2489. 七日目の夜の退治と出発・船内・コルステインの目処と『古代の海の水』・バニザット旧友郷愁
※② 追記:申し訳ありませんが、PCの都合で時間が取れず、2日(木)もお休みします(5月1日活動報告詳細掲載)。どうぞよろしくお願い致します。
※① 明日5月1日(水)の投稿をお休みします。ストックと調整の都合で、翌2日も休む可能性があります。その場合、こちらで追って連絡します。いつもいらして下さる皆さんに、心から感謝しています。有難うございます。
船に戻ったら、夜中。それに船は動いておらず、見える距離に港の影、と気づいた三人。皆はどうしているだろうと船内へ入ったすぐ後は、忙しい。
一人現状を把握していたトゥは、訊ねられることなく・・・状況に合わせるだけ。
船内に入ったイーアンは、ものの数秒で飛び出して夜空に消え、続けてタンクラッドが、『トゥ。出かける』の短い命令。
トゥは首を一本降ろしてやり、親方を乗せ、『南でちょっとな』と行き先を告げかけた彼の声より早く、さっさと現場へ瞬間移動した。
オーリンは、船に残ったのも、トゥは知っている。
船は、クフムとルオロフ、それとミレイオ(※赤ちゃん付き)が留守番で、ドルドレンは言葉に長けたシャンガマックを連れて魔物退治へ出ていた。
なので、オーリンは留守番側で。イーアンとタンクラッドは、退治出発。
深夜のアンディン島南で、死霊憑きの魔物が、離れの島を襲う。
岩礁続きの離れ小島。ここは墓のためにある島らしく、本島南地区の墓地代わり。そのため、魔物の増え方が早い。
先に動いていたドルドレンたちは、まず住人の保護を急ぎ、シャンガマックが住人への呼び掛けをしながら、ドルドレンが迫る魔物を倒していた。
勿論、巡視船も出ており、彼らの狼煙が知らせの最初。
―――少し時間を戻して説明する。
南地区で魔物が発生した直後、巡視船に乗る海賊が、島の他の地区にも狼煙で援護を求め、これを知ったペジャウビン港の夜勤水夫が、佇むドルドレンたちの船にも知らせに来た。
・・・頼る意思が薄い彼らだが、昨日、海運局巡視船が出た魔物退治で、総長とルオロフが瞬く間に倒した噂を聞き、『今だけ手伝ってもらうか』と水夫仲間で決定。
これにより、了解したドルドレンはショレイヤで飛び、シャンガマックの移動は、獅子ではなくダルナで出発した。
トゥに『ダルナを呼んでやれ』と言われたシャンガマックは、それを気にしていたので、アジャンヴァルティヤ同伴(※一番懐いてる)。
魔物を倒すに、破壊力抜群のダルナはうってつけではあるが、その姿を見たことがない者には恐ろしいのも考慮した。
何度かの『失態(※1991話参照)』で学んだシャンガマックは、現地到着してダルナを待たせ、真っ先に住人を集めて『今から自分たちがどう戦うか』の説明から始めた。
そうこうしている内に、どんどん増える魔物を一人相手に、ドルドレンも手に余り出す。シャンガマックが住人に『これから姿を見せるのは味方だから』と念を押し、急いでダルナを呼び、攻撃を任せ・・・巡視船は内海の魔物を追い込む―― この現場に、イーアンとタンクラッドが参加した。
「これ。倒していいんですよね」
思わず躊躇った女龍が、先に着いた親方に大声で聞き、タンクラッドは片腕を上げ攻撃を指示。
お祓いする必要はあるだろうかと一瞬、『何かを助ける可能性』が過ったイーアン。アイエラダハッドでの『変質魔物』を準えた。
異様に人間的な要素を残す、魔物・死霊憑き状態は、そう思わせるほどの外見を持つ。
これまでの魔物と雰囲気が大きく異なる姿は、イーアンに攻撃の躊躇をさせたが、同情はない。ダルナが小さな島の半分を担当しているので、その反対側をイーアンは引き受ける。
ドルドレンとショレイヤも民の側で、イーアンが来たのを知った。白い龍気が輝く空、その奥に銀色の巨体も見える。トゥもタンクラッドもいると分かり、ドルドレンは藍色の龍の首をポンと叩いた。
「もう帰れるぞ(※空に)」
うん、と頷いたショレイヤは、さして疲れてもいなかったが。ショレイヤが少し気にしたのは自分ではなく、龍気の低そうなイーアンの方。
ドルドレンが言ったとおり、この後は早かった。魔物が発生する海は、アジャンヴァルティヤが隕石を降らせて潰し、反対側では、龍に姿を変えたイーアンが、開けた口を左右に向けた側から魔物を消す。
龍は黒い海に光を煌めかせ、白い風のように片っ端から、隅々、死霊憑きの魔物を消し去り、それは昇華の如く人々の記憶に残る。
片や、黒い隕石に似たダルナは、晴れた星空から炎に包まれた石を降らせ、瞬く間に海を隕石群で埋め尽くし・・・ここから逃れた魔物を、巡視船が迎え討つ。
ダルナの隕石は、狙ったもの以外に影響しない。
沸騰する海の湯気は、実のところ、何の温度変化も与えておらず、恐ろしい隕石の数が降り注いだのに、岩礁は壊れていなかった。
「アジャンヴァルティヤ!」
魔物の気配が引いたと感じ、シャンガマックは黒いダルナを呼び戻す。
その姿でわぁわぁ騒ぐ島民に『味方ですから』と叫びつつ、側へ来たダルナをシャンガマックは労い『もう終わったか』を訊ねた。ダルナは『全て片付いた』と余裕そう。
空に浮かんで見ていたタンクラッドも、終わった様子を眺める。
「来たわりに何もしなかったな」
「お前、剣を置いて来たからな(※主が戦わない前提)」
トゥにすかさず返されて、タンクラッドは無表情。海賊に、時の剣の印象をつけたくないので、戦うならトゥに任せようと思っていた。トゥもそれで良いのだが、『戦闘範囲が狭い』から出番なし・・・を決め込んだ。
アジャンヴァルティヤ、ドルドレン、イーアンと揃って、離れ小島の面積に、それ以上必要ない。
魔物親玉はどうなったかを気にしたのは、褐色の騎士だが・・・今回は気にしなくて済む。
「あ。イーアンが片付けたから」
龍気を振りまいている時点で、聖別状態と思い出す。墓地はイーアンが動いたので、親玉=死霊呼び出しの物体も、掻き消えていた。これは、イーアンがシャンガマックに伝えた。
『親玉や呼び出しの呪いも、龍気が触れたら聖別しているので』地上に降りたイーアンの言葉に、シャンガマックも納得。
イーアンは別の疑問があり、『聖別して、魔物と分離したものが残っていないだろうか?』と心配し、念のため、墓場をシャンガマックとイーアンで見て回った。
問題は見つからず、『死霊の憑いた魔物は、アイエラダハッド変質魔物とはまた異なる』結論に落ち着く。離れ島はこれで退治完了とした。
巡視船に退治完了を伝え、お礼を言われ、互いに労い、無事を祈る。一行はアネィヨーハンへ戻ったが、ショレイヤは、女龍の龍気が少ないことを気にし、船までついてきて・・・
「すみません。今夜は上がりますので(※空)詳しい話は戻ってから~」
気付いてくれた藍色の龍と共に、女龍は退場。明日ね~・・・手を振り振り、お疲れイーアンは龍に乗せてもらって、夜空へ消えた。
「じゃ。船を進めるか」
さらりとダルナに命じた親方は、『船が動かないの忘れていた』をはぐらかし、動き出す船は、ようやくアンディン島を後にする―――
*****
イーアンが空へ行った以外で、抜けた者はおらず、夜中に一仕事して船に戻ったドルドレンたちは、船の留守番だったミレイオたちに、南地区の退治内容をざっくり報告。
いきなり船からいなくなった理由は、留守で残ったオーリンから、ミレイオやルオロフ、クフムに話した。
ミレイオたちには粗方共有したことだし、この一件はイーアンの活躍が鍵を握っていることから、それ以上の詳しいことは、明日に回した。
そして、各自の部屋へ入る。
余談だが、アネィヨーハンは大きいだけでなく、すこぶる気前の良い造りも兼ね、船室は客船並み。『下っ端水夫が大部屋でまとめてハンモック吊りの就寝』・・・なんて光景はなさそうな、しっかりした個室が完備。
船倉は船倉、部屋は部屋。見掛け倒しではない、大型の海賊船の夜は、波も静かで風も微風だと、ただただ快適でしかなかった。
この快適な大型海賊船の一室、タンクラッドが眠る部屋は、そこそこ広めで、窓からすぐ近くに海面が見える。
「コルステインが来ないな」
固めの綿が詰まった寝台に寝そべり、黒い海の揺れと星空を見つめる。昨日も来なかったが、ロゼールが呼んでも来なかったというから・・・『ロゼールは家族扱い。彼が頼んでいなくても手伝う印象だったが』何故かな、と呟くものの、コルステインから何も聞かされていないので、知る由もない。
一つ思い当たるとすれば。
「俺が探してもらった、『古代の海』あの水のことだろうか」
銃に使う弾や、鏃などの武器を、古代の海の水で強化した可能性・・・その報告をしてくれた日、コルステインは深刻そうな目つきだった。
彼女が(※女ではないけど)ああした表情をするのは珍しいため、印象に残ると同時、サブパメントゥにとっても見逃せないことなのかと感じた。
*****
タンクラッドが、コルステインを気にしながら眠る時間―――
大きなサブパメントゥは、月光色の髪をなびかせ、静かな波が寄せる小さな島の砂浜にいた。少し離れたところに、木造の小屋一つ。
『どう?』
『んん?ん~・・・俺に分かる限度もあるしな』
コルステインの横に、緋色の魔導士。魔法陣を砂浜に出して、コルステインの頼みを聞いてやっている最中。
『お前たち。かなり本気で探し回っているようだが、お前たちが探し出せないのに、俺が探し出せる気もせんな』
『何?分かる。ない』
分かりにくい表現だと、言い直しをさせられる魔導士は、コルステインに従う(※仕方ない)。だからな、と分かりやすくもう一度、短い単語に分けて教え、コルステインはじっと魔導士を見つめ、頷く。
『バニザット。見る。する。サブパメントゥ。行く。ない。所。お前。分かる。する』
『そうかもしれんが。過度な期待は・・・って分からないか。努力も尽力もするが、俺に出来ることもそんなにないぞ』
断られている印象なのか、ムスッとするコルステイン。その顔が子供みたいで可愛い。ちょっと笑って『そんな顔するな』と宥めてやるが(※老人目線)。
魔導士はサブパメントゥに詳しくないため、手伝って探ってやっても、当たりを引かずに今日で数日経過。
コルステインは根気よく毎晩通って、魔導士の許す時間の限りで目処を探してもらっていた。
―――少し前からコルステインが来るようになり、『あるサブパメントゥを探してほしい』と言われた時・・・バニザットは面食らい、『お前が探せないのに俺が探せるか?』要望に無理があるぞと、先に伝えたのに。
それへの返事として、コルステインは背を屈め、魔導士の顔の高さに顔を下ろし、大きな青い瞳で魔導士をじっと見つめた。逆らうなと、命じるように。
『危ない。皆。ドルドレン。タンクラッド・・ 』旅の仲間の名を連ね、魔導士の頭に流し込む。
コルステイン本人、イーアンとセンダラ、ヤロペウク、抜けたザッカリアは入っていないが、他、旅の仲間と同行者の名は全員入った、危険とは。
『何が起きた』ただならぬ事態、事情を聞かせてもらって確認した理解は、種族最強でもないとやられる可能性が生じている。
―――コルステインの懸念は、古代の海の水を潜った武器相手に、負傷すること。
イーアンやセンダラ、そしてヤロペウク、コルステインも勿論、通用しない。ザッカリアは退場したので良いとして。他は危険だと、コルステインは感じている。
詳細の疑問も答えてもらったところ、正確には使用される武器そのものが強烈なのではなく、それによって、使用者であるサブパメントゥの操りが効きやすくなる様子。
コルステインは『フォラヴがアイエラダハッド決戦で死にかけた話』を魔導士に教え、その理由もこれだろうと伝えた。
ここまで聞いて、魔導士も手を貸さない気はない。
誰を探すのかを訊ねて、それを追うことにしたのだが。ラファルを狙うサブパメントゥとは、また別のようで面倒臭いったらない。
その目処となる奴が手引きした印象であり、また、『ティヤーの国民を減らす方』へ焚きつけた感じも臭い、難しい追跡にバニザットは、あの手この手で魔法を駆使する。
魔導士が探す時間、コルステインも彼の側にいる。
これが終わると、単独で探しに出ることを日々繰り返す。家族もそうで、リリューだけはラファルの見張りについているが、彼女も動ける時は同じ相手を探している。
*****
「よっぽどだな」
今日の探索を終え、コルステインを帰した後―――
魔法陣を消して酒を出し、夜明けより少し前の海を眺めながら、魔導士は一服。薄青い灰色の煙が、柔らかな潮風に散り、紺色の風景に溶けてなくなる。そんな風に、あっさり消えてくれりゃ楽なもんだと、大振りの息を吐き出した。
「俺たちの旅の時も、まぁ。次から次に新手の面倒が出てきたもんだが。三度目もだな」
敵のしつこさに舌打ちして、片手に酒、口に煙草を銜え、魔導士は小屋へ歩く。
「なぁ・・・メーウィック。お前は古代の水を飲んだが(※1321話参照)、お前みたいに狙ったやつは知ってるか?」
バニザットは、遥か昔の旧友に呟く。あの男は狙ったんだろう、と未だに思う。
あいつは盗人で、盗賊稼業で首を落とされた。落ちた首を抱えて歩き、倒れたのを、俺が僧院に運んでやったら生き返りやがった、とんでもない奴だ(※2165話参照)。彼は、『何でも盗んだ』と豪語した。
そうだ。メーウィックが盗めなかった物なんかない。
『盗むのは、引っ手繰るだけじゃないぞ、バニザット』
ふざけた笑みを浮かべて、あいつは面白そうに・・・本当に、まんまと。不可侵領域ですら。あの男の手に握れなかった物はないだろう。古代の水も、あいつは家族のコルステインたちに貰って。
「お前みたいなやつが、たまにな。こんな時だ。恋しくなるよ」
首を横に振って、銜え煙草を指に挟み、扉を開けて中へ入る。通路脇の一室、ラファルの眠る部屋の前で、メーウィックの姿をした男に『な』と苦笑して、通り過ぎた。
お読み頂き有難うございます。
明日5月1日の投稿をお休みします。PCの不具合他、私の頭の問題で、ご迷惑をおかけします。
もしかすると、翌2日も休みかも知れないので、その時は、前書きにてご連絡します。
いつもいらして下さる皆さんに、心から感謝して。いつも有難うございます。




