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魔物資源活用機構  作者: Ichen
神殿『デネアティン・サーラ』
2513/2961

2513. 半月間 ~⑯神殿の『招待状』

 

 船艇事務室は今日、人が少ないから・・・数名残っているけれど、やはり『小声で』を頼む兵曹長は、まずは総長に挨拶し、二人を椅子に座らせた。


 警備隊からとして『ルオロフ・ウィンダルが関与した一件』について話し、それから『拘留した男の対処』を順を追って説明。



 黙って聞いていたドルドレンだが、話を聞き終わる頃には、部屋の温度が下がるほど(?)怒っている様子・・・兵曹長と、部屋にいる隊員は重力が増したような圧力を感じる。


 ルオロフは、総長が自分と同じように感じていることに感謝し、『私が勝手に動いたことを謝ります。でも』とそこで、総長の灰色の瞳に止められて黙った。



「お前が謝ることはない。無事で良かった。だが、その男の対処は大問題だ」


「総長・・・しかし、神殿が」


 兵曹長の返事がくぐもる。ドルドレンの目つきは鋭く、射竦められて先を続けられない。静かに溜息を吐く総長は、今は責めるより他を望む。


「うむ。大変、大間違いだと俺は思うが(※私見は言う)、()殿()()()()とやらはどのようなものなのだ。それも教えて頂きたい」


 勿論ですと、怒っているらしき総長に会釈し、兵曹長は『取りに行ってきます』とそそくさ部屋を出る。


 腕組みし、背凭れに寄りかかったドルドレンは、顎を引いて宙を睨んだまま。ルオロフも話しかけにくい。自分には怒っていないようだが、総長がこんなに怒るとは、どう話したらいいのやら。そう思っていると、総長の口が開いた。


「ルオロフ、お前の活躍は素晴らしかった」


「・・・はい」


「誰にも言わなかった行動は、正しくない。だが、お前は忘れている。()()()()()は『心を読む者』がいることを」


「心を。ああ・・・はい、そうですね。本当にすみませんでした」


 察した様子のルオロフは項垂れる。

 トゥ()、とは言わないが。ドルドレンは親方に聞いてびっくりした。

 そこは伏せたけれど、トゥ様様であるには違いない。ルオロフがまさか一人で乗り込んで、戦って帰ってくる・・・など、考えていなかった。これを知らせてもらい、心から親方のダルナに感謝した。


 腰に、なかったはずの剣。ちらりとルオロフの左腰に落ちたドルドレンの視線に、ルオロフも鞘に収まる購入した剣を『一応、買いました』と消極的に報告。自分でも安全を守ろうとしたと、苦しい言い訳。ドルドレンは大きく溜息を落として、赤毛の頭を撫でた。



「言うのだ。出来れば」


「でも。その。私は旅の仲間ではありません」


「お前は()()だ。今後も、お前がそう思わなくても。俺たちは仲間で、お前は大切なのだ。()()()()()()


 頭を撫でられるルオロフは、情けなさそうに薄い緑色の瞳を向けて頷き、ドルドレンは苦笑。ここで兵曹長が戻り、若干和んだ二人の空気は再び張りつめた。



「一筆と、神殿契約の札です」


 二枚の紙を手に、兵曹長は二人の前の椅子に掛けて見せる。一枚は薄く、一枚は厚さのある硬い紙。()と呼ばれた方が硬く、しっかりした印も捺されていた。どうもこの『札』は日付と署名だけで有効らしい印象。手書きはそれしかない。


 もう一枚の薄い紙に、これこれこうした理由で~と・・・書かれているという。ティヤー語なので、ドルドレンは全く読めないが、兵曹長とルオロフはこれを読み、ルオロフが舌打ち。下品なルオロフを見たことがないので、新鮮ではあるにしても、胸中複雑なドルドレン。


「お前は大貴族で、舌打ちは似合わないぞ」


「私も人間ですから」


 むしゃくしゃしているルオロフの『人間ですから』は、妙な違和感があるけれど(※滅法強い男)。読み上げられた内容に、ドルドレンも怒りが増すのは同じだった。



「つまり。神殿は、()()()()話を振ったわけだな?」


 単刀直入、総長は兵曹長に確認の質問を投げ、兵曹長が頷くと同時に、部屋の扉が開き『申し訳ないですが同席を』と上等兵曹が加わった。


 上等兵曹は新たな情報を持ち込む。神殿側の意向と、繋ぎの連絡、そして改めて神殿側と会う場所。三つの情報を、彼は齎した。聞いていると、『取引』と言えなくもない。



「その者の処罰の行方を、こちらと交渉して決める。海賊と無関係、とな」


「・・・大丈夫ですか?一応、受け取ってから、そちらの話を聞いて、こちらから返事をする段取りですが」


 上等兵曹の穴埋めで、ルオロフもドルドレンも事の運びを理解する。ルオロフが怪訝そうに総長に顔を向け、その顔に総長は頷く。


「いいだろう。これが()()()()()()、確実に受けて立つ」


 そう言ってドルドレンは、『招待状』なる、硬い紙を手に取った。



 *****



「なめた真似を」



 宿へ戻ったドルドレンとルオロフ。その報告を聞くシャンガマックが、読んだ紙に眉根を寄せて頭を振る。


「分かっていて、ですか?ルオロフが俺たちの所属であることを()()()()()、と」


「文面から伝わりますよね。これに、警備隊も変だと思ったでしょうに、どうして通したのか」


 シャンガマックが紙を片手に総長に尋ね、ルオロフも同意見なので『明らか過ぎる』と神殿側の一筆を否定した。



「俺もそう思う。ルオロフと件の男は、魔物製品の話を通じてラィービー島で顔を合わせた。その男の情報で動いたルオロフは、俺たちには()()()()()()・・・ 」


 ちらっと見た総長の目に、ルオロフは『すみません』と俯き、苦笑するシャンガマックが総長の言葉を促す。ドルドレンも一呼吸置いて続ける。


「男は捕獲後に、警備隊へ運ばれて、神殿側の面会が行われたのは()()()()だ。男がどこの誰か、調べている最中だったという。神殿側の要求は、男の身柄拘束を、自分たちの所で行う内容で、逃がすわけではなく、『製品の盗難疑惑について、所持者である魔物資源活用機構の派遣騎士と、直接、()()の処罰を相談したい』と、その旨をそこに記した。普通に考えて」


「狙ってました、ってところか。いい度胸だ。殺されてぇんだな」


『イーアン』さっと振り返ったシャンガマックは引き攣る(※殺す予告)。同様に怯えるドルドレンも『いつからそこに』と椅子を立つ。部屋の戸口に寄りかかったまま、苛々している女龍の顔が怖い。


「文の読み上げから、ここにいました・・・ちっ、小癪な」


 まだ動くのは早いと、ドルドレンは奥さんを鎮める。むかっ腹の立つイーアンは顔を歪めて、怯える褐色の騎士の手元に眇めた目を向け『もう一回、読んで』と(※命令)顎をしゃくった。シャンガマックは素直に従う。



「・・・書いてあるままに読むぞ。『盗難に遭った製品と発見現場の犯行疑惑に於いて、信徒を容疑者とするに証拠不十分と思われるため、調査・審議間は信徒をピインダン地区神殿に移送し、こちらで監視します。

 しかし、この度の信徒の行動は不適切であり、誤解を招くものと重々承知しております。つきましては、魔物資源活用機構の派遣団体様にピインダン地区神殿へお越し頂き、信徒の処罰を相談したいとお願い申し上げます』以上だ」


「処罰だぁ?首刎ねろって、こっちが言ったら刎ねんのかよ」


 ケッと女龍が吐き捨て、シャンガマックは困った顔で彼女に頷く(※逆らわない)。ドルドレンも困った顔で頷く(※同意を示す)。ルオロフは少したじろぎながら、『イーアンはどう動くのが良いと思いますか?』と質問。破落戸のような鳶色の瞳が向き、赤毛の貴族はぴくっと固まる。


「最初に言いました。いい度胸です・・・()を呼び出すだけでは()()()()んでしょう。何かの手違い感もありそうだけど、問題の男を上手い具合に使った印象もあります。

 出向きますが、私とドルドレン、通訳はルオロフに願います。それと、クフムもいた方がいいでしょう」


「クフムは・・・あ、そうか。彼はもう、『神殿認知の僧侶』だから」


「はい。それと、彼は『ウィハニの女を連れてくるよう』言われています。全くの別件で初顔合わせですが、私が行くのなら、彼も同席のが良いでしょう」


 シャンガマックは意外そうだが理解し、それなら自分も行こうかと目で総長に尋ねる。ドルドレンはちょっと考えて『いや、お前はお父さんがサブパメントゥだから、何かあっても』と制した。シャンガマック、瞬き。

 言われてみればそうだと、神殿側にもサブパメントゥがついていることを思い出し、ふーむ、と唸る。


「人手が足りませんか?俺と父は、うーん、まぁ。この場合は出ない方が良いかも知れないけれど。イーアンと総長と、ルオロフ、それにクフムがつく。彼を守ると、手が足りない(※クフム=お荷物)ですよね?」


「面倒が起る前提だな、それは。面倒に発展しないようには、気を付けるが・・・人数か。ミレイオとオーリン、タンクラッドは職人。機構直下の派遣として連れて行くなら、フォラヴだが。フォラヴもあれも、いつ女王(※妖精の)に注意されるやらわからん」


 ドルドレンの言葉に、イーアンは少し考えたものの、『私たちで充分です』と人数はこれで良いことにする。何か面倒くさい流れになったら、その時はイングか誰か、ダルナを呼ぶ。それで良いのではと女龍に言われ、他に思いつかないドルドレンたちも了解。



「では、行動は早い方が良いです。カーンソウリー島の用事がもうなければ、()()()()地区神殿に向かいましょう」


「イーアン。その『なんたら地区神殿』は、同じカーンソウリー島だ」


「ぬ。そうなのですか」


 シャンガマックが教え、すっと窓に顔を向ける。一筆どころか、ズラズラ言い訳がましく書かれた薄い紙の最後、『カーンソウリー南、ピインダン地区』とあり、シャンガマックは南の方向を指差した。


「ここの港からだと、港前の海の道を、島沿いに南方面だろう」


『なぜおまえが知っている』と不思議そうに総長が尋ね、褐色の騎士は『サネーティの地図に名前があったから』と答え、一呼吸置いて頷く。その頷きは何?とドルドレンが首を傾げ、シャンガマックは『うん、()()()()はずだ』と記憶を辿って独り言。ドルドレン、部下に問う。



()()合っているのだ」


「はい。後で、馬車の荷物にある巻物と確認しますが。サネーティが忠告したことです。

 彼は公用の地図を参考にした巻物を見せましたが、そこには、地図に書かれていない、神殿所有の山や森、道がありました(※2467話参照)。カーンソウリー島の()()()()()()()()()()でした」

お読み頂き有難うございます。

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