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魔物資源活用機構  作者: Ichen
ティヤー上陸
2447/2962

2447. 植物園の火薬製造

 

 到着したイーアンたちの眼下に広がるのは、一見して、植物園。


 レイカルシが『ここで消えた命』を辿って、この場所の情報で、『植物園らしい』と教えてくれたそこは、手入れされた多くの植物が埋める敷地。



 神殿の管轄のようだが、肝心の神殿は、かなり離れた川向こう。周辺環境は森で、緑豊かな南国の森に、神殿と修道院が並び、広い敷地の奥に流れる小川を挟んで、この『植物園』がある。


 植物園だが・・・ 高い壁でぐるりと覆われ、壁の外にも大型の木があり、植栽された様子。目隠しした理由は、質素な建物の先にある。


 空から見たら()()()だった。壁が囲う敷地の内側は植物だらけ。入り口の門からずっと進んだ所に建物があり、建物を抜けた先は、草一本ない空き地。


 イーアンもオーリンもこれが意味するものをすぐ察した。穴がぼこぼこある裸地、焦げた黒や壊れた岩が目につく。そして、硝煙の臭い。


 溝や適当に掘られた穴は・・・体の形を留めていない死者が、上に土を盛られることなく、転がされて入っていた。



 イングとレイカルシ、イーアンとオーリンは、園の外に立つ大樹の上に降り、太い枝から下を見る。ダルナは大きいので、乗っている様子が見つからないよう、姿がぼやけた状態。


 レイカルシは、枝の一つに鉤爪を置き、そこに数束の小さな花を咲かせた。花は・・・見下ろすこの場所で、途絶えた人々の声を聞き始める。



 レイカルシの情報を待つイーアンは、じっと下を見つめ、ここを全く知らない誰かが見たら大事件だろうにと、惨状に遣り切れなかったが。


 でも・・・この国では、神殿による『人身引き取り』は、既に()殿()()()()とされていて、詮議されることもなければ、法に触れすらしない。『引き取り対象』が、生活困窮者や身寄りのない信者で、中には犯罪者も含まれる。


 早い話が、神殿に引き取られたところで、『他に迷惑の及ばない人間』と判断されていれば、その後の人生は神殿のもの・・・・・


 序に言うなら、神殿が国政を執るこの国で、もしも誰かが見たとしても、犯罪にも問題にもならないとは、この時、イーアンとオーリンが知ろう訳もなかった。



「見ての通りで、犠牲者だ。試作品の火薬に火をつける役で、そのまま爆死。焼死した。火薬の殺傷力や威力を試しているのかもしれない。飛び道具に使う火薬、だけじゃ()()()()()()だ」


 死者の声を聴き終わったレイカルシが、彼らはどう死んだのか。なぜここに来たのかを教える。


 土の壺に詰めた火薬を外へ運び、壺から出ている紐に着火するが、なかなか火が付かず、繰り返している間に突然の爆破。

 金属の長い筒に詰めた火薬と、反対側に詰めた金属玉も、垂れた紐に着火するが、筒ごと暴発。



 話しだけ聞いていて、幾つもの複雑な思いがイーアンに交錯した。

 ここは、火縄銃―― かもしれない。テイワグナから奪った『長筒銃』の形状は同じでも、違うものを作っているような。土の壺に火薬、は()()の走りだろう。


 この世界に来て、何より避けてきたことが・・・ 火薬がない世界なら、そのままでと、私が触れずにいたことが。


 瞼半分下ろして悔やむイーアンの横顔に、オーリンは慰める。君のせいじゃないだろ、と静かに顔を覗き込んで教え、『今は他に何があるか、調べるんだ』と背中を撫でた。



 火薬の製造を試みている。これは、当たった。続いて、レイカルシの情報で飛び道具を造っている連中とも決定した。


 大きく息を吐いて、イーアンは遣り切れない顔で二頭のダルナを見上げる。イングは『建物に入ってみるか』と素っ気ない建造物を顎で示した。


 イーアンとオーリンは少し考えた。時間は日中、人がいる声も聞こえて、さすがに堂々入りこむには。


 弓職人は、自分の小さい弓―― 火薬を使う ――を下げたベルトをちょっと見つめ『だが、()()()()()調べないとな』と呟いて、どう行動するべきか相談する。



 ダルナは『丸ごと始末』と推奨したが、それをやると後が続かないので、極論はちょっと待ってもらって。


「(イング)使えなくするのも、目的だろ」


「(イ)そうです。使えなくする・他に何があるかを知る、この二つ」


「(レ)他に何があると、どう動くのかは、もう決めているのか」


「(オ)火薬と銃がある時点で潰すけど、量産しようとしている奴らだ。その目的も閉ざしたい。何に使う気か、だよな」


「(イング)それじゃ。俺たちじゃないな。スヴァウティヤッシュを呼ぶか」


 スヴァウティヤッシュは用事が・・・ イングの一言に、龍族は目を見合わせる。今、彼は忙しいかもしれない。と思ったのに、イングは宙を見上げて既に呼び掛けている様子。


 呼んでしまった、とは思ったが、来れないなら断られるだけかと、イーアンたちも暫し待つ。



 間もなく、木々の上の方に大型のカラスが現れて、樹上にとまった。


「忙しいんだよ」


 カラスが開口一番、嫌そうにそう言ったが、事情を聞いた後なのか。ふーっと溜息を吐いて下に広がる悲惨な裸地に首を回して『こうなったか』と・・・ イーアンはそれを聞き『()()()()()?』と聞き返す。その言い方は。カラスは一つ下の枝に降り、見上げる四名に『似たような物を見た』と教えた。


「なんですって。他でも」


「違う、イーアン。似ているだけだ。俺が見たのは、サブパメントゥの持ち込んだもの。()()()()が、『ここ』という意味だ」


 愕然、とまでならないが。イーアンもオーリンも、手前の光景を見て来たらしき彼の発言に、言葉がない。



 ―――サブパメントゥが手を出した()()()()()()と、最初に予想したタンクラッドの話が二人の脳裏に揺らいだ。あの時はまだ、弓矢だった。ダマーラ・カロ製造の鏃を、奴らが盗んだかも、と。


 続いて、銃も盗まれた可能性を話していたのは、ついこの前。

 銃の部品と想定した物があるなら、火薬もあってのことでは?と調べに来たここで、火薬作りの失敗した悲惨を前に、サブパメントゥを探したスヴァウティヤッシュは『そいつらが持ち込んだものを見つけた』のだ―――



 ・・・同じだよ、とオーリンの呟きが沈む。黒いカラスは『違う』ともう一度否定し、奥の建物を見てイングに用事を確認した。


「中に、入るわけか。あの中の人間の思考を押さえるんだな?」


「そうだ。それと、この()()()()を使えないようにしたいと、イーアンが」


「ああ、まぁ。そうなるよな。でも消すだけなら、イーアンでも良いんじゃないの?」


 イングの言葉に相槌打ちながら、カラスは首を傾げて女龍に訊ねる。いつもならそうするだろう、と聞きたげなカラスに、イーアンは思うことを話した。


「消してしまうのは、もう少し後にしたいと考えています。今は、『使えない』と知って、他に連絡を取ろうとする輩の動きを追いたいのです」


「あー・・・芋蔓狙いか。じゃあ、ブラフスを呼ぼう」



 木々の影で続くこの会話、オーリンはピンとこないので、蚊帳の外だが。


 イーアンが仲間にした異界の精霊は、次々に門戸を開けて行くので、手も口も出さずに見ている方が良さそうで黙っている。

 何より、彼らはイーアンと同じ世界から来ている分、『火薬』について何も不思議がらないのも、話の進みが早い理由かと気づいた。



 そうして、次に来たのは、すりガラスのような半透明の大きな翼を広げた堕天使。彼が来る前に、暖かな空気が風に乗り、イーアンは赤目の天使を迎える。

 この時点でもう、スヴァウティヤッシュは、近くにいる人間全員の思考を操作しており、ブラフスの姿が空に在っても問題ない状況。


「とはいえ。ブラフス、こっち来い」


 離れていると、遠くの人間の目には映るかもしれないから、と天使を呼び寄せ、側へ来た赤目の天使がイーアンに挨拶した。イーアンも挨拶し、来てくれてとても嬉しい、と喜びを伝えたのだが。


「イーアン。哀しいのか。どうしたのか」


 ブラフスは微笑む女龍の心に敏感で、この理由はスヴァウティヤッシュから教えた。


 ブラフスもまた、銃や火薬の存在を知る。彼が知っている銃はとても古い時代のものだが、それでも()()イーアンを困らせているか、理解するには足りる。



「だからな。お前に火薬を、()()()()にして、別の物にしてほしい」


 頼みに疑問を持たない素直な堕天使は、黒いカラスに頷いて、自分が出来ることをする、と答えた。


 スヴァウティヤッシュはカラス姿で入ったが、大型のイングとレイカルシは、体を縮めてまで入る気はなく、表で待っていると言った。

 ブラフスは空気に混ざりながら移動する。彼の大きな翼は畳まれて、通路の空中に、ふっ、ふっ、と半透明のブラフスが出たり消えたりしながら、イーアンたちと屋内へ進んだ。



 灯りがほぼない、暗い石の廊下を歩くイーアンは、あんなに無残な死者が出るほど、失敗するだろうかと・・・ 火薬作りの配合が決定しないにしても、被害の酷さが引っ掛かっていた。


 レイカルシが教えてくれた、『壺に詰めて大きな爆発を求めている』印象から、爆弾の殺傷力を高めたいとも思えるが、爆発自体は既に叶ってしまったことから、そこまで失敗に繋がるのが不自然に感じる。


 銃は多分・・・火縄銃だと思う。が、テイワグナから盗んだなら、火縄銃の発想を跨いでいるはず。


 これも何故だろう?と気になる。テイワグナでは、ミレイオが『肋骨さん』を教えた。

 弾込めの際、火薬も一緒に詰めて・・・火縄銃もそうだけれど、銃口から装填、フリントロック式で着火する。薬莢も作っていたので、弾は小石でもどうにかなった。


 おかしな話だが、石だろうが塩だろうが、使えるには使える。ちゃんと飛ぶ・真っ直ぐ飛ぶ・飛距離云々・威力他、()()()()になるにせよ。余談だが、固い紙や木材・強いゴムで作った即席の銃でさえ、構造が確かなら、弾込めの火薬量を調整して、発砲可能なフリントロックのライフルは作れる。



 イーアンは、銃の構造や仕組みをミレイオに教えていない。自分が銃に詳しくないのもあるからだけれど、話した記憶はなく・・・それでも、ミレイオは作ってしまった。

 作り出す人、というのは、どんな場所にでもいる―― それを目の当たりにした。



 サブパメントゥが、現物を盗んだわりに、構造を理解できない輩が受け取ったのだろうか?

 火薬の材料と配合は、どうやって知ったのだろう。

 何を目的に、火薬の被害を繰り返しているのか。

 あの製造現場の停滞状態の理由は、火薬が間に合わないからなのか。



 考えながら、薄暗い通路を歩いていると、不意にカラスが止まる。

 ここまでの間、人間の姿や影は見たが、彼らは呼吸していても身動きせず、ぼうっとした状態で、スヴァウティヤッシュの力で押さえられていた。


「どうしました」


「ここらで()()か」


 カラスはひっそりした声で、その目は、扉のない一室の奥を見た。

お読み頂き有難うございます。

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