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魔物資源活用機構  作者: Ichen
ティヤー開戦
2472/2963

2472. アンディン島の夜・レイカルシ預かり・コルステインの情報

 

 離島から戻ったタンクラッドとシャンガマックは、宿に直接下りるわけにいかないため、やはり、人の目のない場所でトゥを降りて歩いた。



 死霊の木片。一軒に絞られた剣工房、もとい、鍛冶工房。古代剣の復元―――


 歩きながら、空気を漂う煙の臭いと、暗闇に赤い熱の影を立たせる、火災の残りを遠くに見ながら、互いに思うことを話す。


 全く関係ないことでさえ、気持ちが少し重いからか、思い出したことも口に出る。


「サンキーさん。どこかで聞いたと思ったら、ハイザンジェルの北・タルマンバインの町の防具工房で、『サンジェイ』という職人が。名前が似ているだけで、ふと思い出しました」


「それを言うなら、ミレイオの死んだ連れも『()()()()』だな」


 無関係の名前話。ちらと目を合わせて、ちょっと笑う。くすっとした続きは、また沈黙が挟まり、シャンガマックは親方に『剣の話は、()()()良かったでしょうか』と気になっていたことを聞いた。親方は前を見たまま『焦ってもな』と返す。


「親しい人間が殺された後、赤の他人の話を聞くだけでも、大変だっただろう。十割こっちの都合だ・・・だが彼は、俺たちの話を聞き、『魔物製品製作委託』を引き受けた。その返事で、今は充分だ」


 ルオロフの剣は作れそうだし、と呟いたタンクラッドを見上げ、シャンガマックも頷く。


「あの人の腕と経験なら、確実に思いました。博物館状態ですよ」


「そうだな。大したもんだ。テイワグナのキキ=ランガリ(※1150話参照)・・・あの小さな職人を彷彿とさせる。剣工房ではなく、『食っていけないから趣味だ』と言ったのは印象的だが、キキは自分を『剣職人』と誇らしげにしていた。サンキーは」


「鍛冶屋、か・・・すごい腕なのに、謙虚な人です」


 話しながら、二人は宿の裏に入った。仲間に真っ先に伝えるのは『次の魔物の展開』―― 小島の鍛冶屋から、()()()()()に意識を切り替える。



 *****



 宿では――― 『何だと?』迎えに出たフォラヴの言葉に、聞き返すシャンガマック。タンクラッドも困惑。


「私は留守番ですけれど、総長たちは」


「救助活動?まだ戻らないのか」


「ええ。宿の主人も一緒なので、深夜はないと思います」


 顔を見合わせたシャンガマックと親方は、『宿を出る時に総長が相談されていた光景』を思い出す。フォラヴは連れて行かれず、二人が戻ったら事情を説明するよう言付かっていた。



「ルオロフは通訳だろ?クフムも?まぁ、置いてけないものな。で、オーリンとミレイオ、イーアンもか」


「はい。イーアンはちょこちょこ戻ってきます。飛べるので様子を見に来て下さいます」


「オーリンは何の役に立つんだ(※普通の男)」


「彼は、機転が利きますでしょう?山暮らしの長い人だから、災害に強いです」


 ああ~・・・とタンクラッドは納得。的確な指示が出来る人物は、こうした状況に必要。総長も職業柄、人助けは板についている。ミレイオは、『消滅』が使える理由で、一緒に行った。


「イーアンが瓦礫を消す場合、広い範囲です。ミレイオは市街地など、細かなところで活躍します」


「よくミレイオが了承したな。地下の力を人前で使うのを、嫌がっているのに」


「イーアンも飛んでいますし・・・人助けなら仕方ない、と思ったのでは」


 宿の人間もいない、預かった宿屋にいたフォラヴは、二人を部屋へ連れて行き『鍵は受け取っています』とそれぞれに渡す。

 それから『水がまだ難しいようなので、ノクワボの水を総長が持って行った』とも教えた。


「海運局から物資は配られているため、それも高台の地区に運んでいると・・・イーアンが」



 タンクラッド用の部屋に入った後、フォラヴは水差しを清め、水を容器に注ぐと、シャンガマックとタンクラッドに渡す。


「私が力を使うわけにいかなくて、それも理由で宿に留守番です」


「回復、してないんだよな」


 清められた水を一口飲み、シャンガマックが同情の眼差しを向ける。微笑んだフォラヴは『アンディン島滞在中に、妖精の国に戻りたい』とささやかな願いを呟く。


 ここで、窓の外がふっと白くなり、タンクラッドは同時に外を見た。『イーアン』窓辺に寄った数秒後、イーアンが戻ってきて、窓から入る。



「おかえりなさい。すみません、出払ってしまって」


「いい。お前たちも忙しないな。どうだ、状況は。まだ総長たちは戻りそうにないのか」


「うーん・・・もうちょっと、かも。夜の暗さ、足元も悪い中で動くに、宿の人たちも限界です。もう少し粘ったら、皆、戻ると思います」


 女龍の報告に彼女を労い、タンクラッドは白い角を撫でながら『実はな』と出先での話を始めた。


 唐突で急な報告。だが、親方がすぐさま伝えようとした意味を、イーアンは理解する。隣に立つシャンガマックが、腰袋から流木の切れ端を取り出した時、イーアンも目を眇めた。



「それが」 「死霊、と言っていた」


 褐色の騎士の言葉で、これにサブパメントゥは関係ない、と知る。また面倒が増えたとイーアンの顔に出て、親方も騎士も頷いた。



「魔導士に見せようと思ってな。残留思念を読めたら、情報が増えるだろ」


「ああ、それで・・・うーん、では。どうかな、聞いてみても」


「魔導士を呼んでくれるか?」


「あの、いえ。彼の前に、似たようなことをするダルナに聞いてみようかと」


 何やら思い出した女龍は、不思議そうな顔を見上げ、『バニザット・・・魔導士のほうね。彼よりダルナの方が、私には呼びやすいので』と親しいダルナに聞くことを提案。




 そして、その場で―――


 ふわりと、花びらが部屋に落ちる。花びら?と肩に乗った白い花弁に瞬きする親方。顔を綻ばせる妖精の騎士。魔法か?と呟いたシャンガマックに続けて、赤いダルナが窓の外に浮かんだ。


「目立ちませんか」


「枝の上だから見えないよ」


 開けたままの窓枠に身を乗り出したイーアンが気にしたが、レイカルシ・リフセンスは軽く答えて、下方に長い首を回す。表の庭に植えられた木は枝葉が多く、レイカルシの大きな姿も影になる。


「用事は?」


 女龍の奥に、男三人がいるのを見て、ダルナは用件を尋ねた。この時点で、誰かが死者の声を・・・()()()()()を受け取っている、レイカルシにはそれが伝わっていた。



 *****



「じゃ。また」


「はい。すみませんが宜しくお願いします」


 数分後、結論が出て、赤いダルナは帰った。シャンガマックの持ち帰った木片は、レイカルシに預けられ、レイカルシは『木片を辿ってみる』と、話はまとまったから。



「レイカルシを呼んで良かった。シャンガマック、あなたに()()()()()とは思えないですが」


「いや、買い被らないでくれ。情けない。俺は気付かなかった」


「俺も何も感じなかったからな・・・フォラヴもだろう?」


「私も分からないことは、度々あります。何が違うのかも、突き止められず仕舞い」


 イーアンがホッとし、シャンガマックは頭を掻いて溜息。親方も首を傾げて、フォラヴは友達に『混じりものや、遮りが増えるから』と慰めた。



 要は――― 呪われたわけではないにせよ、死霊を封じたことで、シャンガマックは恨まれる対象にされていた。


 恨まれて何をされたわけではない。だから、シャンガマックは気付かなかったし、側にいた親方も『発信されたなら、別だったのかもな』と、全く感じ取れなかった理由を推測した。



「面倒だな。あの木片の中で、死霊がお前を恨んで喚いてたわけだろ?」


 気付けないなんて、それが面倒だと親方は言う。認めるシャンガマックも『これまでと違う質』で、他に似たような性質のものを知らない。


「レイカルシは、死者の声を聞きます。思念の類でしょうけれど、死後にギリギリまで残る、そうした声を、彼は感じ取る気がしました。

 あの木片に詰められた死霊は、離れていてもレイカルシが反応するくらい・・・()()()()()ようだし」


「騒いでいても、木切れから出られなかったのは、シャンガマックの封じ魔法が強力だったからですよ」


 イーアンに続けて、フォラヴが微笑み、肩を落とす友達の背中を撫でる。苦笑するシャンガマックは、フォラヴに礼を言い、一先ず四人は、ここで話を終わりにした。



「私はドルドレンたちを迎えに行きます。町の中心で人の声が増えているので、交代しているかも」


 再び外へ出た女龍を見送り、男三人も休む挨拶を交わし、それぞれ引っ込む。


 入るなり、部屋の影に現れた獅子に、シャンガマックが報告を聞き、報告し・・・この内容は、また後で。


 一階へ降りたフォラヴも、宿のカウンターに『そこで休みます』と一筆書いた紙を置くと、ホールの長椅子に横になる。総長たちが帰るまでの、休憩。


 タンクラッドは部屋に残り、落ち着かない町を窓から少し眺めた後、コルステインを呼んだ。暫くして、青い霧が部屋に漂う。



『コルステイン。忙しかったか』


 話しかけた親方の前、青い霧は人の姿に変わり、コルステインは少し首を傾げると『見る。する?』と質問に質問で答えた。


『何かあるのか?』


『これ。お前。探す。したい。言う。これ。そう』


 これ・・・と伝えたコルステインは、タンクラッドの額に頭を寄せ、こつんと自分の額を当てた。月光色の長い髪がタンクラッドの顔の脇に垂れ、大きな青い海のような瞳が、じっと見つめた。


 流れ込む、コルステインを通した風景・・・・・ 『これ。そう』もう一度、同じことを伝えたサブパメントゥに、タンクラッドは『まさか』と驚いた。



『海の。古代の海の水か?この海は』


 回転の速い親方は、見せられた風景と、自分の頼み事の接点に気付く。コルステインは小さく頷き『そう』と肯定。


「本当か?なんてこった。じゃ、あいつらの武器は『古代の海の水』を潜った代物で、俺たち相手にも貫通すると」


『タンクラッド。頭。話す。声。ダメ』


 驚きで口走ったが、聞こえていないコルステインに注意され、慌てて頭の中で繰り返す親方に、サブパメントゥの表情は曇り、否定しなかった。



 コルステインが調べてくれた、弾丸の秘密――― それは、門外不出のグィードの海にあるはずの、あの混沌の水。



 この一時間後。ドルドレンたちが戻り、フォラヴが起こされて労い、遅い夜だからと、報告も翌日に回し、誰もが部屋に入った。


 イーアンは眠っていないのもあり、あっという間に寝息を立てる。本当は・・・ドルドレンに話したいことがあったのだが、今すぐ動けないというのもあって。


 以前、初めてティヤーを訪れた漁村。フーシャ・エディットが心配になった、そのことを。今日のタンクラッドの報告で、気に掛かっていたあの漁村が過った。とはいえ、心配する端から見に行くことも難しいのが実情。


 眠るイーアンの側、ドルドレンも汚れた服を着替えて横になる。実のところは、ドルドレンもずっと、自分が知る唯一の『ティヤー』の思い出、その場所を気にしたまま。


 ミレイオは地下へ戻って、シュンディーンと眠り、オーリンは部屋に入って・・・模型船の様子を確認してから就寝。


 ルオロフもへとへとで部屋に引っ込み、クフムもあてがわれた部屋に入るなり、死んだように眠る。


 タンクラッドも疲れていたが、コルステインから受け取る情報が深刻で、寝るに寝れず、そして短い夜は過ぎて行く―――

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