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魔物資源活用機構  作者: Ichen
ティヤー開戦
2484/2964

2484. アンディン島滞在七日間 ~⑫ティヤー弓話少し・不穏の僧兵・『フーシャ・エ・ディット』他離島

 

 宿へ戻り、暫くしてドルドレンとルオロフが帰り、また数十分経つ頃には、親方とシャンガマックが戻る。

 イーアンからは連絡珠で、『遠方で様子を見る』と遅くなる報告があった。



 タンクラッドとシャンガマックは、土産話もあるのだが。その話はすぐには出ない。ドルドレンも、馬車の家族の話を聞いたので、それを皆に言いたかったが、これも後回し。ロゼールが戻ってきたことで、彼の挨拶と労いから始まる。


「それは、ドゥージの弓矢か。ロゼールに使えるのか?」


「はい。支部の弓引きに、引き方を習いました。初めて見る形だから、興味津々でしたよ」


 背中にある矢筒と畳まれた弓に、ドルドレンは意外そう。ミレイオも『盾が武器だったけど、今度は弓か』と微笑んだ。ロゼールの嬉しがり方は分かりやすい。


 エビヤン・チェオに弓を習ったと言うロゼールに、ドルドレンとシャンガマックは『チェオは弓引きではない』と顔を見合わせたが、ロゼール曰く、『ティヤーで、弓を使う漁をしていたみたいです』と新鮮な情報。


「彼の故郷はティヤーの南西部で、島と島の間にある海に、変わった弓で網をつけた矢を打つそうです。チェオも手伝いで使っていたらしく、話を聞きながら弓の話題と引き方も知りました」


「へぇ・・・剣だけかと思っていたが」


 シャンガマックが呟き、ドルドレンも頷く。力の強い騎士だけに、剣の印象だったチェオ。ティヤー南西、弓を漁に使う地域があるとは初耳で、オーリンも『そこ行ってみたいな』と食いついた。



 だが、小さなお土産話は、ここまで―――


「それでは、本題の報告を」


 運んだ魔物製品、他諸々の情報について題目発表のように伝え、赤毛の騎士は『アイエラダハッドへの手紙と書類』と木箱の一つを開けた。

 ルオロフはすぐに書類に目を通して確認し、『ゴルダーズ公へ届けたい』と言ったので、ロゼールは引き受ける。


 ルオロフ自身に必要な書類だけは抜いて、もう一度、隈なく文書を読み、母国の貴族に運んでもらう書類を分類別に積んで、箱を閉じた。


 こんなに早く、結果を出してくれたロゼールの手を握り、ルオロフは心から感謝し、ロゼールもその手に手を重ねて『俺は()()状態ですから』と、冗談めかして笑った。



 優先的な大切な話は、一つこれで完了。いつもなら、すぐに魔物製品を取りに行こうとなるのだが、今夜はそうではない。


 ロゼールの話が終わって、間髪入れずにオーリンが今日の一悶着を報告する。ミレイオは皆の視線を集めたが、オーリンの説明に任せていた。

 報告は1~2分。聞き終わるや否や、タンクラッドは窓際へ行き、『トゥに船を頼んだ』と守らせたことを伝え、それからミレイオの前に立つと、椅子に座る彼に顔を寄せ『何があった』と直に質問。



「オーリンが話したことよ」


「最初と最後だけ、お前は応戦して、中間はやられてたのか」


「やられてないでしょ。オーリンはそんな風に言ってないわ」


「お前が服を汚されて、黙っているなんて信じられん。顔も」


「顔は、上から瓦礫が落ちてきたのっ。話、聞いてた?」


 顔も、と親方の伸ばした手が、ミレイオの頬骨に触れ、ミレイオは面倒そうに顔を逸らした。クフムは溜息を吐き、その溜息で、今度は彼に視線が集まる。普段のクフムは俯くが、今は言うべきことを言った。


()()()()()んです。ティヤー語だけじゃなくて、神殿で使う言葉を、ミレイオはずっと言われていたんです。何を言われているか分からない以上、ミレイオは応じなかったんですよ」


「言葉?」


 眉根を寄せて振り向いた親方に、側にいたオーリンも『らしいね』と腕組みして、柱に寄りかかる。クフムは以前、オーリンに教えていた。こちらに分かる言葉を使うのは、付き合うのが海賊系だから、と。


「そうなのか、ミレイオ」


 尋ねたタンクラッドの表情が更に曇り、ミレイオを心配する。


「まぁ。最初っから、何言ってるか分からなかったし。でも、ティヤー語だけで喋られて分からないのと同じよ」


 違和感はなかったとミレイオは答えたが、ドルドレンは気になった。


「もしかして、町の者も理解出来ない言葉だろうか」


 ミレイオが、そうかもねと答えた声に被さり、クフムが『無理ですね。神殿と付き合いのあった私でも、分からない言葉を使う人たちです』と、はっきり言い切った。オーリンもそれに続ける。



「クフムが、俺に教えてくれたことが・・・タジャンセでね。俺はクフムの見張りでつくから、そうした細かい話もするけど、その後、開戦だったり移動だったりで、言いそびれていた」


 言葉の違いを『クフムが隠していた』とならないよう配慮するオーリンに、ドルドレンたちも頷く。


 それから、ドルドレン、タンクラッドは『ミレイオは、自身がサブパメントゥとバレないよう、抵抗しなかったのか』と過った。いつ、古代サブパメントゥの面倒が降りかかるとも知れない。



 ―――アイエラダハッドでは、窮地に陥ったミレイオ。


 救助支援活動で、数日も力を披露しているミレイオだが、僧兵と対面して、その力を()()使()()()()らしいことを、気にしている面持ちだった。



 *****



 ミレイオの懸念については、直に聞くことはなかったが。

『ウィハニの女の仲間に、人間以外の種族もいるくらい、知られていそうなもんだ』と親方の遠回しな慰めで、ミレイオもそう思う。


 黙って話を聞いていたシャンガマックが、『言葉か』ぽつりと呟き、感じたことを口にした。


「もしかすると。ミレイオがこの数日で、町の瓦礫を消す様子などから、その者たちが警戒して『言葉を変えた』かもしれないですよね。不思議な力を使う相手に」


「そう?でも、私を罵倒するような調子だったわよ?胸を突いたり、襟や腕を掴んだり。分からない言葉でも、態度がそれじゃあ」


 騎士の意見に怪訝そうなミレイオは、僧兵の態度は乱暴で、警戒とは思えない、と答える。褐色の騎士はこれに小さく頷き、思うところを続けた。



「うーん。俺の・・・勝手な解釈ですが。確認ではないでしょうか?人間は、差別する生き物です。分かりやすい天地の力なら敬っても、人間と同じ知能を持つかどうか、はっきりしない相手には強く出ます」


「それ。ミレイオの、()()


 思わず口を挟んだオーリンに、嫌そうな目を向けるミレイオ。すまなそうな上目遣いで『ミレイオが、とは言っていませんが』と強調したシャンガマックに、ドルドレンは正直すぎる部下を止め、『俺が話す』と代弁してやることにした。 



「ミレイオ。シャンガマックの意見は、忘れがちな人間の本質・愚かさを教える」


「分かってるわよ」


「未知の相手を恐れつつ、支配しようとする輩の意識は、相手を見下しながらも、力の訴えに出やすいものである。

 言語を振り回す行為は、彼が言ったように『未知の相手に理解できない前提』で使う、武器に似る。

 そうしながらも、感情は露であり、態度は粗暴。言葉の通じない状況に追い込み、力でどうにかしようとするのだ」


 さすが総長だ、とオーリン・クフムが大きく頷く。タンクラッドは『そっちのがよほど愚かだがな』と端的に添え、シャンガマックも目を伏せながら、代弁してくれた総長に感謝。シャンガマックは彼なりに、ミレイオを安心させたくて、一般的な人間の感覚を伝えたかっただけ・・・・・

 ミレイオも複雑そうであれ、『ま、そうでしょうね』と溜息混じりに頷いた。



――ただ。それだけではないだろう、とミレイオは思うし。同じようにタンクラッドも感じた。裏付ける理由も、分からず仕舞いだが。



 少しの沈黙の後、ドルドレンが、再び質問する。


「とりあえず、大事には至るまい。聞けば、ロゼールを逃がしてから、オーリンたちが迎えに来るまで、時間が経過しているようだが、その間、罵倒は連続していたのか」


 ミレイオが耐えた時間を気にした総長に、ミレイオは『そうね』と顔を摩った。


「振り払って帰っても、良かったんだけど。なんか、()()()()っていうかね」


「時間稼ぎ?」


 ドルドレンの聞き返しに続くように、階下から夕食に呼ばれて、扉近くのシャンガマックが、廊下に顔を出し、大声で返事をした。ロゼールは、ミレイオの言葉にはたと止まる。


「俺のためですか」


「んー。一方的に襲われて、ロゼールが悪いわけないけれど。私が止めていないと、僧兵何人かが、動きそうだったのよ」



 ぽつぽつと答えるミレイオの『耐久理由』から、ドルドレンは繋げて考える。


 難癖付けて、攻撃を仕掛け、足を引っ張る気の僧兵は、既にこちらを『敵対』と見做しているのだ。ドルドレンは、ミレイオを少し見つめた。


 ・・・彼は、ロゼールたちをまず逃がし、時間稼ぎのため一人で相手になり、離れる島の町民にとばっちりが行かないよう、極力抵抗を控え、ティヤー語とも違う、不明な言葉で捲し立てられる状態に言い返すことが出来なかった。不条理や差別を嫌うミレイオは、我慢も腹立たしかったと思う。

 最初だけは力を使ったものの、自身がサブパメントゥであることを知られないよう、小突かれても、がなり立てられても耐えた。幾つもの理由が、それを強いた時間。


 タンクラッドの一言『お前が服を汚されて黙っているとは信じられない』は、そうだな・・・とドルドレンも悲しく思った。

 ミレイオは同行者で、彼自身が危険に晒されているのに、それでも優しさゆえに、必要と判断すれば何も構わず、()()()()



「夕食だ。まず、食べよう」


 困惑するロゼールに、シャンガマックが気遣って促し、ミレイオも気持ちを切り替えて微笑み、ロゼールの肩に手を置いた。


「気にしないで。理由は多分、()()()()()な連中だと思うのよ。ロゼールを使われたら嫌だし、ってだけ」


「でも。すみません」


 いいのよって、と軽く笑い、ミレイオは汚れた格好のまま、ロゼールの肩を抱いて一緒に部屋を出る。ドルドレン、シャンガマックやオーリンも続く。クフムは毎度のことなので、部屋へ戻り、タンクラッドは何とも遣り切れなかった。


「気遣い過ぎるんだ、お前は」


 自分も危ないってのに、と・・・小さく舌打ちし、常に他人を考える友達の優しさが、裏目に出ないことを祈った。



 *****



 その、『僧兵』―――


 旅の仲間の新たな敵となるには、中途半端な立ち位置であり、動きはそこそこでも()()()を出ないので弱いのだが。



 どさっと落ちた人間を見下ろし、イーアンは唾を吐く。イーアンの背後は集落で、数えられるほど少ない民家の戸口近く、彼女をじっと見ている怯えた瞳が並ぶ。


「もう。大丈夫です」


 くるっと振り返り、翼を畳んだイーアンは、夕方の磯を歩き、震える人々の側へ行った。家屋の前にへたり込む女性と、彼女の腕にしっかり守られた小さな子二人。


「大丈夫ですか?」


「はい」


 若いお母さんが、子供の前で殺されかけたのを見つけ、既の所で間に合った。

 僧兵に銃を向けられたお母さんは、助けを求めて叫んだが、彼女が腕に守った子供たちしか身内はおらず、並ぶ民家の人々は数日前の半分に減っていて、同じように女性・子供・年寄りばかりだった。


 開戦後、魔物に襲われた小さな島は、家や畑はイングの魔法で戻ったものの・・・魔物と戦って死んでしまった男性は、戻らず。家に残された家族に、成人男性はいない。



 ―――ここは、イーアンが気にしていた『フーシャ・エ・ディット』から近い島。 


 スヴァウティヤッシュに付いて行った先が、フーシャ・エ・ディットの近くに繋がっていた。


 案内された、『出入りの多いサブパメントゥの遺跡』はどうだったかと言うと。

 遺跡は、神殿の敷地内に在り、僧兵が歩哨にいるのを見た。古代サブパメントゥが、普段からぞろぞろ出入りすると思えないが、僧兵の状態は加担の事実そのもの。


 イーアンは、姿を見せずにここを一部破壊し、これを警告とした。


 どのみち、制さねばならない時は来る。最近の間違い、『植物園の時の様子見』は、無駄に時間を使い、危険を野放しにした結果を出し、後悔もあったから。

 遺跡全てを消すなら、全面的に叩き潰す計画でもないと、ただ刺激して面倒を増やしかねず、それは止めたが、男龍なら『警告』くらいはする、と思い、一部消すことを選んだ。


 スヴァウティヤッシュが、僧兵の意識を抑えている間に、一部を破壊。掻き消えた箇所には、別の風景が見えて、どうも()()()()()()()()状態で、建物を消したらしいと気づいた。


 スヴァウティヤッシュとは、ここで別れ、イーアンは調べに進む。別の風景は異時空ではなく、どこかの海、どこかの島。出てきた場所の小遺跡は、この時点で消し去った。


 それから改めて眺め渡し、その風景に思い出が蘇るのは早かった。


 あの漁師町かも!と思わず飛んだ、島の磯続き・・・懐かしい風景に確信したものの、辛い被害を知った。僧兵がここへ来て、人を殺していた、と―――



 フーシャ・エ・ディットから始まり、夕方まで、小さい島を巡り続けたイーアンは、もっと早く来るべきだったと後悔する状況ばかりに対面した。

 人々は、魔物ではない相手に襲われるなんて、思いもしなかっただろう。


 イーアンが先ほど海に落としたのは、僧兵。

 浜に小舟をつけ、島に上がる僧兵は一人のようだったが、離島に行っては『武器』の性能を試すのか、銃を持った僧兵が人を襲っていた。


 格好は、僧衣ではなく何者かも惑わせていたが、武器は『銃』そのもので、あの連中であることは疑いようもない。


 殺されてしまった人はどうにもならない。傷を負った人は、龍気で回復を促した。弾は、龍気を注ぐとめり込んだ傷口から出て崩れた。


 イーアンを見た僧兵は、悪意ある人間の誰もが、怯えるとそうするように、勿論、銃口を向けて撃ったが。

 女龍に利くはずもなく、翼が打ち付けた風に吹き飛ばされて海に転落し、岩礁に当たって僧兵は死んだ。


 今のイーアンは、これどう捉えるかと言えば、そこまで感情的にはならない。こんなやつらばかりかと、苦い唾を吐くくらい、胸糞悪くて仕方ない。



「ウィハニ、私たちは」


 たどたどしい共通語で助けを求める集落の人たちが、女龍の側に集まる。切ないが、留まることも見回りで毎日来ることも出来ないイーアンは、彼らの求める答えを口に出せない。


「また会える約束は・・・難しいけれど。これを」


 ごめんなさい、と謝りながら、イーアンは尻尾を出して鱗を取り、一人に一枚ずつ渡した。


「使い切りですが、龍の風が戦います。こうした小さな島を見守り、助けにくる誰かがいればいいのですが」


「そんな人はいません。魔物が出る前だって、滅多に人の行き来がない場所です」


 項垂れ、悲しむ集落の人たちに、イーアンも苦しい。私はとんでもない強さを持ちながら、どうすれば皆さんの命と安心を守れるのか、未だに知らないのだ。


 ごめんね、と何度も心で謝りながら・・・イーアンは島を後にした。



 小さな島は、数十人しか住んでいないところもある。最初のフーシャ・エ・ディットも、十人以上の犠牲者が出ていたのを、ドルドレンに報告するのは気が重い。


 姿も雰囲気も変化したイーアンを見て驚いたのも一瞬、彼らは『イーアン?』と覚えていてくれた。やっぱりあなたはウィハニの女だったと、涙して縋りつかれた腕を、イーアンも抱き寄せて一緒に泣いた。


 あの日、ドルドレンとイーアンを迎えた家族の内、数人は殺されてしまった。



 僧兵は、操られているのだろうか―――


 その可能性がないとは言えないのに、イーアンの中で、僧兵は古代サブパメントゥの『人間減らし』を、()()()に手伝っている気がしてならなかった。

お読み頂き有難うございます。

今日はすっかり遅くなってしまい、申し訳ないです。

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