐらかし、その返答にルオロフは笑わず、口元に片手を添えた。目つきは憐れみを湛え、バカにする気満々。


「お前は気の毒になるほど、愚かな男だよ。『私が見たのは銃か』と尋ねるのだな?」


「ただの()()()だぞ。そんなものをどう使うんだ。吹き矢じゃあるまいし」


 長筒銃の存在は、『粗暴な会話相手(※イーアン)』が、仲間に話していると思った僧兵。

 組み立て式を伏せたのは、現物を見ているとは思わないから。そして、『粗暴な会話相手』が詳細まで話したか不明だから。赤毛の若い男が癪に触って仕方ないが、こいつに話す気はないと決め込んだ。



「なぁ、赤毛。お前が苛ついて仕方ない。その白い()()()()()、泣きわめく顔を踏みたいくらいにな・・・銃なんて、お前は話でしか知らないのに、俺の手足を縛る証拠にして、裁判でも起こす気か?」


 えげつない表現。ルオロフに届く醜い侮辱はイーアンを苛つかせたが、ルオロフは眉間に皴一つ寄らなかった。


「お前が男を犯したいとは、夢見がちな。鏡を見てから言え」


 まずは蔑む、貴族の一言。え、とイーアンはルオロフの表情に凍り付く。冷笑とはまさにこれ。冷え切った、突き放す笑みを浮かべた大貴族の若者が、小さな籠の中の無力をせせら笑う。笑い声は段々高くなり、ルオロフは片手を額に当て、背を逸らして高笑い。



「ハハハ・・・僧侶のくせに、とんでもない言葉を。どんどんボロが出る!あまりに愚かしいから、嘘かと思うよ。

 それで?私がお前の手足を()()()裁判?・・・ハッハッハ、腹がよじれる。お前が手足を()()()、断頭台で頭を落とすならまだしも!アハハハハハ、笑わせるな。男色は傾向だから尊重してやるが、私を相手に?」


 笑い飛ばした若い貴族は、はぁ!と乱暴に息を吐いて前にかがみ、籠に顔を近寄せて睨みつけた。罵倒する僧兵を無視し、早口で捲し立てる。



「死にたいんだな。お前の尻ごと、私の美しい剣で下半身を切り落としてやろう。名誉に思え。アイエラダハッド聖蹟の騎士団史上、最高位の爵位と称号を勝ち取った私が、お前を切ってやるんだ。寛容で素晴らしい思い遣りだろう?半身を絶たれて出血多量、あっさり死ねる恩赦に甘んじろ」


 絶句する僧兵。その籠の後ろで、絶句とガン見するイーアン(※強烈)。イングは変わりなし。


「分かったな?お前はそこから出たら、私の宝剣で、汚らしいその下半身を落とされて死ぬ。私は嘘を言わない。私を従える、遥かに高貴で崇高な存在が、私を止めるなら別だが」


「この犬畜生」


「ほう。迂愚の僧兵が、他人を犬畜生と呼ばわるか。その犬は、お前を噛むほど、牙を汚す気もないぞ。名もなき哀れで愚かな・・・神殿の()()()()よ。犬も家畜も、お前は御免だ」


 白い肌に薄ら笑いを浮かべ、檻たる籠を覗き込むルオロフはゆったり左右に首を振った。


「こうして見ると、僧兵など毛じらみに等しく、実に醜いものだ」


「赤毛。お前は絶対に殺してやる」


「永遠に、無駄な望みだ」


 そう言い切って、ルオロフは視線を―― 籠を挟んで向かいに立つイーアンに、さっと上げる。布を下げて、との合図に、イーアンはすぐ赤い布を掛けた。



 ルオロフは聞いた時から思っていた。

 僧兵は、『袋に入った筒』を、銃だと決めつけていたこと。


 私は『袋』とも『筒』とも言わなかったのに、僧兵は先にイーアンと会話した流れからうっかりしたか、『布袋に入った金属の筒が銃』と自ら言ってのけた。


 そして、何度も『僧兵』と後半に呼んでいたが、否定もしなかった。


 最後までルオロフが指摘することはなかったが、僧兵もまた気づかずに終わった。

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