2539. 『やること』延長と脱退と分担・不可解な僧兵
やることリスト―――
魔物製品そろそろ補充につき、ロゼールが来るまで製品普及の停止。
次の国境警備隊で卸す際、それを伝え、しばし本島滞在の報告。
ラィービー島の盗難殺人事件、証拠集め。
イライス・キンキート宅訪問時、証拠も揃えて相談。
オーリンの『偽弾』依頼先、コアリーヂニーの工房訪問。
両替所情報の、魔物製品製作委託予定の工房訪問。
魔物材料収集、制作指導の期間。
僧兵から聴取すること・・・
サブパメントゥの道具を持つに至った流れ。
関わったサブパメントゥ、条件や取引の詳細。
銃と火薬を押さえる以外の、神殿を止める方法。
残存の知恵と、武器の現状、他行方。
武器製造室をホーミットが壊して回っているが、他にないかどうかクフムに聞く機会を設ける。
他、シャンガマックは言わなかったが、個人的に『サネーティのくれた、自分用の地図(※2467話参照)』にある場所の調査。
精霊の服、と呼んでいる着用中の衣服。この服を作った、精霊とも妖精とも違う種族が、ティヤーにもいると聞いていた(※2410話参照)。
サネーティの地図には、服の模様に因む地域が示されており、シャンガマックは是非訪れたい。
それと、シャンガマックとしてはサンキーの工房も、まだ行きたい。
渡した材料から、強化した古代剣が生み出されていると思うと、秘めたる力がありそうで気になる。
だがシャンガマックの当初の用件、『ルオロフに剣を持たせたい』は叶っているため・・・本職の職人が行こうとしないのに、自分から言い出し難い。
こんなことを、もやもやと思いつつ―――
船の食堂で、シャンガマックはイーアンとフォラヴ、それと、漏れなく付き添うイング相手に、これらの優先する順を話し合う。
「卸すわりに、金銭のやり取りはありませんね」
フォラヴが何となく突っ込む。予定とは脱線する『言葉の使い方』指摘。これはイーアンが答える。
「無料ですから。魔物製品」
「でも『卸す』と、常に口にしているのはなぜ?」
「フォラヴの素朴な疑問。良いですね。そういうことにしておかないと、変な輩がホイホイ寄ってきて、我も我もとなるからです。タダとなれば、欲しいでしょう」
「ああ、そうした対処で?」
多分ねと思うイーアンは、頷いておく(※気にしてなかった)。親方やミレイオたちが『卸す』口癖から、定着した気もする(※職人だから)。ここで話を戻し、待っているシャンガマックに、イーアンから質問。
「シャンガマックとお父さんは、まだ地上に居られるのですよね?」
頷く褐色の騎士は、ついこの前、精霊に『延長』を言い渡されたばかり(※2526話参照)。知らされた時、延長理由を問う者はいなかった。決めるのは精霊の意向で、何で・次はいつ?とはならない。
やることリストの紙を前に、全く文字を読めないイーアンは、読み上げられた内容に考える。
「延長期間の長短のほどはさておき。とりあえず、お父さんとあなたがいるのであれば、どこへ行くにも私たちは、言葉の問題を回避できます。ルオロフもいるけど、彼は派遣団体ではないので。本来、彼の立ち位置は補佐ですし」
「そうだな。ルオロフは前に出さないように、とイーアンは思っているのか?」
「の方が、良くありませんか。ドルドレンが最近まで、ルオロフを機構の用事に付き添わせていましたが、ピインダン地区神殿から状況が変わりました。ルオロフは大貴族であることから、何かあれば神殿に接触を求められそうです。彼も悩んでいたけれど、アイエラダハッドの事情で立場が曖昧になった今、表に出さない配慮が必要に思います」
彼はとても気にしているでしょ?と眉を寄せるイーアンに、シャンガマックもフォラヴも同意。
「機構の仕事は、シャンガマックが通訳に入るようにして・・・警備隊の用も、工房委託相談も、です。その他の通訳が必要な場面は、二番手のルオロフと決めた場合、自ずと優先順位も定まります。『ルオロフを前に出さない』なら、先に手を付けるのはシャンガマックが動く仕事。
だけど優先順位と言ったって、相手の都合で同時進行もあるので」
「そう。別行動は常に起こりますね。1にシャンガマックが動く仕事、2にルオロフが動く仕事として、担当もある程度、もう決めておきましょうか」
話を聞いていたフォラヴが、イーアンの続きを引き取り、予定課題の紙を覗きこむ。
―――私がいなくなる前に・・・フォラヴは人数の調整も思う。
オーリンは、カーンソウリー島前で『船待機と自由に動ける班の必要(※2506話参照)』を話した。当たり前なのだが、いつでも船に残る誰かも必要なのだ。
出先でいきなり、私が消える―― それも問題だが、船待機で自分だけ残っている場合。余儀なく、妖精の世界へ戻らなければならない事態が訪れたら。
それを思うと、フォラヴは自分が『船を預かる役』は避けたい。皆の移動と生活を預かる船を、蛻の殻の危うさに晒すわけにいかないのだ。
だから、早めに・・・ 機構の用事だけでも、先に済ませてもらえたらと考える。機構の仕事で外に出るなら、自分は頭数で動ける―――
片手で白金の髪をかき上げたまま、紙の上で止まっている妖精の騎士に、イーアンは『何か思うことありますか』と尋ねる。気にしていそうな柳眉は、どの角度から見ても綺麗だけれど(※そこじゃない)。
「ええ。あります。私は、秒読み」
「・・・・・ 」
視線を動かさずに答えたフォラヴに、シャンガマックとイーアンは一瞬、言葉に詰まる。
「フォラヴ。お前は戻る日が分からない、と話していたが」
「その通りです。自分から戻らなければ、強制的に戻される日が来るでしょう」
だから、とフォラヴは顔を上げる。心配そうな二人を見つめ、白い手袋の指を紙にトンと置く。
「機構の業務で動く時、私をお連れ下さい。出来るだけ、船の番をしなくて済むことを望みます。万が一、私の意思関係なく、戻される時が来たら」
「望まない留守を避けたいんだな?」
シャンガマックとイーアンは、小さな溜息を落として『それなら』と顔を見合わせる。
フォラヴの気遣いを無駄にしないよう、日程の調整は相手と擦り合わせもあるが、機構の仕事をとにかく優先的に片付けようと決める。
オーリンたちが工房へ動く時も、通訳のシャンガマックは勿論、フォラヴも一緒。契約書の扱いは機構の派遣騎士の仕事だから、ロゼールと総長が不在の際は、シャンガマックかフォラヴ。
イーアンはドルドレンの代わりで、警備隊関係に顔を出す。それと、魔物材料の出荷・・・ロゼールが戻らない期間、ティヤーの工房に運ぶ分と、ハイザンジェルへ輸出する分を気にしないといけない。
「久しぶりに、王様の印章を使うことになりそうです。超、久しぶりかも」
イーアンはずっと、この手の業務から離れていたと呟き、騎士二人は笑う。ロゼールがコルステインたちの手を借りるようになってから、魔物材料の輸出も製品の輸送も、任せっぱなしだった。
「輸送の手続きは、俺もいるから問題ない。ただティヤーは、地続きがほぼない国だけに・・・ハイザンジェルへの船便もどうなっているか。状況によっては、魔物材料の輸出は無理かもな」
ちょっと困った感じのシャンガマックに、イーアンもその可能性は高いなと思う。
で、ちらっと見る。目が合う、青紫。余裕気な瞬きを見上げ、何も言わずに女龍は目で訴えてみる。見下ろすイングは『どうした』と軽く流し、イーアンは頭を横に振った(※何でもない、の意味)。
お願いするの躊躇っているんだな、と察したシャンガマックたちは、少し笑って咳払い。ダルナに頼むとまた色々あるのは、シャンガマックも承知のこと。
「とりあえず、外出する機構業務には、私を連れて下さい。それで宜しい?」
苦笑するフォラヴが確認し、イーアンとシャンガマックは了解する。本島に滞在する期間は長そうなので、船も港に預けっぱなしになるだろうが、トゥが出払う日は、別の誰かに任せようと話は決まる。
小さな会議は終わり。『それじゃ、タンクラッドさんたちにも伝えよう』とシャンガマックが立ち上がった時、通路に足音が聞こえ、ノックと同時でミレイオが扉を開けた。
「着くわよ」
巡視船と少し前に合流したようで、もう十分もすればガヤービャン地区国境警備隊の入り江と、ミレイオは教えて、シャンガマックとフォラヴはついて行った。
イングとイーアンは部屋に残り、イングが『籠は』と尋ねたので、イーアンは別の部屋へ連れて行く。
「籠に入れる時、お前は姿を見せたのか」
不意に、イングから思ってなかったことを言われ、イーアンは彼を見上げ、首を横に振る。多分、見えていなかったのではと答えた。籠に先に布を掛けた状態で、扉を開けて僧兵に向けたから・・・・・
「姿を見せる気がなさそうだな」
「うーん、そういうわけでもないですけれど。ウィハニの女、私のことですが、私に拘っている印象が話中にありました。それで、余計な情報を入れたくないと思うのはあります」
「俺に見せる時も、お前は布の影に居ろ」
そうしますねと頷いて、二人は籠を置いた部屋に入った。
僧兵を入れた籠は、船倉の一室の机にあり、念のためにと、イーアンの鱗を籠周りに並べた状態。イングは赤い布を取るように言い、イーアンが布を持ち上げる。
縮んだ小さい僧兵は起きて顔を向け、イーアンはイングの反応を見る。
青紫色の人間に似た相手に、僧兵は驚いて何か口にしたが、それは聞き取れず。ダルナはこれを少し眺めてから、布を戻すよう手真似で示し、布が掛かるとイーアンに感じたことを伝えた。
「この男の中に、もう一人いると思うが」
*****
僧兵の奇妙な印象に、首を傾げたダルナの言葉。それに目を見開いたイーアン。この話はまたあとで。
船は、巡視船の迎えに案内されて、ガヤービャン地区国境警備隊の港に入る。
昼は過ぎており、荷下ろし何のと始めるには中途半端な時刻で・・・というのも、記憶に新しすぎる『盗難事件』はこちらの警備隊にも当然伝わっており、『すぐに発つ予定でなければ、明日にしたい』と警備隊は話した。明日は人数が多く揃えられるので、万が一という事態も防げる。敷地内を歩いて数分先の、施設へ移動するだけであっても。
念には念を入れて。それで良いんじゃないかと皆も了承し、挨拶に出たイーアンが、総長不在を先に教えて『製品を運び終わるまで、自分がつく』と言うと、警備隊は頼りになると喜んでいた。
こうしたことで、明日の何時、滞在予定をさっくり話した後、警備隊から宿と食事処のおすすめを聞き、一先ず、皆はお昼に行く。




