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魔物資源活用機構  作者: Ichen
ティヤー開戦
2486/2964

2486. アンディン島滞在七日間 ~⑭島出発・センダラの迎え・待機

 

 ――『今日か、明日か』 


 今日じゃなかった、と夕方に諦めた。これは明日だ、と思う二人。



 朝、あの後に箱に分けた装備を、ドルドレンとルオロフが海運局へ運び、タンクラッドは『火山帯へ行くかもしれない』ことから、今日はアンディン島に留まり、それはオーリンも同じ。


 オーリンは『救援活動』に出ないとし、ミレイオも昨日の今日で・・・気乗りしない理由から、宿に戻った。勿論、クフムも宿。


 シャンガマックは、連日、サンキーの工房で制作案を練るつもりで、まるっと今日も空けていたため、親方が行かないと知って予定がなくなる。どうしてかなと思いながらも、仕方なし、皆と共に宿へ・・・・・


 この時、オーリンもタンクラッドも、皆に『火山帯とセンダラ』の話を()()()()()


 はっきりしないことだけに、も理由だが。センダラの名を出して、皆が構えるのも想像した。歓迎されていないわけではないが、意見も一方的で、ギスギスする彼女は、皆と『馬が合わない』のだ。


 ただ、イーアンは、センダラを認めているし、好んでもいる。

 センダラもまた、イーアンには高飛車ではない(※他と比較して)。そして、イーアンがいないと困るから、親方もオーリンも女龍には『模型船とトゥの読み』を教えた。


 今日もティヤーの魔物退治、僧兵の魔の手を止めるつもりだったイーアンは、これで足止めされた具合だが、『センダラが?』彼女も関わった用事=残存の知恵対抗素材と知り、いつ来ても良いよう、動くのはやめた。



 ドルドレンとルオロフが、局へ行っただけ・・・で終わった一日。


 五日目の夜が来て、いつもより遅くドルドレンたちが宿へ戻り、海運局で非常に喜ばれたことと、こちらの話を全国に早く回す手筈を整えてもらったこと、ティヤー巡回先の工房に推薦状を書いてもらったことなどを報告。


 嬉しい報告だが、考えてみれば、職人による魔物製品の説明がなかった、初の場所。

 今更気付いたタンクラッドたちは、少し申し訳なく感じた。だがドルドレンもルオロフも、そんなことは気にせず、魔物製品を届けたことで嬉しそうだった。



 夕食時、ドルドレンは『魔物退治を手伝ってきた』ことも思い出して話した。思い出さないと忘れるくらい嬉しかったのか、と皆が唖然としたが、ルオロフも総長と同じ。


 魔物製の剣を借りたルオロフも、ドルドレンと共に海運局の船に乗り、魔物退治に出た。


 尋常ではない動きをする二人である。磯から湧く魔物相手、普通の人間が、高低差のある岩に苦戦するところを・・・聞いていると『見せ場の如く』活躍していた。


 魔物製の剣の切れ味は、見事な使い手二人によって大々的に証明したが、そうではなくとも、同じように使用した海運局の人たちも『普通の剣が使えなくなる』と驚き絶賛した話。



「そうか。アンディン島で魔物に会わないと思っていたが、今日はこっちに出たんだな」


 オーリンの言葉に、ドルドレンも『反対側の南地区では、魔物被害報告が出ていた』と教えた。うんうんと頷く皆を見回し、ドルドレンは一呼吸置いて告げる。


「明日の午後。()()しようと思う。急だが、大丈夫か」



 *****



 六日目の朝は、忙しかった。オーリン、タンクラッド、イーアンは、『センダラが来るかも』を皆に話さず、今日来るんだろうと気にしながら、馬車の荷積みに勤しむ。


 イーアンはドルドレンに教えたかったのだが。

『どうせ行く面子は決まっている』だからと、親方はやんわり止め、自分たちが出かける際、残る仲間にちょっと待っていてもらうよう話せば良い・・・と言った。


 一々、大掛かりにすることはないだろ? そう聞かれれば、イーアンも『そうですね』と頷いた。



 午後に港へ向かうことを、ドルドレンは宿に伝え、世話になった礼と握手を互いに交わし、無事を祈る。

 忙しい支度の午前は、瞬く間に過ぎ、時刻は昼を越え、旅の一行は宿を出た。


 宿屋に見送られながら、クフムは歩き、隣にルオロフが並び、馬車三台とドゥージの馬・・・ブルーラはシャンガマックが乗る。動物にすぐ好かれる褐色の騎士は、『お前のドゥージさんが戻るまで、仲良くしような』と笑顔で挨拶、賢いブルーラにスリスリされていた。


 微笑ましいシャンガマックに、何となく和みながら(?)・・・胸中はソワソワしっぱなしで、センダラを待つ三人の口数は減る。

 ミレイオは久しぶりに赤ん坊と日中一緒なので、荷台。オーリン、タンクラッドは御者、無論、ドルドレンも御者。


 徒歩の二人に合わせているとはいえ、町はまだ倒壊物も片付けきれておらず、港まで馬車で行くには時間が掛かる。途中、旅の馬車と分かると話しかけられたり、別れの挨拶で声をかけたりもあったので、ペジャウビン港に着く頃には、すっかり昼下がりだった。



 派手な馬車三台が近づくのを見て、水夫が数人来る。今回は、トゥが乗せてくれるので、舷梯も不要。トゥを引っ込めている遠慮がちな初回だけは、普通に昇降するけれど。


「トゥ・・・馬車を」


 黒い船の横、タンクラッドが彼を呼ぶと、ふわっと現れる銀色の巨体。


『馬車を』までの二秒、タンクラッドは『センダラまだなんだけど』の意味を込めたが、ダルナはそれを相手にせず、馬車をぽいぽいと瞬間移動させ、シャンガマック付きの馬は摘まんで(※危ない)甲板に乗せてやった。


「シャンガマックと言ったか。お前は」


 甲板に降ろしたすぐ、トゥが尋ね、馬上の騎士は振り向いて頷く。


「お前に呼ばれるのを待つ、ダルナが多い」


「あ・・・うむ。分かっている。そうだな」


「呼ばれなくても来るダルナは、いるが。呼ばれて来る方が、誇り高い心に()()()


「そうか。うん。分かった」


 有難うと付け加え、褐色の騎士は大きなダルナを見つめる。彼は、自分からタンクラッドさんの近くに来るが・・・誇り高いだろう銀の巨体が、仲間のダルナを慮る言葉に、シャンガマックはそれが出来ていない自分を少し恥ずかしく感じ、顔を伏せた。


「トゥは、タンクラッドにベッタリだけどな」


 横槍を入れるオーリンの歯に布着せぬ言葉に、トゥが据わった目を向け、横で親方が笑う。『理由があるんだよ』と軽く弓職人に答え、オーリンもカラカラ笑い飛ばす。

 側に来たイーアンが『ダルナは一度信頼すると、非常に真っ直ぐです』と銀色の鼻を撫で、トゥを肯定しながら、カッカッカと笑う(※イング思い出す)。


 真面目なシャンガマックは、こんな中年になりたいと思った(※いつも余裕そう)。



 笑うに笑えないドルドレンが、聞こえないふりをして馬車を船倉へ進め・・・シャンガマックも、こそっと後について、船内へ馬を入れる。


『馬車どうするのよ』とミレイオが、御者台を下りたオーリンに大声をかけ、『頼む~』とあっさり手を振ったオーリンに苦笑し、手綱を取った。それを見たタンクラッドは、近くにいたルオロフに、『お前は馬車を操れるか』と訊き、彼が『問題なく』と答えたので、彼に任せて自分は甲板に残った。


 これでオーリン、タンクラッド、イーアンが、甲板に立つ。



「さて。午後ですよ。この分だと、海に出てからでしょうか」


 イーアンの笑顔が引っ込み、北方に向いた。タンクラッドも彼女の隣に並び『そんな感じだな』と、妖精の気配がまだないことを呟き、オーリンが昇降口をちらりと見る。


「模型船、持ってきとくか?」


 羅針盤代わりは大事とイーアンは頷き、オーリンは模型船を取りに行った。この船は、誰も舵を取らない。船橋は無人で、マストから帆が下りることもない。帆を畳んだままの、大きな黒い船は、水夫の送り出しに合わせて、ゆっくりと海へ滑り出す。


 錨も、いつの間にやら巻き上げられていたのね、と動き出した船の前を見て、イーアンは・・・ふと空に向き直る。


「来た」



 *****



 センダラは、光の如し。瞬間移動かと思う速度で、音もなく水色の光が空中に弾け、キラキラと解ける粒子の中から、盲目の妖精が現れた。


「センダラ」


「イーアン。一緒に来て」


 いつも唐突。内容は、用件の次。今回はイーアンも前以て知らされていたので、『はい』と即答した。閉じられた瞼の上で、形の良い眉がちょっと歪み『聞かないのね』と逆に質問するセンダラ。


「予想がついていまして」


「そうなの?じゃ、話は早いかしら。なら」


「おい、待て待て。無視するな」


「あなたは来なくていいわよ」


 なら、とイーアンだけしか相手にしないセンダラの誘いは無駄なく、真横にいるタンクラッドが止めたが、すかっと肩透かしされる。

 くすっと笑ったイーアンは、嫌そうな親方を見上げてから『センダラ、今回は彼ともう一人も連れて行きたいです』と伝えた。

 妖精はすぐに顔に出る。歪んだ顔には『はぁ?』と書いてあるよう、親方は一生こいつを好きにはなれないと思った。


 そこへオーリンが戻ってきて、模型船連れの彼にセンダラは『彼も?』と否定を籠めた強い口調で女龍に尋ねた。


 男二人、邪魔だと言われたのと同じ。ムスッとした二人に、咳払いするイーアンが『彼らを連れて行きたいです』ともう一度頼む。何でよと返すセンダラに、事情を簡単に説明。センダラは思いっきり嫌そうに、腕組みしてふーっと息を吐いた。



「まあ、いいけれど。邪魔にならないように」


「邪魔とか言うなよ。お前一人で無理だから、頼みに来たんだろ?」


 強気なセンダラに、思わず言い返すオーリン。イーアンが止めるが、センダラは『私が頼んだのはイーアンだけよ』と火に油を注ぐ。タンクラッドも眉間にシワ。やめてやめてと、イーアンは彼女を止め、ささっと二人に振り向いて『トゥで来て下さい』とお願いし、不機嫌なセンダラ(と男二人)を宥めて宙へ上がる。


「あっちよ」


 面白くなさそうに、ぴっと北を指差したセンダラの、微弱気遣いはそれで終わり。言うなり、自分の腕を掴んでいた女龍と共に、水色の光の中に消えた。


「あー・・・センダラはきついな」


 あの性格は慣れねえ、と目を瞑って本気で嫌がるオーリン。


「文句言って性格が変わるなら、世話はない。オーリン、乗れ」


 模型船も抱えておけと、親方に流され、ぶすくれながらも二人はトゥで出発。一応、ドルドレンたちに『急に出かけるかもしれない』と、挨拶した直後のこと―――



 *****



 普段はもっと強制執行(?)のセンダラは、今回に於いて、やんわりね・・・と、イーアンが思っている時。


 甲板から戻らない三人を、船倉に降りたドルドレンの勘が気にした。はて。もしや(※勘は良い)。


 あの三人の誰でも、『急に出かけるかも』と前置きすると、その通りになる可能性が高い。なので、ドルドレンは甲板へ上がり・・・案の定、消え去っていた三人とトゥは、どこへ行ったかと、首を傾げた。



「よく考えてみたらさ」


 ついてきたミレイオが、シュンディーンを抱っこしながら、振り向いた総長に『トゥがいないと、船、浮かびっぱなしじゃないの?』と。そうだね・・・と答えたドルドレンは、帆の降ろし方も知らない(※船未知)。


「動かないわよ」 「動かないな。止まっている」


「どうするの」 「待つのだ」


 ハハハハと笑ったミレイオが、赤ん坊に『どう?動かせる?』と聞いてみるが、赤ちゃんは相変わらずクフムが嫌いなので、余計なことはしたくなさそうに目を逸らした。


「シュンディーン、赤ん坊姿ではクフムに会わせてないでしょ?島の日中では、あんたに預けていたし。何かの拍子で、クフムは見ていそうだけど」


「ふむ・・・そうだな。しかし、精霊の子にここまで嫌われると、それも縁起が」


「仕方ないわよ。で、シュンディーンを頼るのは無理っぽいね」


 ちらっともう一度赤ちゃんを見る、明るい金色の瞳は優しい。無理強いする気がない苦笑を浮かべ、ミレイオは軽く頭を振って『島から見える位置だから、その内、水夫が船で聞きに来るんじゃない?』と港に顔を向けた。


「誰か来たら、事情を話して、ちょっと動かしてもらうとかさ。それまでにタンクラッドたちが戻れば良いけど・・・どこ行ったの?」


「ん?ミレイオも聞いていないのか。俺も知らないのだ。でもイーアンが一緒だし、問題はないだろう」


 イーアンも何も言っていなかったな、と思い出す。次の島まで、二日の予定――


 サネーティの組んだ順路と、海運局の次長が整えてくれた先の国境警備隊の港は、少し入り組んでいる。行く道で魔物もあるだろうし、少し早めに出たドルドレンの考慮だったが。



「ここでボーっとしていてもね。何日も留守にするなら、先に言うだろうし、そうじゃないと思うから」


 中に入ろ、とミレイオに促され、ドルドレンも彼の後について船内へ戻る。見張りの一人もいないとなると、それも心配ではあるが、ミレイオが見透かしたように『船内()でも、気配は感じるじゃないのさ』と見張り不要を言い渡す。


 無人の甲板。沖に出たすぐ、波に揺れるだけの黒いアネィヨーハンは、午後の陽を受けながら、そのまま夜を迎えることになる。

 港では、遠目の利く水夫たちが『どうして行かないのか』と気にしていた。



 タンクラッドたちは、夜になっても戻らず。船は動かず。水夫たちは『強い人たちだから心配はないだろうし、何か意味があるのだろう』と見守って、夜は刻々と過ぎて行く。



 時間も関係ない場所に、あの四人と一頭が入り込み、伝説の一部に出くわしているなんて、誰も知らない。

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