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魔物資源活用機構  作者: Ichen
ティヤー開戦
2471/2962

2471. 死霊の木片 ~②死霊憑きの魔物・離島の鍛冶屋『ピンレイキ』

☆前回までの流れ

タンクラッドとシャンガマックは、魔物が始まる前に接触した、南の剣職人に会いに行きました。でも、その時はすでに手遅れ。剣職人の家も周囲も魔物に襲われ、トゥとタンクラッド・シャンガマックは退治したのだけど。

今回は、シャンガマックが片付けた『親玉』その奇妙な話から始まります。


※休みが増えて本当に申し訳ありません。PCの不調も加わり、連日投稿が難しくなりました。

投稿できる時に出しますが、二日三日の間は開かないよう気を付けます。どうぞよろしくお願い致します。

 

 ―――この近辺、全てが襲われ、生き残った住民は、崖の洞穴に逃げ隠れていた。


 人の気配を辿ったシャンガマックは、崖の少し下がった位置に横穴を見つけ、あの中かと見当をつけたが、側まで行かず、崖上から大声で『魔物を倒した。生きている者はいるか』と呼びかけた。


 しかし人々は出てこない。自分も怪しまれているかもと、伝えるだけ伝えたので、仕方なし踵を返した。


 この時、シャンガマックは既に、忌まわしい木片の処置済。

 それも話してあげようと思っていた。ただここではまだ、『何かの呪いを発していた木片』としか、知らなかったのだが。


 立ち去りかけた背に、『倒したのは、魔物だけか』と問う、誰か。振り向くと、中年女性に支えられた老人がこちらに来る。


 洞窟から出てきたらしく、見れば、他の者も穴から顔を出している。

 シャンガマックは全員に聞こえるよう、大きな声で『魔物と、魔物の原因だ』と木片を持った手を前に出した。


 木片自体は小さく、夜の暗さに見えないにしても、彼らが何か知っている気がした。


『禍々しい呪いは、俺が封じた。ここへは知人に会いに来たが、魔物に襲われてしまった』きちんと処置したこと・来た用事を併せて伝えると、『そこで待っていてくれ』と老人は頼み、よろける足取りで小道の坂を上がる。彼を脇で支える中年の女性は、老人の弱い足取りに気を遣う。


 シャンガマックのいる、崖上まで上がった老人は、足を止めずに間近まで来て『死霊を()()()()()()がいるのだ。魔物と死霊が混じった』と騎士の腕を掴んだ。その手は震え、老人の白濁した目は怯えていた。


 死霊は、どこにでも当然ある『墓』から呼ばれる。


 生前に知っていた者へ引き寄せられ、襲う。呼び出すには墓に棒を差し、呪いを伝える。死霊が動くと、墓の家系の者はそれを感じるらしかった。


 少し、事情を知ることのできたシャンガマックは、避難して隠れた人々以外は、恐らく魔物に殺されてしまったことを伝えた。


 老人の傍らにいた女性は涙を堪えていた。彼女だけではないが、親族の墓から『死霊』が出て、それが人々を襲ったことを苦しんでいた―――




「・・・死霊だと?なぜ、壊さないんだ」


 シャンガマックの話を聞いた親方は、『封じるだけでは危険だ』と木片を懸念する。褐色の騎士は、木片を受け取りながら、首を横に振った。


「何が起きたか。俺は、()()()()の魔法を使えないので、知る由ありません。でも、老人の話だと、同じことが起こる気がします。これを調べようと思います」


「それは、トゥに?」


 タンクラッドは肩越し、後ろにいるダルナを親指で示した。だが、トゥはあっさり『人間じゃない』と断る。


「そうなのか?場所や物に残った、()()()()()を読むと思ったが」


 意外そうな親方に、ダルナはゆらっと頭を揺らして、騎士の持つ木片に視線を向ける。


木片(それ)に残っている()()は、人間じゃない・・・俺はそう言ったんだ。タンクラッド」


 トゥの返事に、気づく二人。目を見合わせ『死霊、だからか』と呟くと、トゥは『思念とも違うな』と付け加えた。


「土の記憶を読むなら、スヴァウティヤッシュがいる。だがあいつも、死霊はどうだか」


 能力的に可能性があるダルナの名を口にしたが、トゥの二本の首が傾いていて、その様子は『お勧めじゃない』印象。



「そうなると。俺が思い当たるのは、()()()()です」


「俺も、その男くらいだ」


 騎士と剣職人は同じ人物(※あの人)を思い浮かべ、一先ず、この木片を持ち帰ることにする。だが、宿に戻るのではなく、この前行きそびれた、もう一つの剣工房も状況を見に行こうと話し合った。



「この前は、()()()()だったからな。夕食時の僻地環境を配慮して、訪問は避けたが」


「夕食の最中であれば、今は・・・()()なんですけれどね」


 二人は不穏を感じながら、次の目的地へ行く。トゥに乗り、瞬間移動―――


 既に、次の場所も駄目かもしれない。

 ・・・紹介状を入れた腰袋を気にし、生きていてくれと願いながら、タンクラッドは移動先を見下ろした。



 *****



「この島も・・・襲われたはずですよね」


 トゥから下りたシャンガマックは、夜の島の暗さに目を凝らしながら『その割に、破壊された感じがない』と呟く。点々と先に見える民家の明かりは、数秒前の惨殺光景を薄れさせる。



「イーアンが、イングと再現で回ったのは、こうした僻地のような、()()()()()が中心だったと・・・そうか、お前は報告の際、サネーティと船内にいたから知らないか」


 銀のダルナに空で待つよう言い、タンクラッドは歩きながらシャンガマックに教える。頷く褐色の騎士は『ではこの島も対象だったのかな』と、民家の暖かい灯りを見た。


「理由はあるんですよね?ティヤー全体を再現しなかった、何と言うか。イングの魔力の問題ですかね」


「違うな。魔力の限度は無論あるが、アイエラダハッドの広さでも、イングは再現したんだ。ティヤー開戦の打撃で、再現の選別をしたのは『あの関係』まで、再現させたくなかったからと、イーアンは言っていた」


「あの・・・関係。もしや」


 ちらっと見たシャンガマックに、親方は彼を見下ろし『そう。腐れ坊主だ』と短く答え、民家の敷地に入ったところで、足を止めた。



「時間は()()()だ。ここは魔物が出た後でも、家に明かりがついて、今は食事をしている、と思えなくもないが。バニザット」


「失礼しましょうか」


 頷き合って、二人はそのまま敷地を進み、暗くて見えないが、庭らしき広さを横切り、奥の木々に囲まれた一軒の家屋の前に来た。


 ティヤーは、木造の家屋が普通なのか。潮風でやられる環境、採石が難しいなどの理由か、ここも他と同じく簡素な木造。シャンガマックが扉をノックする間、親方は『この家の造りでは、魔物を防ぐのが難しい』と感じた。


 扉を叩いたすぐ、中で物音がして人の足音が近づく。明かりの見えた窓から玄関まで、少し距離があるが、住人は気付いて、その足音も急ぐように早く、数秒後には扉が開いた。


 誰かの確認もなく。ばたんと外へ開けられた扉。


 おっと、と一歩後ろに下がったシャンガマックに、家の明かりが当たり、扉影に立つ親方は、ちょっとそのまま様子見。


「あ・・・ 」


 住人の最初の言葉は、相手が()()()といった具合。

 だが、開けた扉から手を離した住人は『どうしましたか』と、訪問者に訊ねた。この親切―― 意外な対応に、親方は少し興味を持つ。


 シャンガマックは、タンクラッドから渡された手紙を見せ、『あなたを紹介された者で、この大変な時に押しかけて申し訳ないが、話を聞いてもらうことは出来るか』と用件を告げた。



「トナから?」


 トナ、とは殺されてしまった剣職人の名で、頷いたものの、褐色の騎士はいたたまれず少し目を逸らす。


「トナは無事ですか?あなたは・・・手紙に『ハイザンジェル』とあるけれど、ハイザンジェルの人?」


「そうだ。国の派遣で、()()()()を普及する。俺は、バニザット・ヤンガ・シャンガマック・・・ 」


「俺は、タンクラッド・ジョズリンだ。すまないが、トナは魔物の犠牲になったことを、先に伝えておこう」


「え?トナが?まさか、いや、え?本当に!?」



 すっ、と光の当たる戸口に姿を現した、背の高い男が続けて名乗ったかと思いきや。彼の口から、知人が死んだと知らされて、住人の顔が引き攣る。


 二人の訪問者と手紙に視線を動かし、住人は息切れし、苦し気に呻く。何も言えないシャンガマックは、『悪い報せを持ち込み、すまない』と謝り、タンクラッドは『助けようとしたが間に合わなかった』と続けた。



 ここの住人―― 彼は、背丈がシャンガマックより、頭一つ分低い。肩幅があり、胸や腹が厚く、腕も、手もがっしりとして、金属を使う職人といった体格。無精ひげが疎らに伸び、少し太った中年・・・・・


 彼は、知人の死に衝撃を受け、少し黙っていたが、顔を上げて『中へ』と急な客を通した。


「魔物が出たから、知り合いの無事を祈りましたが・・・トナが死んでしまったなんて」


 客と廊下を歩きながら、何度も溜息を吐き、手で顔を拭う彼は困惑著しく、客の素性を疑うことも、自己紹介も忘れた状態で、自分の作業部屋へ二人を入れる。


 そこは、作業部屋と居間が一つになった雰囲気で、板張りの床には、柄違いの大きな敷物が敷かれ、部屋の意味を二分(にぶん)していた。青基調の敷物は、居間。赤茶基調の敷物は、工房。


 工房―― 作業部屋は、壁に沿って手作りの机が幾つも並び、工具や材料、卓上に据え置かれた棚の多さが、彼の細かな仕事を物語る。

 奥にも部屋はあるようで、壁扉はないものの、そちらは暗く、角度がついていて見えない。


 客はランタンの灯る側、しっかりした古い時代の椅子を勧められ、職人は作業部屋の素朴な椅子を、自分用に一つ運んだ。


「急に来てしまったが、あなたが食事中だったなら、食べてきてほしい」


 シャンガマックは室内を少し見渡して、そう促したが、相手は首を横に振り『食べていたわけではないから』と気力の薄れた返事をし、訪問者を椅子に座らせる。

 そして自分も、作業椅子に腰かけたところで、ようやく『名を伝えていない』と気づいて顔を向けた。



「すみません。名乗っていませんでした。私はサンキー・パダイです。工房は『ピンレイキ』・・・ はぁ。トナの他にも、死んでしまった人は多いだろうか。

 実は今日、隣島の漁村から、親戚の荷物が来る予定でした。魔物が出て、それどころではなくなり、船が出せないと考えていたので・・・あなた方が訪れたのを、荷物かと思いました。でも違って・・・あなた方が『何かを報せに来た人』と思い直したら」


 名乗った後に、先ほど戸を開けた理由を話し、サンキーは項垂れた。言葉が続かない。


 シャンガマックとタンクラッドは、彼が知人の死に大きな衝撃を受けているので、長話は控え、短く用件を伝えることにした。



「サンキーさん。自己紹介は、その。手紙を受け取った時も、名前を教えてもらっていたので、謝らないで。押しかけた、見ず知らずの俺たちを入れてくれて、感謝する。

 ・・・とても辛い心境なのに、話して良いか迷うが、次いつ会えるか分からないから、話を」


「え?はい、申し訳ない。混乱して・・・どうぞ話して下さい。国の派遣、と言っていましたね。()()()()とは何ですか?トナが私を紹介したのは、手紙には『伝統の剣について話してほしい』と・・・あるけれど」


 開封した手紙に、トナとまた友の名を呟き、サンキーは眉間を指でつまむと、泣かないように少し黙ったが、すぐ面を上げ、止めてしまう状態を詫びた。シャンガマックとタンクラッドは、苦しむ男を気の毒に思いながら、簡潔に内容を説明し、トナが託した言葉も伝える。



「そうでしたか・・・トナの知識は素晴らしかったですが、()()などは手掛けませんでした。私はこんな小島で、細々と生業を続けているだけで」


「復元?」


 ちょっと引っかかった一言に、親方が話を遮る。サンキーは、目つきの鋭い男に『私は小さな鍛冶屋なので、余暇も多い』時間があるからの復元・・・そう、理由を添えたが、タンクラッドの関心を引いたのは違う部分。


「サンキー。()()()なのか。剣を作るわけではなく?トナは、あんたが鍛冶屋とは言わなかったが」


「そうかもしれない。トナはよく、『お前は武器屋』と私を揶揄いました。本職は鍛冶屋ですよ。鍋でも調理器具でも、工具でも、船の部材でも作ります。だって、こんな島ですから、何でもしないと」


「その、『武器屋』の意味は・・・ 」


 今度はシャンガマックが窺うように尋ね、サンキーは少し体を逸らせて、奥に続く作業部屋に片手を向けた。


「あれが見えますか?角度で見えないかな・・・来て下さい。壁に掛けてあるので」


 説明は見せる方が早いと思ったか、立ち上がった職人は二人を呼び、戸のない隣の部屋へ進んで立ち止まる。


「うわ」 「なるほど。武器屋か」


 明かりは手前の部屋だけついていたので、奥の部屋は暗いまま。だが壁に掛かった作品は、ほんの僅かな光でも迫力ある光景を見せつける。騎士と剣職人の目を釘付けにした、小島の職人の『余暇』の産物。



「ティヤーの海は、()()()()()が、たくさんありまして・・・ たまたま、近くの島で発掘していた学者と話したのが、制作のきっかけでした。それ以降、年に二度くらい、こっちまで来る考古学者が教えてくれるんですよ」


 これからは来ないかもしれないけど、と声を落とす職人に、シャンガマックもタンクラッドも彼の胸中を察する。


 サンキーの解説は素朴そのもの。もし、こんな厳しい事態ではない時に訪れたなら、彼はこの、見事な作品群の紹介に、少し胸を張っただろうか。タンクラッドは、彼を慮る。タンクラッドが見ても、彼の『復元』は非の打ち所がないものだった。


 今のサンキーが、壁一面の芸術―― 古代の剣に向ける眼差しは、この時、とても辛そうに見えた。



 *****



 島の名は『ピンレイミ・モアミュー』とやや長めで、この名をつけたのは海賊。古い呼び名で『海藻の町』を示すらしく、サンキーは二人の客に『大昔に沈んだ町の名残』と言う。


 その伝説が島にあるわけではなく、漁村に来た海賊が教えたことで、島民は受け入れている。


 ・・・余談だが、島民も海賊側ではある。しかし生業は、漁師や卸、船関係、サンキーのような手仕事が主のため、船を出して戦う・奪うなどの日常はなさそうだった。それはさておき。


 シャンガマックがティヤーの言葉で話すので、サンキーも、ティヤーの言葉で返していたが、親方は共通語を使ったため、サンキーは共通語に合わせた。


 ただ、サンキーの共通語は、子供の頃に覚えたもので、単語が多く文法が難しい。会話は、ティヤー語と混ぜながら進み、二人は鍛冶職人と『契約』的な話まで取り付けた。



「トナは、偏見のない男でしたから。そして、本当に剣が好きでした。だから魔物製品で魔物と戦う手伝いをしようと思ったのでしょう」


「そういう感じだったな」


 帰り際の玄関で、サンキーの思い出に頷くタンクラッド。


 今日、船に集めた魔物の鱗を、一片持参していたので、それを先ほど彼に預けた。彼は魔物の鱗を手に、じっと見つめて『私はトナの心を続ける』と答え、契約に繋がった。


「あなたたちも、ハイザンジェルで魔物を倒し、それを使って、憎い魔物を倒そうと立ち上がった。その話を聞けて良かったです」


「サンキー。次に来る時は、もっと材料を運ぶ。無事を祈っている」



 二人は職人と握手し、夜分に来たことをもう一度詫びてから、外へ出る。


 島は小さく、住人は百人もいないようだが、真っ暗になった島のあちこち、ぽつぽつと小さな灯りが目に入り、少なくともここは、魔物の被害が深刻ではなかったと感じた。


 海岸へ戻る間、シャンガマックとタンクラッドは静かな会話を続け、海に張り出す岩礁でトゥを呼ぶ。銀のダルナが現れ、二人を乗せ・・・二人はアンディン島へ。

お読み頂きありがとございます。

今年は本当に不安定で休みも増えて、申し訳ないです。

PCがフリーズするようになり、だましだまし使っているのですが、本当に進まないので連日投稿が難しいです。

でも、できる時はすぐに投稿しますので、一日置きも増えるかもしれませんが、二日、三日と開かないよう気を付けて投稿します。

前書きも添えるようにします。いろいろとご不便をおかけしてすまないのですが、どうぞよろしくお願い致します。



挿絵(By みてみん)


上の絵が、ピンレイキの工房イメージです。

いつも、いらして下さる皆さんに、本当に本当に感謝して。

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