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魔物資源活用機構  作者: Ichen
神殿『デネアティン・サーラ』
2508/2962

2508. 半月間 ~⑪船移動・荷卸し・龍翼膜の使用改案・魔物製品盗難

 

 飛べば、早いはずでも―――


 ミレイオたちは簡単に船には帰れず、右往左往して、やっとこさ黒い船を見つけた。最初の港ではなく、船は島に沿い、奥の港へ移動して停泊していた。



「おかえりなさい」


「ただいま。どうしたの?」


 気配に気づいて迎えに出たイーアンが、空中で説明。この島は海運局で『入り組んだ港』と言われていて、朝すんなり着いたのは別の港。それで、港から港に連絡を入れてもらい、誘導の船が迎えに来てくれて、アネィヨーハンも移動したのだと・・・『なので、こっちに着いたのは、一時間くらい前です』イーアンは下を見てそう言い、ミレイオたちと一緒に船に降りる。


 今は、ドルドレンが国境警備隊と連絡をつけている最中らしく、とりあえず船待ち。


 最初に見た港の影より、こちらのほうがずっと広く、また、島沿いに流れる()()()()()()()にも、船が行き交う。ほとんど警備隊の船だが、商船も混じっていた。


 ティヤーは、無数の島が寄り集った具合の国で、網目状に境界線を作るのが海。川は、本島他、大きめの島に見られる程度で、船が通るのは九割以上が、細く分かれた海である。

 この、大河に似た海の道は、最短距離で本島に続く、云わば主要道に値するらしく、外海から回るよりも安定して船が進むため、海を動く皆さんは、この主要道使用率が高い。



「それで。こっちの方が、次に行くのに都合が良い、と」


 話を聞いたミレイオが、ふぅんと、船の上から海を見渡す。確かにこちらの方が、賑わっている。昼近い午前、出ていた船が戻ってきている様子、大型の船が多く・・・人の声も途切れない。波止場から先は、家屋が詰まっている風景で―――


「破壊された痕跡は()()()()なのね」


「はい」


 大きな島だから。開戦時の被害、イングが再現魔法を使ったのは、小さい島や辺鄙な所に絞られた。

 カーンソウリー島は大きい町をいくつも抱えるので、その分、被害後の風景が目立つ。港から見ても分かるくらい、壊れた建物や道、黒ずんで崩壊した空地が視界に入る。

 ただ、復興活動は進んでいるし、人間も元から多いので、深刻な不自由さはないようだった。


 ミレイオとイーアンは、じっとその様子を見つめた後、『それで』と、どちらともなく言いかけ、同時に黙る。


「どうぞ、ミレイオ」


「うん。魔物の退治は問題なく終わったんだけど・・・ええっと、微妙な報告があるのよね。でも」


 ここじゃない場所がいいわ、と船室を指差したところで、舷梯からドルドレンが上がってきて『馬車が来るから荷を』と甲板の皆に声をかけた。


「戻ったか。おかえり」


 ミレイオやオーリン、ルオロフ、フォラヴに気づき、総長は挨拶。皆も挨拶して、『船を移動した』『移動したのね』と同じことを繰り返し、それからドルドレンが波止場を示して、警備隊が来るから荷物を出すと言った。


「魔物製品を渡すのだが、材料も少し置いて行ったらどうかと思う」


「いいんじゃないの。今、分けるよ」


 ドルドレンはここの警備隊にも、魔物材料を渡しておこうと提案し、オーリンが了解。トゥは既にいないが、いつもトゥが佇む(※船の横)舷梯に寄りかかるタンクラッドが、振り向いたオーリンに片手を上げて『了解』を示す。


 職人たちは船尾楼甲板に集めておいた、魔物材料を仕分けにかかり、騎士たちは船倉の魔物製品を運び出し、手伝いで舷梯を上がった警備隊に箱を渡し・・・荷卸し作業が始まる。



*****



 魔物材料は親方たちに任せ、船倉に降りたイーアンは、昨日に空から頂戴してきた『ルオロフ剣の鞘材料』の龍の翼膜を―― テイワグナ、オハ・グベギで作った ――消火袋用にも分けた。


「これは、私が直に渡しましょう。アオファの鱗も一緒に」


 うんうん、頷きながら『使えると思うもの』と一人喋り。死霊憑きの魔物が軸のティヤー(※仮決定)。ここでは、消火袋ではなく、お祓い袋として使うよう提案する。


 利くかどうかは、やってみないことに判らないが、(これ)にお香や、清めの灰を包んで投げるとか・・・小さな対抗策であれ、武器を使えない子供や老人、妊婦さんたちが、逃げる隙を作り出せるかもしれない。


 アイエラダハッドでは、一部的にしか使わなかった。ティヤーでは、早い段階で回せたらと思う。


「残存の知恵。テロ。人民を殺す神殿。敵が魔物だけではないのです。魔物だけでも、遠ざける方法が増えてほしい。

 仮に、私たち龍の皮を、民が使ったことで、()殿()()()が手にする機会があったとしても。サブパメントゥに渡った日には、あれらは崩れる。龍の皮に触れて、耐えられる者はいない。民に『龍製・魔物対抗道具』を配って、支障はない」


 こうした一人喋りで、次の行動が導かれることもある。


 イーアンは、民間に渡った後を想像した。ふと、僧兵に発砲される危険を思い出す。この龍の皮に弾が命中すると、熱を帯びて爆発する・・・可能性。これはいけないと気づき、同時に違う対処も気づく。


「あ。もう、じゃ。メダルとかプレートにしてしまえば、いいんでは」


 表は魔物の硬い皮を当てて、裏にこれを張るとか・・・そうすれば、弾は貫通せず、膜も熱を持つまで至らない。一か所しか守れなくても、心臓や胸の近くのお守りに使うだけでも。


 普通の人では張るのが難しいかもしれないから、でかい魔物の皮に龍翼膜を一枚張ってから、切り分けてあげたらどうだろう。


 それがいいかも・・・! ポンと手を打つ女龍は、大きさ別に分けていた龍の翼の皮を、もう一度広げて見直し、使いやすそうなのを選ぶ。

 大きい一枚板状から、小さく切り分けたところで、『一人に一つ』の数は間に合わないが、()()()役には立つ。


「そう。全員を救いたいけど、それは無理だと学びました」


 いつも、この線引きが苦しい。だけどそういうものだと、イーアンは自分に呟き、見繕った龍の翼膜を畳み、残りを馬車に戻して、甲板へ上がった。



 *****



 丁度、魔物材料も分け終わったタンクラッドたちに、イーアンは自分が考えたことを話す。親方が『それなら』とすぐにイーアンの用に足りる大きさを探し、これはどうだ、これがいいか、と二人で選んで良さ気な材料を合わせた。


「この島で、作業を教えるのか?それとも、紹介後にこっちで作るのか」


「紹介して、使い勝手の意見を、皆さんから少し集めてに」


 しようと思います―― を、言い終わる前に。波止場で魔物製品を積み終わった、シャンガマックが舷梯を駆け上がってきて、その音で皆は舷門を見た。褐色の騎士が甲板に立つや放った言葉。


「防具の箱、まだあります?」


 縄で用途別にまとめた魔物材料に集まっていた職人たちは、顔をさっと見合わせて『ないよな』と確認し合い、ミレイオが『ないわよ』と怪訝そうに答えると、シャンガマックは困惑したまま、波止場の総長に『ないそうです』と大声で教える。


「どうしたの?数が合わないの?」


 シャンガマックの表情が分かりやすい。この困り方はと、嫌な予感がしたミレイオが状況を尋ね、思った通りの答えが戻る。振り返った褐色の騎士は、戸惑いとすまなさを綯い交ぜにした具合で、ミレイオに『一つありません』と言った。


「ない?ないって、先に運んじゃったとかではなく?」


「違います。荷積みの馬車は二台で、どちらもそこにいます」


 下に視線を向ける騎士に、親方とオーリンも寄ってくる。


「どうした。箱が足りないのか」


「降ろす時は、総長が数えたんだろ?紙の数と(※出荷表)併せて」


 二人の質問に、シャンガマックは頷いて『港に降ろした時点で、もう一度自分たちも確認している』ことと、馬車に積んだ際も警備隊と数を合わせていると話す。


「ってことは。馬車に積んでから、紛失か」


 オーリンが首を傾げ、タンクラッドは無表情に『()()とは言わんだろ』と指摘した。盗まれた、と言いたげに。ミレイオもそれが過る。


 後から来たイーアンは、話が聞こえていたので、『防具の箱が一つですか』と改めて質問。褐色の騎士が頷いて、下に来ている警備隊の馬車を指差し、『前の馬車に積んだ』と教える。



「積んでから、人が側にいたのですか」


「俺たちは馬車から離れていたし、警備隊はいたと思うが・・・ちょっと」


 濁した言い方で、イーアン他職人は理解する。手薄だったのだ。

 ちら、とミレイオがタンクラッドを見て、タンクラッドの視線がイーアンに注ぐ。その視線を受け止めたイーアンは、オーリンを見て『探す?』と(※飛ぶ人たち)一言。オーリンは頷いて『空から見てこようか』と溜息を吐いた。


「いつ、気づいた」


 少しばかりの沈黙を挟んでから、質問したタンクラッドに、『()()()ですね』と褐色の騎士は、ぼそぼそと返事。


「あんたのせいじゃないんだから、そんな顔しないの」


「すみません。大切な防具を」


 あんたが謝らない、とミレイオは淡い茶色の髪を撫でて、シャンガマックに『無駄に謝らなくていいの』と少し微笑んでから、イーアンとオーリンに探してと頼んだ。


「ドルドレンにも聞いてきます」


 イーアンは下で話を聞き、焦りがちなドルドレンに『とりあえず探しましょう』と、自分たち龍族が空から見てくることを伝える。ドルドレンも警備隊もそれを頼み、イーアンは、龍が飛んでも騒がれないようお願いした。



「全員で探すことでもない。この町は初めてだし、下手に迷っても困る。食糧買い出しで宿泊予定もあるし、ミレイオたちには馬車で宿へ行ってもらおう」


「そうしましょう。馬車は宿へ。探索は空が私たち、陸があなた方で」


 ドルドレンと決定し、通訳はルオロフがドルドレン、シャンガマックは馬車に回る。今はクフムが難しい・・・のを忘れていたイーアンは、ここで思い出して舌打ち。


 それを話すと、伴侶は『ひとまずクフムは、君が抱えて宿へ運んでしまいなさい(※雑)』と提案。それしかないかと了解し、緊急事態でイーアンは、最初の空探索をオーリンに任せることにした。


 急遽決まったことを、不安そうでばつが悪い警備隊の責任者に伝えると、警備隊から『宿でしたら』とこの近くの良心的な宿を教えられ、すぐさま簡単な道案内を描いてくれた。


「沿岸警備隊の紹介、と言って下さい。私たちが後から話をつけますから、宿代は」


「いやいや。宿代は関係ないのだ、こちらで支払う。そんな気の遣い方をしなくて良い」


 紛失したものの大きさに不安が募る警備隊を宥め、ドルドレンはとりあえず『一緒に施設まで付き合う』とし、施設に運び込んだら、自分と部下も探しに出ると伝えた。



 こうして――― まずはトゥが呼ばれ、ぽんと出てきた銀色の巨体は、主の命令に従い、旅の馬車三台とブルーラを波止場に降ろす。


 この後、トゥは見張りを頼まれ、大きな町なので、姿を消して船の見張り番。

 オーリンが飛び立ち、荷馬車の御者にタンクラッド、寝台馬車にシャンガマック、食糧馬車にミレイオが乗る。クフムは、甲板からイーアンが抱えて浮上。


 ドルドレン、ルオロフは、ドゥージの馬・ブルーラに二人乗りで、警備隊の馬車の守りにつき、フォラヴは『私も先に探しに出ます』ということで、龍イーニッドを呼び、飛び立った。



 思わぬところで、落とし穴では。皆が不安を感じたそれは、遠からず当たる。


 この時、真相を知っている者は当然いないが、やや先手を得たのは、他ならぬタンクラッド。シャンガマックの紛失報告で、迅速対応・・・彼のダルナに探らせた。ここまでは良かったが。


 トゥの返事は、理解に難しい内容で、トゥも余計な推理をしないために、それ以上分からず。

 皆の知らない先手に触れたとはいえ、親方もまた、曖昧で不明瞭なことを軽々しく仲間に伝えられないことから、頭に留めて黙っているだけだった。



 三台の馬車は港を離れて、宿へ向かう―― 何者かが待つ、通りへ出た。


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