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魔物資源活用機構  作者: Ichen
神殿『デネアティン・サーラ』
2529/2964

2529. 半月間 ~㉜コルステイン案内、双頭龍の遺跡・女龍、トゥと双頭龍の疑問

 

 僧兵への問い。その後、エサイと話したことは、ドルドレンたちに『途中だから、また続ける』と伝えたイーアン。はっきりした答えが出ていないので、濁して終わり、ドルドレンたちもそれで了解。


 コルステインに会うため、夜空へ出たイーアンは、『もう少し話しても良かったか』とドルドレンに言わな過ぎた感じを思ったが、これはここどまり。

 


 それより、エサイが受け答えした内容について、イーアンは配慮があっても良かったのだが・・・ 



 エサイが『僧兵=銃や火薬や武器を、製造に持ち込んだ疑惑』と()()()()()()のに、相談は滞りなく続いた。

 これはエサイが気を利かせたからに過ぎないが、これによって、エサイは僧兵への対処を考える。

 エサイへの配慮が薄かったことから、思いもよらぬ展開。そう、本当に思いもよらぬ方へ、物事は動く。その経過は後で―――



 さて。イーアンは船から離れて少し先で、コルステインを呼ぶ。


 少し前にコルステインと情報を合わせるために、獅子が話した(※2522話最後参照)ことを、イーアンは知らなかったが、来てくれたコルステインに会い、それも教えてもらった。


 獅子は、自分たちが動くより、ずっと広く多く進んで、問題をこなしている気がした。彼がシャンガマックを連れていた、アイエラダハッドもそうだったのか。ティヤーに入ってからは、()()()()()()前に、と思える行動量。

 未だにシャンガマック以外の仲間と、仲良くなることはないが、頼もしいのは違いないと感じた。


『人間に、サブパメントゥの道具を渡している。たくさん渡して』


 獅子からコルステインへの情報は、地下の道具を受け取った人間が、一人二人ではないことだった。彼が調べて、そうと思しき気配を持つ人間―― 僧兵は他にもいた。


『うん。たくさん』


『それは、ダメなのですよね?サブパメントゥの物だし』


『ううん。ダメ。違う。でも。グィードの海。水。これ。ダメ』


 コルステインが言うに、グィードの海の水以外は大丈夫そう・・・あ、と思い出す。言われてみれば、ドゥージも使っていたし、ロゼールやメーウィックさんも、コルステインに道具を受け取っている。


『でも。道具。危ない。たくさん。嫌』


 イーアンの頭の中に話しかけるコルステインは、人間に渡す自体が問題ではなく、使うと危ないことが問題、と重点を押さえる。あんまり多いのは、嫌な状況を招くから・・・・・


『そうですね。コルステインは、私にそれを教えてあげようと思ったのですね」


 共有のためかなと、お礼を言いかけた女龍に、コルステインの月光のような髪の毛が揺れる。違うと即答。違うの?あれ?と思ったイーアンに、コルステインは用を改めて伝える。


『お前。()()。する。コルステイン。一緒。行く。あっち』


 何かを、見に行く様子。あっちと。大まかな方向に夜空色の腕を伸ばし、一緒に来るように言うコルステイン。

 どっち・・・迷わないから一緒が良いけれど、龍気で飛ぶと()()()は無理だろうなとイーアンは考える。飛べば結構、龍気の影響は広がるのだ。


 大きなサブパメントゥは、気配を辿って自分を追いかけるよう、提案。先に行って、途中で止まって待つから、それを追いかけろと言う。


『分かりました。遠い?』


『ちょっと』


 この、()()()()が。ちょっと遠いのか、ここからちょっとなのか、距離が曖昧な答えだが、イーアンは頭を下げて了解し、コルステインは青い霧になっていきなり消えた。



 そして、青い霧を追いかけながら、龍気に気遣い、海を渡り、合間の島を通り過ぎ、イーアンは思いがけない場所に着いた。ゆっくりの速度で『どこまで行くのか』と思う距離を飛んだ、コルステインの目的地。


 ここは、テイワグナでは。


 鬱蒼としたジャングル、むっとする湿度の高い熱帯。木々の上は風がやや涼しいが、森に降りるとじっとり暑い。先に着いていたコルステインが振り向き、こっちと手招きする。コルステインの向いていた方に遺跡があり、影が落ちる遺跡の黑さは、夜目の利かないイーアンに何と言う判別もないが。


 数歩進んで気が付く。サブパメントゥの遺跡では。コルステインがいるから、気配が馴染んで分からなかったが、近づくにつれ、ジャングルに佇む遺跡はこの種族のもの、とありありしていた。


 コルステインの側に立ち止まり、見下ろす大きな青い目を見上げる。


『イーアン。あれ。見る。する?』


『どれ?』


 あれ、と黒い鉤爪が遺跡の上の方を示し、イーアンは目を細めてよく見ようとし、はたと止まる。二つの長いものが向き合う彫刻。あれはザハージャングでは。思ったことは筒抜けで、コルステインが『そう』と返事。


『どうしてここに』


『お前。分かる。する。前。バニザット。お前。言う。した。お前。龍。昔。教える。した。だから』


『・・・始祖の龍の記録のことでしょうか?空に行ったサブパメントゥの。昔の話を、私が調べてきたから?』


 頷くコルステインに、用事を理解するイーアン。魔導士とコルステインが探す残党サブパメントゥを、私も古い記録から調べた。それが始祖の龍の話に出てきたサブパメントゥで、コルステインはこの遺跡に私を連れて来て、今、あの時と同じように私に気づくことがあれば聞きたいのだ。


 頭の中を読んでいそうなサブパメントゥをじーっと見て、そう?と聞いたら、うんと頷く。ザハージャングは元が空のものと、コルステインは思った様子(※2497話参照)。



 と言うことで――― イーアンは飛んで側で見てくることにし、コルステインに待ってもらう間、双頭の龍の彫刻を観察した。でも思った通り、ただ見ているだけでは『彫刻』としか分からない。


 なので、少し考えて下へ降り、コルステインに中に入りたいけれど、龍が入ったら壊れてしまうか・入ってはダメかを尋ねた。コルステインはあっさり『いいよ』と言う。


『壊す。平気。これ。嫌。ダメ。サブパメントゥ。道。だから』


『あ。そうなのですか。残党サブパメントゥの持ち物?他の所に行く、あれ?』


 そう、と遺跡の入口に鉤爪を向けたコルステインは、崩れた隙間を教えた。サブパメントゥ遺跡は、人間の神殿のように『出入口』がはっきりしていない。影があれば、どこでも通過する種族なので、そもそも出入り口という観念が薄い。


 ここもそうで、遺跡だから壊れた隙間があり、イーアンが入るならあそこからどうぞと・・・そんな程度。壊す気でいたから壊しても平気だよと言われ、女龍安心。



 女龍は調べたいので、極力壊さないよう、龍気控えめで瓦礫の壁の隙間を抜ける。物質置換で抜けたいところだが、龍気で壁が壊れても困るので、()()()()()よっこらせと瓦礫を跨いで、内側へ。


「私の角が光るから、見えるけれど。なかったら、本当に真っ暗でしょうね」


 角の明かりで周囲を見回す、イーアン。内側には絵が・・・絵と呼んで差し支えない印象のペイントが両壁にある。描いた材料は岩石から作った顔料だろうかと側に行くと、はらっとペイントは壊れる。


「あ。私が近寄ったから?」


 ふと、イーアンはこの静まり返った空気に滲むものに、意識を向けて『もしかして』また絵を見る。これ・・・魔物?魔物の気配というほどではないが、魔物製品と似ている感覚を受けるので、顔料ではなく、魔物を使った絵かと気づいた。


 だとしたら、聖別どころか私がいる時点で、魔物産物なのだから壊れる。やばいやばい、とイーアンは両方の壁から離れ、広さだけはある遺跡の中央を歩くことにした。


 壊しても良いと、コルステインは言ったが、絵から読めるものがあれば、新たな情報を得られるかもしれない。コルステインと私がいて、残党は来ないだろうし、誰か仲間を連れて来ようかと思いながら、呆気なく真ん中に到着。


 広いけれど、個室や何やらはないのだ。目的重視の建造物。移動遺跡らしく、ドルドレンたちが何度か世話になった移動遺跡の詳細と、よく似通う特徴がある。


 空間の中心に、平たく大きな石の台、その周囲に溝があり、幅10㎝程の横長の穴。これが()()か、棘かで稼働する差し込み部。

 この空間は崩れがなく、光が差し込まない。未だに利用している可能性はあるなと、イーアンは天井を見た。



 ――イーアンは、ついこの前、コルステインが追いかけた残党が、この遺跡を使ったことまで知らないが(※2497話参照)、それはさておき。


 龍気が少なくなっているからか、滞在時間で崩壊する様子もない遺跡を、壁に近づかないよう気を付けてゆっくり歩き、他、何か目に付く仕掛けがないか探し、イーアンの足が止まる。


 床に。気づかなかったけれど、絵を見つけた。

 大きな絵で、歩き続けていたところにも絵は広がっていたが、これはペイントではなく、浅い彫刻。角の光を当てるため、少し体を屈めて絵を辿りながら歩き、イーアンの目と、彫刻の目が合う。この目を、知っている。


「ザハージャングには、目がありませんでした。あの仔は骨になってしまったから。では、ここにある双頭の龍たるはずの、この絵は()()参考にしたのか」



 呟きは、自分に問いかける―――


 古代サブパメントゥが作った遺跡。ザハージャングは彼らの悪意によって生み出され、表に出た時には既に、あの形だったと聞いている。タンクラッドの時の剣、その鍔には肉を持つ双頭龍の顔が残るが、それは象徴的な意味かと、さして疑問に感じなかった。


 でも。たった今、イーアンが足元に見ている大きな彫刻絵は、肉を持ち、目を持ち・・・骨のみではなく、筋肉や鱗のある生々しさを理想とした絵?そうと思えなくもないけれど、肉体にそもそも意味を求めないサブパメントゥにしては、それを理由と想定するのも違うような。



 ここで、イーアンは足元を見つめて考える。ちょっと関係ないけれど、トゥのこと。


 トゥは二つ首を持つダルナで、ダルナだから翼もある。手足は四本で、ザハージャングとは違う。あの仔は、全部が二対。で、これはこれとして。


 トゥの不思議、ささやかだが一つ思うことがある。彼は『人間の思考以外は読まない』ようだが、私(※龍)の思考は読む。ミレイオやフォラヴの思考も読んでいる。

 でも、私たち旅の仲間の思考を読みながら、サブパメントゥの遮断する道具で読めなくなるのか。死霊についても、死霊の声は彼に聞こえていないとした話だった。



 彼に会った初日。指輪の精霊との会話を、トゥは側で聞いていたが、指輪の精霊の思考を読めないと言ったことがある(※2345話参照)。


 それは『精霊に、思考と経験の記憶がなく、あっても()()()()()()()()()』のが理由だと教えてくれた。


 イーアンの解釈では、実体のない精霊たちは、記憶や経験の残りが、別世界に置かれている感じ。トゥが読み取るのは・・・『脳みそなど、肉体あっての感覚・考え、経験の記録であれば読む』なのかもしれない。


 大型の精霊もそうだが、全体的に、実体がない相手は、彼の範囲外だと思っている。


 あの時にタンクラッドが言った言葉は印象的で『イーアン()は、思考や記憶がこの体に入っているから、読めるんだな』と。言い換えれば、そういうことなのだろう。


 サブパメントゥの道具で遮断された思考を読めない・死霊を呼び出した木片から漏れる声が聞こえない。これらは、『この世界にない場所で発している、もしくは閉ざしている』状態を意味しているのか。



 床に彫られた浅い彫刻は、二つの首と二本の手足に、尾も二本ある。腕は広げられ、見ようによっては翼を模して見える。スパイクの鱗はトゥもあるから、近い点をこじつければ。

()()()()()()()()()()』その目は顔ではなく、広げられた腕四本の内側にある。


 トゥは、どこから来たの? 素朴な疑問がイーアンに沸いた。


 この世界に存在している思考であれば、読み取る力は、この世界以外だと読み取れない。

 タンクラッドに出会うなり、魂の繋がりだと伝え、その場で彼を選んだダルナ。

 古代サブパメントゥに、自分の姿を見せつけ煽る気で、堂々とどこへでも行く。

 翼の内側に描かれた絵の目は、解除後に瞬きするようになり、彼の力そのものとか。今、足元にある目の形と()()()()が、彼の翼にもある―――



「トゥ。あなたは」


 トゥをこの遺跡に連れてきたら、どうか・・・ イーアンは彼の方が、ここを見るに良い気がした。

 彼がサブパメントゥにも絡んでいるとか、そうした疑惑などではなくて。彼の魂が(しがらみ)の条件を抱え、生まれてきた存在かもと、考えると。


 イーアンは自分の言葉にぴたりと止まり、反芻。『柵の条件を抱えて生まれた存在』・・・まるで、ザハージャングのよう。



 確かダルナは、私のいた以前の世界で、『邪悪な空気を取り入れて、沿った存在が形成された』と、イングだったか誰だったかに、以前聞いた。よく思い出せない(※実は、プークレイ談:1758話参照)。


 ただ、ダルナ全体が『邪悪含む』わけではない。

 だから持ち前の性格が、大きく出る個体は少なくなく、賢さに穏やかさが加われば、圧倒的な力を持ちながらイングのようにもなるし、クシフォカルダェのように優しいダルナにもなる。


 私と友達になったダルナは、皆、邪悪な要素を感じさせない。『邪悪=置き所としてダルナ』のように扱われ、それが嫌で、イングはこの世界に皆の居場所を求めたのだ。


 そして、ますますトゥを思う。

 彼は、()()()()取り入れて、『沿った存在』となったのだろう―――?



 *****



 イーアンは遺跡を出て、コルステインにトゥを連れてきたい旨を伝えた。


 コルステインは、イーアンの思うところを好きにさせると言い、これは壊して良い所であり、もし()()()()()()残党が集まっても、この場で倒すなら問題ない話をした。


 トゥがそれくらい、残党を引き付けている。イーアンは、コルステインの言葉に強く理解する。


 イーアンがトゥを連れてくるためには、タンクラッドも必須。コルステインはそれを了解し、『もし彼らが断っても、私はまたすぐに戻ります』と飛び立ったイーアンを、夜空に見送った。

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