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魔物資源活用機構  作者: Ichen
ティヤー開戦
2488/2964

2488. アンディン島滞在七日間 ~⑯ロデュフォルデンへの一場面・『絵』と『得』

 

 溢れ出す海水は、幅1㎞の空間を見る見るうちに埋めて行く。溶岩のある横穴も埋め、蒸気が半端ない。確証はないが、このままでは空間も水に埋まる。


 上を壊すなり、物質置換で抜けるなりで、出るのだが・・・ さっと上を見上げた女龍は、この空間の位置を急いで考える。



「私が入ってきた方向は、あっち・・・時間と速度で、時速が・・・つまり」


 時速で距離、抜けた道の角度で、イーアンは方向も見当がつく。ザッと頭に地図を展開し、ここは最初に飛び込んだ場所から半回転先の、()()()()()()()()()だと推測。



「ということは、真上に水が噴いても、岩盤が薄いし、私が壊した後に溜まる水蒸気とかはない、はず」


『迷惑は少なめに』がモットーの女龍。多分、壊して問題ない判断から―――


「上を壊せば、水圧で水は動く。出てすぐ龍気で()()したら、水と一緒にあの『物質』も吸い上げられて、出てくるかも」


 既に横穴は水で埋まっており、蒸気に満ちた空気を押し上げ、水は沸騰し始める。


 よし!と決めた、イーアン。まずはあの物質も引っ張り出す気で、水に埋まった横穴目掛けて、軽く龍気爆をぶち込む。


「砕かないと、固まってるだけになってしまう」


 ゴウッと水流が生じ、黒い塊が見えた。あれ、そうだと分かったすぐ上昇、次の龍気を天井にぶつけ、ガンと砕く。空気がつられてズオッと引っ張られ、イーアンは物質置換で外へ抜けた。と同時、追いかける蒸気を振り返り、広げた6翼で煽り出す。


 龍気の密度を高めた女龍の周囲は、どんどん空気が消える。煽る6翼の休まぬ動きで、真空に似た状態が生じ、蒸気に続いて水が噴き出した。



 これを――― 『イーアン?』『何してんだ、あれ』音と共に振り返ったタンクラッドたちは、反対側に飛び出た女龍、間髪入れずに噴いた湯気、そして噴水にびっくりする。


「なんなの」


 閉じた目のまま、眉根をぎゅっと寄せたセンダラが、呆れたように呟く。タンクラッドもオーリンも、何が何だかすぐに理解できない。ビュービュー出てくる水と、白く輝く翼の勢いは、何をしようとしているのやら。


 模型船は、オーリンの小脇に抱えられたまま、舳先を左右にゆっくり振り始める。それは、直下とイーアンがいる線を示していると、オーリンは感じた。この一線に『得るもの』があると言うのか。



 トゥは、イーアンを見つめる主に『今、取り出している』と教えた。


「イーアンは、間もなく手に入れる」


 双頭のダルナのもう一本の首が、女龍に傾いだ。それと同時、イーアンと水柱の関係が崩れ、水柱が一度大きく噴き、女龍の姿が一瞬消え・・・そして環に連なる、火山の内側の海が渦巻き始め―――



()()だ」


 タンクラッドの眼下、あの本の一行が現実へ変わる。



 *****



 正確にはこの場所が、タンクラッドやミレイオの若かりし頃に知った『景勝地的火山帯』ではないが。


 タンクラッドは、例え、位置がずれていようが、実際の現場が別に在ろうが、()()()()()()()()と思えた。


 眼前で突如始まった、信じられない光景は、続く現象を期待させる。


 このまま、もしや・・・ イーアンの工房で一度読んだ古い物語が、想像力豊かなタンクラッドの頭の中で、映像になって駆け抜ける。


 ごくっと唾を呑み、加速する渦を凝視する剣職人に、彼のダルナは振り返らず『今は瞬きするな』と忠告。ゾクッとしたその一言の続き、鳶色の目が捉えた光景―――



 海の谷。海の滝。若い頃、火山を奥に臨む海の上、潮の流れが火山帯へ、引き寄せられるように進むのを、旅の船から見た記憶が鮮やかになる。

 あの続きはどこへ行くのか。潮流の流れが、海から突き出た火を噴く山へ向かう風景は、忘れられなかった。


 今、現実になった民話の一部は、タンクラッドの前に姿を現す。それも、空から全貌を把握状態。


「これか。これのことか」


 余計な予測は吹っ飛んで、龍の起こした偶然の浪漫に、興奮で顔が紅潮するタンクラッドは、トゥの首に片手をかけて身を乗り出す。環を作る火山の内側で激しく巻く渦に、外の海水が巻き込まれて移動する、豪快な自然の変化。

 そしてその()()()()()()『絵』を、しっかりと目に焼き付けた。



「あれ、絵だろ。どう見てもそうだよな」


 隣の首元に跨るオーリンも驚いて、真下に向けた目を逸らせない。タンクラッドとオーリンは、水流のど真ん中、水が消えた一箇所を食い入るように見つめ、出来る限り覚えておきたい。


「精霊の絵ね」


 トゥの近くに浮かぶセンダラの意見は、音を掻き消す周囲の轟音など関係なく、二人に届く。

 思わずそちらを見た剣職人だが、盲目の妖精は渦に体を向けて腕組みし、その静かな横顔は何か知っていそうな雰囲気だった。


「センダラ・・・お前は、あれが見えているのか」


()()()?あなたたちが見ているよりも、私には多くが見えているわ」


 当然よ、と静かに答えた妖精は、すっと息を吸い込み『そろそろ見納めだから』下を指差し、剣職人に終了を教える。タンクラッドが再び海を見ると、言われたように徐々に水が渦を緩めてゆくところ。それに伴い、水底にあった絵は水に覆われた。



「渦が、消える」


 垂れる前髪を押さえた手をそのままに、オーリンが変化を呟く。

 ちらっとイーアンを見ると、彼女の翼の高速鼓翼も止まり、6翼は広げられた状態で宙に浮いている。彼女は両腕に黒い大きなものを抱え、オーリンの方を向いた。


「取りました!」


 元気な報告が最初で、すぐにびしょ濡れイーアンはパタパタ飛んでくる。待っていた皆に『これ』両腕にしっかり抱いた戦利品(?)を差し出した。


「これではないでしょうか。パッカルハンの奥で見つけた物と、相違ない気がします」


「剣の材料・・・ もっとあると思うか?」


 すぐにタンクラッドが尋ね、イーアンは先ほどの場所に視線をずらし『水が出ていた所にあるかも』と答えたが、断定ではなさそう。何か引っかかってることがあるのかと、理由を訊いてみると。



「はい。後からまた説明しますが、()()を引っ張り出そうと、噴水状態を作りました。上手い具合に中から水が吸い上げられ、水柱で放出された水は、中にあったこの物質も含み、それで私が水を分け、手に入れたのだけど。

 その後に生じた渦で、私が引き出した水柱も戻りました。あの渦は、恐らく内部に大きい割れが出来たからだと思います。もしその割れた場所が、この物質のあったところだとすれば」


「取りに行くのは既に難しい、そうか?」


 オーリンが答えを言い、女龍は頷く。タンクラッドは、女龍の腕から大きな黒い塊を引き取るが、塊は幾つもあって、落としかけた。イーアンはクロークを外し『これを使って』と、まとめて運べるように包んだ。


「タンクラッド。これの話も大事ですが。さっきの渦は」


 ぎゅっと包んだクロークの端を縛り、イーアンは親方を見る。親方もちょっと笑みを浮かべ『俺もそう思う』と答えた。


 続きを話す間もなく、センダラは『もういいかしら』用は済んだと切り上げを促し、自分が離れると火山は止まることを、今になってさらりと教える。あら、っとイーアンは尋ね返す。


「では、センダラがいないと、ここは」


「固まるでしょうね。自然な火山活動はあると思うけど」


 今は私の持つ面の影響よ、と妖精は言い、イーアンの肩に手を置く。触れる行為が珍しく感じるセンダラに、三人はその手をサッと見た。


「またね。イーアン。何かあったら私を呼んでいいわ。でも、出来れば呼ばないで(※本音)」


 この言葉、どこかで聞いたな(※某獅子)と、同時に三人の眉根が寄ったところで、妖精はスーッと水色の粒子に溶けて消えた。



「(オ)イーアンには・・・距離が近いんだな」


「(イ)そうでしょうか」


「(タ)お前が女だから、ってわけじゃなさそうだよな。目安は『強さ』か」


「(イ)どうだろう。センダラは一匹狼だから、必要な時に必要な手を求めているだけに思います」


「(オ)それさ。使いたい時だけ頼る、って聞こえるんだけど」


「(タ)それも()()()()限定だな。イーアンとコルステインくらいじゃないのか?あいつが頼るのは」


「(イ)センダラはいつも、状況を判断し、無駄がありません。手っ取り早く片付け」


「(オ)自分都合だろ」


「(タ)ホーミットの妖精版だな」


 何を言っても、オーリンの言葉が正解に聞こえ、添えるタンクラッドの注釈が言い得て妙なので、イーアンも苦笑する。



「さ。話したいことと、聞きたいことがてんこ盛りだ。とりあえず帰ろう。呼び出したセンダラはいないんだ」


 一緒に笑ったタンクラッドは女龍の腕を掴んで引き寄せ、ひょいと自分の前に乗せる。『翼は畳んでおけ。疲れただろ』天然親方は労っているだけだが、オーリンはイヤそう。でも、乗るも一瞬。トゥはあっさり、次の一秒で黒い船の上に浮かぶ。


 離れ際、三人が最後に目にした火山は、煙も噴火も終わっていた―――



 *****



「夜だな」 「夜になってしまいました」 「真夜中?」 


 トゥで運ばれた三者は、誰もいない甲板に降りて、時間の経過に不安を感じた。夜だ夜だと(※見りゃ分かることでも)顔を見合わせ、数秒沈黙。

 うっかりしたが、あの場所も異時空系の力が発動していたと、今更気付く。一体、何日空けたのだろうか。それとも、午後が夜になっただけか。



「気配。別に()()な」


 オーリンが甲板を進み、タンクラッドは黒い海と星空を見渡し、『ペジャウビン港だ』と港と島の形を当てる。


「トゥがいないから、移動しなかったのか」


 他人事無責任も良いところ・・・頭を掻く親方に、イーアンは『自分も忘れていた』と申し訳なさで目を瞑る。先に昇降口の扉を開けたオーリンが振り向き『鍵は開いてる』と教えた。


「寝ているんじゃないのか。船が停まっているし」



 船内に入る三人を見送るトゥは、船の横。動かすよう言われていないので、待機するのだが。

 トゥは、主たちが『色々忘れやすい』のを理解している。なぜ()()聞かないんだ、と思うが放っておいた。


「残っている者もいるが。また出かけることになりそうだな」


 銀色のダルナは、船にいる仲間の数と思考を手繰り、離れた場所にいる仲間の様子を嗅ぎ取り・・・そう遠くない距離で魔物退治をしている方向に、一つの頭を向ける。



「あと5秒」


 笑わない口元が冗談を呟き、4、3、2、1で、戸を開けてあった昇降口からイーアンが飛び出る。


 頷くダルナに気付かない女龍は、『どっちだ?あっちか!』と自問自答、首を横に一振りして、ぎゅーんと・・・慌ただしく、アンディン島の向かって右―― 南へ飛んで行った。


「俺に聞けば早いものを」

 

 忙しい女龍の後、トゥは続く誰かを面白そうに待った。

お読み頂き有難うございます。

明後日1日は、お休みします。ストックと調整の関係で、もしかしますと、翌2日も休むかもしれず、その場合は最新話の前書きに、追伸をします。

休みがちで申し訳ないです。いつもいらして下さる皆さんに感謝しています。有難うございます!

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