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魔物資源活用機構  作者: Ichen
ティヤー開戦
2483/2962

2483. アンディン島滞在七日間 ~⑪ロゼールの狼と魔物製品・僧兵の印象

 

 一歩後ずさったクフムと、凝視するオーリンの前、青白い炎を纏って床からズオッと現れたのは、三ツ頭で、骨むき出しの巨大な獣。船倉の天井が間に合わず、背中は透けて天井を抜けている。



「しょ。召喚っ」


「え?いえ、そんな大それた感じではなくて。俺の移動手段で」


 言葉を噛むクフムに、違うよと軽く否定し、ロゼールは大きな背中に飛び乗る。

 開いた口が塞がらない二人の見守る中、『待たせちゃったな』『解くから少しかがんで』と、骨だらけの相手に話しかけ、荷解きを始めたロゼールに、オーリンは前に出てしげしげ観察。


 これもサブパメントゥだろうに、俺の龍気を嫌がらないのかと気づく。


「お前の移動手段・・・サブパメントゥか?」


「はい。でも、正確には、また違うみたいなんですけれど。()()と一緒ですよ、シャンガマックが乗ってる仔牛。あれも、元は大きいじゃないですか」


「シャンガマックの。そうか、あれも鎧の牛だもんな。ってことは、こいつも光に負けないのか?」


「そうです、本当は明るい時間でも、外に出るの、問題ないんですよ。ただ見た目が、ここまで特殊ですから・・・それと、種族の敷居もないみたいですね。これ、多分元は、『狼』だったんじゃないかなぁ。顔が骨むき出しで、ちゃんと分からないけれど」



 綱を解きながら答えるロゼールが、全然、何てことなさそう。まるで、飼い犬のように馴染んでいる。

 体の所々に残る毛と、頭蓋骨やあばら骨、足の骨が見えている所と、すごい姿なのに、ロゼールは『お前は、頭も良いんだよね』と朗らかに褒めて、撫でたりしている。


 なので。見ているオーリンも、違和感と驚きが消えた(※柔軟)。


 クフムは、眉が付きそうなくらい眉間にしわを寄せて、壁際から動かなかったが、オーリンは大きな青白い相手の側へ行き、ロゼールの仕事を手伝った。


 二人で荷解きし、運んできた箱は全て床に置かれる。一つ二つ、小さめの木箱があり、その他の箱は大きかった。ロゼールが魔物製品を運ぶ時に、いつも持ってくる寸法。


 小さい箱は『書類系』らしかった。箱に詰めて持ってくるほどか、とオーリンが驚くと、今回は『ルオロフの頼みである、アイエラダハッド復興に向けるハイザンジェルからの返事』で、至急の救援に可能な内容を文書にしたらしく、セダンカが目まぐるしく頑張った(※事務も兼ねる人)結果―― 『内容物が重要なことと、量の問題で、木箱詰め』だと、ロゼールは話した。


「これは今日、宿に運びます。ルオロフに見せるので」


「そうだな。ルオロフがアイエラダハッドに、これをどう運ぶかは宿で考えるだろう」


 ルオロフ止まりではないため、ロゼールは『俺が運ぶことになると、思うんですけれどね』と続きも考えているようだった。



 さて、と両手をパチンと打った赤毛の騎士は、ニコッと笑って、大きい木箱の蓋に手を乗せる。


「テイワグナと、ハイザンジェルと。それと弓と剣は、アイエラダハッド北部・中部も出来ていたので、回って集めました」


 アイエラダハッドは『出荷手前で受け取った』そうで、オーリンは彼のオレンジ色の髪をポンポン。えへっと笑う騎士の見上げる顔に、オーリンも笑って頷く。


「お前はホントに、良く動く!ごくろうさん。すごい数じゃないか」


「はい。鎧も40揃えました。これは、ハイザンジェル南のオークロイ親子。盾は、タルマンバインのグジュラ防具工房で、50枚あります。鎖帷子がテイワグナ製、ギールッフですよ。それと」


「ちょっと待て。()()()()()?どうだった、『あの件』」


 幾つもの箱の蓋に、トントンと手を置いて紹介するロゼールを止め、オーリンは『奪われる鏃』を先に訊ねる。ロゼールも心得ており、『貴族からの』と集めた情報をすぐに教えた。



「これまでに何度か、ダマーラ・カロから首都への道を襲われています。でも、不思議に思ったんですが、直にダマーラ・カロが襲われてはいないんですね。それと『職人に危害が加えられた』そういう話もありません。

 サブパメントゥが操ることも考えられるのに・・・いや、それが一番、手っ取り早い常套手段だと思うんですが」


「それもないのか」


「はい。職人や、工房の問題がないか、とりあえず現場に行って、聞き込みもしたんですよ。貴族の情報と記録を教えてもらってから、日付を遡って調べてもなくて。サブパメントゥに関与した名残もありませんでした」


「本当か、ロゼール。お前の行動力は、見上げたもんだ」


 調査が抜け目ない騎士に、驚くオーリンだが、ロゼールはカラっと笑って『この時は、メドロッドたちが手伝ってくれたから』と、自分の動きだけではないと断る。


「それで、他も実は調べました。スランダハイ、剣と弓を作っていますが」


 スランダハイも古くからある武器の町。オーリンは何かあったかと焦ったが、内容的には無事。


「あちらは、配送に日数が掛かるので、気になったんです。行ってみたところ、道や町が襲われたということはなかったので、そこは安心しました。ただ、山間部に多い・・・サブパメントゥの絵は近くにありまして、ここで変な痕跡を見たんですよ」


 ロゼールの話によると、サブパメントゥの模様が今も隠れて残っている地域に、『サブパメントゥが最近来た跡』があったという。これは、ロゼールが発見したのではなく、彼の家族による。


 様子見となったが、コルステインも知るところとなり、オーリンは一先ずホッとした。


「そうか・・・コルステインが見てるなら」


「ええ、大丈夫でしょうね。コルステインたちも、アイエラダハッドから増えた相手の動きは、危惧しています。サブパメントゥ(彼ら)が引きずる懸案ですし・・・見張ってくれているので」



 とにかく、古代サブパメントゥが、魔物製品を横取りした報告はあるが、人間を殺戮し出したなど、そうした報告はない。

 動きが広がっているので、魔物で手一杯のティヤーから、外国へ倒しに行くのは難しいが、この話は皆に後でするわけで、今はここ止まり。



 ロゼールは、スフレトゥリ・クラトリで運んだ、数多くの魔物製品の数をオーリンに伝える。

 蓋は釘で打ち付けているため、ここで開梱はしないものの、表の商標と内容物区分の色を示し、機構の書類と照らし合わせながら、オーリンに『何がどのくらい・製造地』を、全部教えた。


 これを見守るクフムには、蚊帳の外の話。そもそも装備が不要の職業で、引きこもりに似た生活だったクフムは、青白い獣が恐ろしいし、側へは来なかった。


 オーリンは、商標と札の別を教わり、共通語の書類を見ては確認。一通り、理解できたところで、ロゼールは荷物をここに置いていくと言った。


「誰か、結界を張ってくれたら良いんですけれど・・・これも奪われるなんて冗談じゃないし」


「そうだな。ミレイオに頼むか。本当はさ、タンクラッドのトゥ、いるだろ?あいつがこの船を()()()から、何か守る魔法でもかけてくれたら助かるんだが、出かけちゃっててね」



 この船はどう動くのかと、最初に過ったロゼールだったが、『ダルナ任せ』と知り、いろいろと融通が利くようになった旅路に感謝した(※便利)。



 *****



 ということで、ロゼールは留守番し、オーリンとクフムが下船する。ミレイオを呼んできて、結界を張ったら宿へ行こうと決まり、オーリンたちは船を出た。


 下で待っていてくれた水夫に礼を言い、梯子を外してもらってから、馬に乗る。


 一人足りないのでは?と、乗船時にいた赤毛の若者を心配する、心優しい海賊(※水夫皆そう)に、『あいつ、人間じゃないから大丈夫』と軽く笑顔を向けたオーリンに、クフムは未だ慣れなかった。


 深くは聞かないが、それで了解してくれた水夫と別れ、オーリンはクフム連れで・・・『気をつけろな』と注意するものの、一人にさせるわけにもいかないので、ミレイオのいた、あの場所へ一緒に戻る。



「あ。向こう行ってて」


 面倒があった近くに入った時、二人を先に見つけたのは、ミレイオ・・・らしいが。


 姿は見えない。聞こえた声のみ、姿を確認出来なくても、オーリンはすぐ頷いて回れ右する。戸惑うクフムの馬の手綱を片手で掴み『戻るぞ』とだけ言い、来た道を引き返した。


「ミレイオは?」


「分からない。でも『来るな』ってことだ。離れて待とう」


 不安なクフムは布で目元まで隠し、オーリンは彼の馬の手綱を離さず、しばらく進んだ先で馬を止める。


「この島、()()がいるけれど、修道院か何かあったか?」


 真横に馬を寄せたオーリンが聞き、クフムは困ったように首を傾げた。『あるとは思います。でも今まで見ていません』彼はそう言って、最初の島・タジャンセ出入国管理局近くには、修道院の事務施設があったと教えた。


「あ。あれか、お前が黙った、あの時(※2453話参照)」


 思い出して確認したオーリンに、はいとクフムは目を合わせる。


「色が・・・話していませんでした。ティヤーの神殿は、青と白と、黄色い線、それと赤い星があります。星は地域で形が違うんですが、宗派の違いじゃなく、司祭や神官の示しです。関連施設は、色を覚えれば見つけられます」


「そうだったのか。ここは?今のところ」


「見ていません。でも僧兵がいたし、島は大きい。私たちの行かなかった方には、あるでしょう」


 分かったと、オーリンは彼の腕を軽く叩き、『俺から離れるな』と警戒を強める。クフムは頷いて『イーアンは()()()()()()ですけどね』と、真顔で皮肉を言い、オーリンは苦笑した。


「彼女は、いつも忙しいんだよ。何でも引き受けるが、ホントに引っ切り無しだからさ」


「私は、オーリンと総長に見張られて、今は良かったと思えます」


『あの人だったら、毎日生きた心地がしない』と、どこまでも真顔の僧侶にオーリンは失笑する。そうかよと、何気に顔を前に向けたすぐ、視界の先で誰かが倒れる。


 ハッとしたと同時、脇の建物影からミレイオが出て来て、前方の倒れた人物を一度だけ振り返った。それから二人を、上から下まで見て尋ねる。


「大丈夫だった?」



 *****



 もう帰ろ、とミレイオは言い、オーリンの後ろにひょいと乗った。『二人乗り?』オーリンが振り向き、ミレイオは『疲れたわ』とくさくさした返事を寄こす。


「歩いても帰れる距離だけどさ。()()()きたし・・・何か言われても、海賊系と繋がっている私たちだから、大丈夫だと思うけれど。精神的に疲れたわよ」


「何があった?その、すぐ帰るわけに行かなくてな。ロゼールが船に荷物を出したから、そっちに寄りたいんだ」


 怪我はしていないが、ミレイオの顔や服は汚れており、あいつら相手にケンカをした印象を持ったオーリンは『先に船へ』とミレイオに了解を求めた。ミレイオが疲れるなんて、珍しい・・・ ふーと息を吐いたミレイオは『彼、船なのね。いいわよ。行こう』と馬を出すよう、人差し指を海へ向けた。



「町の人は?」


 港へ馬を進め、オーリンが尋ねる。ミレイオは馬の背に揺られながら、少し間を置いて『問題ない』と言った。


「神殿関係、ってさ、話で聞いていたのと違うのよ。私たちが手伝ってた地域は、海賊系の人たちかなーと思ったけれど。いざ、あいつら・・・僧兵が団子になって現れると、皆、尊重しているのか、一歩引くのよね。

 ロゼールを逃がした後、私一人でしょ?顔見知りになった町の人は、私の味方では()()()()かな。僧兵といざこざはしたくない、って感じ」


「・・・ミレイオ。殴られたとか、あったのか」


「ないわ。胸倉掴まれたり、服引っ張られたりはあったけど。()()喚いて、横の壁叩くとかさ。脅してるつもりだったんじゃない?上から瓦礫降ってきて、頭から被ったわよ」


 愚痴の中身は結構な耐久時間だが、とりあえず『暴力は受けていない』ので、オーリン安心。

 とはいえ、普通の人間が、サブパメントゥのミレイオに敵うわけがない。大人しく応じていたミレイオが、気を遣う性格であることを、苦く思う。


「大変だったな」


「鬱陶しいってだけ。町の人も、私を守るとかはないけれど、だからって離れなかったし。こそこそ逃げる人、いなかったのよ。手助け出来なくても、気にしてくれていたかもね」


 助けられないのは、私たちがよそ者だしね、と話を終え、ミレイオは疲れた首をゴキっと鳴らす。


『よそ者だから騒ぎを大きくしなかった』のか・・・ロゼールに槍を向けられた時だけは、相手を捕まえて踏んではいたけれど。ミレイオの想いが伝わるオーリンが頷き、ミレイオはもう少しだけ呟いた。



「私たちがさ・・・ここを離れた後。町の人にいちゃもん付けられたら、嫌じゃない」


「そうだな。で、さっき()()()()()()倒れたやつは?」


「あれ?町の人、こっちにいないし、あれは倒したのよ・・・あんたたちが来たの、私は分かったから、もういいかと思って抜け出したの。あいつらからすれば、私が『雲隠れ』した感じでしょうね。

 しつこいし、どこで帰ろうかと考えていたから、丁度良かったんだけど。あんたたちが引き返した方向へ、僧兵が一人来てたから、それを片付けた」



 オーリンは頷き、『少し休め』とミレイオに言った。


 クフムは馬を並べて、歩く。見た目は、強烈に派手なミレイオの、思いやりを考える。

 彼は僧兵に乱暴な扱いを受けても、ロゼールや私たちを逃がすために一人残り、残していく町の人間のためにも、相手を倒そうとしなかった――


 私はこんな風に、自分以外の人たちの()()()()()を、考慮したことはなかったかも。


 黙ったミレイオの、『精神的に疲れた』意味。それは、思いやりと我慢。()()()()ありそうだな、と気づいたクフムは、目を閉じて眉間に皺寄せるミレイオに話しかけた。


「すみません。ミレイオ。聞いていいですか」


「ん?何?」


「僧兵の、『言葉』は分かりましたか」



 *****



 クフムの質問の続きは、また後で。


 三人は、黒い船アネィヨーハンへ到着し、ロゼールを呼び、ミレイオとロゼールで小さい木箱を波止場へ運び出してから、結界を張った。


「そんな強力じゃないから、タンクラッドが帰ってきたら、トゥに話しましょ」


 自分の結界は、そこまで強くないとミレイオは念を押し、船を後にした。荷箱とロゼールを馬に乗せ、オーリンはミレイオと歩くことにする。恐縮するクフムが『私が下りても』と言ったが、オーリンは彼に、気にするなと断った。


 ロゼールは、自分を逃がしてくれた後、ミレイオに何かあったかと心配だったが、見て分かる彼の疲れ方に、黙って宿まで進んだ。



 オーリンは時々、ミレイオに話を振ったが、それは他愛もないことで、『そうね』『別に』と短い返事でミレイオが済ませられるようなものだった。


 オーリンは、察していた。ミレイオが、サブパメントゥ関係の僧兵に、()()()()()()()を、気付かれないようにしたのだろうことも―――

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