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魔物資源活用機構  作者: Ichen
ティヤー開戦
2467/2964

2467. アンディン島行きの時間 ~剣職人4つの思料・サネーティからの巻物・褐色の騎士へ

 

 タンクラッドは、トゥがいるので甲板に残った―――


 船を出すまで、トゥの姿を見た近隣住民が、しばらく騒がしかったが、船を降りた船員たちが説明したらしく、巡視船が動き出す頃には落ち着いていた。



 トゥは、姿を晒す状況を見計らっているので、タンクラッドは最近あまり、口を出さない。


 トゥにはトゥの目的があり、それは『時の剣を持つ男』の魂の敵に対して、狙いを逸らすことはないと知ってから。

 待てと言えば待つし、見えないところにいろと言えばそうするから、タンクラッドも付き合いに慣れてきた。



 黒い船の周囲にいた巡視船が、向きを変えて海に出始めたところで、タンクラッドはトゥに『ついて行くそうだ』と行動を促し、銀色のダルナはゆっくりと船を旋回させる。帆も張らず、風向きも無視し、大きな黒い船が、朝の海にゆらりと進み出す。


 信じられないものを見ている船員―― 海賊は、残った港から、その船が小さくなるまで呆気に取られていた。


 それは巡視船の局長たちも同じ。反応は驚嘆以外の何物でもないが、本当に船が勝手に動いている不思議には、もう文句も出てこない。これが、世界の旅人だと、認めざるを得なかった。



「じっくり動かすことも出来るんだな。意外だ」


 静かな船の滑らかな動作に、ザザザ・・・と後に残る白い飛沫を見下ろし、タンクラッドは面白そう。


「瞬間移動は、魔法一瞬なんだろう?これは、魔力を使い続けないか」


「船を動かしていない。俺が動かしているのは、水の方だ」


 下を見ながら尋ねた剣職人に、トゥは何が起きているか話してやる。ふぅん、と興味を持った主は『水が消える方へ船が動いているのか』と理解し、言ってみればそういうことだ、とダルナは答えた。


「だが、お前が魔力を使うのは、同じだろうに。トゥに負担がないか?」


()()()()()だけだ。俺の存在がある以上、出続ける魔力分を」


 何だかよく解らない説明だが、トゥ自体、魔力あっての存在・・・とは知っているので、とりあえず『問題ない』らしいと納得することにした。無害な動力だと褒めると、『その代わり、俺がずっと側にいる必要があるぞ』と言われ、タンクラッドは黙った(※船動く時は絶対一緒)。


 黙る前からだが。横と前の巡視船が騒がしさは止まない。トゥ(大きなダルナ)付きで、大きな船が勝手に動いているわけだから。



「トゥ。目立ちっぱなしだ」


「この先も驚かれるだろう。相手にするな」


 他人事のトゥに苦笑し、船縁に寄りかかったタンクラッドは額を掻く。トゥは船体の横に浮かんでついてくる感じで、じっと剣職人を見て『剣がない』と呟いた。ちらと見上げた男の思考に、水色と赤の混じる瞳がひゅるっと色を動かす。


()()のせいか」


「一応、な」


 海風を受けながら、タンクラッドは剣を背負っていない理由を、頭の中でトゥに説明した。

 銀の首一本を下に伸ばし、タンクラッドのすぐ横に並べ、トゥは目の合った主に『思考を閉ざしてやってもいい』と海賊の対処を提案。


「いい。そこまでするな。グィードとイーアンが動いた時、俺たちは正反対にいたんだ。とりあえず、今のところは、彼らに何とも思われていない」


『気になれば言え。封じる』


 その時はな、と銀色の大きな鼻面に、ぽんと手を乗せたタンクラッドだが。


 付きまとう心配―― 時の剣を使う場面 ――は、また面倒臭いことが・・・と、正直、思わずにはいられなかった。



 それから少し、黙る。タンクラッドは、剣の質問で『伝説面倒臭い』と感じた続き、違うことを思い出した。


 開戦前に、シャンガマック(バニザット)と出かけた南の、職人の島(※2450話参照)。昨日の夜、あっちまで飛んでいない。


 その手前で、神殿の連中が民間を()()()()()()現場に鉢合わせ、そこから神殿関係と魔物退治で、行ける島は片っ端から駆けずり回った。


 南の端にある、最初に訪問した剣職人の島も、次回行く予定の職人の島も、無事だったかどうか。

 考えることが次々に浮上し、タンクラッドはこれらに打つ手を思い巡らす。



 ―――海賊の伝説。 神殿が本当に、民間を殺した火薬の使用。 弾丸の奇妙な模様。 そして南の―――



「タンクラッド。次の目的地に着いたら、南へ出かけよう」


 黙々と考えていた主に、静かなトゥの低い声が促す。真横に並ぶ大きな顔を見ず、風に吹かれる髪をかき上げ、タンクラッドは小さな溜息を吐いて、ちょっと笑った。


「いつになったらお前は、『勝手に読まない』のを覚えるんだ」



 *****



『お話した、順路と引き継ぎの者の名前。移動にかかる経費と予算。それと、魔物製品の』持ってきた巻物数本。サネーティは喋りながら、皆を集めた船室の机に、それぞれ目的別の紙を広げる。



「魔物製品の販売先、と言いましょうかね。国境警備隊の場所、です」


 はい、と開いた紙面に両手を置いて、4本の巻物が戻らないよう押さえたサネーティが、机に屈みこんだ皆を見回す。


「ティヤー語だから・・・読めないか。おい、ウィンダル。と、お前。名はクフムだったか?まぁお前も一緒なら、役に立て」


 皆さんに翻訳しろ、と顎で使うサネーティに、クフムはとても嫌そうだが、先ほどのキチガイぶり(※信者)を見た後、反抗する気になれない気弱な僧侶は、『言われなくてもそうしますよ』と小声で答え、隣に立つシャンガマックに苦笑された。



「無理しなくても。俺も読める」


「じゃ、シャンガマックさんが訳した方が、皆さんも()()()でしょうから」


 シャンガマックの配慮に、僻みで返す若い僧侶。けほっとイーアンの咳払いが続き、目が合った。『訳すのは、あなたの持ち場でもあります』女龍にやんわり注意され、クフムは溜息で頷く。シャンガマックは、顔を伏せてまた少し笑う。


 そのシャンガマックの横―― クフムの反対側 ――はフォラヴで、友達の袖をちょっと引っ張り、こちらを向いたシャンガマックに『教えて頂けますか』と微笑。クフム、反対側からそれを見て、羨ましく思う。


「ん?そのつもりだ。じゃ、これから読むか」


 シャンガマックはフォラヴの手元に顔を寄せ、『ここが今、俺たちのいる・・・』と順路を追い、島名、寄港名を指で伝いながら、声にして聞かせる。

 ふむふむ聞くフォラヴの隣、ミレイオも参加して『私、名称覚えたい。もう一回言って』と頼み、シャンガマックは、ミレイオ・フォラヴに説明。



「へぇ。君もティヤー語を読むのか。発音もしっかりしている」


 聞こえた声にサネーティが感心し、ちらっと見た褐色の騎士は少し首を傾げ『読みやすく、キレイな文字だから』と文字を褒めた。字を褒められた男は眉を上げ、騎士に名を訊ね、シャンガマックが名乗る。


「覚えておこう。その服、()()()()()()()んですよ。格好いい」


「有難う。()()()()だ」


 微笑むシャンガマックの礼に、サネーティの表情が真顔に戻り、何度か瞬き。その瞬きは、勘の良い皆に『彼が何か知っている』印象を持たせるも、サネーティはそこで会話を終えて、『では続きをどうぞ』と促した。



 片や、放置されたクフムは、ドルドレンに呼ばれる。『クフム。料金を』と(※総長は支払い役)手招きされ、クフムは沈んだ気持ちも浮き上がった。

 そそくさ側へ行き、自分を頼ってくれた総長の側で、翻訳を開始する。


 ここにはオーリンも漏れなくついて、『観光税?観光じゃないぞ』とか『島で通貨が違うのかよ』とか顎に手を添え、クフムに質問。クフムはクフムで役どころを得て、せっせと説明。



 ふーん、と見守るイーアンは、斜め前の薄緑色の瞳と目が合い、ニコッと笑う。ルオロフもはにかみ『こっちで』と自分の横を指差し、イーアンも頷いて側へ行くが。


 思ったとおり。

 イーアンの前に、サネーティが挟まり妨害。笑顔で阻む男に、イーアンは『ルオロフが教えて下さいます』と先に言ったが、サネーティは『私でも』と買って出る。


「サネーティ。イーアンは私の説明を聞こうとして」


「お前は()()()


「なんだって?さっきから好き放題、私に命じているが」


「アンディン島でお別れだぞ。今、私が話すことを、お前が覚えておかないと困る」


 イーアンが迷ったらお前を呪うからな、と睨む男に、呆れたルオロフは赤毛をわしゃっと掻いて、後ろで消沈する女龍を気の毒に思った。見るからにげんなりしている・・・・・


 イーアンも『これがファン心理だ』と諦めているが、サネーティはうざい。


 ルオロフに訳せと言ったのは何だったの、と心でぼやきながら、刺激すると長引きそうだし、貴重な時間が勿体ないので、積極的なサネーティの説明(※勝手に始める)をうんうん頷いて聞くに徹した。



 *****



 巻物は図がついており、地図や道は『ティヤー公用の地図を参考に』サネーティが写したようだった。ただ、公用と異なる点に、大っぴらにされていない道や建物も描かれている。



「間違えてはいないはずですが、行く先々で確認して下さい。面と向かって聞いてはダメですよ。探りを入れて、合っているかどうか、調べるんです。神殿の連中は過敏なので、聞き込みの仕方で後をつけられることもあるから」


 頷く全員は、クフムを見なかった。クフムが居心地悪いのは分かるので・・・それは配慮。

 サネーティの地図と道の印は、神殿が管理する山や森にも及ぶ。この図を誰かに取られないよう、気を付けてと、呪術師は真剣に忠告した。

 クフムは女龍の奴隷、と聞いているので、裏切ることはないだろうが。それも疑うサネーティは、僧侶をじろっと見る。


「お前、僧侶。この図をもし」


「サネーティ。大丈夫です。脅さないで下さい」


 サネーティが凄んだので、イーアンがすぐ止め、少し心配そうな男に『クフムが私たちを裏切ることはない』と保証した。これだけ聞くと、女龍が優しく聞こえるので(※皆は違うと知っている)サネーティが眉を顰めた。


「ですが」


「大丈夫なのです。裏切ったら、()()()()()()から」


「あ・・・ そういう」


 そう、と普通に頷いたイーアンに、クフムの顔が苦し気に歪み、ドルドレンは幾分か・・・彼が犯罪者とはいえ、同情した(※殺すお墨付き)。

 反対にサネーティはうっとりして、『そういう容赦なさも、海神の魅力だ』と白紫の肌の女龍を見つめ、イーアンは目を逸らした。


 何が魅力に映るか分からないから気をつけようと、イーアンは自分に注意し、サネーティが掴む腕を一生懸命外そうとしていたが(※外しても掴んでくる)、ミレイオが止めに入ったところで、船が揺れる。


「あ。タンクラッドが」


 イーアン、親方の声を脳内に聞く。なぜか以心伝心がたまに行われる、親方連絡。はたと、顔を戸口へ向けた女龍に、サネーティは『まだ着かないですよ』と言いつつ、『え?あなたはあの男と心で通じ合うんですか?』と斜めなやきもちを妬く。


 それはいいから放してくれ、と困ったイーアンが腕を引っこ抜き、『ちょっと上に行きます』と走り出す。


「魔物じゃないの」


 魔物の気配はないけれど、ミレイオがそう言うと、皆が一斉に反応。わらわらと部屋を出て行く彼らにクフムも一応混じったが、サネーティが引き留めたのは彼ではなく―――



「なん、なんだ?」


「シャンガマック。ちょっと話がある」


「いや、俺も上に行かないと」


「君に教えておこうと考えた。『精霊の服』と言ったな」


 サネーティの畳みかける小声に、肩を掴まれて戸惑ったシャンガマックが、ハッとする。


 ティヤー人の視線が自分の服に注がれ、『()()()()()。持っていくか?』と訊かれた声に、即答で『勿論』と答えた。

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