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魔物資源活用機構  作者: Ichen
烟雲の如し
2538/2961

2538. 犬の霊の頼み・イング一時同行・ケトパ港通過

 

 犬の霊は、イーアンに話す。彼らを守りたいが、自分だけでは力不足。



 壊れた馬車の車輪や車軸、荷台や壁、内装。これらも、難題。人を救い出し、馬も辛うじて四頭は生き残ったが、彼らは行くべき場所があり、この状態では辿り着けない。


 うんうん聞いてはいるが、聞けば聞くほど、イーアンも自分一人でどうにかなると思えなかった。


 話を聞きながら、ドルドレンの言っていた『精霊ポルトカリフティグを拒んだ馬車の家族(彼ら)』が、頭から離れない。


 ポルトカリフティグが強引に守ろうとしないのは、相手の心を気遣う優しさからだと思うけれど・・・ 


 精霊の援助を断る時点で、目的地までの無事の保障が消える。それも、最強に頼もしい味方を断るわけで、それ以外の方法が馬車の家族にとって、安心と安全を守るとは思い難かった。


 それにイングが今、一緒に来ているので、馬車の再現は頼めなくもないが。

 これもどうなのかなと、イーアンは気になる。ポルトカリフティグを避けているのに、異界の精霊(イング)を頼らせるのは・・・ それを言うと、私も馬を治したので微妙かもだが、生死に関わるから救ったのは、普通ではと思う。



「そのう、私では、無理ではありませんか」


 突き放すようで申し訳ないが、ポルトカリフティグを断った彼らが、龍の加護を望む気もしない。犬の霊は、龍に導きの手段を考えてほしいと言うけれど。


『龍がついてくれるなら、魔物は来ない。龍を示すものがあれば、家族を惑わす(よこしま)な者も近寄れない。馬車を一台でも直すために、人里に頼る時、龍が側にいるなら、土地の人間も手を貸すだろう。何か手を打てないか』


「うーん・・・あなたがご存じか分からないので、言っていいかどうか」


 犬の霊は家族を守りたいから、傷つけそうで言い淀むイーアン。自ら精霊の援護を断った話、このワンちゃんは知っているのだろうか・・・・・



 理由があるなら教えてほしいと言われ、女龍はドルドレンから聞いた事情を、誤解がないように伝えた。


 犬の霊はそれを知らず、『なぜ』と戸惑った。ここぞという危険で助けに来た犬の霊に、精霊の加護を辞退した家族の事情は、無防備を選んでいるように感じる。


 黙ってしまった霊に、イーアンも『だから私はもっと無理では』と付け足した。犬のお面が項垂れ、『そうだな』と認める。



『では。もし可能なら、私が守る間に、精霊にここへ来てもらうことは頼めるか。龍はその精霊と会えるのか』


「・・・私ではなく。その精霊と懇意にする人が、私の仲間でおりまして、彼に話してみましょう。だけど、精霊が確実に来る約束ではありませんよ」


『良い。私はここを動かない。家族と馬を守るから。精霊が来たら、私が話したい。家族の道中の無事、目的の地まで車輪が動くようにしたい』



 と云うことで――― イーアンは了解し、あとは犬の霊に任せる。また魔物が出た時の為、一応、鱗を渡した。犬の霊が、どのように家族を守ったか知らないので、家族にこれを持たせてと教えた。


 そして現場を離れ、空に待たせたイングの元へ戻る。

 ルガルバンダの龍気はまだ注がれており、『もういいですよ』と合図し、止めてから、イングに何があったかを説明した。


「大体は聞いていたが。船に戻るのか」


「そうします。早い方が良いです。魔物がいつ出てくるか、犬の霊がまた守り切れるとは言えないので」


「時間を大事に、だな。『王冠』で戻る」


 了解したイングは、ポンと真横に『王冠』を出す。丸いお腹の『王冠』に二人は触れて、次の一秒でアネィヨーハンの上に出た。行きもこれで良かったなと思うものの、イーアンはイングにお礼を言い・・・帰らせようとして断られ、なんでー?と顔を向ける。


「迷惑そうな顔だ」


「違いますけれど、でも私急いで」


「俺の予測だ。『死霊の大元』を知りたくないか」


「・・・イング。あなたは、次々によく考えて」


 目が丸くなった反応を了解と捉え、イングは黒い船と銀色の大きなダルナを見下ろし、『行ってこい』と彼女の優先する用事―― ドルドレンへの伝言をまず促した。



 *****



 時刻は昼。皆は昼食を取らず、迎えの船を待っていた。


 最初の港はケトパ港という名で、ケトパ港の中へ船を入れると、港に添って船の道が続き、ガヤービャン地区まで通じる話。この地区に、国境警備隊施設がある。


 黒い船が港に見える範囲に入った時、港から狼煙が上がった。緑色の狼煙は、海賊の連絡手段。

 甲板から見ていたミレイオがそれを仲間に伝え、『また迎えが来るかも』と話していたところ・・・イーアンが戻ってきた。


 ドルドレンも甲板にいたので、降りてきたイーアンを労い、魔物はどうだったかを尋ねながら、『僧兵の籠は無事』と状態を教えた。イーアンも、それには一安心。


 赤い布を掛けたままで、見張りはフォラヴが引き受けてくれている。正確にはフォラヴと、シャンガマック。二人が話しているので、無論、獅子も付いている。


「どうだったのだ。魔物退治は。イングと一緒に行ったから、手は足りたと思うが」


「それはさておきです。でもないんだけど、さておきで」


 何やら焦って順番がすっ飛んでいるらしき奥さんに、ドルドレンは無事ではないと判断し、眉根を寄せる。


「何かあったのだな?一番重要なことから話してみなさい」


「はい。あなたの手助けが必要です。馬車の民と会いました。って、実は会っていませんが」


「何?馬車の民?見かけたのか(※理解が早い)」


『そうです。私が見た時にはもう』この一言で、青ざめるドルドレン、他、周囲の仲間。どうしたの、危険なのかと女龍の側に来てせっつき、ドルドレンもイーアンに落ち着いて話すよう言う。落ち着いているつもりでも、イーアンは話が飛ぶ。


 ドルドレンがちょっとずつ修正し、誘導して、合わせるようにイーアンは話し、三分後にまとめる。


「つまり。馬車の家族は魔物に襲われたが、彼らのかつて可愛がった犬の魂が守り、死傷者は出ていても、生き残った者もいる?」


「そうです。それで」


「うむ。馬車は悲惨な状態で、馬も半分以上死んでしまったけれど、間に合った四頭をイーアンが回復させた」


「そうそう。だから」


「犬の魂に預けて、イーアンは彼の伝言を持ち戻った」


「その通りです。ワンちゃんは」


「ワンちゃんではないのだ(※訂正)。偉大な魂である。彼は、精霊ポルトカリフティグの助けを求め、話したいと願い、イーアンは呼び出せないから俺に頼もうと」


「はい。完璧」


 分かったと頷くドルドレンは、一部始終を理解。取り巻きの仲間も、総長の無駄ない聞き出しを褒め、頑張ったイーアンを労う(※女龍はすぐ混乱)。



「では。次は俺の出かける番だ。皆にはすまないが、いつ戻るか分からない。知っての通り、ポルトカリフティグと動くと時間が飛ぶように流れる。俺が留守の間、魔物製品を卸したり、次の行き先への連絡を頼んだり・・・フォラヴとシャンガマックがまだいるけれど、彼らもいつ戻されるか(※主要人物でも)。

 早く戻ろうと思うが、事態が複雑である。タンクラッドたちは職人で、機構の直接の派遣ではないけれど、俺たちが出られない場合、イーアンと力を合わせてこなしてほしい」


「イーアンは副理事だから、イーアンがいれば、まぁ大丈夫だろ。行って来いよ。俺たちも、魔物製品製作の工房に出かけたりあるけど、通訳と身元保証さえ固めておけばどうにかなるよ」


 ドルドレンの堅苦しいお願いを、オーリンがさらっと流す。タンクラッドも『そうだな』で終わり、ミレイオは『いつものことじゃないのよ』と総長の肩を叩いた(※中年の余裕)。

 四の五の言わずに聞いてくれる仲間に感謝し、総長は出発。

 精霊の面を顔にあて、ムンクウォンの翼を足元に出すと、船の後ろから飛び立ち、ポルトカリフティグを呼ぶため、ドルドレンは島から離れた。



 こうなると、イーアンは動きが止まる。ドルドレンが留守なので、自分が責任者(※機構の)。イングが何か言いそうだな~と・・・身動き取れない事情を理解してもらえるよう、言い訳を考えていると、甲板に青紫が下りた。


 銀色のトゥを振り向いた、全身青紫の男は『俺も少々、ここに居よう』と挨拶。トゥは『俺が決めることじゃない』と返し、この会話に皆さんは固まる。


「イーアンは動けなさそうだ」


 イングはイーアンの前に立ち、見上げる鳶色の目に『船に付き添うことにする』と宣言。


 こいつは長居する気だなと察したタンクラッドは、理由を問いたいものの・・・何があったわけでもないかもと、ダルナの習性を思い(※正解)ここは無言で離れてトゥの側へ下がる。


 オーリンとミレイオもちょっと驚いて『何かあるのか』を訊こうとしたが、魔物退治をしてくれたばかりなのもあって、今はとやかく聞かず(※いつまで居るのとか、どういうつもりでとか)目を逸らして終える。


 自分都合がちょいちょい前に出るイングに、イーアンも困るけれど。付き添い決定しちゃうのねと諦めつつ、イングと話すこともあるし、仲間も受け入れてくれたため、頷いた。でも、言うべきことは言う。


「イングは目立ちます。付き添うつもりでしたら、()()船内にいて下さい」


「俺が目立つ?あいつの方が目立つ」


 肩越しで親指を()()()()に向けたイングだが、目の据わったイーアンは『あなたも充分目立つから』中に入っていてと繰り返し、主イーアンに言われたイングは、仕方なし、面白くなさそうに船内へ移動した。



 *****



 ケトパ港は、この後20分もしないうちに入った。


 黒い船が近くへ来た時点で、波止場の従業員が大声で誘導し、船はそちらへ向かう。

 ケトパ港では、『トゥのことを先に伝える』行動を省いたが、狼煙が上がったので大丈夫と判断していた。

 ここへ迎えはなかったものの、港の通過はもう知らされたようで、波止場から『ガヤービャンの巡視船が来ます』と叫ばれた。


 シャンガマックが通訳に出て、甲板から応対。ティヤー語だと、相手も細かい説明が利くため、いくつかの目印や注意事項を確認しつつ、船を止めることなくシャンガマックは仲間に教える。



「港を左に回った先は、水の流れが二手に分かれているようです。そのまま左へ進めば、迎えの巡視船と途中で会う、と。距離がありそうだが、他の船も通るから、急がずこの速度で」


 広い港の脇を、アネィヨーハンはゆっくり通り過ぎる。シャンガマックの言葉に、港に進む他の船の様子を見ていた親方は『ああ、そういうことか』と呟いた。


「この船がデカいから、水流でつられる船もあるんだな。急ぐとその分、吸い寄せる力が掛かる」


 ここまでさほど気にしなかったが、小さい船が気を遣って接近を避けている。トゥに注意するよう言い、海難事故が起きない程度の速度で、黒い船は旅客船並みのゆっくりさを維持。



 ケトパ港から見える風景は、緑が広がる豊かな丘を背に、手前は統一された建築物が並ぶ。古い町並みを残しているらしく、魔物に破壊された風景も見えるが、全体的に穏やかな印象を持つ。


 木造の家屋は箱型で、長く張り出す庇を付け、屋根から上は壁のない柱が伸びて、もう一枚の屋根を支える。強い日差しと建物の間を作る目的のよう。

 色彩は、明るい黄白色と淡い赤色が中心。濃い差し色の線は、高さや幅を揃えているので、家屋の隙間があっても、並びが続いて見えた。


 街路樹は日陰用に等間隔で植えられ、道は土だが歩行者と馬車の別があり、腰丈ほどの絵がある壁が境にあった。


「きれいな場所ね」


 眺めているミレイオが、横のイーアンに微笑む。イーアンも頷いて『お腹がすきますね』と返して笑われた。


「良い匂いがします」


「お昼時よ。私らも何か食べようか・・・ガヤービャンまで、どれくらいあるかしら」


 昼食を作っている時間があるかどうか、地図で時間の感覚が掴みにくい、船の道。

 町から漂う料理の匂いに、二人は空腹を乗り切るべきか話しながら・・・イーアンは、笑顔で話す心内、馬車の民への心配が消えなかった。そして、イングが言った、死霊の大元についても。



 あの顔が真っ先に浮かんだ。レイカルシが教えてくれた、『原初の悪』の関与(※2481話参照)。ティヤーに来て死霊を解放へ傾けたと聞いて、血の気が引いた。

 大元は、そこ。だけど、イングはこの話を知らないと思うので、彼の視点で何を見つけたのか知りたい。『原初の悪』と『死霊』に加えて、まだ余計な手出しをする輩がいるかもしれない。


 仲介する・媒介する・()()()が――― いるとか。


『原初の悪』は、手出し無用の、世界を乱す役目を受け持つ大御所だとしても。その続きは、止められる可能性がある。仮に中間が存在していたら、それを阻めば死霊憑きの魔物を減らす方法もある。


 イーアンは思う。このティヤーの人々はテイワグナに似て、死者や魂を尊ぶから、死霊憑きの魔物に心を挫かれる方が大きい。精神的にやられてしまうと、魔物を倒した後も引きずる。


 魔物に変わり、生前の付き合いあった人々を殺す、身内の魂について、考えてしまうのだ。



「イーアン。シャンガマックが呼んでいるわ、打ち合わせみたい」


 ミレイオに腕をトンと叩かれ、物思いに耽っていたイーアンは後ろを振り向く。シャンガマックが昇降口で手を振り、イーアンも手を振り返して・・・ミレイオに甲板をお願いし、船内へ入った。

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