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魔物資源活用機構  作者: Ichen
ティヤー上陸
2444/2962

2444. ザッカリアからクフムへの助言・『知人』サネーティ

 

 ルオロフが中に入ってから、一時間近くが経過した。


 朝食を後回しにした一行は、ここのところ毎回三食食べていた流れで、誰からともなく腹が鳴る音が響き、数人の腹が鳴ったところで、ミレイオが『何か食べる?』と笑った。



「まだ出てこないでしょ?(←ルオロフ)」


「ちょっと食べる」


 馬車の外にいたザッカリアがミレイオの誘いに乗り、横目に・・・馬車から少し離れて立つクフムを見た。クフムは馬の横で、海を眺める。誰とも口を利かず、利いてもらうこともなく。



 ―――気の毒とは、思わないが・・・ ザッカリアは、自分がいなくなるこれから、クフムがどう動くかを()()見つめた。



 ザッカリア、と呼んだミレイオに肉を出され、お礼を言って受け取ったその足で、ザッカリアは僧侶の側へ行き、訝し気な目を向けた顔に『半分、食べる?』と乾し肉を割いて見せた。


 後ろで大人が『え?』とか『ちょっと』とざわついて、クフムはささっと首を横に振って目を逸らす。


「ザッカリア」


 止めるイーアンの声が呼んだが、ザッカリアは振り向かずに、片手をさらりと上げて終わる。

 放っておいて、と仕草で示した少年の行動に・・・ 何かあるのかと、察したイーアンは黙った。他の者も怪訝ではあれ、様子を見ることにした。



「クフム。これ」


「要らない。君のだ」


「俺が貰った肉を、クフムに分けるのは()()()()だ」


「『迷惑』だから」


「どっちが?クフムが、自分をそう思うの?俺の行為が?」


「どっちもだよ」


 つっけんどんな僧侶は、本当に迷惑そうに顔を顰めたが、ザッカリアはそれを流す。


「食べよう。俺はこの先・・・いなくなる。挨拶だと思ってくれない?」


 少年は、手に持った半分の干し肉をクフムに押し付け、たじろぐ僧侶は悩みながら、それをそっと摘まんだ。

 視線は女龍を窺うが、ザッカリアは『気にしなくていい。俺が言うから』と大人びた口調でそれを止め、肉を食べ始めた。


 受け取った肉を口にしようともせず、手に持ったままの僧侶に、ザッカリアは『食べて』とやや強制的に促し、諦めて溜息を吐いた僧侶は、皆から見えないように背を向けて肉を齧る。



「君は、どうしてこんなことを?私に関わると、君が」


「だから。俺はもう、抜けるからさ。その前に、お別れの挨拶だ。知り合ったんだし」


「・・・イーアンに言われたのかい?」


「イーアンが俺に、こんなまだるっこしいこと頼むと思う?」


 ハハッと笑う少年に、笑うに笑えないクフムは『いや』と小さく答えた。乾し肉は、空腹の腹に吸い込まれそうになる。味わって食べようと、クフムは少しずつ齧り、並んで海を眺める少年を見下ろした。


「君は、抜ける。私への別れの挨拶で、肉をくれた。それだけ、と信じて良いのかな」


「いいんじゃないの」


「裏があるのか、と思うよ」


「ある、って言ったら、食べない?あるとすれば、クフムが()()()()()()()()()()を教えられるくらい」


 だな、と言い終わる前に、顔を向けたクフムの瞼がぐっと上がる。肉を咀嚼していた口元が止まり、『教えてくれ』と彼は囁いたが、その声は鋭かった。


 いきなり信用したのか?とザッカリアは少し可笑しかったが、やっぱり彼は逃げること(そこ)だけに執着しているとも解り、『ちょっと確認』と、囁きに小声で応じる。僧侶は、目端で馬車にいる皆を気にしつつ、小さく頷いた。


「クフムは、俺が『安全に自由になる方法を伝える』として、それを信じる?」


「『騙されるとは思わないのか』、って聞こえるが」


「俺には時間がないし、クフムもこのままじゃ・・・ 俺の仲間にとっても、クフムにとっても、間違いが起こりそうだ。

 先に言うよ。俺は『未来を見る力』がある。だから」


「信じるよ。一瞬で、ヒューネリンガから移動したアズタータルも信じた。これを言うなら、角と翼付きで飛ぶ誰かも(※イーアン)も、精霊の子(※シュンディーン)も、姿を変える人間(※オーリン)も、連続で信じたんだ。()()()()()()()んだね」


 焦って先を急かす僧侶は、早口で信じる理由を数珠つなぎに伝え、ザッカリアは軽く頷いて彼を見つめた。レモン色の明る過ぎるほど透き通った瞳は、僧侶の戸惑いと濁った悩みを見透かす。


「もう一つ、教えておくね。俺以外でも、未来を見る存在が側にいる。ただ、俺の場合は他と違って確率が高い。

 もし、俺の言葉に沿って動いていたのに、クフムがいつか・・・俺の仲間に止められることがあれば、それは乗り越えてほしい。続きは必ず、俺が今から話す現実に続く。

 もしも、『乗り越えなかったら』。別の未来に変わるだろう。それは()()()()未来だと思う」


「すごいな。すごい自信だ」


「これでも一応、人間じゃないからさ」


 何だか、さらっと・・・おっかないことを言いのけた少年に、クフムは唾をグッと呑みこみ『信じる。その言葉を忘れない。で、私はどうすればいい?』と急ぐ。この話している時間がいつ終わるか分からない。少年は微笑んだ。



「ゴルダーズ公の船が襲われた理由。『設計図』知ってる?」


「え・・・ああ、まぁ。それはイーアンが、最初に私に会いに来た時に話したから」


「それは、クフムが描いたんじゃ()()でしょ」


「・・・・・ 違う」


 肉を食べながら―― 急に核心に入り込んだ話は、クフムを緊張させる。微笑みを絶やさない少年も、乾し肉をモグモグ噛み続ける横顔で『それを描いた人と、クフムは会う日が来る』と言った。



「その人、ティヤー人だよね?」


「なぜ解るんだ」


「見えているからだよ」


 少年の返事に、絶句。数秒、心臓の鼓動が太鼓のように打ち付ける焦りに、言葉が出ないクフム。嫌な汗が背筋に垂れ、自分が間抜けだったと今更認める。



 ―――『ゴルダーズ公の船に入った放火犯は、関係者を狙う何者か』だと、そこで想像が止まっていた自分に、焦燥感が沸き上がる。


 こんな暢気にしていたなんて、と気づいた途端に悔しくなった。誰が狙っているか、そこまで考えなかった。狙われる=怖い、だけで・・・・・ あれは、ティヤーの神殿の差し金。


 アイエラダハッドが魔物で終わる激化した時期を利用して、アイエラダハッドの『知恵の持続』を()()()()()んだと、明快になった。



「クフム?」


「あ。あの、うん。ごめん」


 苦悶の表情を浮かべた僧侶に、ザッカリアは眉根を寄せて、クフムは大きく息を吸いこみ、謝ってから『続けて』と頼んだ。ザッカリアは彼の変化を見つめたまま、食べながら話している時間を盾に、クフムに助言を与えた。


「その人が。クフムの代わりになるはずだ。クフムの居場所・・・要は、俺たちと行動する状況に、自分と()()()()()()()と言うだろう」


「なんだと・・・?彼が、私の代わりになると言うのか」


「その日が来たら、クフムは『安全に自由』だ。そのティヤー人と交代する時、確実に、その人が俺たちに頼みに来るから・・・って、俺はいないんだけどね」


 少年は、最後の乾し肉を口に押し込み、凝視して見下ろす僧侶にニコッと笑うと『じゃあね』と話を切り上げた。



 ハッとして、『まだもう少し』とクフム言いかけたが、少年はさっと背中を向け、馬車の荷台でずっとこちらを見ていた女龍の元へ小走りにかけて行ってしまった。



 *****



 イーアンの困り顔の前で、『大丈夫だよ』と可愛く笑ってすり抜けるザッカリアは、次に心配そうな妖精の騎士の元へ。


「ザッカリア。彼と何を話していらっしゃいましたか」


「皆のためになること」


「あなたに敵いません。私は、彼が嫌いです」


「知ってる。でも、そんな嫌わなくても平気だ。次があるからね」


 え?と柳眉を寄せるフォラヴに、ザッカリアは『俺はそろそろ、空に帰るよ』そう、皆にも聞こえるように言った。顔を向けた大人たち。ドルドレンがすぐに来て、少年の横で立ち止まる。



「総長。宿泊代は要らない。今夜から」


「・・・もう少し居なさい。いつ・・・お前が用事で、ティヤーに戻っても良いように。出入国管理局は近い日に行くんだから、その時までは」


 じっと見つめるレモン色の瞳に、灰色の宝石は言い聞かせる。静かな低い声は、注意ではなく寂しさを含んで聞こえた。ザッカリアは、仕方なさそうに笑って『分かった』と答え、ドルドレンの大きな手が彼の頭を撫でる。


 離れて見ているフォラヴは、ますます・・・『私も抜ける』と言い出し難く、この時も小さな溜息を落として終わる。



「総長」


 この時、腹の隙間を乾し肉で埋めていた一向に、ルオロフの声が響いた。皆がそちらを見ると、彼と、彼の後ろに知人。二人が歩いてきて、ざっくりと用件を先に ―――知人が告げた。


「噂じゃ、すごい派遣団体と。私は『ンウィーサネーティ』です。サネーティと呼んで下さい。ええっと、えー・・・あ!あなただな?素晴らしい、美しい角!なんて肌だ、煌めく波のよう!ようこそ!『ウィハニの女』!」


 自己紹介と同時。 ザーッと見渡した『知人』は、イーアンに目を留めて笑顔でパンと手を打った。同時にイーアンの目が据わる。


 サネーティは、背が180㎝くらい中肉中背。日焼けで肌の色は濃く、年齢が30代。黒い髪を一束に結び、黒い眉、整った黒い髭、大きな垂れ目はヘーゼルナッツみたいな色の瞳。鼻の付け根が高く、口も大きく、がっちりした肩と胸の影を柔らかく映す、水色と白の長衣の恰好。


「『ウィハニの女』ね。ふむ、そうでしょうか」


 イーアンはなれなれしい男に、笑顔を向けず、首を傾げたが・・・ サネーティは笑顔を崩さず『やっぱりな!』と勝手に納得。

 そうだけどさーと思いつつ、イーアン半目のまま、気にしないサネーティは『じゃ。うちに入ってもらえますか?』とここでようやく全員を()()した。この、時間の空き方。何の説明もない、さも当然と言った流れ。



 胡散臭さ抜群――― ルオロフが吐いた静かな溜息を、誰も聞き逃さなかった。


 彼は、()()()()()んだな、とドルドレンは理解して、ルオロフの横を通り過ぎる時にその肩をトンと叩き『大丈夫だ。俺がいる』と励ました。


 すみません、と小さな謝罪に頷いて、総長に続く一行は―― クフムも ――サネーティ宅へ入った。そして更に重ねた、自己紹介は明け透けだった。



()()()呪術師です。私の本業はね」


 カラッと笑った日焼けの笑顔に、ドルドレンは真顔で『驚かん』と答えた。



 *****



 ―――屋敷に入った一行を見たところで、宙に止まったスヴァウティヤッシュは『ちょっと遅れたな』の呟きと共に・・・横にいる、銀色のバカでかいダルナに『一緒に待たせてもらうよ』と断りを入れた。


「俺に断ることはない」


 トゥの返事に軽く頷き、二頭のダルナは―― 中に入った者たちが話すのを、暇潰しに()()()()()

お読み頂き有難うございます。

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