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魔物資源活用機構  作者: Ichen
神殿『デネアティン・サーラ』
2499/2962

2499. 半月間  ~②防護服・狼煙のおかげ・ミャクギー島着・クフム初仕事行き

※昨日は、一つ飛ばしてしまった回を挟みまして、読んで下さる皆さんに申し訳ありませんでした。お詫びします。今回は、具合が悪かったクフムの朝、その続きです。


 

 命拾いするための助言か。それとも命懸けの、凶と出るか吉と出るかの助言か。


 シャンガマックは彼に助言の説明も少々与え、『俺なら、そう言う』と部屋を出て行った。



 クフムは寝台に座ったまま、シャンガマックの提案を本気で考える。頭ではすぐ否定するのに、直感は一縷の光にも感じた。



―――しょっちゅう一緒だと言えば、それは無論、いろいろと疑われる。お前の不安な様子を聞いていると、『俺たちと()()()()()行動を共にしているから』が前提。


 ここで褐色の騎士は、『違うか?』と改めて確認し、『違うんですか』と、質問の意味がピンとこないクフムは聞き返して、騎士に困った顔をさせた。


 シャンガマックは、具合のすこぶる悪い僧侶の見上げる顔に、小さな溜息をついて、客観視でどう感じるかを話して聞かせた。


『入国の船に、同船した。おかしくない。あれは旅客船だ。豪華だが、金さえ積めば、あの船に乗れるだろう。お前は金を持っていたし、急いでいたなら普通だ。

 僧院が破壊されて逃げ落ちたお前が、ティヤーに頼ろうと金を出して、大急ぎで出国したとして、自然な話だと思う。


 着いた港が、俺たちと同じ港なのも当然だろう。船はアノーシクマ湾にしか、行かなかったんだから。下船してすぐに魔物が出始め、航路もあちこち閉鎖された。使える航路は絞られて、お前が()()()となった動力の資料を預ける先も、航路任せ・・・となれば、どうだ?


 それは、どうやったって、俺たちと似たような航路になるし、度々、偶然、会うこともあろう。

 ・・・もし、神殿に、俺たちと一緒にいた確認や探りを入れられた場合、否定せず、行く先で会った、話をしたと言えばいい―――



 シャンガマックは、『何も嘘はない』とすんなり頷いて、『実際に起きた接触時間、長短関係なく、情報は得られるもので、選んで話す分には問題ない』し、『情報があると分かれば、クフムを消したり、暴力を使う極端はないだろう』と話した。



 ・・・これが、ザッカリアの示唆? シャンガマックは活路を教えてくれた。

 私に動力の図案を()()()()()と繋がる、一歩かもしれない。上手く運べば、どこかで会うきっかけになるのでは。


 元は、単純なクフム。世間知らずなので、自分の想像を膨らませると、良くも悪くも膨れる一方。


 夜通し苦しんだ悩みは、褐色の騎士の薬と助言により、少しずつ霧が晴れるように薄れて行く。もしかすると。もしかすれば―――


 ふと気づいたが、誰も皿を回収に来ないので、いつもより長めに朝食時間を伸ばしてもらえていると分かり、ほんの少しだけ酢漬けの野菜を食べた。

 他を残しはしたが、間もなく皿を取りに来たオーリンに『食えた?』と減った酢漬けに気付いてもらえ、頷く。薬を使用したのは、シャンガマックが話しておいてくれた。


 そして弓職人は、盆を片手に載せると、僧侶に『準備だ』一緒に来いと、顎を廊下へしゃくった。


「もうじき、ミャクギーの島に入る」



 *****



 僧侶に食事を持っていく役に、これまでシャンガマックが、加わったことはなかった。


 ミャクギー島が視界に入ったのが、予想よりかなり早かったので、皆は到着に合わせて慌ただしく、クフムの世話を引き受けていたオーリンも総長も、支度で手が離せない様子から、シャンガマックが引き受けた次第。


 クフムは、運良くシャンガマックに救われる形で、食後はオーリンと支度するくらいまで回復した。



「お前にさ・・・これ、ちょっと用意したんだ。使い方の練習だけな。すぐ覚える」


 船倉にクフムを連れて行ったオーリンは、『準備』と称して、不思議な衣服を見せる。


 何ですかこれと、眉根を寄せた僧侶に答えず、七分袖の上着と、腿まで覆う下穿きを渡し『今、服の内側に着ろ』と命じた。

 奇妙な服で、服自体は布なのだが、()がある。筋は布の筒を通しているようで、そこだけ少し窄まっていた。


 お前の体に合うくらいに作ったとか何とか・・・何だか分からないが、クフムはとりあえず従う。船倉の端っこで下着一枚になり、用意された上下を着用する。オーリンは、服の腕や裾の筋を少し調整した。


「なんか。締まってますが」


「そうだ。これは魔物の腸で」


 え! 目を丸くした僧侶に、調整している箇所から視線を動かさないオーリンは少し笑って『元は、それなんだけど』と続ける。


「その発案から、似た性質の素材をこうして使えると気づいた。これは腸じゃないから安心しろ」


 どっちみち魔物かとは思ったが、しかし何に使う物かを尋ねると。オーリンは一歩離れて、自分の片腕をひゅっと、前に突き出して見せた。


「動きが変わる。こんな風にやってみ」


「こうですか・・・あっ」


 クフムが真似して前に伸ばした腕は、彼のひ弱な体も勢い良く引っ張る。驚いた僧侶が急いで足を踏ん張ったのを、オーリンは満足げに眺めた。


「簡単に言うと、力が増すんだ。魔法じゃなくてな。少し締め付けられる感じはするが、普段よりも大きな動きが呆気なく出来る。ちょっとだけ、その場で跳ねてみろ」


 ちょっとだ、と念を押され、小心者のクフムは恐る恐る、その場で両足を屈伸させて跳び上がる。船倉は低くないが、あ!と怯む高さに跳ね、すかさずオーリンが彼の片足を引っ張り戻した。


「そうなるんだ」


「すごい」


「だが、本体の能力が上がるわけじゃない。使い過ぎると、異様に疲れる土産付きだってことを覚えておけ。

 万が一、お前が俺たちの手の届かないところで、逃げなければいけない時。逃げ切るまで全力だろう。面白いくらい、嘘みたいに体が動く実感を得る。だが」


「逃げ切る・・・その時のために、オーリンは」


 ()()()()()()と、クフムの肩をポンと叩き、オーリンは衣服をまた着るように言って、『甲板でな』と船倉を出て行った。

 クフムは、不安が消えない。でも、シャンガマックと言い、オーリンと言い・・・自分を無駄死にさせる気はないのが伝わる。ごくっと唾を呑み、覚悟を決めた。


 不思議な魔物製品を服の内側に着こみ、元の服を上から着て、クフムは胸から腹を撫でる。


「希望が見えてきたよ、ザッカリア」



 *****



 甲板へ出て、ミレイオたちと話しているオーリンを見つけたクフムは、側へ行った。もう、向かう先にミャクギーの町が見えている。トゥは相変わらず堂々と船の横についており、この異形のダルナの説明で、ドルドレンとルオロフ、そしてイーアンが先に島へ飛んだらしい。


 船の速度はゆっくりで、彼らの戻り待ち・・・ クフムが近づくと、横目に見たオーリンがちょいと手を上げる。


「オーリン、有難うございます。お礼を言っていませんでした」


「お前は武器が使えないからさ。で、俺に礼を言うより、こっちな」


 こっちな、とオーリンの指が向かい合うミレイオに向く。服に縫い付けてくれたのはミレイオと知り、クフムは戸惑いながら、彼にも礼を言った。


「もしかして、昨日の祝いの後、縫ってくれたんですか」


「そうよ。でも別に、『服一枚こさえろ』ってんじゃないもの。ちょっと摘まんで、筒に縫っただけだし・・・それより勢いよく使うと、布の方が破けるから、気をつけなさい。食い込んだりしないと思うけど、その筋張ってるやつ、当て布がないと皮膚に痣くらいは付けるわよ」


「あ、はい。気をつけます」


 鍛えていない、柔肌の僧侶。腕を摩って頷く、ビクビクした顔に、ミレイオは苦笑して『使わなくて済むことを祈るわ』と残して、舳先へ行った。



「皆、じゃないにしろ。お前が『犯罪者』と分かっていても、別に死なせたいわけじゃない」


 呟いたオーリンに、クフムは頷く。黄色い瞳は彼をちらりと見て『総長だって、命を無下に考えはしないぞ』と総長の思惑を伝えた。


「彼は誰より、誰かを助けるために()()()()()突き進んだ男だ」


 だから疑うな、とオーリンが教えたすぐ、島を背景にこちらへ飛ぶイーアンたちが視界に入った。



*****



 この後、船は誘導される。イーアンとルオロフ、総長が戻る後ろ、港から二隻の小型船が出て、アネィヨーハンの前につく。ダルナは非常に迫力があるので、暫く迎えの船が煩かった(※大騒ぎ)。


 ただ、アンディン島にいた日数で、海運局からティヤー全体へ報せは出されていたので、全く未知でもない。

 狼煙は非常に優秀で、言ってみれば、モールス信号の()()だとイーアンは思う。


 アネィヨーハン、自分たち特別な使命の旅人、そしてダルナも・・・煙の間隔と量、色の濃淡で、大まかに伝達されていた。


 おかげで、双頭のダルナを連れた黒い船は、世界の旅人の船とそれは承諾済み。

 近い島々には、海運局から細かい連絡も届いている。僅か数日でも、風の強弱で煙が曖昧でも、彼らは読み取っていた。


 海と共に生きてきた人たちの、不思議な文化。『狼煙の色』が気になるなぁと・・・そこに目をつけつつも、イーアンは感心した。



 ―――黒い船は、十分後に入港。


 投錨したところで、ダルナの姿は消え、少し騒めいて・落ち着いて、それから皆も降りる。トゥが先に消えたが、ここでは馬車を出さない。

 ミャクギーでは、国境警備隊に魔物製品を卸すのが目的。新しい情報があれば話を聞かせてもらうが、滞在予定は短めで、特になければすぐに出港する。



 馬たちは、小さな窓の陽射ししかない船倉に閉じ込めておくのも可哀相なので、甲板に連れてくる。


 船倉では馬の排便対処済みだが、馬は場所を決めず排便排尿するのもあり、甲板でそうした場合に備え、消滅能力持ちのミレイオが必然的に留守番となった(※出たら消す係)。



 タンクラッドは、今日もシャンガマックに『サンキーさんの工房へ行きますか』と訊ねられたが、『そう簡単に、剣が出来るものではない』と諭して断った。


 褐色の騎士は、注意を受けたのでしおしお・・・獅子にささやかな嫌味を言われつつ(※出かけてばかりだと)船に残る。タンクラッドも船に残るが、ロデュフォルデンのことを考えたかったので、部屋にこもった。


 ドルドレン、ルオロフ、それとフォラヴ、オーリンが、国境警備隊へ荷物を運ぶ。話は付けてあるので、港で迎えの馬車を待つ。



 イーアンはと言うと・・・・・


 港へやってきた国境警備隊の馬車2台を、空から見ていた。この馬車が波止場続きの路地に入る手前で、三頭の馬が別の路地から港裏へ進んだ。


 側へ来た馬車に、ドルドレンたちは挨拶し、製品の箱を一緒に馬車へ積んで出発。少し遅れて、距離ある建物影に馬が動き、その背に乗るクフムを確認。


 警備隊の馬車とは逆方向へ、クフムの乗る馬が歩く。彼の馬のすぐ後ろにも、二人の警備隊員が馬で続き、イーアンは彼らの進行方向へ顔を向けた。低い丘を囲む町、その丘の反対側は森があり、坂を上がる森の中に神殿がある。



 何かあったら、出て行くつもり。は、ないが。『私が出たら、あの人、今後仕事しづらいですよ』イーアンは空中で腕組みして、首をゴキッと鳴らす。


 どうせ、一緒にいた風景の一つ二つ、神殿の連中にはバレているだろう。だけど、『どういう状態で一緒にいるのか』その口裏は合わせてある。

 シャンガマックが、クフムへアドバイスした内容が、実に素晴らしい()()な感じ。



 ――アイエラダハッドで、魔物に僧院を壊されて逃亡したクフムは、大切な資料を持ってティヤーへ移動する際、一番早い船に乗ったら、『たまたま、世界の旅人(私たち)と一緒』合ってるじゃないですか・・・ふふんと鼻で笑う女龍。


「ティヤーに着いて魔物が出たため、出航可能な船を乗り継いで、クフムはこの島に来た、と。これで、どうにかなると思うけど」


 以前。クフムがアイエラダハッドから通った修道院や神殿は、ティヤー北に集中する。

 今日着いたミャクギー島も、彼は数年前に来ているので、『今はどこも接触が難しい、着いた先で資料を預けたい』の理由から来訪・・・したことにする。



 イーアンは、昨日会えなかった、スヴァウティヤッシュを呼びたいところ。だがそれは、彼がいてくれた方がサブパメントゥ対策で()()だから、だけのこと。


 忙しく私たちのために頑張ってくれているのを、邪魔してはいけない。なので―――


「クフム。あなたが万が一、僧兵に襲われたり・・・もしかすると、サブパメントゥに()()されかけたら。私は嵐を起こし、風を叩きつけ、あなたの退路を作りますよ」


 超自然ですね、とイーアンは独り言。自分の姿や仄めかしは見せず、偶然の天災でクフムの道を作るつもり。



 女龍が自分を見守っているなんて、露知らずの僧侶は、この時、馬の背に揺られながら、不安と緊張で汗が止まらず、『イーアンは、放置でも私を見殺しにする』と無責任極まりない女龍に恨みを寄せていた。


 晴れた午前、どこかで魔物が出た警報が響く。 


 地域別で対応する部署がある、ミャクギー島。クフムの見張りについた警備隊は、警報を少し気にしたが、クフムから離れはしない。


 森の入口へ馬を進め、左右に階段を配置した、石畳の続く上り坂に入る。

お読み頂き有難うございます。

何度も見直しても、数字に弱いところがあり、昨日は一話飛び越した始末で、読まれている皆さんにご迷惑をおかけしました。今後、こうしたことがないように気を付けます。

いつもいらして下さる皆さんに、心から感謝して。

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