2458. 男龍からの龍気補充・ティヤー開戦 ~①北西前線
※追伸:27日の投稿もお休みします。申し訳ありませんが、どうぞよろしくお願い致します。
※明日26日の投稿をお休みします。どうぞよろしくお願い致します。病院の検査結果次第で、翌日も休むことになるかも知れませんので、その時は早めにこちらに追記します。
話を終えたザッカリアは、騎士と獅子に別れを告げ、待っていたイーアンを呼び、イーアンとソスルコと共に空へ上がった。
「もう、心置きなく。ですか?」
「そうだね。イーアンは戻るんでしょ」
「そうしたいけど、ちょっと用事です」
ニコッと笑って、イーアンは―― 一番、最後の順番で ――空の境目まで来て停まり、ソスルコに停止するよう言ってから、背に乗る少年を抱きしめた。
「私も、オーリンも。空へ上がるから、あなたに会える機会は、皆よりもあるでしょう。でも、やっぱり・・・地上へ戻った時にあなたがいないのは、とても寂しいです」
「お母さん」
「私の息子よ。私の子。愛していますよ」
「俺も愛してるよ。俺の、無敵で自慢のお母さんだ!」
「当たり前です。あなたの母親は、空最強ですよ」
ギューッと抱きしめて、少年の肩に涙を押し付ける女龍。同じように、笑顔でも、涙が溢れたザッカリア。唇が震えて、声がうまく出てこない。
たまにしか、一緒にいられなかったけれど。お母さんがいることが、どんなに心強く頼もしかったか。それを一度も、言葉でちゃんと伝えたことがなかったな、とこんな時に思う。
イーアンもそう。私は留守ばっかりで、ほとんど放置だった。それでも、『戻れば会う』環境が、ふとした拍子に、思いがけず消える時。自分がどれほど母親らしくなかったか、今になって自分を責めたって。
わずかな、沈黙――― 胸中は複雑で、でも離れがたい。
「絶対に。早く戻ってらっしゃい。私はいつだって待っています」
「戻るよ。約束だ」
多くを訊かない、探らない、イーアンの深い懐に感謝して。イーアンは、なぜザッカリアが空へ下がるのかを一度も聞かない。ザッカリアは、親になってくれた女龍の心に誓う。必ず、成果を出して戻るんだ。
「じゃあね。私のザッカリア。私の子。私の愛」
「また会おうね、お母さん。俺の最高のお母さん」
涙を互いの手で拭い合い、泣き笑って頷く二人。そっと後ろへ下がるイーアンに見送られ、ザッカリアはソスルコと、高い高い空へ上がって消えた。
「さぁ!次は、戦いですよっ」
パンッと両手を合わせ打った女龍は、大きく息を吸いこみ、別れの一時に沈んだ気持ちを引っ張り上げる。
「ルガルバンダに、龍気を送ってもらいましょう。私に対しては初回。地上の空との境目でなら、届くのも速いかも知れません。ルガルバンダ・・・! 龍気を補充したいです」
ザッカリアとの別れを終え――― 女龍は浮かぶその場で目を閉じ、ルガルバンダに心を通し呼びかける。
龍気を補充します・・・目的を、三回繰り返したその時。白い輝きが頭上に現れ、開けた目に『白い光』を認識するとほぼ同時、体に龍気が漲った。
「おわっ・・・これか!」
小石で龍気を引き込んだ状態と、同じ感触。毛穴の端までざわつき、エネルギ―が溢れる。ルガルバンダの応答がなくても、龍気は届いた。
「どれくらいの間、使えるんだろう。使い切りじゃないといいんだけど」
「お前が望む間は、流してやれる」
上から響いた声にハッとしたイーアンは、離れた空に浮かぶ、薄緑色の男龍を見つけた。
「ルガルバンダ、いつそこに」
「『今』。ファドゥが送ってくれた」
移動の速さも問題ないな、と笑ったルガルバンダに、イーアンも驚いた後、笑い出した。すごい、これなら大丈夫だ、と大声で喜んだイーアンに近寄り、男龍は彼女の角を撫でて尋ねる。
「魔物が出るな。もう行くのか」
「はい。でも、男龍は呼ぶことなく、私が」
「そうか。呼ばれてもいいが、イーアンに龍気があれば問題ないだろうな。グィードも?」
「呼び出したいので、これはビルガメスにお願いします」
独り占めは出来ない・・・と感じた、その返事に瞬きし、苦笑したルガルバンダは顔を少し伏せたが、また上げた面持ちは満足そうだった。
イーアンも、彼の手伝いが頼もしく、にこりと笑って『行ってきます』の一言の後、地上へ飛んだ―――
この時、地上の空は灰色と黒に分かれ出したばかり。イーアンを見送ったルガルバンダは、ふふっと笑ってから、ゆっくり上を見た。
「どうした。何か用か」
何も遮らない空に、男龍の声が通る。
「気が付いてたの?」
ルガルバンダの軽い手招きに躊躇うも、ソスルコに跨ったザッカリアは遠くから下りてきた。
覗き見していた状態で、少々ばつが悪そうな少年に、ルガルバンダは『引き上げたんだろ?』と地上の空に視線を流す。
「そう。あの、あのね。今の、どうやったのかなと思って。龍気が」
「ん?龍気をイーアンに送っただけだぞ」
しどろもどろで俯きがち。でもザッカリアは、知りたいと思った。男龍がイーアンに龍気を送った、そこではなく、龍気を解放した場所は、自分が調べ続けていた『あの島』だと分かったから。
『あの島』から、ルガルバンダが何かしたということは、『過去を使ったのか』そうだとしたら、過去を使う方法を、今知っておきたいと思った。
少年の困り顔と、しかし縋るように見ている上目遣いに、男龍は少し目を細めて首を傾げる。
「何やら意味あり気だな。まぁ、お前はイーアンが息子代わりにしていると言うし。お前が知っても、手が出せるものでもない。見るだけ見るか?」
イーアンに協力して気分の良いルガルバンダは、ちょっとした気紛れで、少年を案内がてら、『龍気発送元』へ連れて行った。
*****
「雷みたい。本当に一瞬でした」
空の色が変化した数秒間。ティヤーの北西列島へ急ぐイーアンは、漲る龍気に安心する。補充はあっという間で、私が使う間は、ルガルバンダが送り続けてくれる、となれば。
「小石の方が気兼ねないけれど・・・頼もしい。初めてかな、こう思うの」
男龍と連携する―― 白い筒の対処状態と違うし、呼び出して魔物を倒してもらうのとも違う。
私が地上で戦うのを、『龍気を送る』形で援護してくれる。地上にいながら彼らと繋がる感覚を、イーアンは初めて理解する。
「こういう感覚になる想像は、なかった。いつもだって、空で状況を見守ってくれるけれど」
ずっと見ていてくれる。こんなことを言うと、ビルガメスは『いつもだ』と言い返しそうではあるが。
「言葉にしづらい。でも、嬉しいな。頑張ろう」
女龍一人ではなく、男龍も側にいる。私の守りたい地上を、無関心だった彼らが、どんどん積極的に手助けする変化。一緒にいてくれるも、同じ。
雲を抜けた時点で、暴風と突風、立ち上がる波が、後続の波に覆い被さられ、波高増す勢いに小さな島が、隠れては頭を出しの、始まった風景に―――
火口から噴出した溶岩の瞬間が加わる。その高さ、真上ではなかったイーアンもギョッとする。溶岩は上空20㎞くらい上がった。地鳴りのような噴火の音を空気に轟かせ、燃える橙の灼熱が黒い岩肌に弾ける。空中に飛んだ灰に作用した火山雷が大量の紫を飛ばし、落ちて行く溶岩の飛沫は波を打って、大量の水蒸気が立つ。
一番強烈な噴火に続き、その横も前後もつられて岩が裂け、溶岩が飛ぶ。一斉に鍵盤を打つ手があるように、噴火の連発は瞬く間に火砕流の一線を引いた。
この瞬間に合わせた『計画』。海面をぐらっと揺らした大波は、数列ある火山の後方―― アイエラダハッド方面 ――から引き込まれて、勢いをつける。
イーアンの眼下、合図を待っていた『魔物入りの津波』が、大自然の海を覆う。
「来たな」
グワッと龍気を膨張させる。
午前の光を閉ざし、闇に染めた黒い雲と、火山の赤を反映した雲が広がる、二色の空を上に、荒れる海面すれすれで飛んだイーアンが、真っ白な星の如き龍気爆を、正面から波にぶち込んだ。
飛沫の奥で犇めく魔物が、龍気の白に形相を崩したのも一瞬、高波ごと呆気なく掻き消える。次の波はまだ後ろ―――
テイワグナ開戦と同じ感じだが・・・魔物の門が海底にあるのは、前と違う。
普段なら、閉ざすにタンクラッドがいてほしいけれど、タンクラッドの現地入りを断った今、彼なしで―― と、そうもならない。この魔物の門は、タンクラッド不要(※いると楽でも)のあっち系ではと感覚が告げる。
「うん?大きい門だけど『時空の歪み系』のような」
何か変だと思ったが、続きを考える間もなく、ビルガメスの声が頭の中に届く。
『グィードが行くぞ』
海龍を向かわせた男龍に、イーアンは了解の返事をし、伝えられた側から、近づく巨大な龍気を待つ。
「開戦は、あっという間に終わらせなければ。魔物が島の合間に流れ込んだら、副次的被害で済みませんよ」
見当をつけていること、これがどう運ぶか。魔物がティヤーの国全体に回り、人々の混乱がピークになる時、『神殿・・・ 』あの危険な思想の連中が、民を殺すだろう。古代サブパメントゥとつるんでいる神殿であれば、唆されてやりかねない。まして、元から成り上がり思想が強そうな連中。
「幻の大陸に執着する宗教団体が、サブパメントゥと組んだら。どんな酷いことが起こってもおかしくない」
ボン、ボンと空気も海も揺るがし、連発する噴火。一旦引いて、また波高を持ち上げた津波と、水に頭を突き出す魔物。カッと光って白い龍に変化したイーアンは、口を開けて魔物が詰まった波と降り注ぐ灰を消す。
蒸発の水蒸気も半端ない。降ってくる灰と礫、燃える飛沫も、とんでもない範囲に広がる中、津波と魔物は当然だが灰も消す方が良いと判断。水蒸気も灰もあまりに広がると、陸の生活に大きな被害が及ぶ。
開戦で魔物をどれくらい減らせるかで、終わりまでの期間が変わるのも大事だが、開戦が自然災害を伴う場合は、自然災害も同時に対処しなければならない。
『に、したって。最強の龍だろうが何だろうが、全部は無理』・・・ 白い龍は、荒波も火砕流も、溶岩も灰も関係ない体で、魔物を含んでは列島の隙間を走り抜ける波の動きを止めにかかる。
水の勢いと動きは、イーアン龍がどんなに大きくても、止めきれるサイズではなく、龍の鳶色の瞳は東の海―― コルステインたちの青白い光が、小さく空に映る ――を気にし、彼らも頑張ってくれますようにと祈る。
コルステインたちの先は、妖精のセンダラが一人で立ち向かっているはず。
前線で、どのくらいの量の波と魔物を倒せるか。・・・はた、と気づいたイーアン龍。む、と白い眉根を寄せた。
『私は、魔物で増加した分の波の量を、大体の見当をつけて消しているけれど。コルステインたちは・・・細かいこと気にしないで、海を消しているだろうか』
以前、テイワグナ開戦時に、コルステイン一家が『海を消していいか』とドルドレンに聞いたのを思い出す。相談されたイーアンは『海を消さないで』と頼んだのだが、あれからずいぶん経つ、現在。コルステインが、それを覚えているだろうか?
想像したら、焦る。だが、確認のしようもない。ばんばん消されていたらどうしよう~!と慌てたところで、お互い(※龍とサブパメントゥ最強)全力で放出中のこの状況、下手に近づくのも危ない。
うわ、やばいよ、どうしましょう! 白い龍は急いで対処を考えながら、立ち上がっては魔物が映る津波を消し、これを繰り返すこと数回。
もうじき来ると感じていた、龍族最大のグィードが、火山帯の奥の海から頭を擡げた。
お読み頂き有難うございます。
明日26日の投稿をお休みします。病院で時間を取るためですが、検査結果で翌日も時間がなくなるかもしれないので、その場合、明日ここにまた追記でお知らせします。
不定期で、月に数回お休みが増えて申し訳ありません。来て下さる皆さんに心から感謝します。いつも有難うございます。
※追伸 27日も投稿をお休みします。申し訳ないです。宜しくお願い致します。




