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魔物資源活用機構  作者: Ichen
ティヤー開戦
2469/2962

2469. アンディン島行きの時間 ~退治と材料・修道院の危険物・魔物回収・入港

※明日8日の投稿をお休みします。どうぞよろしくお願い致します。

物語を書いて調整するので、もしかすると、9日も休むかもしれません、その時はこちらで追記のご連絡をします。

 

「サネーティ、今の内に」


「分かっている。君は何者だ?」


 金の粒子を纏う、緑色の結界を張ったシャンガマックは、サネーティの仕事の続きを促す。

 どうやら守られ方がハンパなさそうだと、理解したサネーティも了解し、引き続き作業の手を進めるが。



 船体が揺すられ、焦った瞬間。

 隣にいた騎士が短い呪文を口にし、続けて彼からシュッと光が弾けたと思うと、広がった緑と金の煌めきが壁を通過した。


『シャンガマックの精霊の服、その()()()()()地図』に、説明しながら、詳しい情報を書き足していたサネーティが、凝視した一瞬。


 シャンガマックは何度か、前後左右を見て『ふむ』と感じたものを限定してから、サネーティに作業を続けるよう伝え、驚かれた言葉にニコッと笑った。


「魔物が出た。数は多いとはいえ、皆が応戦している。俺はここだけ守れば良さそうだ」


「ここだけ・・・って言うが。君は、何をしたんだ」


「大したことはしていない。結界を張った。魔物に壊されては困る」


 弱い魔物だろうが、木材を壊す程度のことはするだろうし、と首を傾ける褐色の騎士に、サネーティは呆れた顔で苦笑した。


「君たちの場数は、とんでもなかったんだろうな。結界だって?魔法使いか?やけに逞しい魔法使いだが」


「ハハ、俺より逞しい魔法使いもいる。そう、俺は『大地の魔法使い』と呼ばれる」


 胸を張るも。言いながら、先祖を過らせるシャンガマックは、自慢も控え目で終え、咳払い。呪文を呟き、千里眼の魔法で内部と甲板の前後、周辺を探る。


「うーん。船倉にルオロフとクフムがいる。クフムを隠しに、連れて行ったか。彼は、俺の結界を知らないから、少し慌てているかもな」


 結界を張った時点で、魔物はもう船に触れない。甲板()には、フォラヴ。


 フォラヴは、船を飛び越える魔物を倒している様子。例え、魔物が船に着地しても、結界で弾かれるとは思うが、フォラヴが応戦する理由も何となく分かるので、それはそれ。


 総長も船の周囲。ただ、総長も、手加減しているわけではないだろうが、巡視船に気遣う理由もあるのか、時々・・・切るだけ、の対処をする。その目的を思いつくとしたら。



「『回収』かな?イーアンがいるし、職人たちも揃っている。見せるには、局長もいるし、いい機会なのかもしれない」


 褐色の騎士のおかしな独り言に、サネーティは困惑気味で『いい機会だと?』と繰り返した。


「襲われているんだぞ?魔物相手に、何を()()()()なんて」


「あ、すまない。被害国にいるのに、言葉を選ばなかった。謝る。しかし、魔物を恐れずに倒した続きがあって、それは魔物で装備を作り、民間が立ち向かう手助けとなる」


 思わぬ発言。え、と驚いたサネーティに、シャンガマックは柔らかい笑顔で頷いた。


「なるんだ。少しは話に聞いていると思うが・・・ティヤーの民が、魔物に応戦するための装備を作る、その『材料』は、たった今、倒している魔物」



 *****



 船の周辺と空は、ドルドレンが魔物から守り、オーリンはもう少し遠く。


 海中から襲う、巨大な魚の変形魔物が相手。これは、直に海中へ攻撃をせずとも、ドルドレンの太陽柱が海を貫いた乱反射で、どんどん消滅する。正確には『光』で倒しているのではないが、利きが良い。


 弱い敵なのもあり、ドルドレンは数こそ厄介と思うものの、皆が揃っていることだし、『魔物材料になるかも』といくらか普通に倒すように心がけた。


 数と硬さと獰猛さの魔物は、海岸や浜に入られたら人々に危険だが、毒があるわけではなさそうだし、ここで倒し切ってしまえば、材料として使える印象が強い。


 ドルドレンが切り捨てた魔物は、ぷかっと浮き、体内に内臓もないので、空っぽと分かる。ただ、臭い気はした。


 船の上で戦うフォラヴも、切った側から魔物が、ぼちゃぼちゃ海に落ちるのを気にしていない。なので、この二人は『回収用に退治』を意識した。



 この―― 魚型魔物の大元は、沖ではなく、アンディン島と隣島の間を渡る海域。


 そこか、と突き止めたイーアンが海中へ飛び込んだ後、追いかけていたミレイオは、隣島海岸にも広がる魔物に気付き、そっちを倒しに回り・・・ トゥに乗るだけだった親方は、と言えば。



「手持無沙汰でもないな。俺の仕事は、()()()()にあるもんだ」


「お前たちが向かう『海運局』に、知らせるか?」


 そうしておこう、とタンクラッドは了解し・・・海から少し入り組んだ岸にある、修道院から出た。岸辺に係留する小舟に、院内から運んだものを積む。


「トゥ。舟を向かう先の港、その奥へ隠してくれ」


 紹介に時間が掛かりそうだ、とタンクラッドは言い、誘導する人間(海運局の船)の情報から場所を特定したダルナは、命令に従い小舟を消して移動させた。

 銀の首に跨った親方は、海を振り返り『魔物はもうそろそろ、片付いたか』と呟く。


「港に着いたら、俺たちは南行きだ。シャンガマック(バニザット)も連れて行くし、()()を説明している暇もないな」


「今後も()()()()()進む。今日、説明しなくても問題ない」



 報告で、共有したばかり―― ここの修道院にいた僧侶は、トゥが思考を止めて、木偶の坊状態。彼らは岸辺に、幾つかの『道具』を運んでいた。


 道具・・・それはタンクラッドがあの夜に、イーアンの資料で見た『部品』であり(※2432話参照)、これをどこかへ運ぶと察した。


 組み立てていないが、集めた先で組み立てる気かも知れないので、僧侶の動きを封じてから、修道院を調べた親方は、運び出し最中の奴ら、その手に抱えた箱を一式、奪って持ち出した次第。



「どんな言い訳するやら。だが、裏に古代サブパメントゥが手ぐすね引いている以上、民間を惑わし操って、誤魔化し放題も楽勝だろうからな。言い訳も考えないか」


 銀のダルナで飛びながら、他はないかと下を見るタンクラッド。


 タニーガヌウィーイも『僧侶の荷箱は検問できなかった』と話していたので、大方、神殿関係は回収した道具についても、そうして逃れるつもりだろう・・・ ()()()()を煙に巻けると、信じ切っているはず。



「そう、うまくは行かない」


 二本の首の一つが、少し後ろを向き、乗り手の思考を肯定する。


 タンクラッドの鳶色の瞳がちらっと見て『こっちは、優秀なダルナ付き』と鼻で笑う。、瞬きしたトゥは『()()()とは言わんな』と冗談で返し、主の笑う顔に頷いた。



 *****



 そして、魔物の大元を探し出して倒したイーアンが、水中で『手間取らせやがって』とぼやいた後。


 濡れたわよっ!着替え少ないのに!と、ブーブー言いながら海面へ上がり、空を舞うオーリンに手を振って、『終わり』を知らせ、オーリンが皆に伝えに行き、この界隈に出ていた魔物を倒し切った皆は、船に戻る。



 戻るなり、イーアンは『袋!』と袋を取りに、船倉の馬車へ走った。

 船の周りには魔物の残骸がどっさり浮いていて、それを上から見たイーアンは、皆の思ったとおり『回収』直結。


「手伝え、って言われるぞ」


 骨面を外して、人の姿に変わったオーリンが腕まくりし、トゥから下りたタンクラッドも、海面を見渡して『使えそうだ』と品定め。


「細切れは面倒だから、大きそうなのから剝がしましょ」


 スリーブロックの髪を撫でつけて、ミレイオは後ろからパタパタ聞こえる足音に振り返ると、袋を抱えて甲板に戻った女龍に、片腕を伸ばす。


「やるの?」 「はい。疲れているかもだけど、手伝ってもらえると早いです」


 こんな程度で疲れやしないわ!と笑ったミレイオが、袋を一つ受け取り、オーリンとタンクラッドも袋を分けてもらう。


 ドルドレンたちは、じーっと見ているだけ。積極的な職人たちは、あれよあれよという間に、わらわら動き始めた。


 オーリンとタンクラッドは、甲板で仕分けを引き受け、飛べるイーアンとミレイオが、魔物から『材料』回収。


 タンクラッドも、龍気の面で海上すれすれ、飛べるには飛べるが・・・ イーアンの龍気から流れている可能性(※どこから龍気が来ているか、未だに謎)もあり、使用を控えて、甲板待機。


 オーリンも、同じような理由。戦闘は面を使ったが、面の効力の限度を知らないため、必要時以外は使わない方向で。



 肩で息する局長たちが、何かまた始めた旅人に、不審な眼差しを向けているので、ドルドレンは彼らの元へ行き『魔物材料の回収』を教える。

 ギョッと二度見した船員たちだが、タニーガヌウィーイはさすがに動じず。


「集めるのは、()()()()()なのか?」


「そうだ。手作業である」


「あれ、普通の人間が出来るのかよ。総長の仲間は大丈夫だろうけど」


「気になるのだったら、『手袋を使う』方法もある」


 総長の斜めな答えに、局長の眉が寄るが(※そうじゃなくて、と)、慣れ切った感覚のドルドレンは『魔物によっては危ない場合もあるから、最初は触る前に、手袋や棒を使えば』と助言した。


 足元に広がる、白い光の2対の翼。総長がその上に普通に立って、普通に話しているのも違和感がすごいが、この先、こんなことばかりだろうなと、海の猛者・局長は受け入れる。



 ではもう少し待っていてくれ・・・と挨拶し、黒い船に戻った総長を見送り。

 すぐそこで、ばちゃばちゃと水飛沫お構いなしの手荒な速さで、イーアンが魔物をひん剥いている様子を見つめ。

 オカマの派手な男が『やだ!臭いわ、これ!』と、喚きながら魔物を運ぶのを眺め。


 タニーガヌウィーイは海運局で、彼らの活動とその様子について、出来るだけ詳しく、ちゃんと話そうと思った(※いろいろ情報多い)。



 甲板でも、タンクラッドとオーリンが忙しく動く。ミレイオが運ぶ、大まかに解体した部分から、使えると判断した箇所の、切り取り作業。


 ミレイオもイーアンも、『大まか』とはいえ、仕事は丁寧。そこからさらに切り分け、欲しい部分を集めるオーリンたちの仕事は、それほど大変ではなかった。


 魚紛いの魔物の、鱗に似た板状の甲皮は、ハイザンジェルやテイワグナで見かけたトカゲの魔物を思い出させる。しかしこの魔物は、内側の皮が薄くて脆い。


 崩れないように気を付けているとはいえ、回収するイーアンが触れたからか。それとも元からなのか。


 とりあえず、内側の皮は使えないと判断し、板状の甲皮をベリベリ剥いて、親方は剣で整える。剣は、自分の『時の剣』ではなく、ドルドレンに借りた。


 ここへ、ルオロフとクフムが来て、甲板で行われている漁師さながらの光景に目を丸くした。漁師なら魚だが、一発で魔物と分かる物体相手・・・ クフムは何とも言えない顔で、げほっと咳込み、ルオロフもガン見。


 二人に気付いたドルドレンが呼び寄せ、『その内、手伝うと思うが』今は良い、と安心させた。そんな総長もフォラヴも見ているだけなので、ルオロフも頷いて彼ら側に立つ。



 暫く作業を見ていた傍観者たちは、下から聞こえたイーアンの声で作業完了と知り、戻ってきたイーアンとミレイオ、タンクラッド、オーリンが何やら話しているのを聞きつつ(※専門用語だらけで意味不明)、それも終わるのを待った。


「はい、汚れ取るから。前に来て」


 回収材料をまとめて甲板脇に寄せ、余分な皮部分を集めた後、ミレイオは作業員(?)に地下の力『消滅』を使い、魔物による汚れと付着物他、臭いなどを消し去った。


 この瞬間は怖いな、と笑うオーリンや親方の明るさを、ドルドレンやフォラヴは逞しいと思う。



「もういいですよ。タニーガヌウィーイに、出発をお願いして下さい」


 汚れも取ってもらったイーアンが来て、ニコニコしている。回収するとイーアンは機嫌が良くなる・・・久しぶりにこの満足な笑顔を見たドルドレンは、『いつも有難う』と礼を言い、局長に合図。局長もすぐ船を出し、海運局の青い船も進み始めた。


「トゥ」


 タンクラッドが呼びかけると、帆柱より上で佇んでいた銀のダルナが、首をゆらっと振り、それと同時に黒い船も動き出す。




「あと・・・局長に、鱗を渡しとくか」


 忘れない内にと、オーリンは船倉の馬車にアオファの鱗を取りに行き、イーアンも尻尾を出してぺりぺり数枚取る。


「これもあげましょう。いつまで一緒か分からないものね」


 気づけば夕方。たっぷり時間を使った魔物退治と回収は、腹の虫もなる経過。

 アンディン島は視界に入っているので、港へ着いたら即解散になりそう・・・お別れが早いと言いながら、イーアンは何枚かの白い鱗を束ねた。



「違いがあるのですか?」


 オーリンが取りに行ったのは、『アオファ』という名の、違う鱗。イーアンも自分の尾から、鱗を取ったので、鱗二種類の違いに興味を持ったルオロフが尋ねる。


 これには、イーアンより早く、ドルドレンが教えた。


「アオファというのは、多頭龍である。アオファは小山の如き体躯だが、鱗は小さく、花びらのようだ。その鱗は、魔物一頭から二頭は倒す。青紫色の、龍の風に見えるのだ」


「ええ・・・?そんな、すごいことを」


「イーアンの鱗は、一頭二頭を噛みちぎるだけで済まない。勢いも威力も、アオファの鱗の何倍もある。貫いて弾き飛ばし、倒し砕き、駆け抜ける稲妻のようである」


 ふわ~・・・口を開けて驚くルオロフに、ちょっと笑ったイーアンが伴侶を見上げ『()()()解説を有難う』と礼を言い、ドルドレンは『どういたしまして』と微笑む。


 実際にその攻撃を見たなら、この説明では不足、と感じるだろう。そう、添えた総長の言葉で、ルオロフの視線は、女龍の白いフサフサの尾に注がれた。


 白い艶やかな巻き毛の下に見える、白い貝のような虹色を湛えた、大きな美しい鱗の整列は、芸術品のよう。これがそこまで強烈な武器になるとは。



「この鱗は、強力なのですね。でも女龍の鱗だから、そういうものかな」


「お守り代わりとして、皆さんに渡します。鱗は使い切りですから、鱗が戦う間に、逃げ延びますようにと祈って」


 それしか出来ないの、と結んだ少し悲しそうな女龍の横顔に、夕方の光は強い影を作り、その表情は一層、深く重そうに見える。ルオロフは彼女が、どこまでも親身に・・・民の味方なのだと感じた。



 こうして、黒い船アネィヨーハンは魔物退治を経て、ティヤー初回収も済ませ、アンディン島の港湾に入る。



「やれやれ。寂しいな、もう着いて」


 甲板に上がってきたサネーティは、一緒に上がったシャンガマックに、ニコリと笑いかけ、『私のウィハニとお別れだ』と残念を伝え、その言い方に苦笑する褐色の騎士は頷いて・・・


「でも。あなたはまた、俺たちの前に()()()のだろう?」


()()()()だね」


 シャンガマックの気遣いで、海風に流れた囁きの会話を、誰も聞き取ることはない。


 アネィヨーハンと海運局の船は速度を落とし、夕陽の強い光を受けた、紅緋と琥珀色をちりばめた海面を滑り、港に寄せて投錨。


 旅の一行、アンディン島『ペジャウビンの港』到着―――

お読み頂き有難うございます。


明日8日の投稿をお休みします。どうぞよろしくお願い致します。

私のPCがフリーズ頻繁になってしまい、ただでさえノウミソの面倒があるのに、書く進みが遅いです。

もしかすると、9日も休むかもしれませんので、その時は前書きに、追記のご連絡をします。


いつも来て下さる皆さんに、本当に、心から感謝して。

いつも有難うございます。

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