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魔物資源活用機構  作者: Ichen
ティヤー開戦
2470/2962

2470. ペジャウビン港から宿へ・南部ティヤーの剣工房・死霊の木片①

☆前回までの流れ

ティヤー、二つめの島・アンディン島へ向かう船の時間。サネーティの巻物を受け取り、順路を決定し、シャンガマックは特別に『衣服に因む地図』も貰った後。魔物が出て、イーアンたちは応戦。数も多く、材料になる魔物を、倒した後に回収して夕方。

今回は、港に入った場面から始まります。


※申し訳ないですが、明日もお休みします。進まないため、明日、明日以降もお休みがあるかも知れません。その都度こちらの追記でお知らせします。


 

 夕方に入って来た船を迎えたのは、海運局の職員だった。正確には、迎えるというよりも、交代。


 何にせよ、巨大な龍じみたものと(※トゥ)、北部で有名な黒い船・アネィヨーハンを連れて戻った仲間に、職員たちは誘導しながら、甲板と波止場で声を交わして事情を聞いていた。



 大声で伝え合う報告はティヤー語なので、ドルドレンたちはさっぱり。


 シャンガマック、ルオロフ、クフム、そしてサネーティは、波止場と青い船のやり取りを、側にいる皆に説明した。サネーティは勿論、イーアンにぴったりくっついて。


 目の据わった女龍の首振り運動(※とりあえず応じる)が、自分に引いているからなんて、どうでも良いサネーティは、通訳しながら『もうお別れです』『次に会うまでがツライ』と嘆きを挟んでは、女龍の背中やら肩やら角やら、べたべた触って名残惜しんでいた。


 仲間は、イーアン仏頂面を気の毒に思うものの、『サネーティは信者』と仕方なし、見守るだけ。触りはするが、いやらしい感じではなく、本当に慕っているだけなのは分かる。


 そして彼は呪術師という()()()仕事だけに、生きた信仰対象との時間は、かけがえないのかも、と変に理解が深まっていた。テイワグナで散々『崇拝』を見たから慣れた、とも言う。



 普段ならイーアンにくっつく男を払う、ドルドレンとタンクラッドもまた、彼の大袈裟で煩い状態に、ずーっと顔を顰めていたが。

 イーアンも諦めているし(※払ってもくっつく奴だから)、サネーティはここで別れるので、極端にならなければ・・・と、見張る程度で済ませた。


 フォラヴやシャンガマックも、これに同じ。イーアンは龍だけれど、その前に女性である。彼の接触があまりに過剰ならば、止めようとは思う。ただ、自分たちが行く前に―――



「はー」


 なれなれしい知人を、腕組みして睨み続ける、赤毛の若者の溜息。


 彼がサネーティの真横にいるから、多分自分たちが動くより早く、ルオロフが止めるだろう。彼の気持ちもあるし、自分たちが出る幕ではない気もする。



 ルオロフはサネーティが、自分の紹介した相手であることに、とても責任を感じていた(※こんなだと思わなかった)。


「サネーティ。イーアンは女性だぞ。ウィハニの女として崇拝するのは、触ることじゃないと思わないのか?お前はずっと触りっぱな」


「うるさい、ウィンダル。女性だが、ティヤーの()()()でもある。母に出会って触れずにいる男が、どれくらいいるんだ」


 母って・・・クラッと眩暈がするイーアン。ルオロフは知人を睨んだまま、可哀相なイーアンを背中に回し『最後の最後まで。いい加減にしろ』と叱った。

『心外だ』と声を上げ、サネーティが貴族の若者の肩を掴もうとした、その小競り合い半ば。



「降りるぞ」


 切り立つ崖の影に入る港は、もうすっかり暗くて、港は松明の光で明るさを保つ。


 言い合いを止める形で親方の声が飛び、船に掛けられた舷梯を、皆で下りた。アンディン島の海運局から、機構の用で発信する書簡もあるため、数日の滞在予定。魔物材料は船に置いたままにし、他は下ろす。


 タニーガヌウィーイの部下と、海運局職員が馬車と馬を船から出す間、皆は、宿泊先の場所を確認する。序に、明日からの予定も大まかに打ち合わせを進め、それにより、タニーガヌウィーイが明日も付き添ってくれることに決まった。


「明日の仕事が終わったら、俺はタジャンセに戻る」


「そうか。これを持って行ってくれ。この鱗は―― 」


 馬と馬車が波止場に下りたのを横目に見て、丁度打ち合わせの済んだところで、ドルドレンは布の袋を局長に渡す。これは何だ?と受け取りながら尋ねる局長に、ドルドレンから鱗の使用方法を説明。局長、驚く。


「これが?本当か」


「何度も、多くの民の助けになってきた。使い切りだが、タジャンセの皆に渡してほしい」


 ごつごつした手を袋に突っ込む、局長。さらっと、指の隙間を零れた、青紫色の艶やかで小さな鱗、数百枚。

 暗い港を照らす松明と、弱い残照の中でさえ、異質な輝きを見せるそれに、タニーガヌウィーイは目を瞑る。


 そして、袋の内でも目立つ。手の平ほどの大きさを持つ白い鱗を一枚摘まみ、自分を見ている女龍に顔を向けた。ニコッと笑った女龍に『有難うな』と局長も髭の口元を緩ませた。



 忘れない内にと渡した鱗の話も終わり、馬車と馬の準備も出来たので、一行は馬車に乗る。ここではクフムの馬がいないのだが、それは局長が『馬、一頭貸せ』と海運局職員に命じ、難なく馬を得た。


「どうせ明日、局に戻すんだ。手前で貸し馬を借りればいい」


「何から何まで済まない」


 総長がお礼を言い、すみませんと小さく呟くクフムは馬に跨り、宿へ出発する。局長は、その場で反対方向の局へ・・・行くのだが、ここまで静かだった一時が、あの声に破られる。


「イーアン!!また会いましょう!また、絶対にっ」


「あ。忘れていた」


 ビクッとして、御者台から顔を出した女龍。

 ドルドレンの横に乗った矢先、後ろの船に移ったサネーティが、叫ぶように別れを告げ、イーアンは『見えないと思うけれど』と一応、手を振った。降りてまで別れをする気はない。


 船が遠ざかる間、妄信的な男の別れは延々と響き、皆は苦笑して離れる。


「お疲れ様である」 「ええ。控え目に言っても、ぐったり」


 ハハハと笑うドルドレンに目を眇め、イーアンは『あなたは前なら怒っていたのに』と文句を言い、ドルドレンは奥さんの肩を抱き寄せて『あれは仕方ない』と、サネーティの妄信ぶりを認める。



 ぶつくさ言う女龍を宥めながら、一行の馬車は港を後に、教えてもらった宿への道を進む。この間、島の通りの一本目を抜けてから、ずっと・・・被害が大きかった風景を見続け、皆の口数は次第に減った。



 *****



 船が停まった時から――― トゥの姿は、既になかった。


 いつ消えたのか、人も多かったのに誰もそれを知らず。タンクラッドには、よくあること。トゥは人の思考を潜るように動くから。


 操られているのとは違うのだろうが・・・似たような能力だなとは思う。



 宿に着いた、夕暮れも終わり。幾つかの箇所で迂回し、宿の場所をクフムが町民に訊ね、確認しながらどうにか到着した。


 アンディン島は大きな島なので、イングによる再現のないところが目立った。道も建造物も、破壊の跡がある。

 崖山の多い島だけに、崩落した大きく広い面積の崖は再現されていたが、日常に支障をきたす状況はそのままだった。


 島のどこかしらで、常に魔物に脅かされる日常に変わった島で、宿に入った一行は、宿泊費を支払う前に宿屋の主人に相談される。


 ドルドレンがカウンター前で、片手に宿泊費の袋、片手にルオロフ付きで、宿の主人の悲痛な声を聞く間。



 馬車に残ったタンクラッドは身支度を済ませ、荷台を降りる。馬車の扉側に、褐色の騎士。さっと暗い周囲を見渡し、シャンガマックは『行くなら今ですね』と親方を急かした。


「そうだな・・・しかし、ここまで来ちまうと、トゥを呼ぶにもちょっとな。アンディン島は被害前の再現がなかったようだし」


「トゥが来たら、きっと頼られます。今、中で総長も頼られているし」


 少し歩いて、目立たない場所へ移動しよう、と二人は決め、タンクラッドとシャンガマックは宿の裏庭から出た。


 火事の始末が間に合わない建物も、点々と見える、壊れた道。魔物が出れば倒すが、今の自分たちは急がないとならず、救助手伝いをしたくなる心を抑え、目立たないように、人のいない方いない方へと足を速めた。



 崖山の周辺は、危険とされて近寄らなさそうだ、と目安をつけ、民家の脇を抜けながら、傾斜する坂を上がった先で、丁度良い場所に入る。


「タンクラッドさん。ここで」


 崩落したからか、欠片はゴロゴロと道に転がっていたが、張り出して頭上を覆う崖の先端、その真下は細い道こそ元通りであるものの、人の姿は皆無。真っ暗なそこは、トゥが空に現れても問題ないと判断し、親方はダルナを呼ぶ。



 スッと現れた、銀色の巨体。『乗れ』とトゥは主に言ったが、並ぶ褐色の騎士の躊躇いを見て『お前の親は』と質問。いつも側に獅子がいるのに、気配も思考も感じ取れない。騎士はちょっと頷いた。


「今日は、一緒じゃなくて。彼は来ていないんだ。だから、俺も良いだろうか」


「お前の親が煩くなければ、問題ない」


 トゥの返事に親方が失笑し、シャンガマックも苦笑して『有難う』と大きな首元に飛び乗る。少し時間が掛かったが、これで南へ瞬間移動―――



 しかし、この『少し時間が掛かった』ことを、数秒後に二人は悔やんだ。



「バニザット!そっちを!トゥ、焼きはらえ!」


「タンクラッドさん、奥にもいます!」


 南の小さな町・剣職人の工房へ着いたや否や、襲われたばかりの光景に目を丸くした。


 飛び降りたタンクラッドは、家を襲う魔物に、人の悲鳴を聞いてシャンガマックに命じ、トゥに魔物の群れを任せ、自分も離れの工房に走った。


『こっちに、工房の』母屋から敷地を挟んだ、離れの工房に急いだタンクラッドは、家屋を壊しかける魔物に剣を突き立てる。


 魔物は人間じみているが、体が二つ三つ重なった大型で、暗がりの中、何との混合か分からない。だが頭があるので、突き立てた剣をそのまま上に滑らせ、相手の腹から首の付け根まで掻き切った。


 勢いで倒れかける魔物は、タンクラッドの金色の剣を鷲掴みしたが、その瞬間、時の剣の渦が吹き上がり、魔物は砂になって消えた。



「龍気の面。あって良かった。俺の龍気だけでも使えるだろうが」


 タンクラッドの時の剣の渦は、工房の裏手と側面にも見えた影を呑み込み、小さな裏山に潜んでいた魔物も崩す。一体、一体、剣で倒すには、時間が掛かり過ぎる。



「工房主・・・どこだ。無事だろうか」


 魔物の手応えがなくなったすぐ、タンクラッドは剣を鞘に戻し、半壊して屋根の落ちた工房へ入る。明かりがついていたから、ここに人が居るとは思うが。偶然、留守で母屋に戻っていてくれたなら。


 そう思った時、タンクラッドの小さな願いは終わる。倒れた棚の下敷きになった被害者の手足、その手足の一部が取られて、血が広がっていた。


 間に合わなかったかと重い息を吐く。ランタンと蠟燭は、揺れた壁の倒れなかった方にあり、火災は免れていたが、人は犠牲になった。胴体と頭が棚の下なので、タンクラッドは遺体の確認も出来ない。


 側へ行き、しゃがみ込んで『すまん。間に合わなかった』と謝った。倒れた棚から落ちた物が散乱する部屋を見渡し、他に犠牲者がいないかと思ったが、ここにはこの男一人だった。


 火事が起きてはいけないので、蝋燭とランタンを消す。タンクラッドは離れの工房を出て、母屋へ戻る。



 シャンガマックの緑の礫が、夜空にキラッと最後に光った後、林越しに見えた巨体がこちらを向き『建物にいた人間は皆、死んでいた』と頭の中に報告が響いた。



 この剣工房は、タンクラッドとシャンガマックが最初に訪れたところで、次の職人に紹介状を書いてくれた職人がいた。彼は魔物製品の制作に、懸念も否定も示さず、ちゃんと耳を傾け、『剣はひたすら守るためにある』と賛同してくれた。


 その工房主は、母屋で殺されて、離れにいたのは彼の兄弟。彼の家族も母屋で、夕食時に襲われて絶命した。タンクラッドたちが着いたその時が、彼らの命が断たれた時だった。



 タンクラッドは、側に見えない褐色の騎士がどこか、とトゥに訊き、『向こうまで見に行った』と彼が近隣の魔物退治に出たと教える。


「まだいるのか」


「魔物の群れの、親玉を封じると」


 そうか、と答えたタンクラッドは、トゥが手出ししないことは何も言わなかった。トゥは、主の命令に沿う。自分の言われたことをこなしたダルナは待ち、シャンガマックは近隣へ動き・・・


 待っていると、間もなくして騎士は戻ってきた。



「バニザット、親玉は?」


「そうですね。なんか変だと思ったので、見に行って正解でした」


「何か・・・気になったのか?」


「これを。これが、()()でした」


 側へ来た褐色の騎士は、手に一本の木片を持ち、それをタンクラッドに見せる。それは、特に何の特徴もない木片で、強いて言うなら流木の切っぱし。ただ、手に取った途端、妙な痺れを感じた。


 親方の眉根が寄った顔に、シャンガマックは正体を教える。


()()です」

お読み頂き有難うございます。

明日もお休みします。今日中にまとまらず、休みが増えて申し訳ありません。どうぞよろしくお願い致します。

タンクラッドが倒した魔物の絵を描きました。


挿絵(By みてみん)

大きさは、3mちょっとです。

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