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魔物資源活用機構  作者: Ichen
ティヤー開戦
2487/2962

2487. アンディン島滞在七日間 ~⑮火山・事情・イーアン火山突入の材料探し

 

 イーアンはセンダラが、『今回はそう強制的でもない』と感じたが、思わぬところで、仲間が強制待機を強いられているまで、考えなかった。

 思い出しても良かったはずだが、そんな間もなく、到着先で意識は一つに絞られる。



「これは。どうして?」


 浮上した空から見下ろし、イーアンは目をかっぴらいた。隣に浮かぶ妖精が『私の受け取った、火山と氷河の面』と呟く。


 え?と振り向くイーアンに、『何日か考えたけど、()()()()()()の結論よ。でも私が呼ばれたから、あなたに教えることにした』と言った。センダラは、自分が関わる必要を疑問に感じている。



 火山帯。アイエラダハッドとティヤーの間に渡るそこで、この前、開戦があった。


 グィードによって押さえられた場所だが、どう言うわけか、一箇所は活火山状態で溶岩を流している。一箇所と言っても、『山一つ』の意味ではなく、火山で環が出来ているその場所。



 イーアンの頭に過ったのは、イメージしていた『ロデュフォルデン』の民話・・・ 場所もイメージどおり。


 眼下の光景に目を奪われ、意識を囚われ、これは何をすべきなのかとイーアンは急いで考える。そこへ、トゥが現れて、彼の二つの首にそれぞれ跨る職人たちも、『もしや』『もろに火山かよ』と驚いた。


『もしや』と言ったのは、タンクラッド。さっと女龍を見て、その目から同じことを思い出していると伝わり、『()()()?』と確認の質問を続ける。


 それに対し、ん?と顔を向けたセンダラが、『ここか、って知ってるの?』と質問を挟んだ。


 タンクラッドが答えるのを躊躇ったので、イーアンが代わりに話す。センダラはちょっと話を聞いてから、『()()んじゃないかしら』と疑わしそうに首を下方の火山へ傾けた。



「でも」


「イーアン、ちょっと話がこんがらがっているわ。急いでいるけれど、既に数日経過はしている、少し話をまとめましょう。どっちみち、あなたが()()()()()()んだし、目的がある程度わかっている方が良いでしょ」


「それ、非常に不穏ですよ」


「何言ってるの。龍だから平気なのに」


 えー、と人間感覚で嫌そうなイーアンの後ろ、『大丈夫だろう』とは分かっていても、男二人はセンダラの無情な(※火山入れ命令)態度に、思いっ切り軽蔑の眼差しを向ける。


 センダラはそんな、なまっチョロい輩を無視(※女龍含む)。ぱっぱと事態を進めたいので、イーアンも呼んできたし、ここへの内容が互いに異なる様子から、『それをまず話そう』と促した。


 ・・・センダラとしては、開戦時から今日まで、ミルトバンの側を何度も離れて、ここへ来ているのが、もう嫌。



「じゃ、イーアン。先に話してくれる?私が呼ぶのも、察しがついていたみたいだけど、『伝説の場所かも』というのは、()()()()思ったんでしょ?その前に、予想していたのは何?」



 *****



 センダラに問われ、直下に火山を見ながら、イーアンは二つの話をした。


 一つは『オーリンが持つ、予知する模型船』から、『この場所』と、目下のところ重視すべき変化―― 今回の場合は、『ある物質の入手』が告げられ、それが、自分たちの直面する問題を解決へ導くこと。


 二つめは『空と地を繋ぐ民話の場所』で、龍族にとっても探し当てたい所の目安。ここは条件的に近く、度々、この話が行く先で持ち上がったので、今もそうではないかと感じたこと。



「模型船の示唆を読み解いたのは、ダルナです。そこにいるダルナは、いくつもの能力を持ち、過去や状況の把握に長けます。センダラが来ることを予告したのも、彼です」


 言われてセンダラは、オーリンの抱える模型船に顔を少し傾け『おもちゃの船みたいなのにね』と、認めているんだか貶しているんだか、分かりにくい一言を落とす。

 大の男がおもちゃの船を抱えてきたように言われ、オーリンは心底・・・この女が嫌になる。


 センダラに、そんなのどうでも良い。それから銀色のダルナに向き直り、微動のように頷いた。


「・・・ふぅん。ダルナって、能力の幅が広いわけ。()()予告」


 自分が予告対象に入ったことは面白くなさそうだったが(※動き読まれてるのが微妙)、それは流して、イーアンたちの理由と自分のここまでをセンダラは擦り合わせ考える。


 自分の話を待つ彼らに、センダラも少し間を置いて『私は』と口を開く。


 開戦の時も気になっていた、『面に呼ばれる感覚』に合わせてこの場所へ来て、火山と氷河の精霊エジャナギュの声を聞いた。



「ちゃんとは覚えていないけれど、エジャナギュと、もう一人の精霊も入った面なの」


 司る立場や名前を、ちゃんと覚えてもらっていない精霊・・・この部分でイーアン他二人は、この不遜な妖精に眉を顰めるが、センダラは話し続ける。


 どうやら、センダラを呼んだ火山の精霊は、精霊らしい解り難い言葉を残し、彼女の質問には答えず、しかしセンダラが()()()()()()()()()を作っていた。



「すぐに言わないのよ。何をすればいいか。通うだけ時間が無駄だと思うけれど、精霊は『この火山に変化が起きたら、中へ入り、見るものを見、得るものを得、それを使え』・・・ってね」


 何だか解らないでしょ、と同意を求める盲目の妖精に、イーアンは無表情で頷く(※精霊はそんな感じ)。多分だけれど、精霊はこちらの時機も見ていたんだろうなと、予想。


 模型船は、もっと前から示唆していたようだが、現実に銃や火薬、残存の知恵への対策が進み出すまでは、手探りと警戒ばかり、『何が必要、何が不要』の理解が出来た頃合いを、精霊は見計らったのかもしれない。


 精霊が力を貸すのは・・・こうしたことでは、少し珍しい気もするが、『知恵の排除』が舞台なのだから、火山の精霊が動いたのも、その一環と思える。



 そして、もう一つ。イーアンの予感だが、これは絶対にロデュフォルデン。

 たまに、何のきっかけか、意表を突く導きがある。今、眼下でマグマを噴き上げて流す火山の環は、ロデュフォルデンを意識させて当然の光景。無視する方が難しい。



 ――『魂の橋渡しフィガン、氷河と火山のエジャナギュ』そう言っていたかな、とイーアンは精霊の祭殿を思い出す(※2212話参照)。

 センダラが受け取った融合の面は、()()()()()の精霊も入っている・・・・・


 伝説の地ロデュフォルデンを探す私たちに、魂の繋がりを見せてくれるのかも知れない。



 少し黙ったイーアンの横顔を、暫く見つめていたオーリンが『イーアン。どうするんだ』と聞いた。


「行きます」


 ゆっくりと、何度か頷くイーアンは真っ赤な溶岩を見下ろしてから、黒い髪をかき上げた。


「焼けそうだな(素)」


 呟いた低い声。細めた目の嫌そうな感じ。タンクラッドとオーリンは、何を言うことも出来ない(※自分たち絶対行けないから)。センダラは腕組みしたまま、『龍気全開で行けば平気よ』と流していた。



 *****



 溶岩系の攻撃を使うダルナでも、イーアンに傷一つ付けられなかったのだから。


 センダラの他人事的意見も、別に間違いではないけれど・・・イーアンはセンダラを見て『万が一、私がヤバかったら』と眉根を寄せる。


「気弱だわ。女龍なのに、心配性で動きが鈍いのよね」


 ざくっと切り込む一言で断たれ、イーアンは目を閉じる(※苦悶)。そうじゃなくて、『私に万が一があったら、一応助けて下さいね』・・・と言いたかったが、やめた。


 タンクラッドもオーリンも、イライラする。この女~とセンダラを睨むが、イーアンが行くべきなのも示唆されているわけで、憎きセンダラ(?)は無視し、イーアンに『マズかったらすぐ出ろ』『難しければ無理するな』と優しい言葉(※普通)をかけた。



 ふーっと深呼吸。イーアンはセンダラに『龍気補充しますので少し離れて』とお願いし、天を見上げてルガルバンダ(※補充)。


 1、2・・・3秒目を数える前に、体の芯から漲る龍気が、隅々まで行き渡る。真っ白な龍気を内側から発する一瞬、カッと光った金の龍気は、イーアンの白い角を透かし、黒い螺旋を銀色に輝かせ、紫がかる白い肌に現れた龍の淡い影が、顔も腕も見える肌全てに駆け抜ける。


 凝視するタンクラッドとオーリン、トゥ。センダラの閉じた瞼の下でも、それは見える。『龍気の入れ方が変わったのね』と、感心している様子。


 イーアン本人は、体に龍の影が走るなど知らないので、『満タンだ』くらいしか思わない。ルガルバンダに送ってもらうと、いつもこう。

 漲った後、しっとり落ち着く感じ。落ち着くと、他人の目にも通常時イーアンに戻る。



「そんななるのか。すごいカッコいいぞ」


 上ずる声で、笑みが浮かぶ龍の民の褒め言葉。タンクラッドも可笑しそうに頷いて『初めて見たな』と満足そう。

 ・・・トゥはトゥで、何も言わないが、女龍の底なしの強さを理解する。彼女は、制限を持たない龍なのかと。


「大丈夫そう?()()()()()()行けそう?」


 余計な一言をつける妖精に、イーアン、無表情で頷く(※怖がらない)。妖精は下に顔を向け『結構広いから』と並ぶ火山を指差した。


「緩いところを通ると良いわ。水のように緩く、抵抗が少ないところを」


『水だと?それを言うなら熱湯だろ』『熔けた金属だ』と後ろで煩いが、センダラなりの助言と理解するイーアンは『分かりました』の微笑みと同時、真っ逆さまに降下した。



「イーアン・・・!」


 ハッとしてオーリンが名を呼んだ時には、白い光の玉は、滾る溶岩の火口に消えていた。



「お前の船」


 心配そうな龍の民の横顔に、タンクラッドが呟く。ん?と顔を向けたオーリンの横を指差し、親方は『船も下を見ているようだ』と教えた。


 模型船の舳先は、火口を覗き込むように下を向いており、女龍の行動を裏付けする。



 *****



 この、環を組む火山の上も。そして、火山の()も。

 センダラは分かっているが、トゥと待つ二人の男は気付いていなかった。時間が狂うことを。


 だからセンダラは、毎日嫌だったのだ。ここへ来て出る頃、『外界()』では朝が夕になり、昼が夜になっているから。たとえそれが、数十分足らずであれ、時間は狂う。


「早く用を終えてね」


 センダラは、じっと下を見ているような姿勢。イーアンに任せ、自分の役目は済んだとなれば帰るが、そうはならない。

 女龍が降下と同時、センダラも動けない。

 イーアンにも他の者にも話さなかったが、センダラは龍が出てくるまで、『出口』を開けておく役目がある。


 これはエジャナギュの条件で、面を持つセンダラが側に居れば、火山は沸騰し流動するが、離れれば冷えて固まるのだと言う。


 これまでの日々、センダラは毎日来ては、火山を動かし、中を見据え、気配を調べて、自らが入ることはなくとも『変化する時』を気にした。昨日あたりから、火山の奥で何か違うものが生まれた気がして、センダラを悩ませた。



 ―――『この火山に変化が起きたら、中へ入り、見るものを見、得るものを得、それを使え』



 精霊の言葉通りであれば、誰かが中に入る。それは自分なのかと訝しんだが、センダラは自分ではないと理解した。魔法で結界を作って中へ行こうとした時、センダラは反発する力に押し戻されたから。


 これは自分ではない、と察した妖精は、そうすると仲間の誰かに頼むよりなく、イーアンに話を持って行った次第―――




 高熱を潜るイーアンはガンガン進んで深部へ向かう。


 白い翼6枚は窄め、向きを飛ぶ時と逆にし、船の帆を使うように溶岩の勢いを利用。

 押し出されるはずの流れに逆らうが、翼の向きを変えて龍気を乗せるだけで・・・『と言ったら、言い過ぎだけど』イーアンは熱さを感じながらも、龍気の膜に守られて呟く。


「こういう時、忘れがちです。物質置換が使えるのに」


 ただ、龍気を結構使うから、あまり長時間はやりたくない。物質置換ですり抜ける状態・溶岩が流れる力の利用・そして龍気の保護、この1セットで溶岩流を突き抜けて行く。



「人間だったら死んでますよ。溶岩(こんなの)触っただけで死ぬんだから。センダラったら、本当に他人事です。優しいフォラヴじゃ、センダラ扱い切れません」


 ふと、妖精の国に帰ったままのフォラヴを思い出す。彼がもうじき、いなくなってしまいそうな気がしている。センダラと交代するのだろうか。センダラ・・・か~(※悩む)。


 自分を包む、赤と黒と金と白の怒涛の流れを急ぐイーアンは、センダラが馬車に乗らずとも、旅の仲間として常に関わるようになるなら、もう少しでいいから、円くなってほしいと・・・・・



「あ」


 少し気が散漫になっていた矢先、突然目の前から溶岩が消える。チーズの孔の空洞のように、ぽかっと。岩しかない場所に出て、後ろを振り返ると、自分が来たところは煌々と赤い流れが見えた。


 溶岩の出所はどこなのか。翼を広げてすぐ浮き、思い直す。そうか、ここは精霊の次元――



「溶岩自体は本物だとしても。いや、どうかしら。でも、本物として・・・だけど、精霊エジャナギュが用意した一画であれば、この空間も不思議ではないか」


 ゴツゴツとした岩の空間は広く、足元は段差の多いすり鉢で、天井は三角錐状に上へ行くほど狭い。幅は直径1㎞ほどあり、ここでイーアンは考えた。


 これ、民話で言うところの、もしかして火山の隙間を抜けた小舟が、渦に引き込まれたあのシーンみたい。


 でも、渦どころか水分はなく、海も火山の外側。また違うのかもと気にしつつ、空っぽの空洞の天井を見上げ・・・それから下を見て、『探し物』を始めた。



 結果から言うと、イーアンが調べまくっても、意味深な物質など見つからなかった。

 広いが、隈なく見て回り、壁も見て、どれくらい時間が経ったか。


 壁の横穴はマグマ。どこからともなく溢れている様子で、こちらには来ない。他に横穴はなく、天井も行き止まり。ここ?と疑い始めるイーアンは、段だらけの底に降りた。

 部屋は熱したサウナみたいな温度だが、龍の自分は耐えられているだけかもと思う。靴は焼けていないので、そこまで強烈な熱を帯びていないのだ。


「真横が、溶岩でもね」


 溜息を吐いて、熱い大きな空洞を見渡す。すり鉢の床部分を足を着けた状態で下り、跳ねるように進んで気付いた。踏むと壊れる?爪先が、トン、と着いただけで、カラリと剥離する岩。


 トントン、カラリ。岩の質の違いを知ったイーアンは『随分脆い』と不思議に思いつつ、一番下までトントンカラリを繰り返して下り、真ん中の凹面に、最後の一歩を乗せた途端、慌てて飛び退る。


「うおっ、水?」


 カラ・・・と壊れた剥片の隙間から、一気に水が噴き上がった。シューッと出たと思ったら、あっという間に、周囲の弱い岩を割り、噴水の如く水は立つ。目を真ん丸にして焦るイーアン。


「な、なんだこれ!どうしよう。海水ってこと?」


 ちょ、ちょい待ち!と素で慌てて、どうしようどうしようと、頭を抱えながら空間を飛ぶ。いざとなったら、放置で逃げるしかないが、そうこうしている内に猛烈な速度で床は水浸しになり、横穴の溶岩に流れ込んだ水は蒸気を立て始めた。


「やばい。本当にサウナですよっ。どうしよう、タンクラッド?オーリンに連絡する?センダラは」


 シューシューと湯気が満ちるその速さに、イーアンは焦る。が、はた、と目が止まる。



「あ・・・あれ。え?あれ?あれのこと?」


 溶岩、水、接触、結果、溶岩は―― 『固まる』真っ白な蒸気の中、目を瞠る。あの色と臭いが、水と接触した溶岩に生じ、イーアンはもしやこれが『得る』対象では、と気づいた。

お読み頂き有難うございます。


今日は本当に遅れてしまいました。今日と言うか昨日(28日分なので)と言いますか。

PCの調子と私の脳の調子で、時間が大幅にかかってしまい、申し訳ないです。

また5月初めに、ストックと調整のためのお休みが入ると思います。どうぞよろしくお願い致します。

いつもいらして下さる皆さんに、心から感謝して。有難うございます。

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