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魔物資源活用機構  作者: Ichen
ティヤー開戦
2461/2962

2461. 中南東打撃・南西端沈没・消えた僧侶集団と『太陽の手綱』・ある神殿の地下

 

「行け」


「おお、タンクラッド。来てくれたか!ここを」


「俺とトゥで預かる。任せろ」


「頼む」


 ショレイヤに乗ったドルドレンは、ティヤーの一番人口の多い島―― 中南東を、タンクラッドと銀色のダルナに頼み、南西へ飛ぶ。



 ―――時間を、少し巻き戻して。


 中南東は、島と島の密度が高く、上空から見ると、大きな一つの島のよう。


 この地域の入り江という入り江に、一度は通り過ぎた波が戻り、逆流の衝撃で盛り上がった地面が波打ち、唐突に魔物が土を破った。


 ドルドレンは、北から南へ降りていた最中、異様な様子を空から見て、ショレイヤと共に魔物を倒しに挑んだが、手に余る広さと、人の数、建物の多さ、森、合間を流れる海、挟まれる低い山の連なりと、一気に攻撃するには阻むものが多過ぎて、間に合わない。


 手こずっていたところで、大きな神殿が目に入り、『神殿』とハッとした時、そこから僧侶と思しき同じ服装の者が何十人も出て・・・ドルドレンの見ている前で、悲鳴上がる町の一画が爆発した。


 急いだドルドレンは、数秒もしない内に神殿の上へ飛んだが、眼下には悲惨な被害が広がるだけで、あの僧侶たちは影も形もなかった。


 何が起こったかと、犠牲に遭った血まみれの人々に悲しさを抱きながら、周囲を見渡した時、耳に届いた()()()()声、一つ。



『そこから西へ向かいなさい。私が待つ。ドルドレン、急ぎなさい』



 ポルトカリフティグだ!とすぐに分かったドルドレンは、慌てて誰か応援をと、タンクラッドを()()()。どう呼んでいいか分からない、本来なら連絡珠の相手ではない親方だが、頭に浮かんだタンクラッドに『彼がここを引き受けてくれたら』と強く思った矢先、『待ってろ』となぜか親方の声が脳内に響いた。


 そして、ショレイヤを旋回させた一秒後、下方の爆炎が急に消え、二秒後、突風に押された雲の切れ間から光が差し、三秒後に銀色の金属的な輝きが、ドルドレンの目に映る。


「トゥ」


 二本の首を揺らし、大きな目のついた翼を広げた巨大なダルナが、頭上を加速して飛び、戻ってきたダルナの首に、金色の剣を手にしたタンクラッドがいた。


「行け」――――



 ドルドレンは、タンクラッドにその場を任せ、呼ばれた南西の方向へ龍と飛ぶ。


 南西、と言われただけで、どこからどこまでかも知らなければ、目的地も分からないが、ポルトカリフティグが『来い』と言うなら、行くのみ。


 ティヤーの国土は、島だらけ・海だらけ。広大の意味が、アイエラダハッドと違うのを感じる。


 上空、雲を抜けながら進む距離は、下方の島の様子を遠目にしか見られない。

 雲の千切れる靄を通すと、地上のくすみが、今まさに襲われている煙なのか、波や魔物の直撃か、判別のつけようがなく、それは罪悪感やすまなさを生むが、ドルドレンが追う、ティヤー北で開始した魔物の蔓延は、南へ広がるまでもう少しかかる気がした。


 ドルドレンも、センダラと同様の『一種の諦めと理解』を持つ。


 今日、どれだけ倒しても、焼け石に水なのだ。無駄とまでは思わないが、どうしたって襲われなければならない運命の下、ティヤーで魔物は蔓延る。今日から決戦までの間に、どれくらいの犠牲と被害があるか。


「テイワグナは4ヶ月だった。アイエラダハッドは半年・・・違う、上陸してからは半年だが、実際に魔物が出たのは遅かったから、約5か月か。

 ハイザンジェルの、手も足も出ずに打ちのめされた二年と比べれば、快挙に近い速さではある。だがそれは、『一日でも早く終わらせる』意味でしかない。『快挙だ』などと、奪われた命を前に、言える言葉ではない。魔物に蹂躙される日々が短かろうと、その間で不遇な目に遭った者たちには、永遠の苦しみを担う」


 この日、開戦したティヤーでいかほどの魔物を倒したとしても、()()()()になるわけもなく。今日を境に魔物に殺され、奪われる誰かの命を、全て守れはしない。



「だが、一頭でも多く倒したい気持ちは、常に変わらん」


 胸の内を呟いていたドルドレンの前方に、雲を透かして島々が並ぶ。どの島からも、よく見れば煙が上がっている気がしたし、植物の緑色のはずが、炎の赤や黒い()()が塗されているようにも見えた。


 進みながらどれくらい経ったか。強風と雨が混じる曇天の下、水平線の先に大陸が薄っすらと見えた辺りで、手前の島から、再び精霊の声が聞こえた。


 降りなさい、との短い指示に従い、ドルドレンは龍を降下させる。

 先の大陸は・・・ハイザンジェルとテイワグナだ、と思った瞬間。僅かな、懐かしさが掠めたその続き、下降した島に向いた灰色の瞳は、驚愕で丸くなった。



 ズボッと――― 眼下の島が()()()


 目を疑う暇もなく、ドドドドドド、と周囲の地面も引きずられ、島は大きく口を開けた黒い闇に()()落ち、海が流れ込み、ショレイヤは乗り手の判断がないので、宙に急停止する。その一秒後、水飛沫と粉塵が大気に飛び上がった。


 龍はサッと振り返り、金色の目と目が合ったドルドレンは『上へ!』と急いで命じ、藍色の龍はグッと旋回。龍の尾を追うように伸びあがる飛沫は、生き物のように勢いづき、掴もうとするかのようについてきたが、龍に敵うはずもなく振り切られる。


 ここでポルトカリフティグの声が、脳に渡った。



『間に合わなかった。下が落ち着いたら、龍を帰し、ムンクウォンの翼に乗って降りなさい。私が待つ』



 *****



 ポルトカリフティグの話を聞いたドルドレンは、夕方の影に何一つ残らず消えてしまった、島の跡を悲しく見渡す。


 ここに、古代サブパメントゥが集めた僧侶や神官が集まっていた。


 その者たちが島ごと消され、死んだのか、どこかへ連れて行かれたのか、ポルトカリフティグも分からないと言った。

 だが、ここにティヤー中の神殿関係者が集まったのではなく、一部の者。残っている関係者がいる以上、何があったかを調べることは出来る。


 ポルトカリフティグが言うに、ドルドレンがその者たちを押さえたら、ティヤー以外の憂慮も早く手を打てたらしかった。彼らがここに集まった理由を、精霊は知らないが、彼らがここで何をしようとしていたのかは、精霊が見ていた。


 この理由は、とても・・・・・ 驚きもしたし、悲しさに襲われたことが、もう一つ。『ティヤーの馬車の民がいた』と。


 ポルトカリフティグは、ティヤーを移動する馬車の民『太陽の手綱』を辿り、ここにいたのだった。



『間に合わなかった。太陽の手綱は、彼らと共にいた』


 地面は、島を丸ごと呑み込み、沈没し、またその上に海が貼り、所々で波の頭に揺れる、地上の木々の残骸が、きついほど濃い紅の夕陽に、影を作っていた。


 しかし、なぜ。太陽の手綱が――― ドルドレンの問いは『僧侶らと居た理由』この一つに終わらず、それ以上を言わない精霊のトラを、じっと見つめた。



 *****



 神殿の僧侶、神官、司祭が隠れた地下室の裏部屋では、失敗か前進かを焦りながら話し合っていた。


 ある島の・ある神殿の・ある地下で。地下室でさえ、人知れずの場だが、さらに裏部屋に隠れた十人そこらの立場ある彼らは、見極め時を案じながら、危険な賭けの続く先を緊張しながら待つ。


「サブパメントゥが教えた通りの運びなのに。なぜこんなに長引くんだ」


「奴らは時間軸がない。だが嘘は言わないように思うから、もう少し待てば地上に出られるだろう」


「出たって、魔物は始まったんだろう?サブパメントゥが守ってくれる約束もないのに、このまま続行できるか?強力な護衛でも手に入れないと」


「龍、は無理だ。龍はサブパメントゥの敵だ。龍に取り入るなら、サブパメントゥを捨てなければいけない。だが、龍が私たちの・・・時代を超えた望みに、応えるとは思えない。サブパメントゥに」


「だから!その()()のいる、馬車の連中に話をつけたんだろう!それなのに、サブパメントゥも、馬車の連中も来ないじゃないか!ここからどう、守りを固めれば良いんだ。

 サブパメントゥは、向こうの気紛れでしか来ない!こちらの呼びたい時に呼び出せるよう、馬車の奴らに話をつけたというのに」


「その馬車のやつらに話をつけたのは、君ではないだろうが。僧兵の一人・・・火薬と銃の原理を考え出した逸話持ち、とか。妙な頭の良さを持つ僧侶、という話じゃないか。その男は野放しなんだろう?」


 全く、と差し込むようにケチつけた、太った老齢の神官は吐き捨てる。

 野放しの僧侶―― それは自分の配下ではない僧兵なので、言いたい放題に文句を言ってきた神官に、噂の僧兵と面識ある司祭は唸る。


「ま、彼のことなら、ご心配に及びませんから・・・野放しですが、サブパメントゥにも『失われし秘宝の知恵』にものめり込んで・・・いや、傾倒と言ってもいいくらいの性質なので。私たちティヤーの神殿が到達する楽園の大陸は、彼にとっても願望の地。願望以上だと思いますよ。彼が戻る時、私にも連絡は来ますし、その時にすぐ、今後の相談を」


「情けない。一介の僧兵に、ティヤーの古代宗教の行く末が託されるとはっ」


 そうは言ったって、と他の神官が、太った神官を宥める。『噂の僧兵』と、やんわり繋がりある司祭は、目を逸らして『とりあえず、魔物の襲撃が少し収まったら出ましょう』と流し、風当たりの的を逃げた。


 誰が誰だか。十数人が影の内で責任を押し付け合い、擦り付け合いする。大声にはならないものの、終わりもしない衆の文句は、飛び交い続ける。



「どうしたって、魔物はこの先、しばらくの間はこの国に蔓延るんだし。津波から下を這って、地面に上がるのを教えたサブパメントゥは、またひょっこり来るでしょう」


「言い切れるか?闇の連中は気紛れ止まりじゃなさそうに思うが。やつら、時間や日にちも疎そうだ」


「あんまりバカにした言い方は、どこで聞いているか分からないから、控えた方が良いですよ・・・来ますよ、あのサブパメントゥは。私たちの火薬が、どれくらい人間を減らしたか、楽しみにしていそうだから」


「同国民を殺させるとは、本当に血も涙もない」


 最後を結んだ僧侶だが、神官は彼を一瞥しただけ。血も涙もないとは、宗教の建前で言うだけで、この僧侶もまた『火薬実験』に積極的だった。



 ―――要らない国民をそぎ落とすのは、ある道のため。

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