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魔物資源活用機構  作者: Ichen
ティヤー開戦
2479/2964

2479. アンディン島滞在七日間 ~⑦剣と映像・その、物質

 

 ――『剣がある』



 獅子と並んだシャンガマックは、それを伝えた。


「タンクラッドさんとイーアンの話は、聞こえていたので・・・父も同じような見解を教えてくれました。ちょっと違いますが、でも古代剣を使う場所は、あの石台が最初ではなく、ここが先だったのではと」


 ホーミットと同じ意見のタンクラッドは、自信がつく。それで?と促したイーアンは、『ある』の説明を求める。


「父は、似たような宝剣を持っている。だが父には、大して興味もないし、所持しているだけで」


「・・・同じものでしょうか」


「恐らく同じだろうから、()()()ここで使うかという話だ。どうする?」


 この問いに、女龍と親方は、同時に大きく頷いた。

 シャンガマックもフフッと笑って、隣に立つ大男を見上げ『頼んでいいだろうか』とお願いし、息子に頼まれた父は、あっさり影に溶けていなくなった。


 待つこと、二分。まだかまだか、と待つ三人の前に獅子が現れ(※人の姿やめた)、その口に一本の宝剣を見る。ワッと興奮する一瞬を、急いで抑えて・・・シャンガマックは丁寧にお礼を言い、剣を受け取った。



「まさにこれだ」


「分からんぞ。見た目が()()()()()とかな」


 上ずった声の息子に、獅子は『慎重さを』と遮ったが、遮られても嬉しそうな息子は、釘付けの視線に振り向き『剣です!』と満面の笑みで、親方に差し出した。

 

 受け取った親方は・・・重さ、長さ、感触を、瞬時に記憶する。一生を剣に捧げる男の、職人魂の賜物。


「感動するのは勝手だが。その剣と、お前の読みの場所は、形状が合うか?」


 ちょっと嫌味を利かせた質問を、獅子は親方に投げる。両手で支える抜身の剣を、見つめたまま頷くタンクラッド。


「柄の幅、長さは、溝に余裕があった。個別に異なる宝飾があっても、この形の、()()()なら良いんだろう。長さも曲線も問題ない」


 タンクラッドが溝を直に見たのは、ここが初だが、博物館で再現模型も見ている。一般人が触れてはいけない、展示の剣も真ん前で見た。タンクラッドの採寸は、触れていなくても、ほぼ正しい。


 重さだけは実物を手にして、たった今、理解した。

 サンキーの復元の剣より、やや軽い。そして、剣身の・・・妙な表現だが『体温』と言いたくなる、()()()()()()素材の違い。


 宝飾の柄は、鷲頭を司った黄金の輝きだが、どういうわけか、これも金属には思えなかった。



 タンクラッドは、持ち主の獅子に『壊す気はないが、壊れることもあるかも知れない』と、個人的予想を前以て教えた。


「俺は使わん。それが、ルオロフに渡したい剣の実物なら、バニザットが困る。バニザット、どうだ」


「困る、と言えばそうだけど。でも、本物だとして、これがもしも壊れる結果になったとしても。ルオロフに渡したい候補だし、剣の意味を知るのは無駄ではない」


 復元の職人もいる、と・・・材料が違いそうな話を思い出して懸念しつつ、シャンガマックは『調べるのが先』と使用を賛成した。獅子は、まぁ息子が良いなら、と珍しく静か。


「じゃ。早くしろ」


 獅子は顎で軽く示した。タンクラッドとイーアンの立つ、段差の上。そこに、人の目には何も映らなくても。



 *****



 濡れた床を、揺れる青白い火の玉が照らす。


 イーアンは、サブパメントゥの力の邪魔にならないよう、少し下がって見守る。獅子とシャンガマックは、タンクラッドの立つ段差のすぐ側。

 三者の前には、黒い岩壁・・・これといった、変哲なものは見当たらないが、獅子が示した足元に秘密はあった。



「ホーミットには、何かが見えているのか?俺には、ここが動いたのではないか、とそれくらいだが」


「それくらい、と言い切ってるなら、分かってるんだろ。何度も動いたから、石の繋ぎの埋まりが浅いんだ」


「何・・・?」


「いいから、さっさとやれ。()()()で、見当つけていたんじゃないのか」


 まるで剣を使う場所がある、と知っているような口ぶりの獅子に、タンクラッドの気持ちも逸る。ホーミットは何百年も前から生きて『知恵の宝庫』と異名あり・・・ 少し口端を上げ、『そうだな』と背中を押された気持ちで、タンクラッドは―――



「イーアン、水を()()()()くれ」


「え?はい」


 なんで?と思いながらも、イーアンは前に出る。不思議そうなシャンガマックと獅子は顔を見合わせ、イーアンの龍気使用のため、数歩下がる。

 親方の示す、濡れた床を全体的に、イーアン龍気が乾かす。『消す』のではなく『乾燥』・・・地味な技だが、以前、親方の服を乾かしてあげたので、覚えていたのか(※2308話参照)。消すなら、私もホーミットもすぐなのに、乾燥?


 少し時間をかけたが、滲み込んでいた水分も飛び、真っ黒だった床は灰色に変わる。

 石の合わせ目、一部に目立つ凹み。水が張っていた時は見られなかった、長さ1mほどの凹みは、壁に垂直に伸びていた。


「何で()()()に、乾かしたんですか」


 ここで、後ろのシャンガマックがちょろっと質問。おい、と獅子が止めたが、親方は『この素材のために』と謎めいた返答を与え、少し微笑んだ。

 見ていれば分かる、ということか。ちょっと剣に触っただけのイーアンも、それを聞いて・・・もしや、と浮かぶ答え。



「タンクラッド。もしかして」


「お前は、()()かな。だがここは、お前に頼らん。『乾燥させた』だけで、充分だと思うぞ」


 気付いたらしい女龍に、肩越しで見えた親方の顔が『正解』を告げる。


 この(にお)いもそうか、と―― 臭いの関連も、イーアンの中で当て嵌まった瞬間、タンクラッドの剣を持つ手が、風を切って唸りを上げ、床の摩耗部分に切っ先を走らせた。


 パチン、と何かが音を立て、同時に剣をバッと紫電が駆け抜け、四人の前の黒い壁に―――



「出た!」


 思わず叫んだイーアン。目を丸くして一歩前に出たシャンガマック。当たり以上の結果に、顔がにやけるタンクラッド。獅子は一人、知っていたように、壁に広がった明るい風景を見つめた。


「映像?」


 親方の横に並んだイーアンは、壁に大きく映し出された風景に呟く。タンクラッドの右手にある剣は、先が折れており、切っ先が走った床の凹みには、先ほどまで無かった、小さな凸状の影があった。


 この凸状の小さいものに、気付くのは難しくない。なぜなら、そこから()()()()()が出ているから・・・言ってみれば。


 映写機のそれ・・・だ、とイーアンの視線が床に向く。


 この床が、ライトボックスだとして。摩耗跡の溝は、スイッチ。

 スイッチが剣の摩擦速度で入って、『パチン』と凸状パーツが上がると、レンズを通して・・・ライトボックスの床の中に、()()()があるのか知らないが、例えるなら、この状態は『映写機』だった。



 乾燥させたのは、タンクラッドの感覚で『乾いている=導電しやすい』だろうか。水が消えても同じに思うが、この世界の人()の捉え方かもと思った。

『剣の素材のため』そうした、と言ったのは・・・ちら、とタンクラッドの手に握られている、反身の剣を見る。折れ口を見ないと断面が分からない。でも、金属とまた異なる素材は、摩擦で電気を作ったのではないか。

 この場所の仕掛けは、この剣の材質と速度で反応を起こすよう、作られている。



「いつまでボケっとしてるつもりだ」


 壁を照らす大きな風景、その明るいどこかを前に、イーアンが床と剣に気を取られているのを、獅子は鬱陶しそうに注意。

 ゆっくり顔を上げた女龍は、『この風景が何かを、あなたは知っているようだ』と、思っていたことを返した。イーアンは、彼が宝剣を持ってくる前から、そんな気がしている。


 この一言で、親方と騎士の顔が獅子に向き、獅子は気怠い表情で『知らない』と往なすが、その返事までの間合いは、逆を意味しているように感じた。


「・・・()()()とでも言いたそうですよ。ホーミット」


「入れるのか?」


 親方も半信半疑で尋ねるが、彼の足は前へ進む。

 縦横7~8mほど映された風景は、日の光がどこから射しているのか、全体的に明るい丘。左右と奥に、丸い樹形の木々があり、こんもりした丘は野花が咲く。違和感があるとすれば、虫も鳥も誰も、居ないこと。


 投影された壁の、ごつごつとした岩の質感は見えない。はっきりとした風景は、現実離れした薄っぺらさを持ちながらも、そこに在る。


 目を合わせず、答えない獅子に、ふーっと息を吐いて、イーアンはスタスタと親方の横へ行くと『私が行きます』と彼の腕に触れた。


「タンクラッドに、何かあっても困ります。私なら大丈夫でしょう」


「保証なんかないぞ。女龍だとは言え」


「そうです。でも、女龍が閉じ込められたとか、帰ってこれないとなれば、男龍は必ず動きます」


 だから大丈夫・・・何があっても、男龍が黙っているわけないと信じるイーアン。どうにもならないこともあるが、散々、不思議系をこなしてきて、これがそれほど大変な発見とは思えない。


「ちょっと待ってて下さいね」


 親方にそう言うと、イーアンは少しだけ獅子を見た。シャンガマックも、若干、不安そうだが、獅子は全く我関せずの無視を決め込む。あの獅子が、見て見ぬふりをする。これもイーアンにとっては、一つの『安心材料』である。



「私が中に入ったら、きっと誰かが『大袈裟だ』と言うでしょう』


 ちょっと嫌味を捨て台詞、そう言ってもこちらを見ない獅子の横で、シャンガマックの眉が寄るのを目端に映し、イーアンは―― 投影された風景に手を伸ばして ――するりと中へ消えた。



「イーアン」


()()()()


 消えた女龍に、タンクラッドが名を呼んだ後ろ。お約束を守った獅子の一言に、シャンガマックは苦笑して『全くもう!』と父の(たてがみ)を撫でた(※可愛がる)。


「俺たちは?入らない方が良いのか?」


「入りたけりゃ、行けるだろうな。だが、続きはない」


「ヨー・・・(※いつもの)。知っているのか、この中を」


「知らん、と言った。俺の推測だ。続きがあるなら、神殿まで建てて国を持った人間共が、こっちとそっちを行き来するか?」


「あ・・・それか。人の欲望が動くほどではないと」


「そんなところだ。向こうにそれほど、値打ちがなかったんだろ。使()()()としても、だ。何が使えたかは、これから女龍が」


「帰って来たよ(※早い)」



 獅子の推論と息子の合いの手を、振り向いた姿勢で聞いていたタンクラッドだが、あっさり『帰った』一言に、パッと前を向く。

 すると本当に、イーアンが丘の向こうから歩いてくる。すぐに壁の側へ駆けた親方は『イーアン』とつい、腕を伸ばし・・・・・


「タンクラッドさん!」 「放っとけ。すぐ出る」


 淡い黄緑の丘に、剣職人もよろめいて入り込んだ背中。驚いたシャンガマックは、自分も行きたいと思ったが、筒抜けの獅子は『待ってりゃ来る』と息子は行かせなかった。


「あのな。この手の系統、時の流れも曖昧だ。お前は、行かない方が良いだろ」


 自分たちは、異時空移動で絞られた身(※実はまだ拘束中)。そう言うと、シャンガマックは思い出して『そうだった』と後ろ頭を掻いた。



 *****



 中に入ったタンクラッドは、きょろきょろと左右を見て、空を見上げ、膝をつきかけた野原の草花を見渡し、『タンクラッドったら』と困った声の注意を受ける。


「待っていて、と言いました」


 サワサワと風になびく草を分けて、女龍が小走りに来る。ハハ、と笑ったタンクラッドは背を起こして片腕を伸ばし、イーアンを迎えた。


「入るつもりじゃなかった。お前の姿が見えたから、ついな。腕を伸ばしたら入っちまった」


「触ると引っ張り込まれる、そんな感じですね」


「・・・何か持ってきたのか?それは」


 女龍の背を撫でながら、彼女が片腕に抱えた物に気付いたタンクラッドが尋ねる。イーアンも持ち帰った代物を、見やすいように両手で支え、彼に見せた。


「多分ですけれど。剣の材料です」


 刮目した親方を見上げ、それから左側―― 薄っすらと暗く見える、シャンガマック親子の顔に視線を向け、イーアンは『とりあえず戻りましょうか』と親方を促した。



 *****



 出ては来たが、タンクラッドは後ろ髪引かれているのが、分かりやすい。自分の目でも確かめたいと女龍に言ったのに、相手にされずに押し出された具合。


 頼んで取り合わないイーアンなんて、滅多にない態度。変だなと感じたタンクラッドは、女龍の表情が複雑そうな色を浮かべているのもあり、渋々、不承不承、『今度だな』と次の予約をして一緒に出た。



「どうだ、イーアン」


「はい。一先ず、ここを出ましょうか」


「え」


 シャンガマックもすぐに食いついたけれど、これも肩透かし。女龍は微笑みもないし、ちらとしか視線を合わせない。でも、手に何か持っていて、シャンガマックはとても気になる。が、これはこれで獅子が止めた。


「行くぞ。外が夜だから暗いだけで、入り口は開けっ放しだ。イーアン、飛べよ」


「はい」


 何を察したか、獅子はすんなり了解。ええ?と躊躇うシャンガマックを背に乗せて、先に上へ向かう。彼らが走る音が響く底で、イーアンはタンクラッドに剣を持っているように言い、それから摩耗跡の凸状スイッチ(※ということにして)に触れ、龍気変換。軽く電圧をかけた。


 再びパチンと聞こえたすぐ、映像は消え、イーアンの白い角だけが光る。戸惑うタンクラッドの、背中を抱えたイーアンは浮上。


 まるで、イーアンは早くここから出たいように・・・タンクラッドは、話しかけるにも躊躇った。

お読み頂き有難うございます。


21日(日)の投稿をお休みします。

PCのフリーズが頻繁で直らず、書くのも確認も進まなくて、一日使って調整します。

ご迷惑をおかけしますが、どうぞよろしくお願い致します。


いつも来て下さる皆さんに、心から感謝しています。本当に有難うございます。

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