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魔物資源活用機構  作者: Ichen
神殿『デネアティン・サーラ』
2524/2962

2524. 半月間 ~㉗事件について・イライス・キンキートの話の内容

 

()()()だったのですか?」


「そうみたいです」



 ちょっと驚いた声を上げたのは、ルオロフ。そう、と頷いた女龍。


 老婦人との話を終え、今は船の中・・・ 老婦人は、港から近い宿泊施設で部屋を用意していたので、ドルドレンが馬車をそこまで送り、その後、ドルドレンとイーアンも船へ戻った。


 食事をしながら、ルオロフが『言われて思い出した』と眉根を寄せて額に手を置き、その名前を知っていると言った。


「魔物資源活用機構の報告書で・・・と言いましても、一年前ですが。総長たちの身分を各国で証明する、貴族の名前が連ねてあり、そこに『キンキート家』も」


「あ~、そうか。ルオロフは大貴族だから、国交の書類を見る立場か」


 あったなぁと額に置いた手をそのまま、うっかり忘れていた様子のルオロフに、タンクラッドが面白そうに納得。


 オーリンは赤毛の若者をしげしげ眺めて『お前の家は、国を動かす財力があったんだもんな』と少し笑い、苦笑するルオロフ。首を振り振り、『()()、ですよ。ウィンダルの家に子供は私だけですし、後で回ってきたのを見ただけなので、私はついで』財力や実家の権力は他人事と、控えめに答えた。



 貴族の話は。脱線しやすい。聞いているだけの彼らは笑いも出るが、実際は全然、笑えない内容。ドルドレンは散らかり気味の流れを戻し、大切な部分を繰り返す。


「簡単に話すと、そういうことだから。裁判を行うそうだが、イライス・キンキートは状況的に分が悪い。現状のティヤーでは、危険に晒されるかもしれない。神殿相手の裁判自体、在留外国人にとって不利なのだ。何に襲われるかも分からん。訴訟に辿り着けるかさえ難しいが、裁判が始まったら、証人喚問で」


「あんたか、ルオロフ?よね?」


 油漬けの魚の切り身を食べるミレイオが尋ね、ドルドレンは頷く。お食べと、切り身の皿を渡され、数枚を皿に取り、『直接は、俺とルオロフだが』と補足を続ける。


「『機構の荷物が盗まれた』ところから、追跡が始まるのだ。職人のミレイオたちは、あの時、甲板にいたから呼ばれないと思うが・・・シャンガマックとフォラヴは、証人喚問に上がるかもしれない」


 警備隊員と船の下で作業していた騎士たちは、状況の説明ができる。

 これを聞いた二人の騎士は、ちらっと視線を交わし『それまで()()()()()、行きます』と、一身上の都合で返事を濁した(※どっちも呼び戻される可能性あり)。



「ちょっと確認しておきたいんだが。ルオロフが僧兵に『行き先を聞かされた』ことと、『島で対決して倒し、カーンソウリー警備隊に連れて行った』のは、お前、今日の神殿との時間でどこまで話したんだ?」


 親方はこれまで聞いていた内容に、どうもそこが曖昧だとドルドレンに尋ねる。ルオロフもドルドレンも目を見て『今のところは』と口にしていないことを教えた。


「神殿でもその話題に触れなかったんだろ?僧兵張本人は、ルオロフが隣室に来ていると知っても」


僧兵(あっち)がどう、神殿に話しているか分からないのだ。俺たちと話した司祭は、一切そのことを出さない。だから様子をみたが、ルオロフも司教に呼び出されたのは『資金相談』だけで、事件と関係ないし」


「向こうは、ひた隠し・・・か?僧兵がルオロフとやり合ったのは、迂闊に話題に出すと不利に感じるのか」


 ドルドレンの説明に、タンクラッドは不可解。国を二分する権力、その一方にしては、みみっちい心配だよなと思う。いくらでも捻じ伏せられそうなものなのに、話に出さないで白を切るだけとは。



 皆も感じることは同じ。ただ、ルオロフが殺人に関与したとも、騒がれていない以上、僧兵のとった行動をその場で言及するのはどうかと、ドルドレンは言い出す状況を待った。


 そうだったのねと理解するイーアンも、『妙な濁され方でしたよね』と同意する。ミレイオは『あんたが暴れないのが不思議だった』と素朴な感想を言い、女龍は苦笑した。


「暴れても解決しそうな状態ではなかったです。『宝鈴の塔(※アイエラダハッド)』くらい、がっちり証拠を押さえて、現場もむき出しだったら」


「あ。そうだな。俺もそう思う。あれだけはっきりしていたなら、俺も言っただろう」


 イーアンの例えは、ドルドレンも一緒。決定打の現場でやり合うなら・・・気の毒なラファルを救出したあの時の状況と、今回は条件が違う。


 宝鈴の塔事件、話だけは聞いているルオロフも難しい顔で『報告書で知る限りですが』と、その事件同様の運びであれば、もっと早く方が付いただろうと呟いた。



 *****



 こうして、この夜は終わる。

 オーリンは、明朝に会いに行く、手仕事訓練所用の支度に取り掛かった。ニダのためにアオファの鱗も包み、工房に頼む依頼金も・・・細かに用意。


 シャンガマックは、戻ってきた獅子に『内通者疑惑』について相談。片や、獅子は『僧兵(捕虜)の記憶』を()()()()()引っ張り出す話をした。


 ドルドレンとイーアンとルオロフは、知恵者タンクラッドと『殺人の証拠集め』を話し合い・・・・・



 他の者も各部屋に入ったが、クフムは保護状態続行で、隣の部屋にミレイオがついて、結界付きで過ごす。

 お(もり)に似ているクフム番。誰か一人が付いてやる話、今日はミレイオ。


 それは良いが、魔物退治に毎日出るのでもなく、穏やかな時間が連続すると、少し後ろめたく過らないでもない。


 イーアンの話では『異界の精霊が、こうしている間も倒してくれている』そうなので、魔物は誰が倒したって良いわけだから、別に気にしなくてもなのだけど。自分たちの動きが減ったのはサボりみたいな・・・ ここまで考えて、ミレイオは窓の向こうの黑い夜を見つめた。


「魔物に殺されたなら、まだ。どっちにしろ嫌には違いないけれど。()()、と思えたのかしら」


 呟いたミレイオは、弟を殺された老婦人の訴えを考える。



 ―――イライス(※老婦人)は、彼女の弟と共に、ティヤーに移住して長かった。


 ハイザンジェルの本家にはお兄さんがいて(※お爺ちゃんだけれど)、そのお兄さんがドルドレン・イーアンの後ろ盾。ミレイオも、呼ばれた席で見たことはある。


 ティヤーで事業を持つ彼ら姉弟は、神殿側と関わっていた。

 ただ、姉のイライスは表に立たなかったのもあり、神殿とやり取りするのは、表に出ていた弟の役目。資金相談を受ければ融資もしたし、献金という無償のご機嫌取りも行っていた。


 数年前から神殿の動きが変化し、ウィハニの女に頼ろうとする『献上物奉納』呼び掛けが出たり、国の安全保障に僧兵が増員されたり。都度、お金が絡み、相談が来ればイライスの弟も出資した。


 彼女たちと神殿の繋がりは、もっぱらお金でしかないような。



 そしてティヤーに、私たちが上陸して、魔物も出現した。私たちが早い段階で船移動をしていると知った・・・弟は、こちらとの接触を考える。


 自分たちの本家が、身柄を保証している相手(※ドルドレン・イーアン)だから、『魔物製品の収益と普及拡大を手伝う』ような、イライスが聞いた理由は、普通っぽい印象だったらしい。


 よくわからないのは、なぜ、盗む発想に至ったのか。


 イライスも、弟から『接触を試みる』と聞いて、普通に招待するものと思っていたが、弟の動きは()()を選んだ。


 一箱の盗みくらい、貴族の冗談とでもするつもりだったのか。

 それとも、神殿に『入手』を唆されたか。


 真相は分からないものの、彼は別荘へ行く日取りを決めた。私たちの船が、カーンソウリー島に()()()。それも6()()前に、内陸から別荘のあるラィービー島へ彼は出かけたのだ。


 変な話・・・に、思う。誰かが、黒い船の行き先を教えた?と疑いたくなる。

『もう一つ可能性があるとすれば』の仮説も立てられるけれど、それはおいといて。


 とにかく、弟は別荘のある島に召使いと共に入り、そして私たちがカーンソウリー島に到着した―――



「船から降ろした荷物が、その場で盗まれる。謎の男がルオロフに『ラィービー島』の名を伝えて。ルオロフが翌日向かったら、すでに弟も召使いたちも殺されていた、と。死体の部屋には、盗難の荷箱。


 イライスは、弟が別荘に出発した直後、会社に届いた()殿()()()()を代理で読み、『遣いの者を〇日に手配』と書いてある文に、その時は分からなかったものの・・・日にちが丁度、殺された日と重なるのを後で知って、間違いなく神殿が絡んだと思ったのね。


 弟の死を確認したのは、イライスの息子がその手紙を届けに、カーンソウリー北へ向かったから。沿岸警備隊の遺体安置室で、弟の亡骸を確認したのは、会えずじまいで終わったイライスの息子」



 息子から鳥文(※ここでも使う)の連絡を受けたイライスは、その日の内に内陸を出て、カーンソウリー南・・・つまり、ここへ来た。南だと一日くらいで着く距離らしく、到着してから、アネィヨーハンが南へ来る情報に驚きながらも、すぐ『ドルドレンとイーアンに話そう』と決めたようだった。


 イライスは、弟を殺したのが僧兵だ、と疑っていない―――


 イーアンたちに話している間、ずっとそう決めつけた怒りの口調で、証拠があるのかを尋ねたドルドレンに、イライスは『確証はないが、弟の遺体を見た息子の話で、()()()()()()()を思い出した』と教えた。



「僧兵の持つ、武器。遺体の損傷具合で・・・? 普段は表に立たなかったイライス(お婆ちゃん)が、『ピンとくる』ってのもねぇ。ドルドレンもイーアンも、お婆ちゃんが話しながら泣いていて、突っ込まなかったみたいだけど」


 普通に考えて。それって、『そうして死んだ人を見たことがある』と聞こえるものを。



 何かがいろいろと変だわと、ミレイオは溜息を吐く。


 でもお婆ちゃんの話は、大きい影響を持つ気がする。人体の損傷具合を報告で読んだだけで、武器の特定を思うほど、()()()()()()があることを示唆しているのだ。


 実はお婆ちゃんは、今日の午後にイーアンたちと入れ違いで、神殿へ行った。

 だが、前置きの自己紹介と、お婆ちゃんの会社と懇意にしていた司祭の呼び出しを頼んだ後は、何を聞いてもらえることもなく、待たされて放置。やっと来たと思いきや、『またの機会に日を改めて』のぞんざいな扱いに、怒り心頭で神殿を出てきた。


 魔物に殺されたって、憎いのは変わらない。でもこれまで付き合いがあった、神殿の武器で死んだと知ったら。



「辛いわね。だけど、どうして弟が盗みを計画したのか。それがはっきりしないと」


 明るい金色の瞳は、窓の外、黒い夜を見つめる。

 今日の神殿で起こったことや、お婆ちゃんの話を聞いただけのミレイオでも、神殿の底知れない・・・()()()底知れない、と言い換えるべきか。闇を感じていた。

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