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魔物資源活用機構  作者: Ichen
ティヤー上陸
2443/2962

2443. シャンガマックの準備着々・ダルナとヤロペウクと火山列島

※明日5日の投稿をお休みします。どうぞよろしくお願い致します。いつもいらして下さることに感謝して。

 

 馬車が到着した、午前の庭先。ルオロフの知人が迎え、ドルドレン他数名が顔を出したが、ルオロフは知人と少し挨拶してすぐ、皆に『馬車で待っていてほしい』と・・・素っ気ない態度で伝え、会釈したティヤー人の男性と屋内へ消えた。



「あれも。気遣っているのだ」


 誰もいない庭先。馬糞が落ちても良いように、少し開けてある土地に三台の馬車を並べた後、光瞬く青い海を眺めるドルドレンが呟き、隣に立ったイーアンもゆっくり頷いた。


「分かっています。ルオロフは私たちに、付き添っているだけ、とあの知人に態度で示したのですね」


「彼は俺たちの動きを阻む可能性を遠ざけたい、と話していた。頭の良い人物だから、彼が一人で何か背負うこともなく済むと思うが」


 少し心配ですね、とイーアンが続け、ドルドレンも気にした。が・・・ 知人相手、下手なことは言わないだろうし、変な展開に持ち込むことも選ばないと思う、と二人はルオロフが無事に出てくることを願った。



 到着した先で、馬車待機の全員。ルオロフが戻るまで、気の抜けた午前を過ごす。


 寝台馬車の荷台にいたザッカリアは、馬を下りたフォラヴと海を見ながら気分転換。荷台に残ったシャンガマックへの()()、とも言う。


 友達に配慮してもらった褐色の騎士は、荷台に影伝いで入った獅子とお話し中。フォラヴたちは気を利かせたが、他の者に獅子が来たことは言わない。無論、気配で気付かれているけれど、気付いた者たちも特に言葉にせず。



「どうだ?」


 獅子が低い声を一層低くして、息子に訊ねる。扉は僅かに開いており、暖かな潮風が滑り込む荷台で、シャンガマックはちょっと伸びをして『まだ、もう少し時間が欲しい』と答えた。顔を向けた獅子に、先ほどまでのことを話す。


「クフムが、服を買いたがっていたんだ。僧服が気になっていたから。だから購入に付き合うことにして、話を聞いたんだけどね・・・思った以上に、警戒心が強くなっていた。聞かれる度におどおどしてしまうから話にならない」


「お前が『残存の知恵』について、探りを入れる理由に?」


「どうだろうね。全体的に、なのかな。警戒される食い込んだ内容じゃないと思うが、それはこっちの感覚か」


「お前が訊いたのは、()()だろ?」


「そう。実際に知恵をいじくりまわしていた彼が、知恵の産物への扱いで注意していた点というか」



 ふー、と息を吐いて、獅子に寄りかかる。シャンガマックは座った膝を一つ立て、両手を組んで膝に引っ掛けると『話せない内容じゃないよな』と、自分の問いかけを思い出す。獅子は息子をじっと見て『どう聞いたのか』と説明を促した。


「ん?普通だよ。扱う際、危険を避けるための予備知識と言うか・・・ クフムがあんまり躊躇うから、買い物の時間が終わってしまった。

 動力を造る間、手袋をしたか?、工具の素材は何か?とかね。材料はどこで誰が手に入れていたのか、とかさ」


「お前は素直過ぎる」


 獅子の一言に驚いたようなシャンガマックは、寄りかかっていた体を起こし『変か?』と聞き返す。


「変じゃない。素直過ぎる、と言ったんだ。まぁいい。やつの思考は読まなかったのか?」


「うーん・・・会話中は思いつかなかった。先に読んじゃったからな、『服を着替えたい・服が欲しい』の要望だけ」


 そこじゃないだろ、と思う獅子だが、息子は相手の思考を読まない方が多いので、これは仕方ないかと理解する。多分、もう相手の思考を読む技も可能なのだが・・・ 慣れないだけに、普段から使おうとしない。



「ヨーマイテス」


「なんだ」


 話しかけられ、獅子が見ると、息子は自分の寝台下に置いた、資料の一冊を引っ張り寄せて開き『これ』と一つの剣を指差した。夕方に散々見た絵の一つで、彼は少し考えて口を開いた。


「材質まではっきりして、保存状態も良い、この剣」


「資料館に()()()()()()()やつだろ」


「そう・・・ヨーマイテスは『取ってくるか(←盗む)』と言ったけれど」


「手っ取り早いからだ」


「ハハ。そうだね。でも、どうせなら強化したいな、と」


「ははぁ・・・そうか。お前は全く。現物に手を出さないのは、盗みが()()()()かと思ったが」


「それもあるよ、勿論。だけどうちには、剣職人もいるだろう?凄腕のタンクラッドさんがいる以上、作ってもらえると思う。資料で一番、ルオロフに良いと思う剣がこれだけど、実物は見れなかった。

 剣の形は絵の展示を模写した分、これで正しいだろう。だからここに、クフムの情報を加えて、素材をさらに強化出来たら、それに越したことはない」


「ん~・・・お前の言いたいことは解るが。昨日は『遺跡探しで見つける』からと、俺にその手の遺跡を探ってほしいと言った側から、今度は新しく作ると」


 昨日、息子が話していたのは『見つける』方向の内容。クフムに探りを入れて、実際に確認したがっていたので、接触でそうなったかと思えば。クフムの警戒で適わず、それはしょうがないが、前提と違う流れになっていた。



 渋い顔を擦る獅子(※見た目同じ)の言葉に、ちょっとすまなそうに笑って、シャンガマックは鬣を撫でながら『思いついた』と白状し、意見が変わったことを謝る。獅子は息子に甘いので『それならそれでもいいが』と認めてやってから、遺跡探しは続けると言った。


「ごめんね。手間をかけて」


「謝らなくていい。手間でも何でもない。どうせやることないんだ・・・ティヤーの知恵潰しは、イーアンとオーリンが行くし。遺跡だって、俺が回った場所をもう一回行くだけの話。俺が回った目的と違うから、出土した遺跡を見本に探すって具合だ」


 頼もしいよ、と鬣に腕を突っ込んで抱きしめる息子に、獅子はうんうん頷いて(※喜)『まぁ、お前も頑張れ』とクフム情報聞き出しを励ました。



 *****



 その頃――― アイエラダハッド北東、南寄りの火山列島。


 毛皮の服を強い海風にはためかせた、大きな男が、黒いダルナと向き合っていた。


「俺を()()()()とはね」


「呼び方が正しかったようだな」


 ヤロペウクに呼ばれたのは、スヴァウティヤッシュ。周囲の荒波と重なって、海中から上がる大きな泡の、ゴボンゴボンと立てる音が止まない中。男の呟きは、離れていても鮮明に聞き取れる。

 黒いダルナは、この相手の素性や正体を、奇妙に思わなくもないが、暴く気もない・・・・・


「用事は。()()()()(※2391話参照)か?」


 黒いダルナが尋ねると、ヤロペウクは頷いて『お前に教えておこうと考えた』と答えた。


「イーアンが、お前を頼るだろう」


「そうだな。それは知ってるよ」


「今後、お前は彼らが魔物退治を()()()()も、一緒に行ける」


「・・・退治を終えた後」


 ヤロペウクの言葉を復唱し、ダルナは視線を逸らした。イーアンは、俺の解除の時に、俺の意見を立てたことで、彼女が問われる時に俺も一緒、と精霊に言われた(※2282話参照)―― あの日のことが、ふと過る。



「ダルナよ。もうじき、ティヤーの北西を、津波が襲うだろう。この火山の噴火と共に、海底が突き動かされる。振動は水を叩き、水は加速してティヤーの島々に被り、合間を抜けて勢力が増す」


 不意に、予告するヤロペウクに、『俺の名はスヴァウティヤッシュ』と先に名を呼ぶよう示してから、黒いダルナは『その予告は、イーアンたちへ?』と訊ねた。微動のように頷いた男に、頷き返して続きを促す。


「津波に、魔物が乗じる。ティヤーの一部が最初に被害を受けるが、波と海底に押しこまれた魔物が、国中に広がるのは時間の問題だ。()()()全土に魔物が出る」


 ヤロペウクの言う『今回』の意味は、ちょっと解りかねたが、イーアンに伝えれば分かることかも知れないので、スヴァウティヤッシュは、予告に対して質問はやめた。その代わり、別の質問を投げる。



「・・・なぜ。俺に言う」


「それが訊きたいか?訊くなら、他の部分ではないのか」


「俺は、何であんたが()()()()()()()、そんな伝言を託そうとしているのか。そっちのが気になる。頭の中を読むより、あんたの言葉で言われる方が良い気がした」



 スヴァウティヤッシュの前にいる男は、人間の姿―――


 人間にしては大柄だが、人間の見た目以外の何ものでもない。しかし、宙に浮き、魔法も魔力も感じない。そして、これが実体でもない。

 幻とも偽りとも違うのに、この男は掴みどころがなく、精霊他、スヴァウティヤッシュが見て来た、この世界の()()()重ならなかった。この男の目的は何なのか。


 この男は、『イーアンたちの十人目の仲間』と聞いているが、どの立ち位置とも違う。


 遮断をかけていないと分かる、彼の思考。だが、読む気になれない。


 スヴァウティヤッシュの本能が、それを選ばないのは滅多にないが、怖れでも警戒でもなく、ただ、この男にはそうしようと思う気さえ起らなかった。



 ダルナをじっと見つめる、鋭く遠い目つき。宇宙の向こうにも感じるほど距離があるその目で、ヤロペウクは『お前は勿体ないほど、賢い』と言った。

 どういう意味だよと苦笑したダルナに、ヤロペウクも少し・・・見て分かる微笑みを浮かべ、似合わない言葉を零した。


()()は勿体ない、と言った。その能力も賢明も心も、だ」


「・・・そう?どうも」


 むず痒い褒められ方に、スヴァウティヤッシュは目を逸らして軽く礼を言い、問いの返事を急かすように、長い尾をちょっと上げた。


「答え」


「スヴァウティヤッシュ。俺の気紛れだ」


 一秒、呆気に取られたダルナ。白い髭が僅かに上がったヤロペウク。尖った爪で、カリッと頬を掻いたダルナの仕草に、ヤロペウクが声を出して笑い、それもまた意外で黒いダルナは目を眇める。



「じゃあな。サブパメントゥを()()()()ダルナ」


「あ・・・ ()()か」


 はたと理解したダルナに答えは戻らず。ヤロペウクは背後の噴火と同時に、その姿を空中に消した。しゅっと、名残りのような残像を見せて。


「つまり、だ。ティヤーって国でサブパメントゥの邪魔が多いのか。俺はヤロペウクの伝言を届けてやって、うろちょろしているサブパメントゥを片付け・・・うーん?それも別に、関連しないぞ」


 伝言を受けた理由の曖昧。分からないまま、ダルナはイーアンの元へ向かった。



 *****



 そして、同じ頃。

 一人、知人宅に入ったルオロフは、明るい室内の二階から、窓の外の仲間を見て『彼らに、なんて言えば良いんだ?』と呟いた。その表情は硬い。


「自然に言えば良いじゃないか。国境警備隊に、()()()()()ように」


 赤毛の貴族の側に来た、年上の男は静かに答える。いつも首に巻いている高級な布に、人差し指を引っ掛けて少し緩めた、その皮膚。大きな龍の絵が見えた。

お読み頂き有難うございます。

明日は投稿をお休みします。

脳の状態で、ご迷惑をかける頻度が増えて申し訳ありません。どうぞよろしくお願い致します。

いつもいらして下ることに、心から感謝して。

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