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魔物資源活用機構  作者: Ichen
悲歓離合
2440/2962

2440. 船時間 ~シャンガマックの古代剣資料・夕暮れ『クーバシュ港』

 

 フォラヴの横の部屋では。


『今日、着くんだろ』部屋は広いはずなのに、狭く見えるデカい獅子が絨毯に寝そべって、仰向けに転がり、息子に訊ねる。頷く息子は、年代物の机に資料束を開いて見ており『そうだね』と答えたが、また黙る。



「バニザット」


「うん・・・?」


「いつまでそんなの見てるんだ」


「気になったことを少し・・・ふーむ。タンクラッドさんは、この時代と言っていたけれど・・・どうかな。あれも」


「バニザット!」


 仰向けの獅子が嫌そうに止め、振り向いたシャンガマックは椅子の背に片腕をかけて、ちょっと笑う(※獅子が可愛い)。


「何笑ってんだ」


「いや、かわ・・・もうちょっと読んでから」


 脳内に流れ込む息子の意識が、自分を()()()()()いると知ったヨーマイテスは、ブスッとして『早く読み終われ』と顔を逸らした(※でも仰向け)。


 フフッと笑って、そうだねと褐色の騎士は資料に戻り、またじっくりと図を眺める。


 随分前に調べた資料と、テイワグナで館長に教えてもらった時の資料、そしてアイエラダハッドの来てから集めた遺跡の資料。それから、つい先日出かけたアイエラダハッド中央歴史博物館の・・・書き留めて来た資料。


 タンクラッドが説明し続けたことで、シャンガマックも違う視点で、重視すべき部分を見つけ、それならこれはと連想した質問に、事実に基づくよう剣職人は、他の時代の産物を比較して教えてくれた。



「あんな見方もあるんだよな・・・一緒に行って良かった」


「俺で足りてないのか?この前も、あのジジイ(※魔導士)を」


「そうじゃないよ。ただ、ほら。ヨーマイテスは一緒に館内を歩けないから」


 獅子連れではさすがに無理だった、入館(※普通、動物禁止)。館内はタンクラッドと回り、彼に学んだ『職人の視点』は貴重な意見だった。


 二人が見て回っている間、放っておかれたヨーマイテスは無論、機嫌が悪かったが、息子のためと思えば我慢したため、今も放っておかれていることに不満。その上、タンクラッドばかり、息子の意識に上るのがムカムカする。


 ごめんね。怒らないで、と笑って資料を閉じ、シャンガマックは獅子の側へ行くと、鬣を撫でて『怒らないでくれ』と顔を覗き込む。



「俺に聞け。俺は見ている。お前たちが空想と妄想で膨らませている過去を」


「そうだね。だけど武器や防具は、ヨーマイテスに必要ないだろう?気にならなかったんじゃないかと」


「見ている、と言ったんだ。見た物は覚えている」


 そう?と獅子の機嫌を取って、シャンガマックは絨毯に資料束を運び、獅子の頭の横で広げる。寝そべる獅子は横目で眺め、図にされた武器やら防具を『そんなのなかった』とか『それと似たのはよく見た』とか、ブツブツ呟く。


 これまた貴重な意見なので、そうなのか、とシャンガマックはペンを机から取って、ヨーマイテスに聞き始め、気付けば、獅子も機嫌を直して息子に答えてやる、夕方前。


 暫くそうしていたが、ヨーマイテスは息子の頭の中をちょいちょい読みつつ、熱心に書き込む彼の思考から読み取れないことを・・・一つ疑問に思い、質問した。



「お前。剣が欲しいのか?」


「え?」


「古代武器だろ、お前が俺に聞いているのは。アイエラダハッドの博物館ってだけじゃなくて、テイワグナもハイザンジェルも。何で、古い剣に絞っているんだ。お前が()()()()()()から」


「違う」


 さっと遮った騎士の、漆黒の瞳は茜色を帯び、光に当たる横顔は白い輪郭線で縁取られ、ヨーマイテスは息子の神聖な雰囲気を見つめ『何が違うんだ』と静かに聞いた。ミレイオを切ったあの後、バニザットは剣を捨てた。今、また剣を・・・それも古代の剣を調べている理由は。



 小さく息を吸いこみ、視線を資料に移す騎士は、一つの絵に指先を当てて『俺じゃなくて』と呟く。


「ルオロフが。剣を使うから」


「お前がお膳立てする気か?わざわざ古い武器を選ぶのは」


 言葉を止めた獅子の続き、合間を挟まず、シャンガマックは座り直して答える。


「剣鍵遺跡、あっただろう?アイエラダハッド以外の国もある。あれではないが、()()()()()()()を持つ剣が、資料館の情報にあった。それを見つけたタンクラッドさんは、『これもか?』と立ち止まったんだ。

 彼は、複製も作ったからだけど『意味合いが異なるような』と不思議そうだった。彼も、資料にまとめて考えると話していた。

 話を戻す。ルオロフは超人的な動きが可能だと、今朝知った。彼は、剣も使える。今は丸腰だが、彼に剣を持たせるなら、普通の剣ではなく」


「あ~・・・皆まで言うな。そうか。()()()()()()剣を見つけたお前は、ルオロフに帯びさせて、もしも、剣を使う場面がとんでもない場合でも、ルオロフなら問題ないと」


「そんなところだ。ルオロフは拘らないかもしれない。騎士の称号を持っているそうだが、剣を帯びずに俺たちと行動している。その方が都合が良いのか、それとも、剣に頼る気もないのか、俺に分かることでもないが。

 これから、一緒に戦うなら、剣を用意して使う場面もあるだろう。どうせ、剣を持ってもらうなら」


「なるほどな。お前らしい。タンクラッドが教えた剣は、ルオロフ(やつ)に都合が良いのか」


 どこから話そう、と少し考えて頷き、褐色の騎士は資料の図に手を当てる。そこには、短い期間に見られた違う形の剣の図が並ぶ。



「形、見た目というべきかな。その都合も合う、これは勘だ。

 タンクラッドさんは、若い頃にアイエラダハッドで剣作りを学んだ経験がある。そこでは反身(そりみ)だったと(※929話後半参照)。でも、ここまで俺たちが見たアイエラダハッド剣は、全て真っ直ぐだ。


 彼が過去に訪れた地域は、ハイザンジェルに近かった。土地柄もあるだろうし、古い製造方法とも、タンクラッドさんは話していたが、アイエラダハッドではもう見かけない。

 でもテイワグナは、片刃反身の剣と、直刀の使用率が半々。ティヤーも古い伝統を続けている国だから、同じではないかと。ティヤーの伝統剣も展示してあって、それはやっぱり反身だった。


 だから、『古すぎない中間の時代』、一時的に世界に広まって定着した形を選んでおけば・・・ それが、『複雑な役目を担う剣』にも応用された形状なら、都合良い。ティヤーで持ち歩いても目立たないのでは、と思った。ルオロフに持たせて、目立ってしまうと彼も気にする」


「ふむ。()()()()()、の意味は何だ。遺跡に鍵穴、と似たり寄ったりか?」



 細かい織りの鮮やかな絨毯の上、寝転がっていた体を起こした獅子は、息子の横に座る。絵にあるか、と息子に訊ね、『これが』と博物館の剣の模写を教えられた。


それは、ヨーマイテスの目に、最初は『普通の宝剣』として映ったが――― 何か。引っかかる・・・確か、これと似たような剣が。()()のことか?



「・・・他は?」


「こっちも。『何に使われたか、判然としない』前提で、『儀式誘導では』と意見が出ている。

 特徴が同じ装飾なんだよ。時代の傾向もあるだろうけど、不思議なのは、柄が小さくて獣頭が握りにある。反身に、剣の樋が入る部分に、文字。

 でもこれは、文字ではないんだ。()()読めなかった。だよね?」


「だな。模様だ。『儀式誘導』の意味付けは?」


 文字に似せた模様。ヨーマイテスも同意し、次へ促す。

 シャンガマックは淡茶の髪をかき上げ、資料のページをめくりながら、横に置いた別の地図付き資料と併せて説明。


「発掘で出土した場所が、いつも祭壇奥、表へ通じる窓や出口だそうだ。ほら・・・時代がそんなに昔ではない分、出土品もわりと損傷がない。見つかった環境は、海が見える海岸から、海と離れていない遺跡だ。それもね、遺跡と言っても」


 海岸沿いでしか見つかっていない、この剣は、祈祷所や土着信仰の遺跡、つまり()()()()()()()()から発見されていた。

 ティヤー、テイワグナ、ヨライデの海岸付近でも似たものが出土している。だが、本数は少なく世界で10本もないため、研究が始まった日も浅かった。



「ちょっと判別が難しいにせよ、『模様も同じ』と言うのがね。儀式で使用と仮定したのは、剣を切るために使っていない共通点と・・・ 窓辺、出口近くにある岩に、剣を横向きで置いた正確な窪みがあるからだ。

 それも模写したよ・・・これだ。剣鍵は差し込んで使うけれど、これは寝かせるだけ。切るために造られていないにしても、刃はちゃんとあるのも、万国共通。誰が造ったのかは、全く不明」


 ここまで聞いて、獅子は、今これ以上の質問はやめることにした。大きな肉球で、ぽんと息子の頭を叩くと、『ルオロフに誂える剣だな?』と質問を絞る。


 そう、と答えた息子に『()()()()()()()はどれだ』と切り替え・・・茜色の光が濃い橙色に変わる部屋、二人は絨毯の上に広げた資料を捲って、これかあれかと話しながら過ごした。



「お前。これ・・・もしかして、()()()るか?」


 暫くして、獅子が気付く。もしやそうかと、碧の瞳がきらっと光って息子を見ると、資料を覗き込んだまま、ふふっと褐色の頬を緩ませる息子が頷く。


「それでか。何に使うとも知れん剣に値するルオロフ、だけじゃなくて」


 獅子の確認に、シャンガマックは淡い茶色の髪を振って顔を上げ『そう』と可笑しそうに獅子に顔を向けた。


「材質がね。使えそうじゃないか?先祖の教えてくれた『残存の知恵()()』に」


「お前ってやつは・・・ 俺の息子よ」


 獅子も笑って息子を抱き寄せ、シャンガマックも笑顔で獅子を見上げ『ルオロフなら、度胸もあるから。狼だし』と、彼に()()()()()の武器であると付け加えた。



 こうして、夜が来る頃。

 夕暮れの向かう先に、陸地が黒く線を引き、船員たちは灯台の光に合わせて舵を取り、大きな旅客船は、ゆったりとティヤーの港へ―――



 *****



「降りないの?」


 ザッカリアが、ルオロフを見上げる。宵の時間に、船は港まで来たのだが、皆で甲板に出た後、ルオロフは『正確には()()()()まま』と言う。


 ルオロフの横に、きちっとした制服を着こんだ、ティヤー人の船長が紙を一枚手にして立っていて、ルオロフは彼にまた少し話しかけ、返事をもらって頷くと、言い直した。



「進みましょう。ええと、見てもらった方が早いですね。現在、この港前です・・・で」


 船長が両手で広げてくれた図を、皆で覗き込み、ルオロフの指が一つ所を示し、すぐ横へずれた。タンクラッドが『なるほどな。河か?』と呟き、ルオロフは『これは海なんですよ』と少し笑った。


「河みたいな形状でも、海なのですよね。合間を通る幅のある水は、全てが海です。河があるのは、もっと北や中心の陸地で見られますが、それ以外は海水です」


「地図では、小さい島が繋がっているように見えるが・・・これは、別々なのか」


「はい。島を割って流れる印象ですが、この合間は浅くはなく、深さがあるため、この船で続きを行った方が、時間も手間も減ります」



 船長の意見は、馬車がある以上、もう少し陸地がある島へ動いた方が良い、とした話。


 最初に寄る、出入国管理局が理由。

 ティヤーは、地方支分部局が幾つかあり、アイエラダハッド南から一番近い『タジャンセ出入国管理局』が、ルオロフの鳥文を飛ばした先。


 アズタータル港湾事務局から送った書簡は、タジャンセ出入国管理局から返事も来ており、この港―― クーバシュの町だが、裏手の湾岸にある。


 入出港届は、船を降りないで済ませたが、局で『入国した』の報告と、形だけの書類を受け取る必要がある。

 

 滞在期間中の派遣団体が支払う税金の決定書は、ルオロフ・ウォンダルを経由してハイザンジェルへ申請としたので、ルオロフの管理。その辺の話は、総長たちにはせず、ハイザンジェルへ戻るロゼールには伝えた。


 手を出し過ぎかなとも考えたが、『ハイザンジェル王の印章が利かなかった』の一件を耳に挟んで、耳を疑った。


 それはテイワグナだったそうだが、ティヤーも貴族・王族は()()()国―――


 警戒しておいた方が良いと考え、ルオロフは『(※ハイザンジェル王と)二重仕立てで』と、アイエラダハッド貴族同行の立ち位置を強調した。



「ここを通過すると、ルオロフの話していた知人は、どうなるのだ」


 ドルドレンが、夜にちらほらと灯りを浮かばせる町を見つめて尋ねる。船はクーバシュの岸壁に沿って、減速しながら進み、通り過ぎて行く波止場の影を見送る。


「彼はこの町にいます。船長が、そこから近くの湾まで、船を進めてくれるそうなので」


 そういうこと、と頷く総長。ただ、夜に下船もなんだからと、『湾に入った後、今日は船で休んではどうか』と、ドルドレンは逆に聞かれ、『町に宿泊出来なくもないけれど、馬車を下ろしたり何なりは、明るい方が』の理由に、これも了解した。



 半日で、着く話だったが。 確かに着いた。が。

 朝に出国し、夕方にはティヤー接近。夕暮れ時に港。そして、どんどん宵が深まる現在。


 港に着いた時点で、馬車を下ろしたとしても、全部が終わる頃にはとっぷり夜か、と想像すれば、そこから宿泊施設やら食事やらで、出入国管理局は確実に明日。

 その管理局も、港から離れていて、その移動時間を乗船している間に埋められるなら、効率的かと思う。



 ということで――― 初っ端から、話が変わること、度々のティヤー入り。


 ゆったりと大きく、島の側面を通る船は、夜の海の道を、町灯りを見ながら奥へ進む。

お読み頂き有難うございます。

スケッチで、仰向けヨーマイテスを↓


挿絵(By みてみん)


大きくても、ネコ科なんですよね。

シャンガマックは、父が可愛くて仕方ありません。

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