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魔物資源活用機構  作者: Ichen
烟雲の如し
2540/2961

2540. ガヤービャン昼~『会話帳』『銀』・予定の報告・宿の訪問者

※明日6月25日の投稿をお休みします。どうぞよろしくお願いいたします。

 

 宿はすぐ近くで、戻ってきてから馬車を下ろす。クフムは、船・・・シャンガマックが出かける間、獅子は船待機なので、獅子に任せた(※嫌がってはいた)。


 イーアンたちは、警備隊敷地内を通り、案内してくれた隊員のおすすめ料理を想像しながら、施設向かいの並びにある食事処に入る。



 昼下がりも営業中の食事処は、気取らないというべきか。最初に海から見た、文化遺産並みの町の風景と打って変わって、屋台に壁がついたぐらいの雰囲気。


 こういった方が気楽でいいねとミレイオが少し笑い、簡素な板張りの壁の隙間を覗く。中もざっくばらんで、長椅子が並び、横長の食卓が数列。屋根も壁の延長のように、とても適当。大雨だと雨漏りしそうだけど、味は良いらしい。


 昼時の混雑が引いて、客のいない店内に入った皆は椅子に掛ける。女龍が入った時点で、店の人が二度見し、イーアンは先にご挨拶。驚き歓迎する店員と店主は、イーアンと握手して拝んだ(※よくある光景)。


 ルオロフとシャンガマックが、警備隊の紹介で来たと前置きがてら、おすすめ料理名を伝えると、20分ほど待つ様子。先払いで済ませて席へ戻る。


 甘辛酸っぱい匂いが漂う中、『共通語は通じそうですが、ティヤー語の方が良さそう』と言いながら、ルオロフはカバンをごそごそ。


「何それ」


 赤毛の貴族が取り出した、一冊の手帳。向かいに座っているミレイオが尋ねると、ルオロフはニコッと笑って、薄いそれを差し出し、合わせた両手を広げ『開くように』と無言で促す。受け取りながら『あんたのじゃないの?』と不思議そうなミレイオが、躊躇いがちに手帳を開く、と。


「あら。あんた書いたの?」


「はい。私とクフムで」


 驚くミレイオが、さっと皆を見て笑う。『すごいわ、共通語とティヤー語!』ほら、と隣の親方やオーリンに見せ、机を挟んだシャンガマックやフォラヴも腰を浮かせて興味津々、手帳を傾けて見せてもらう。


「ティヤー語の会話のために?」


 感心したシャンガマックは出来の良さに微笑み、頷いたルオロフは『同じ内容で5冊作ったから、あとで渡したい』と話す。オーリンは『お前は本当にすごい奴』と褒めた。


「私だけでは作れません。クフムの協力もあってこそです。彼は、ティヤー語の崩した表現も知っているので、共通語に訳した時、なじみや普段使いに合うよう、そうした言葉も入れました」


「すごいことするわね・・・クフム、一応使えるじゃないの」


 クフムの名が三回出たところで、ハッと気づいたイーアンが口に人差し指を当てた。これで皆も、ハッと頷く。すみませんと謝るルオロフに、イーアンは笑って首を横に振り、『名前だけ』伏せておきましょう・・・と、彼らが頑張ってくれた、素晴らしい会話帳に礼を言った。


「これならイーアンも!」


 満面の笑みのルオロフに、イーアンは悲しそうに微笑み、苦笑するシャンガマックが『彼女は文字が読めない』と小声で暴露。周知の事実でミレイオたちも可笑しそうだが、ルオロフは慌てて謝った。


「失礼しました。そういえば、以前、そう話していましたね」


「大丈夫ですよ、ルオロフ。イーアンは龍です。多くの人が、イーアンに合わせますので」


 妖精の騎士が慰め、イーアンも頷いておく(※勉強したけど無理だった)。とりあえず、会話帳はタンクラッドたちが持つことになり、ルオロフ(+クフム)の頑張り話はこれで終わる。



 料理はまだ来ないので、続いてイーアン魔物退治の報告へ。


「銀?銀って、貴金属の」


 食いついたのはそこで、ミレイオ。真顔のイーアンの頷きに、『持って帰ってこなかったでしょ』と突っ込むオカマを、タンクラッドが宥める。


「事情が事情だろう。収入源の畑が一面・・・とはいえ、一袋くらい集めても良かった気はするがな(※こいつもそう)」


 止めたつもりが止めてない親方に、イーアンは目を逸らす。イングが変えたお宝を集めるのは、何となく前向きになれない。ちょびっとそれを言うと、まじめなシャンガマックは『分かる気がする』と肩を持ってくれた。


「ダルナは感覚が違うからな。それでイーアンが喜んだら、次にイングはもっと何か・・・しそうな」


 シャンガマック発言に、ミレイオの目が光る。さっと中年たちの視線が集まり(※宝大好き)、ピタッと口を閉ざす褐色の騎士。


 イーアンが間に入って、『トゥに、毎日の食事をお願いしないのと一緒ですよ』とやんわり諭すと、タンクラッドは引く。まぁね、とミレイオがぼやき、オーリンも『悪くはないが、釈然としないな』と理解を深めていた。



「魔物退治の内容は後回しで、馬車の民の状況説明だけだったが。最初から聞くと、微妙な流れだな」


 話を変えたタンクラッドは、厨房から店員が出てきたので、一旦会話中止。料理が運ばれ、人数分の焼き野菜と揚げ魚、根菜と魚介の辛い煮物、主食の平たい折生地が食卓に並ぶが、女龍へのお供えで果物がついた。イーアン、ニコッと笑って会釈。お店の人もニコッと笑う。

 初めて見る形の主食は、とても薄い生地が畳まれて焼いてあり、内側にひき肉が入っている。それと、お供えカット済み果物を一緒に食べると美味しい、とお店の人が教えてくれた。


 遅い昼に、皆はせっせと食べ始める。

 美味しい美味しいと口に詰め込みながら、イーアンの退治、魔物と引き金になった『湖の出来事詳細』を聞いていたが、途中で『食事中に厳しい』とミレイオが遠慮を願って終了。


 死者を洗う・・・確かに食事中の話題ではない。それも、そこから死霊が始まって、犠牲が生まれた結果。


 気軽に話せるようになったら神経疑われそうとイーアンも思うので、『銀の手前の報告』はここまでにした。



 皆で外食する場に、ドルドレンやロゼール、ザッカリアがいないのは寂しいけれど。

 でもシャンガマックやフォラヴは、職人たちが常に一緒にいてくれる安心が、支部の生活を重ねて思え、これはこれで嬉しかった。ふとした時、そう思う。


 話が途切れて、暫し無言で食べ続けていたが、食事後半、飲み物に手を伸ばした親方が『()()()は何の話をしていたんだ』とイーアンに尋ねる。


「機構のことか」


「うん、ちょっ・・・待って・・・ごくん。はい、そうです」


 口いっぱいだったイーアンは、水で飲み下しながら頷く。朝食べてなかったので、がつがつ食べる女龍は、すぐに主食生地を口に入れ『今後のやることです』と親方に教える。むしゃむしゃしているので、笑ったシャンガマックがイーアンに手をかざし、『俺が』と続きを引き受ける。


「後で話そうと思っていたんですが、ここだと、どうしようか。宿に移動してから話しますか?」


()()()()()()なら、船に戻ってからのが良いんじゃないの」


 オーリンが、話の場に船を推奨。親方も『そうしよう』と合わせ、食事は滞りなく、この後も無言。

 外で話せる内容が少なくなったなと親方は呟き、冷たい茶を注いで飲んだ。



 食事終わり、店を出る際にミレイオが店員に挨拶しがてら、ルオロフの手帳を開いて、一文を指差して店員に見せる。覗き込んだ店員が驚いて笑顔になり、ティヤー語ですぐ返した。


『ご馳走様。とても美味しかった』の文に、『また来てください。有難う』と店員は声で返事しつつ、ミレイオの手にある手帳をちょっと手繰り、近い文章を指差した。このやり取りは、振り返った皆も微笑ましい。


『通じたわ』店を出て笑顔のミレイオに、ルオロフも嬉し気。さっと何気なく使ってくれるミレイオの、こういうところ素敵~・・・イーアンもにこにこする。


 シャンガマックやフォラヴにも褒められたルオロフは照れ、オーリンとタンクラッドに、頭をなでなでポンポンされていた(※可愛がる)。



 時間は午後三時を回っており、蒸し暑く地面を漂う空気を、少し汗ばんで歩く。

 行きもだが、帰りも。角を出したままのイーアンは、通りの人気を集めており、左右に手を振り振り、尻尾も出して尻尾も振り振り、サービス精神で応じた。


「旅の最初こそ、『顔』で大変だったけど。あんたがその見た目になってから、男の顔なんて後回しになったわね」


 ミレイオの言い方にシャンガマックが笑い、フォラヴも『目立ち方が比較にならない』とコロコロ笑う。タンクラッドは元から気にしていないが(※イケメン具合)『言われるとそうだな』と改めてイーアン効果を認めた。


 何のことか分からないルオロフだが、隣を歩くオーリンが『()()()()ってだけで、食事するのも大変だったんだ』と・・・冗談みたいな過去を教えてもらい、一緒に笑った。


「ルオロフも良い顔してるからな。イーアンが側にいない時は、襲われないように気を付け」


「襲う人が、彼を捕まえられる気がしません」


 オーリンの忠告を遮るイーアンは、皆さんがイケメン過ぎて・・・言わないけど、本当にメンバーに恵まれている環境に心から感謝のお祈り。


 こんな小さな雑談が楽しい。通りを行く人々に、挨拶されつつ挨拶しつつ。


 イーアンの尻尾を、興味深そうにじっと見ていたルオロフは、気づいた女龍に尻尾を巻きつけられて驚くも、すぐ『これは思ったより気持ちがいい』と褒め、女龍はカラカラ笑う。


「アイエラダハッド最高級の毛皮より、いいですね。失礼かもしれないけれど」


 暑いはずの気温だが、ルオロフは白い巻き毛の尾を、首に巻いた状態で『意外と涼しい(※冷却効果あり)』『毛が艶々でこしがある』『鱗の短い起毛の肌触りが』といろいろ感想を言ってくれた。真面目なルオロフに、皆で笑いながらの帰り道。



 この日から、日数未定のワーシンクー島滞在が始まる。



 *****



 船に入って、暑いだなんだ言いながら、打ち合わせ。今後の予定報告時間。


 魔物退治の様子については先ほど終えたが、昨日に僧兵と話した『聴取第二弾』について、イーアンは『ドルドレンも揃ってから話す』とする。

 ただ、銃や火薬及び兵器的な製造について、あの男が深入りしていることは、伝えておいた。どう深入りし、なぜそうなったのか・・・の説明をすると、長引くので控えたが。



 僧兵との会話は後回しで、他やることリストの項目を、シャンガマックが読み上げて説明する。

 タンクラッドたちは、イーアンや騎士の決めた内容に反対も意見もないが、『フォラヴが秒読み』なのを心配していた。

 ルオロフも、立場を気遣ってもらい、お礼を述べながら『私に出来ることは何でも』と、他に手伝えるなら協力したい旨を積極的に申し出る。



「遺跡巡りもあると思います。そうしたら、その時はあなたにも来て頂くでしょう」


 イーアンの思わせぶりな言葉に、ルオロフの薄い緑色の瞳が丸くなる。『遺跡巡りですか』と言った側から、褐色の騎士が『どこへ』とすかさず口を挟み、イーアンは彼に『まだ言えない』と勿体ぶった(※今の時点で特にない)。



 教えてくれ、どこなんだと、気にするシャンガマックを往なしながら、イーアンは宿へ皆さんを促す。無論、ここにはイングもいるので・・・イングに『宿へ行く』と伝えると、思った通り『王冠でもいい』と言ってくれた。


「宿に、あなたも来るのですよね」


「そうだな。話がまだだ。こいつも連れて行くのか」


 こいつ=僧兵の籠。頷くイーアンは籠を手に持つ。王冠を使ってもらえると、クフムを運ぶのも心配が要らないので、あとは()()だけ。ということで。



「じゃ、行ってきます」 「着いたらすぐ連絡するから、連絡珠は持っていてくれ」


 オーリンとルオロフで、歩いてすぐの宿へ先に向かう。『王冠』移動は、急に出てくるため、驚かせないよう宿に話しておく必要あり。

 オーリン連絡珠、ルオロフ通訳。皆は呼ばれるの待ちで、甲板に馬車と馬を連れて上がり、甲板で待機する。


 トゥがいるので、王冠が出ても大丈夫だよね・・・イーアンは空を見上げる。丸っこいの(※王冠)がポンと出ると、また騒がれそうな。見渡すそこは警備隊の敷地なので、いるのは警備隊がほとんど。ちょっとだけ教えておこうと、パタパタ飛んで降り、喜ぶ隊員に『あの銀色みたいなの(※トゥ)、もう一頭出ますので驚かないで』と頼んでおいた。



 間もなく、オーリン珠が光り、イーアンは了解。皆さんで甲板にまとまり、あとをトゥに任せて、イングは『王冠』を呼び出す。


 丸い影が浮かび、港が騒がしくなったのも一瞬。馬車と馬と全員、次の瞬きで宿の前へ出た。

 通りで待っていたオーリンが『こっちへ』と手招きし、宿屋の人たちが大騒ぎ(※言ったのに)の中、皆は馬車を宿横に運び、クフムは逃げるように屋内に入った。



 各自部屋を割り当てて、風呂や食事の説明を聞いている最中―――


 宿の正面の扉がキィと開いた。人が入ってきたので、宿屋の主人は反射的にいらっしゃいを言いかけたが、すぐに『おう』と挨拶。


 何となくつられて顔を向けたイーアン、他皆さん。入ってきた男二人は目が合うや、一人が『ウィハニ?』と声を上げて駆け寄った(※イーアンは後ずさる)。


「本物か!本物だ、ウィハニの女。ようこそ、ワーシンクーへ!」


 いきなり共通語で歓迎を受け、イーアンは少しぎこちなく笑顔で『有難う』と答えた。この続き、男はイーアンの背後の仲間に『()()はいるのか?』突然そう訊く。



()()職人だ。剣と盾と弓がいるが」


 唐突な質問だが、ふふんと鼻で笑ったタンクラッドが聞き返す。男も無駄なく応じる。


「『魔物製品を作る職人』だ。ウィハニの女が一緒にいる、とは聞いていたが、まさか職人を訪ねて、最初に会うのがウィハニの女とは思わなかった」


 イーアンの手を握ったままの男は、手を離さずにイーアンに『あなたはいつも一緒なんですね』とまた笑顔。笑顔が眩しいおじさんは、海賊ですよねと分かる、顔に傷あり。後ろにいたもう一人のおじさんも前に出て、イーアンに手を伸ばし、イーアンは両手で握手。


 最初の男は背が低く、筋肉質。もう一人の男は頭一つ分高くて、少し瘦せ型。どちらも年齢は40~50代に見える。強い日差しに焼かれる茶色の肌は、艶があって深い皴を持つ。黒い髪、茶色い目、鼻が高くて、唇が厚く、太い首。ティヤー人は肩幅が広く、職人と言うのもあって、彼らの手は硬く強く、手の平が大きかった。



 イーアンの手を離した最初の男は『あなたの手も、職人のようだ』と微笑み、それを聞いたミレイオが『彼女もそうなの』と教えると、より親近感が増したようで、イーアンは肩を組まれる。

 もうなるようになれと思うイーアンは、目が笑っていなくても作り笑いで対応。一々、反応しなくなったが、オーリンが引き取りにでて、イーアンは保護された。


 オーリンは片手でイーアンの角を撫でながら(※保護のつもり)、二人の男に『訪ねてくるのが早い』と遠回しに皮肉を伝える。


 宿泊するかどうかも分からない自分たちを、あっという間に見つけ出し、どこの宿とまで知る由ないはずが・・・ これを聞き、怪しまれていると感じた男二人は、顔を見合わせて、後ろを指差した。



「近所だ」

お読み頂き有難うございます。

明日は投稿をお休みします。どうぞよろしくお願いいたします。

暑い日々なので、どうぞ皆さん、お体に気を付けて、無理がないようにお過ごしください。

いつも来て下さる皆さんに心から感謝して。有難うございます。

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