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魔物資源活用機構  作者: Ichen
烟雲の如し
2531/2964

2531. 半月間 ~㉞謎すれ違う『創世記』・精霊のトラ再び・『太陽の手綱』現状・出港

 

 トゥがこの世界に来た時。彼を見た、サブパメントゥがいた。


 そのサブパメントゥたちは、その後、始祖の龍によって殆どが潰されるのだが、この『不明』の期間で・・・・・



『馬車の民とサブパメントゥの合いの子、初代勇者』が登場し

『魔物の王を倒した後に、勇者とサブパメントゥが空へ上がり』三度の盗みを起こし

『怒り狂った始祖の龍が、サブパメントゥを落とし、空を閉じた』。


 また、これまでの収集した記録からだと、時期が合わないが、


『始祖の龍は、サブパメントゥと人間諸共、大洪水で地上を埋め尽くした』のだけれど、

『空を閉じた後で、時の剣を持つ男に会いたくて地上へ通った』話もある。


 グンギュルズ(※時の剣を持つ男)の為、地上へ通ったなら、彼が老死するまで通い続けた一説もあり、そうすると、大洪水はいつの話なのか。


 というのも、グンギュルズは時の剣で、空へ挑んだサブパメントゥを斬り、彼らが持ち出した卵で孵ってしまったザハージャングも、始祖の龍が倒すに倒せずと知り、グンギュルズによって倒されているのだ―――



『俺たちは、過去を完全に知ることは出来ない』と、同じように疑問を抱いたタンクラッドは言った。


 これまで知った過去の出来事と、その時間の在った位置。

 新たな情報を照らし合わせ、合わないズレを感じても、それは『単なる情報の収集』として受け止めるだけであり、調整や正確さのために、奔走しなくていい・・・親方はイーアンにそう言い、考え込みそうな女龍を止めた。


 普段なら、イーアンと一緒に親方も膝突き合わせて、一緒に探り出すものだが。


 始祖の龍が絡んだからか―――

 タンクラッドは、トゥがこの世界に来た時の状況に、拘ろうとしなかった。彼の横に、コルステインがいるのも、理由かもしれない。


 イーアンは追いかけがちな自分を止め、トゥの話を聴けたこと、その大切さに改めて感謝した。


 ただ、イーアンとしても『時期が合わない』・『順番が』と気にしたのは探求心や好奇心ではなく、トゥに同情した心が、彼の重荷を軽くしたくて何か自分に出来ないかと・・・それこそ、彼の宿命のような荷を解くに、龍という立場で私が出来ることはないか、そう思ったからだった。



 言葉にしなくても、銀色のダルナは伝わる思いを読んでおり、話の後に小さな会話をやり取りしては黙り込む、タンクラッドとイーアン、それぞれの配慮に悪い印象は持たなかった。


 そして、コルステインが。自分を見つめ続ける、夜空色の別種族が、何を思うか―――



 コルステインの思念は全く触れることが出来ないので、トゥはこのサブパメントゥが生粋の『別次元に思考がある存在』と理解した。精霊たちと同じくらい、遠くに。

 海の青さを湛える、大きな瞳を見つめ返すが、コルステインは感情を出さない顔を向かい合わせて、銀色の二つの顔から視線を外さないままでいた。


 この後、『壊すつもりだった遺跡』は手付かずで、皆はティヤーに帰る。コルステインはここに残って、ダルナと女龍と親方を送り出した。



 トゥの姿で集まってきた残党を、コルステインは消そうかどうしようか考え・・・近くまで来ているそれらを、今は倒さないことを選ぶ。代わりに黒い羽根を抜き、『コルステインが押さえた場所』の威嚇で留めた。

 トゥやイーアンがあれらを倒すなら、放っておくけれど、自分がここで攻撃するのは違う。


 コルステインが追いかけていた『燻り』は、あの中にいない。それも追わない理由にある。


 銀色のダルナの話を聞いて、コルステインが感じた気持ちは、また今度の機会に。



 *****



 偶然かどうなのか。分からないこともある。

 イーアンたちが出かけた夜。久しぶりに、ドルドレンは太陽色のトラに会った。



 船にトゥは不在だが、シュンディーンやシャンガマック、フォラヴ他ミレイオもホーミットもいるので、結界は問題ないのだけれど、難なく。


 ただ、トラは船に足をつける前にドルドレンの夢に現れ、『この場所にかかる結界を解くか、お前が船を降りなさい』と言った。そこにある結界は、自分によって壊れるだろうと教えたトラに、ドルドレンはすぐさま起きて、船を出る。


 港に、温かな明るい橙色が輝く・・・町なので目立つ、と思ったのが最初だが、もし人に問われても、ポルトカリフティグの明りは縁起が良い(?)と説明することにして、ドルドレンはせっかく来てくれた大好きな精霊に気遣わせないよう、その場で話をすることにした。



「とても久しぶりに思う。会いたかった」


『私も会いたかった。ドルドレンよ。お前に話が』


「うむ。また魔物を倒しに行くのだろうか?そうであれば、皆に日程を相談して(※精霊相手)」


『違う。聞きなさい。まず、私に乗りなさい』


 聞くように、背中に乗るように、と大きな頭を傾けて背中を示すトラに、ドルドレンはひょいと跨る。温かいふかふかの毛の感触・・・どれくらいぶりだろうと嬉しく撫でる。


 ナデナデされる精霊は『移動する』と一言、毎回のように、ゆったりトコトコ歩き出し、風景だけが滑るように流れる夜の海岸沿いを進み、二人は人のいない砂浜で止まった。



『同じ島ではない。小さい島で、この反対に人間が住んでいる。こちらは何もない』


「ポルトカリフティグと移動すると、いつも知らない間に遠くへ」


『私がついていれば、太陽の手綱たちも()()()()()()ことはなかっただろう』


 背中に乗ったままで、精霊の返事にドルドレンは緊張が走った。え?と聞き返す勇者を見ず、静かな声で精霊は海を前に話し出す。


 波の音と、ポルトカリフティグの暖かな橙色と、穏やかな潮風の中、思いがけず『ティヤーの馬車の民現在状況』を、ドルドレンは知らされた。



 ティヤーには、馬車の民を守る精霊はいない。


 ハイザンジェル・テイワグナも、馬車の民()()()()なんていなかったので、ドルドレンは『そうか』と不思議もなく思えるところ。アイエラダハッドは意外なのだ。


 ただ、ポルトカリフティグの悲しそうな呟きは、『いないことによって何が起こったか』の結果、現状に続く。


 道を間違えても、止める者も正す者も側にいない。そのために、開戦時・・・馬車の民は、あの場所まで自ら行き、そして呑まれてしまった(※2461話参照)。


 これは全体ではなく、一部だが、残った『太陽の手綱』はこれを知り、今は一か所に集まろうとしている。内陸とも呼ばれる、広く大きな島。すぐ次の行き先『本島』へ。


 本島は大変広くて、周囲の小さい島々もひっくるめてそう呼ばれる。馬車の民が聖地とする場所があり、彼らはそこへ向かうのだが、道途中で足止めされて動けない家族もいる。



 ポルトカリフティグは、彼らを見つけ、話し、向かう道も整える気でいたが、彼らはそれを断った。


「なぜ。あなたを信用しないはずもないのに」


『ドルドレン。罪を犯した人間は、罪を認めると恥じる。彼らは後ろめたい。家族が唆しに応じた事情を抱え、私に裁かれることを恐れる』


「ポルトカリフティグが裁くなんて、そんなことはしないだろう?」


『しない。それは私の役目ではない。だが彼らは拒む。私の存在は、彼らの怯えになった』


 そんな、とドルドレンは悲しくなる。ポルトカリフティグも言葉を切り、そっと背中に顔を向けて、緑色の宝石のような目で勇者を見つめた。



『お前が行きなさい。ティヤーに魔物が現れた日。私がお前に教えた、あの続きは、彼らの心を蝕む。足止めはそれを誘発し、罪悪感を仄めかす、外部の者の声が途絶えないこと』


「外部の者、とは。人間か?もしや()()、神殿」


 そうだと頷いたトラの、大きな頭。ドルドレンは深い毛に手を沈め、この優しい精霊の何を怯えるのかと、疑問と悔しさを思う。


『神殿の連中に()()()()て消えた家族』は嘆かわしいが、救いの手を差し伸べる精霊に、顔を上げられずに断るとは。

 そして道を阻む、しつこい神殿の声に惑わされているのか。何か弱みを握られたとしても、精霊を拒むほどだろうか。



 ―――開戦の夕方。ドルドレンの目の前で沈んだ島には、神殿の輩と馬車の家族がいた(※2461話参照)。


 ドルドレンはこれを、仲間に全部を話すことなくここまで一人で持ってきている。言おうにも、誤解を与える懸念があり、ポルトカリフティグから聞いた内容を共有するには難しいと思っていたから。


 彼らがなぜそこに集まったかを、精霊は知らないが、『何をしようとしたか』は見ていた。


 彼らは・・・今でこそ、ぼんやりと繋がったが『聖なる大陸』へ行こうとしていたのだ。ポルトカリフティグがその時に教えてくれた言い方では『この世界以外へ通じる、大きな場所』。


 なぜ、馬車の家族がそれを知っていたかは、恐らくティヤーの馬車歌にある一部だろうと見当をつけた。馬車歌は世界の過去をちりばめ、歴史を歌い継ぐもの。



 考えたくなかったが、神殿の輩といた馬車の民は、何かのきっかけで()()んだ。


 ポルトカリフティグが守ろうとして姿を見せたのに、開戦時の悲劇を知った残された家族は、精霊の手を借りることを恐れている。これが、肯定の証拠でなくて何であろうか。



 トラは落ち着いた声で話を続け、ドルドレンに内陸へ渡ったら、彼らに会うよう促した。当然、それに頷いたが、ドルドレンはまた精霊のトラと共に別行動に出ることについて、この時期・・・少し考えた。


 勇者の胸中は分かっていそうだったが、ポルトカリフティグはそこで話を終え、また迎えに来ると約束し、勇者を背に乗せたまま船へ戻った。


 ドルドレンが船に戻って間もなく、イーアンたちも帰ってきたけれど、『長い話だから』と真夜中の報告は避けた。



 *****



 翌日、アネィヨーハンは出港予定。


 イーアンとタンクラッド、そしてトゥが動いた夜の報告は、まだ。ドルドレンも、まだ。

 朝一番で話すには重く長く・・・今はクフムにも気を遣うので(※彼の服から情報が洩れる恐れ)食事の時間を避けると、全体で話し合う時間を調整するのが難しい。


 朝は早くから、他の用事が入った。黒い船の二つ先の埠頭に大型客船が入港。予定通りに港に入ったこれに、イライスの息子は乗っている話。


 イライスと召使が同船予定で、宿から船まで短距離でも危ないからと、ドルドレンが迎えに行く約束をしていた。そのため、ドルドレンはまず、下船する人々の中に、彼女の息子がいるかを確認する。息子が母親の宿へ行くつもりなら、そこからして危ないので一緒に行こうと考えた。



 大勢が下船するそこに『あれがそうかも』と、イライスの息子を思しき人物を認めたドルドレンは、黒い船をポンと飛び下りる。


 ドルドレンはさっさと走って行き、舷梯下で群れる乗客をかき分け、目当ての人物に話しかけて立ち話。


 これを、船の甲板から細めた目で眺めるイーアンは、よくこんな・・・小さい粒みたいな人間の状態で見分けられるなと、伴侶の目の良さに感心していた(※喋ってる=当たりだった)。


 でも横にいるフォラヴとシャンガマックも、『彼はハイザンジェル人ですね』『やはり、顔つきが違うと分かるものだな』と話していたので、イーアンは黙っていた(※女龍視力低い)。



 こうして、ドルドレンは息子(※らしき人)と共に港を歩き、建物の向こうに消え・・・20分後に、イライスの馬車が港に来た。特に危険もなく、イライスたちを送迎した総長は、馬車を客船に上げるまで見届け、彼らと舷梯で挨拶し、黒い船に戻ってくる。


「俺たちも、客船に合わせて、船を出した方が良いかと思ったが。向こうの進む方向がかなり異なる。無事を祈って、俺たちは俺たちの航路を」


 客船はカーンソウリー島南の次は、本島の北部、つまり一番近いところに寄り、それからぐるーっと東周りで本島の南へ進むそう。ドルドレンたちは、魔物製品を渡す沿岸警備隊が、本島西側の南方面。

 オーリンが約束を取り付けたコアリーヂニーの工房も、そちら側だし、ドルドレンとルオロフが両替所で聞いた、製作志望の工房も西側。


 そして、まだ話していないが、ドルドレンがポルトカリフティグに聞いた、『太陽の手綱』聖地も西方面なので―――



 いくら危険が高いからとはいえ、ずっとは護衛もできないもので。


「じゃ。船出すか」


 そういうもんだよな、と親方はドルドレンに頷いて、甲板で片腕を空に向ける。朝の太陽に銀色の輝きが浮かび、巨体のダルナが姿を現すと、黒い船はゆっくりと錨を巻き上げ、波を作って港を離れ始めた。


 港に大勢いる朝は、毎度のことだがトゥに大騒ぎする。が、初めて見る人より、度々見ていた人たちが多いので、銀色の翼を広げた二つ首を伴うアネィヨーハン出港は、軽くイベントのようにわぁわぁ騒がれるものの、無事を祈る大声で送りだされた。


 客船の横を、帆をたたんだ黒い船が悠々と進む。甲板から眺めるイーアンたちに、客船の甲板から手を振る人々。凝視して隣と驚き合う人、様々。中には、イーアンの角を見た人が『ウィハニ!』と叫ぶ。


 イーアンは二枚の翼を出し、ちょっと浮かび上がって、過ぎゆく船にバイバイの手を振り返す。わ~、と喜ぶ皆さんに、白く長いふさふさ尻尾もびゅっと出して、尻尾もバイバイで振る。また『わ~』の声をうけ、笑顔のイーアン。このサービス精神に、親方たちは『いつもそうだな』と笑っていた。



 アネィヨーハンは、島から離れるまで暫く騒がれるので、この間、クフムと彼のお守番は船内でも、他の仲間は甲板に出て対応する。


 トゥはいつもの如く無関心だが、親方は今日のトゥの側から、動こうとしなかった。何を話すでもなく、ただ、側にいることを選んでいた。

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