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魔物資源活用機構  作者: Ichen
ティヤー開戦
2476/2962

2476. アンディン島滞在七日間 ~④三日目の手伝い・ミレイオへの心配・オーリン目論見・パッカルハンへ

 

 パッカルハン遺跡行き――― 


 女龍は、疲労と眠気の頭でそれを聞き、タンクラッドの目的も、大方教えてもらったが、如何せん、眠い。そして、龍気も気になる。


 なので、今日は出かけるに適していない、と断った。龍気に制限がある状態は、タンクラッドも理解する。『小石があればな』と残念を呟き、明日にすることにした。



 夕食は、ドルドレンたちも物資配給であてがわれた食材を、宿に渡した。宿の分も合わせて量を多くし、宿泊客も従業員も、少しずつ多くなった食事を頂く。


 この席に、イーアンはいなかった。どうしたのかと思いつつ・・・シャンガマックは、食事開始早々、『自分もパッカルハンへ行く』と言い出そうと口を開きかけたが、タンクラッドが先に『明日なんだがな』と総長へ伝えた内容で黙った。


 イーアンが不調。龍気補充で、先ほど空へ上がったらしく、明日の午後には戻るとか。


 それで彼女が戻ってきたら、親方は二人でパッカルハン遺跡の現状を確認する序、気がかりについても調べたいと、総長他に話し、『気がかりって何だ』と突っ込まれながらも、笑ってはぐらかしていた。


「ある程度、確証が取れたらな。その時、話す」


 タンクラッドは・・・自分を見ていたシャンガマックに、ほんの少し視線を流しただけで、シャンガマックに話したことを、皆には言わないで通し切った。その為、シャンガマックも、口を閉ざした。



 夕食後、シャンガマックは獅子にこれを教える。がっかりしている息子はともかく。

 獅子は『間延びだ』とぼやきはしたものの、少しは二人でいられる時間ができたと思い、息子と共に数時間の睡眠をとる。


 真夜中に動き、ティヤー中にいる危険分子を地道に片付ける獅子は、翌日は息子の用事に合わせるため、短い睡眠の後に出かけた。



 *****



 三日目。イーアンは朝に戻らず、総長他は動き出す。 


 ドルドレンは海運局へ行くのだが、この日はルオロフが用事とやら―― その用事はオーリンの ――で、ドルドレンは通訳翻訳に、シャンガマックを伴う。


 これについては、前の晩に話がついていたため、ヨーマイテスも『まぁいいだろう』と嫌そうに了承済み、シャンガマックは海運局へ。オーリンとルオロフと、宿にある()()に残った。 


 クフムはこの間、放置なので、彼もオーリンの目が届く範囲、宿の部屋に残る。クフムとしては、久しぶりに休日状態。体力もない男は、部屋で日記を書きながら、何度も居眠りした。


 タンクラッドは、ミレイオに付き合い、ミレイオが初日から受け持って、顔が利くようになった地区へ一緒に行き、救助活動に加わる。

 シュンディーンはドルドレンに預けているから、ミレイオも力仕事なり何なりこなし、『ノクワボの水がちょっとね』と残り少ないこともあって、自分がサブパメントゥの魔法で、濁水をろ過していると言った。


「テイワグナで・・・お前が川の水をろ過したな。あれか(※1622話参照)」


「そう。ここほら、島じゃない?水の来るところも、限られてるからさ」


 アズタータルの町でもそうだったが、イングの再現魔法で町は戻っても、『人は戻らない・食料がない・水のろ過を担当する人手がない』のだ(※2426話参照)。


 水道管を点検して回って、ろ過の手順をこなすには、人もいないし、この島は大きく、魔法による再現もほぼなかったため・・・ ミレイオが手伝っている。



「お前もご苦労だな。だがお前しか出来ない」


「そうね、フォラヴはもうヘトヘトだったし。ノクワボの水は、また貰いに行かないと。シュンディーンに清めてもらう手もあるんだけど、あの子は赤ちゃん状態でしょ?無理させたくないのよ」


 ミレイオは、サブパメントゥの力を使う日中を経て、毎晩、地下の家に戻っている。アイエラダハッドで危険な目に遭って間もないから、実のところ、それも不安だと話すが『でも誰かがやらないと』と割り切っていた。


「疲れてるのは、お前もじゃないのか」


「うーん、まぁ。あるんじゃないの?あんたに、そんな気遣いしてもらえるとはね」


 ハハハと笑ったミレイオに、ムスッとはしたが。タンクラッドは、友達の口数が減ったのを気にしている。



 ―――決戦後の日々も、ティヤーに向かう船でも、ミレイオは『あの危険な捕獲』の話をしていない(※2407話参照)。



 生き返ったから良かった・・・で、終わらない。詳細を聞きたいのに、その話になるとミレイオは『時間ある時に』とかわして、今日まで来ている。言いたくないのか。言えないのか。


 探らない方が良いかどうかも、分からないが、タンクラッドは同じ危険を繰り返す可能性を、次は捻じ伏せたいと思う。自分から喋ってくれる日を待っても、長過ぎるなと・・・魔物も出て、気配も不穏、思うようにはなっていた。だから。



「ミレイオ。今日も地下に戻るのか」


「はい?そうよ。なんで」


「・・・急だからな。お前の疲れも気にしないとならんが、パッカルハンに、どうだ。お前も」


「私ぃ?いいわよ、夜はシュンディーンと、一緒に寝るんだし。何よ、何か手伝ってほしいとか?」


「無理は言わんがな。お前の気晴らしくらいにと」


 いい、いい、と軽く笑って、ミレイオは片手を顔の前で振り、『年だからさぁ』夜は眠らないとキツイ、と答える。気晴らしなんてしなくたって大丈夫、とミレイオは親方の腕をポンと叩いて、奥を指差す。


「そっちの倒木消すから、ちょっと離れてて」


 話を変えて、ミレイオは作業を進めた。タンクラッドは、ミレイオに避けられている気はしないものの、話を聞けず仕舞いが歯痒い。

 何かの拍子に、彼がまた、大きな運命に足を掬われるのではないかと、憂慮は消えなかった。



 *****



 ルオロフ伴い、馬車に籠ったオーリンは、自分の話を彼に聞かせて、ティヤー語で文章にしてもらっていた。ルオロフは頭が良く、学業もガッチリ修めたとあり、理解は完璧で頼もしい。


「すげぇな、お前。仕事に困らなかっただろ」


「え?ハッハッハ、そんなこともないですよ。起業して右も左も分からないから、縁故関係しか使いませんでした」


 大貴族の立場が有効な時代でしたから、と明るく笑う若者に、オーリンも笑って『親の伝手か』と頷いた。が、この性格も、人に好かれただろうと分かる。話す時だけは目を合わせても、ルオロフは言われたことをこなしている最中、手元にすぐ視線を戻す。


 さくさくと、要領よく書きつけてくれる横で、見ているオーリンは、彼が()()()()と思う。椅子の背凭れに体を逸らし、ちょっと伸びをした後、『まだ、言わないでくれな』と呟いた。


 薄い緑の目がちらっと見て『言わないですよ』と口元に微笑みを浮かべる。オーリンも微笑んで『頼むな』と返す。


「オーリンも・・・別行動する気なんですよね。通訳がいない時に、この紙を見せるつもりということは」


「一人の方が、都合つくこともあるんだ。巻き込まないでいい、とかな」


「皆さんを?」


「そうだ。俺は、イーアンのお手伝いさんだ。立場的に、旅の仲間じゃない。だが俺が()()に気付いた以上、俺はやった方が良いと思うし、それを誰かに託すには少し、な。危なっかしいからさ」


 カラッとしたオーリンの流れるような言葉は、ルオロフに少し共感と同情を生む。仲間に頼めないわけではないが、足を引っ張る気もないなら。そして、少し危険なのであれば、自分だけで背負うつもりなのも。



「オーリン・・・私も、手伝っては」


「やめとけ。お前、飛べないだろ」


 あっさり断った弓職人の、年齢のいった皺深い顔は優しく。猫のような、鮮やかな黄色い目は穏やか。


 ルオロフは彼の笑顔を見つめ、『はい』と寂しく微笑むに留め、出来るだけ彼の願いが正確に伝わるよう、また文章を書き始めた。


 オーリンが、神殿の使う銃の弾を、()()()()()ため・・・どこの工房に頼んでも、難なく話が通じるように―――



 *****



 前日に約束した、午後も遅い夕暮れ前。女龍は戻ってきて『やっとですよ』と、龍気満タン回復を感謝していた。


 宿の人は女龍にも食事を与えようと(※お供え)夕食を用意してくれたので、一緒に食事を頂いた。

 だがそれも忙しない。タンクラッドは『行くんだから急げ』と急かし、女龍は口に詰め込んで席を立つ。

 そして親方と二人、準備を整え、イーアンとタンクラッドはパッカルハンへ出発―――



「だから、夕食同席していなかったのですか。私たちは、トゥで」


()()()()()だろう」


 イーアンは、親方を背中から抱えて、夜空に上がる。イーアンが飛ぶのは、初日から町に見せているから問題なし。

 トゥは大き過ぎるし、騒がれる度に説明も大変なので、トゥを呼ぶに人目のない場所まで、イーアンが連れて行く。それは、いいのだけれど。



 小山の崖裏に降り、銀のダルナを呼ぶ親方。あっさりと姿を見せた双頭のダルナに、『出かける』と一言。素っ気ない命じに、『乗れ』とこちらも素っ気なく返事が戻る。似た者同士なのねと思う女龍と、ダルナの目が合う。


「お前も乗れ」 「すみませんねぇ」


 何も言わずとも、先にあれこれ読まれているため、トントン拍子で瞬間移動。女龍と主を首に乗せたトゥは、ブゥンと僅かな音を震わせ、一秒後は夜の海上にいた。



()()()?気配はないような」


「来るだろう。放っておいても」


「別行動されては困るでしょう。こちらの調べ方もあるし」


「・・・まぁ、そうだな。とりあえず、彼らを待つか。合流して」


 一緒に動く人数が増えたと、出かける前に聞いたイーアンは、それがシャンガマックとホーミットと知り、『なぜ?』と首を傾げた。



 ―――親方の話では、不可思議な古代剣が出土した場所の一つに、ここ・パッカルハンも入っており、しかしそれは、8年前の地震前。まだ、海だった時のこと。


 透明度の高い水質のおかげで、海底に少し出ていた遺跡の一画、海面からも視認できる煌めきは、近海の漁師たち誰もが知るところで、学者が調査に入ったら、その古代剣―― タンクラッドが今日の目当てにしている遺物 ――があった。



 この話は、親方が知り合った南の離島ピンレイミ・モアミューに住む、鍛冶職人の情報。通訳に、シャンガマックを連れて行ったことで、訪問は、獅子も参加したと言う。


 息子さんと離れているの、あの人(※ホーミット)耐えられないからな、と理解するイーアンは、それで?と親方に続きを促したところ。



「俺も、別にバニザットが来るとは思っていなかった」


 の返事。聞かれるがままに、自分の考えを喋っていたら、シャンガマックの関心を強く引いていたようで、獅子連れで一緒に来ることに(※無理やり)決まった。


「・・・シャンガマックだけで移動、はないですものね」


「訪問も、『俺が連れ出した』と怒鳴ったからな。ホーミットには、ホーミットの用事があるだろうが、バニザットの行きたい気持ちが優先」


「遺跡は確かに、彼の好物だから、それで」


「剣も、理由の一つだろうな・・・剣がこのパッカルハンにあるわけじゃないが。あったのは既に、学者が収集している。

 バニザットも、博物館で見た古代剣を求めていてな。丸腰のルオロフに持たせたいと話していた。この遺跡と古代剣の出土、何か思いついたかもしれん」


「ふーん・・・それに付き合うお父さん。反対しそうだけど、しない。愛ですね」


()()()危なくなければ良いんだろう」


 ダルナの上で、苦笑する二人。銀の頭が一つ向いて『下にいる』と教えた。気配が難しい、とイーアンが下方を覗き込むと、ダルナは『影の内だ』と丁寧に居場所も言ってくれた。


「そんなことも分かるのですか、すごい」


「彼らは、頭の中で話す。聞こえる」


「筒抜けか」


 頷くダルナに、イーアンも親方も頷き(?)それから、砂浜に降ろしてもらった。トゥには近くで待っていてもらう。暗がり尽くし、星明りとイーアンの角が照らす遺跡、その砂浜に立つ。



「久しぶりです。変わったところは・・・暗くて全体は分からないですが、なさそうに思います。傾斜もあのまま」


「津波は、ここまでは来てないのかもな。こっちは確か、センダラか」


「センダラは無敵ですもの。完璧」


 妖精の女を褒めたイーアンに、タンクラッドが答える前。前の藪が揺れ、のそっと現れた獅子と、その背に騎士の影が目に入った。

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