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魔物資源活用機構  作者: Ichen
ティヤー上陸
2454/2962

2454. ブラフスから魔物対抗案として・タジャンセ出入国管理局の『用事』

※3月20日午後のお知らせ:

 明日21日の投稿をお休みします。急で申し訳ありませんが、間に合わなくて出すのが難しく、明日頑張って書きます。どうぞよろしくお願い致します。

 いつもいらして下さる皆さんに、心から感謝して。


 

 馬車一台を宿に置き、二台を出して、丘を下ったドルドレンたちが、湾岸沿いにある、大きな紡錘形の黄色い屋根の建物・タジャンセ出入国管理局に到着した頃―――


 上にいたはずの待機組は、少し前に一人抜けていた。銀色の双頭と剣職人は、仲間の馬車を上から見ていたが、イーアンは、と言うと。



 大きな翼は、擦りガラスのよう。いつも、独特で穏やかな美しさに、最初にこう思うイーアン。


 止まない海風に煽られる海上で、赤目の天使とイーアンは、午前の雲行き怪しい空を前に話をする。ブラフスがいると暖かいが、現時点の空気と風の温さは自然現象。そして、ここに不自然な輩―― 『魔物』がもうじき現れる。


 呼び出されて話を聞く。そこまでは良いのだが、ブラフスの思いもよらない発案に、すぐ首肯しがたいイーアンは、急いで考えた。そんなことをして、大丈夫だろうか。許可を求められても、判断が怖くなる。



「イーアンが嫌なら」


 じーっと見ていた赤目の天使は、気遣って案を引っ込めようとした。伏せていた顔をイーアンはパッと上げ、『嫌ではないの』誤解をしないでと頼む。天使は首をかくんと傾けた。


「でも、考えている。悪いことではないが、邪魔になるのか」


「違う違う。そうではないです、ブラフス。私はただ、()()()()がどうなのかって」


「力を貸す。()()()()()()から」


「あー・・・えー・・・ 呼び方が難しい。そうですね、そう。彼らはもう、魔物ではありませんね。私が言いたかったのは、『以前、()()()()()()()に影響がないか』と」


 ブラフスは瞬きが遅い。たどたどしい肯定も、彼には否定に聞こえるだろうかと、無表情の堕天使相手にイーアンは困る。瞬きがゆっくりなだけなのだが、じっと本心を見つめられている気分。



 ―――ブラフスが持ってきた話は、『魔物が出る時に、アイエラダハッドで守った、自我を持つ魔物に手伝わせる』こと。



 突拍子もなく、すぐ返事が出なかった。赤目の天使は、『昨日も話そうと思った』と一日考えた後での相談と言い、自我を持つ魔物たちには、魔物を変化させる能力があり、協力しようとしていると打ち明けた。


『彼らは、私たちと同じ存在になった。異界の精霊の一端で、魔物退治も出来る』と。


 これを聞いたイーアンは、それで万が一、死んじゃったらどうするのと、最初に過った。次に、もしも逆に取り込まれたら?と不安が生まれる。


 せっかく・・・ せっかく、もう、魔物ではない姿に変わったのに。

 アイエラダハッドで無事に過ごせると、精霊に許しを貰った存在へ変わった彼ら。アイエラダハッドにいれば安全なのが。


 協力したいと思ってくれるのは、とても嬉しいけれど、『お願いね』とは言えないでしょー・・・と女龍は悩む。



「あのう、ブラフス。私は、嬉しいです。そんな風に思って下さる皆さんに、感謝します。ただ、危険が」


 やっぱり断った方が、とイーアンはおずおず、協力志望案を遠慮した。最後まで言わずとも、この尻切れトンボの言葉の意味にブラフスも気付き、女龍から視線を外して、静かにはっきりと伝える。



「誰も、恐れない。女龍の守った存在は、女龍と共にあり」


 赤い宝石のように澄んだ目が向けられた、空のずっと奥・・・ 誰かが待っているかのように、視線は一点に注がれていた。



 *****



 赤目の見つめた、遥かな沖―――


 未来を感じる人魚の群れが、火山帯の海にいる。イーアンと、闇の翼(※コルステイン)が、これから現れる魔物をこの前線で倒す様子を、目の前の噴火状況に重ねて眺めていた。


 龍と、闇の翼は、同じ場所にいられない。力を使う時、互いの力が大きく影響するために、距離も開けなければいけない。その間は、『隙間』と呼ぶには、かなりの開き。



「ここから流れて行く魔物を・・・ 止めることは、私たちに出来そうだね」


 男の人魚が、煌々と赤く弾ける溶岩に呟き、隣のメリスムも『そのつもりだ。イーアンが良いと言えば』と、出過ぎない考慮も返事に含めた。



 *****



 イーアンが『もう少し考えたいです』とお願いし、返事を待ってくれる赤目の天使と分かれ、タジャンセ出入国管理局に向かう間。 



 建物前に馬車を停めたドルドレンは、御者台から足を下ろす前に、開いた扉に気が付いた。


 二人の、ティヤー人ではない男女が出てきて、派手な馬車二台に面食らった様子で目を瞬かせ『馬車は裏に止めた方が』と言った。でも・・・ドルドレンには()()()()()()


『アイエラダハッド語』で言われたドルドレンが、共通語で聞き直そうとした矢先、荷台から来たルオロフが、彼らに短く礼を伝え、馬車を誘導した。二台の馬車は、建物を通過した先の曲がり角から裏へ入る。


「今の人たちは、アイエラダハッド人ですね。総長はティヤー人に見えないから、それでアイエラダハッド語だったのでしょう」


 馬車を裏の敷地に入れ、他の馬車と並べたところで、ルオロフが教える。


「彼らは、出て行ったようだが・・・馬車ではないのか」


 建物を出たのに、馬車を停める敷地に姿がないので、ドルドレンがちょっと気にすると、ルオロフは『長期滞在もあるかも』と答えた。この島に住まいがある人たちの可能性。


 アイエラダハッド人にしては、日焼けしていたし、観光で来たにしても、アイエラダハッドの魔物戦があったから、船の休止期間を考えると『最近の滞在ではないような』と説明したルオロフに、ドルドレンの表情が少し曇った。


「ティヤーに避難していたのだろうか」


「それも考えられます。ロットカンドさん(※アズタータルの町)の親戚も、ハイザンジェルに避難していたそうですし。魔物戦が終わった情報を得次第、ティヤーに滞在していた人たちは国に戻りたいでしょう」


「もうじき、()()()()魔物も出るしな」


 横に来たオーリンの一言に、ドルドレンも小さく頷き『本当に、もうじきだ』と、天気の悪い海をちらっと見た。



 馬から下りないわけにいかず、クフムも目立たないよう、外に出た皆の端で馬を下りた。ドルドレンの側に行ったオーリンは、『クフムも一緒に行くのか』と、肩越しに親指で示す。オーリンの目は、連れて行かない方を勧める。ドルドレンは、ルオロフに視線を移し、ルオロフは少し考えて『一応』と、局の裏玄関を気にした。裏玄関口に人がおり、こちらを見ている。


「彼だけ残す方が・・・不自然ではないですか」


「そうなんだけどね。昨日の今日だからな」


 ルオロフの質問に、オーリンはこう答えたが、昨日の午後はサネーティと一緒だったルオロフ。皆に何があったかを知らないので、怪訝な表情に変わる。ドルドレンはすぐ『小さな面倒が起きかけたが、回避している』と彼に言い、だがルオロフの言うことは尤もだとし、クフムも伴い全員で中へ入ろうと言った。


「タンクラッドも呼ぶでしょ?」


 風の強い曇天を見上げたミレイオが呟き、皆もつられて上を見る。銀色がキラッと光った後、少しして・・・ 通りから何食わぬ顔の剣職人が、皆の所へ歩いてきた。


「どっから来たのよ」


「その辺だ」


 可笑しそうなミレイオに、タンクラッドは普通に答えて、建物へ顔を向ける。『ここから入るのか』とドルドレンに聞き、ドルドレンは頷いたが、『イーアンのいない理由』を続けて聞くと、残念そうだった。


「いると思って、いないと寂しいものだが、ここの局長は俺より残念がる気がする」


「いないもんは仕方ない。『ウィハニの女』は、この世界に来てから常に大忙しだ」


 軽く往なした剣職人に、笑うミレイオやフォラヴ。ドルドレンも『間違いではない』と認め、皆で―― クフムも連れて ――裏玄関から入る。

 玄関口の男性は職員のようだが、彼の前を通る時、オーリンに隠れる形で並んで歩くクフムを、じっと見ていた。視線を合わせることはなくとも、その狙い定めるような遠慮ない態度は、皆が気付いた。



 ここに揃っているのは、ドルドレン、タンクラッド、ミレイオ、オーリン、フォラヴ、ルオロフ。

 シュンディーンは、馬車の中で赤ん坊状態(※睡眠中)。一応、シュンディーンも名前を申請したが、『幼児』としてで、『来る前に人に預けた』口裏で済ませる。ザッカリア不在も、彼は少年なので、とりあえずシュンディーン同様、『お預かり先がある』ということで。


「ロゼールとか、シャンガマックはどうするの?」


 玄関口を抜けたそこは、広々した部屋で壁の遮りがない。ひそりとミレイオがドルドレンに訊ねると、ドルドレンは『それはルオロフの口の上手さに頼る』と任せきりの返事をし、横で聞いたルオロフは苦笑した。 


「頼りにされているので、頑張りましょう。と言っても。私は大事な内容だけ押さえますが、他は向こうの話になる気もします」


 ()()()とは、タニーガヌウィーイ・・・・・


 横広の部屋に、ドルドレンたち以外の来庁者が10人ほど。透かし彫刻で作られた腰丈のカウンター奥に、職員が30人くらい。表玄関側の壁に、間隔を取って並ぶ縦長の窓、玄関から離れたその窓側でこちらを振り返った男は、来庁者の団体にサッと片手を振った。


 曇った外の明かりでも、一本に束ねた白髪の艶は彼を縁取り、大きな口を包む立派な白い髭も、離れたドルドレンたちに表情を伝える揺れ方をした。


「分かりやすい」


 ボソッと落としたミレイオの声に、オーリンが声を殺して笑う。『見るからに、だな。あの爺さんが、局長か?』宴に出なかったオーリンが小声で訊ね、ミレイオは『爺さんって感じじゃないわよ、近くで見ると』と答えた。聞こえないはずの小声だったが、なぜか――



「来たか。こっちで話そう。おい、応接室に彼らを通す。茶を出せ」


 局長タニーガヌウィーイは、職員に『茶を出せ』と命令しながら、ドルドレンたちに近づいてきて応接室へ誘う。


 彼の歩く後ろに付いて行くドルドレンたちは、局長なのにお茶の命令をする彼が、やっぱり海賊なんだ、と変な感心をした(※職員が従順に動いてる)。


 応接室の扉は開け放されており、局長は戸口脇に立ち、先に皆を通す。ぞろぞろと中へ入る列、ミレイオとオーリンが前を通った時、『爺さんって、年でもないと思わないか?』といきなり言い、びっくりしたミレイオが『見えないわ』と即、肯定した(※知らないふり)。オーリンは目を逸らした。


 びくついた二人を笑う白い髭の男に、ドルドレンが『申し訳ない』と曖昧に対象を濁して謝ると、タニーガヌウィーイは着席を促して、自分も一人掛けに腰かけて『()()()()、だ』と返す。何がトントン、と眉根を寄せる総長。


 従順な職員がお茶を運び、長椅子横に添えた卓へ置いて退室すると、局長は茶を飲むよう勧める。



「呼び出した感じになっちまったな。地震は大丈夫だったか?気は抜けないがまぁ、道も崖も崩れていないから、大丈夫だと思うが・・・ 」


「すまない、扉は、開けておいて良いのだろうか」


 遮ったドルドレンは、話の内容が自分たちの機構や情報に関わると思って、開けたままの扉を閉めようと腰を浮かせたが、局長は彼に片手で座るよう示し、扉に顔を向け『このままで良いんだ。どうせ、連中も知っている』と言った。


 連中・・・職場の皆さん? 視線が飛び交うミレイオたちの反応を気にせず、タニーガヌウィーイは自分の茶を飲み『酒の方が良いが、朝だからな』とか何とか。微妙な相手に、黙って話を待つ全員。



「ところで、イーアンは」


「用が出来て、今はいないのだ。あと、仲間の少年と」


「そうか。残念だが、良いだろう。じゃ、話に進むか」


 イーアンがいないのは残念、とだけ―― 他にも抜けている者はいるのに、質問も、関心さえなし。


 あれ?と思うドルドレン。ふと気づいたが、局長は書類も持っていない。さっと視線を走らせた応接室はガランとしており、調度品の類は簡素な長椅子と小卓・・・よく見ると、これだけである。


 これまでに訪れた、どの施設よりも素朴。床は赤い素焼きのタイル敷きで、壁の色が明るい橙色と青に塗られているから、物がなくても違和感なく見えたが。


()()のことではないのか?サネーティが受け取ったと言っていたが」


「ンウィーサネーティに渡した書類については、一部だ。そこの、『僧侶』を見張るためにな」


 タニーガヌウィーイの太い白い眉の下、茶色の瞳が古い剣のように光り、クフムを見た。ギョッとした全員の反応を待たず、局長は『種明かしだ』と理由を説明し始めた。 



 *****



『僧侶を見張る』―――



 不穏過ぎる出だしに、緊張が走ったが。終わる頃には、最初の緊張を忘れるほど大きな面倒に意識は囚われた。


 内容は危険で深刻で、そして現在進行形。質問を挟む気になれずに、局長の話を一言も聞き逃すまいと身を入れて聞けば聞くほど、ドルドレンたちはティヤーのこれからに恐怖を感じた。



「それで、『クフムが僧侶』と分かったのですか」


 話が終わった後、数秒の沈黙。沈黙を破ったのは、ルオロフの不審そうな質問だった。局長は背凭れに預けていた体を前に屈め、膝に肘をつき、赤毛の若者に頷く。


「お前か。ルオロフ・ウィンダルとやら。昨日、ンウィーサネーティの隣の席にいたな」


「そうです。私がアズタータル港湾事務境から先に送った、彼ら派遣団体の書類はこちらに着いた後」


「今、教えたとおりだ。お前の要望通り、ちゃんと手続きは終わらせたし、やるこたやったぜ」


「個人情報を調べるのも、他人に回すのも」


 ルオロフが少し言いがかりをつけかけたが、これは隣にいたオーリンが軽く制した。やり方は褒められないが、局長の説明を聞く分に()()()()()と理解する。


 薄い緑色の目を向けた若者に、『俺も質問があるんだ』と交代を促すと、弓職人は白い髭の男に訊ねた。



「貴重な情報だ。神殿側の怪しさを、ここで聞けるとは。イーアンにも聞かせたかったよ。ところでな、イーアンなら、俺が今からする質問を必ず言う。その『荷箱』は、中身が何かはっきりしているか?」


「お前は昨日、見なかったな。名前は何だ」


「オーリン・マスガムハイン。弓職人で、龍の民。イーアンの同胞」


「ほぉ・・・面白い。良い自己紹介だ。気に入った、オーリン。お前の質問への答えは『知らない』だ。見当は付けても、確認できなかったからな」


「その『荷箱』は、荷役で誰か触っているんだよな?()()はあったか?」


 畳みかける龍の民。猫の瞳のように吊り上がった黄色が光る。タニーガヌウィーイは少し笑って『それは、知っている言い方だぞ』と注意する。


 お前も関与を疑われかねない・・・そう含ませた言葉に、オーリンはゆっくりと首を振り『疑わなくていい』と先に釘をさす。

 眉片方、ひゅっと上がった白髪の猛者から、黄色の目は視点をずらさずに、静かに続けた。



「俺はイーアンと、その『やばい箱』のある場所へ、調べに行ったばかりだ」

お読み頂き有難うございます。


明日の投稿をお休みします。どうぞよろしくお願い致します。

いつもいらして下さることに、心から感謝して。有難うございます。

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