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魔物資源活用機構  作者: Ichen
悲歓離合
2429/2965

2429. エサイの相談 ~②ティヤー下見の夜・悩む理解

 

 ―――エサイの相談は、ティヤーの『封じられた知恵』潰しのことだった。



 ホーミットが先回りで、危険な知恵を探しては消滅させてくれているのだが、見分ける確認に、エサイと行動していた。


 エサイは、粗末な電気系の道具であれ、()()()()()()作っていそうな印象から、地道に少しずつ消して回るより、一気に使えなくする方法でもないと、どこかで作り続ける輩相手、いたちごっこになるのではないかと感じ、イーアンに伝えたいと、獅子に話した。



「『電気を使う道具』ってほど、しっかりしたものじゃなさそうだけどな。出来が悪いから、前の世界の代物を連想しない方がいい」


「それ、どこかで何かが、動いているのでしょうか」


「どうかな。俺が回った場所には、代物だけあって、どこと繋がってるかは、ホーミットも気にしないから調べてない。

 俺とホーミットで回ったのは、大体が神殿だ。僧院、修道院系もだ。どこか一ヶ所で見た代物は、他でも見られた。多分、仲間内で増やしているんだろう。それで、よく分からない小物は多い」


 嫌だなそれ、とイーアンは溜息を吐いた。かなり普及してるのだろうかと、頭が痛くなる。クフムを連れて行くと決めた、自分は正しかった。彼がいなかったら、知恵をまき散らした場所を探すだけで時間を使う。



「イーアンに言った方が良い、と思った。()()()()、この世界ではダメなんだろ?ホーミットもピリピリして探し回ってる。どこが製造所か知らないけど、ちらっと見た感じだと、記号みたいのはあったから」


「複製?そうでしたか。あなたと会ったのは、この前は棘の現場(※2219話参照)、今日は電気系統、いつも私に手助けして下さいますね・・・さて、考えなければ。せっかく教えてもらった情報、知ったからには」


「えーっとさ。俺の提案なんだけど」


 イーアンが考え込みそうになったのを止め、狼男は背を屈めて『実物見るってのは』と訊ねる。イーアンは暫し、狼の顔を見つめたが『それが良い』とゆっくり頷いた。


「運べる物があれば、持ち出しを・・・消そうとするホーミットに、黙って決められないですが」


「大丈夫だと思うよ。彼も息子(※シャンガマック)に会いたがってるし、早い対処方法があれば有難いってもんだろう。イーアンが見れば、今と違う方法を思いつく可能性は大きい」


「うん・・・私も、考えていました。エサイ、この前はホーミットと、私たちの集まりにいたでしょう?あの時(※2418話参照」


 あの時、クフムの話をと・・・イーアンは思い出させようとしたが、エサイは顔の前で、手をさっと横に引いて遮る。



「わるい。俺、面の状態だと、外の様子は分からないんだ(※2218話最後参照)。何かあったの?」


 そうなんだと頷いて、イーアンは最初から教える。

 旅に連れて行く僧侶が加わり、彼はアイエラダハッドの僧院で『違法の知恵』の産物を造っていた一人であり、動力付きの船もあったこと。

 その動力自体、イーアンも見たのだが、パドル式で、燃焼のエネルギーでピストンを動かしていた気がする、と。


「パドル式、といっても。私たちがいた世界の、昔の船とは違う形です」


「船体の横に外輪がついて、バシャバシャ進むやつ?」


「そうそう。あれじゃないのです。でも仕組みは近いように思いました」


「で。ピストン・・・?」


 狼男の目が眇められ、何か思いだしたのか、少し考えこみ、『似た様なの見たかも』と次に言った。


「ピストンじゃないかも、だけどね。形は似てるよな・・・あれ、何だろう」


「エサイはどこかで見たのですね。同じ仕組みを、ティヤーで持っていてもおかしくありません。だけど私は『船』で見たのです。エサイが見たのは?」


「港近くの神殿遺跡だよ。大きいモノじゃないんだ。そこは遺跡だけど、建物が残っている一部を、今も使ってるんだ。その地下で」



 互いの目に視線を合わせ、『行くか』と頷き合う。現地で見る方が早い。


 ということで、イーアンは午後に戻った足で、ドルドレンたちに報告を済ませ次第、ホーミットとエサイの回る『残存の知恵』を調査に行く―――



 *****



 町に出ていたドルドレンたちと接触し、イーアンは『残存の知恵』の関連で調べに行くと伝えた。タンクラッドには、トゥが呼んでくれた精霊たちと会えたことも報告し、再び城の影へ戻る。



「瞬間移動・・・そうだ、イーアンは()()()()()()いいのかな」


 はた、と移動方法に疑問。異時空移動系だったか、とイーアンもここで思い出す(※忘)。獅子は仏頂面で『精霊に聞け』と流し、狼男もちらっと女龍をすまなそうに見た。


「誘っておいてごめん」


「いえ、私もうっかりでした。ダメならダメで他の方法を・・・アウマンネル、私が狼男に連れて行ってもらう、異時空移動はご法度でしょうか」


 身近な精霊アウマンネル。黒いクロークをさっとまくり上げた女龍が、青い布に話しかけると、刺繡を凝らした布は輝き、『イーアンは別の方法で』とお返事が戻った。了解し、イーアンは『ダメって』と二人に伝えた。



 異時空移動は、イーアンも条件がある。正確には異時空ではないのだろうけれど・・・ 未だによく分からないイーアンなので、一先ずホーミットに相談。地図があるかを訊ねたが、ない。


()()()()()()だろ」


「そうですよね。となると、行き先で待ち合わせも無理。うーん、思いつくの後は一つですよ」


「ダルナ?」


 聞いた狼男に、ちらっと彼を見たイーアンは『ダルナも行き先が分からないと無理です』と溜息を吐いた。

 その溜息、察した獅子は『あいつだな』と女龍に半目を向ける。その視線に『あの人しかいないでしょう』と、イーアンも頼るのを躊躇う返事で、でも認めた。



 時間は午後で、頼れるあの人(※一人しかいない)が忙しくないことを願いつつ。そして、ラファルが無事を守られているよう祈りながら―――



 呼び続けた、城の外。午後の影を落とす本館と塔の間に、びゅうっと一陣の風が吹く。ぐるっと翻って緋色、緋色が返って黒い長髪の男が現れた。


「龍気は」


 開口一番、イーアンはそれを問われ、久しぶりも何もすっ飛ばした質問に『大丈夫』と小さく答えた。


 何でそんなこと聞くんだろうと思うが、それはそれ。用件へ進む。の前に魔導士は、横に並ぶ狼男と獅子に顔を向け『こいつらと一緒か』と片眉を上げ、獅子が『()()()一緒だぞ』と舌打ちした。


「ああ?何のことだ。イーアン」


 さっと漆黒の目が女龍を見て、イーアンは単刀直入、用事を伝える。


「呼んだ理由・・・ティヤーに行きたいけど、この二人は時空移動するから、目的地が」


「ははぁ、地名も場所も正確じゃなくて、お前だけ辿り着けないってことか。で、()()連れて行けと」


 話が早過ぎる魔導士に、ちょっと上目遣いで言い難そうなイーアンは『出来れば、そうして欲しいんだけど』と小声で控えめに頼む。ふん、と鼻で笑った魔導士は、腕組みしたまま女龍を見下ろし、何か企み中(※そう見える)。


「バニザットが忙しかったら、別に」


「忙しかったら、来ねぇよ。来た以上は、時間を作ってある。が、久しぶりの()()()()、ってところでどうだ?」


 女龍は固まる。最近、言われなくなっていた取引だ、と気づき、『ティヤーの用事は大事なこと』と言いかけたが、魔導士は首を傾けて『()()()、は思いつかん』と言った。


「条件付きだと知ったら、引っ込むか?それとも受け入れるか。取引の条件は、俺も決めていない。後払いだ」


「・・・変なことだと困る」


「変、か。大したことじゃない、と言えば」


 それ誰の判断?とイーアンは悩むが、後ろでじーっと見ている獅子と狼男がいるので、『分かった』と受け入れた。魔導士は大きく頷き、片手で黒髪をかき上げ、片腕に女龍をひょいと抱え(※犬のように)、獅子に『移動だ』と指を鳴らした。



 *****



 この後は、長かった―――


 イーアンもエサイも、到着先で『感覚』判断。ピンとこないものだらけと理解する。何がピンとこない、と言えば、これを少し説明。


『見れば早い』と二人が思ったのは、確かに話よりは情報量も増えるにせよ、二人は揃って()()()()()を忘れていた、と気づいた。



「イーアン、学校って()()()()出た?(※初歩的質問)」


「え?私?中卒(※学歴上)。15歳まで。エサイは」


「俺も似たようなもんだよ。家に金なかったからさ。早々、っていうの?」


 あー、わかるわかる、と頷く女龍に、灰色の狼男も頷き返して『()()、難しいよな』と尖った爪で、科学的シロモノをコツッと突いた。



「日本語で、こういうのも合わせて、全体的に『科学』と呼ぶ言葉あるのですが。

 えーとね。呼び名がかぶるんですよ。科学と化学。どっちも『カガク』なの。これの違いも考えたことない人生でした。必要なかったし」


 既に言ってる意味が分からなくなる女龍の脱線告白に、エサイは『何の話?』と詳しく尋ね、女龍がせっせと伝えるのをフムフム聞いた。


 女龍の見上げる視線に、狼男も見つめ返し、結論=『まいったね』と二人で困ってから(※学校縁遠い人生)、向かい合う、()()()()()デカい石材と木材と金属部品の『何かの装置』に、また目を戻す。


「(イ)えーと、これってつまり」


「(エ)『化学』じゃないの」


「(イ)うーん。私、そっち難しすぎて、頭真っ白になります。自然系の科学なら、どうにか理解していることありますけれど」


「(エ)頭良さそうなのにね」


 そーお?と訝しそうに振り向く女龍に笑い、エサイは『親近感が増した』と女龍の頭を撫でる(※龍気関係ない人)。



「いつまでやってんだ。何か分かったのか?」


 ここで数か所目。行く先々、結果を出すことなく回っているだけで、待ちくたびれた獅子が、雑談する二人を急かし、二人は獅子を同時に見ると、首を横に振った。魔導士も呆れて『お前たちは、何のために来たんだ』とぼやく。


 獅子と魔導士のセットは、この状況を伝えるに大変そうだな(※絶対なんか言われる)と思ったイーアンは『ちょっと待ってて』と、時間をもう少しもらう。



「話を戻そう。イーアン、こういうのは?『化学っぽくない』方」


 面倒臭い代物の脇、並んで置かれた道具を見るようエサイが呼び、側へ行ってイーアンは両膝に手をついて、その道具に顔を寄せる。それは作りが分かりやすい。


「これは・・・何となくだけど、人力で発電させるものかなって。エサイ、この中は見えます?」


「ここんとこ?」


 イーアンが示した箱の隙間を、狼男も覗き込み、内側に芯で軸を固定された幾つかの歯車と、そこに掛かる皮のベルトを確認。イーアンは外に出ているハンドルに、トンと手を乗せ、ふーっと息を吐いた。


「外側の回し車は、中の歯車と連動して、ベルトの運びが、下部に半分埋まった滑車・・・横に倒れた格好のアレ、を動かして、側面の溝に噛んでる円盤が、隣の装置近くの。円盤に接触している奥の金属コイルから、この装置っぽい代物に力を与えてそうと・・・うーん、だけど。

 歯車も、使用する地域があるので、この世界の文明の一部と思えば、『封じられるほどの知恵』に思えないのが、微妙」


 ほら、粉の水車とかあるでしょ、と言う女龍に、エサイは首を傾げて、素朴な道具を狼の手で指差す。


「仕組みはどうあれ『目的が何か』じゃないのか?こいつ(※道具)が()()()()()()可能性があるなら、消す対象だろ?」


 そうなんですけれどね、と口がへの字になったイーアンは唸る。

 彼らの背後から、じーっと見ている獅子と魔導士は『大丈夫か』と、あの二人が解っていなさそうな雰囲気を胡乱な視線で眺めていた(※こちらは賢い)。



 ―――前置きが長かったが、これを踏まえて。



「お前が来た意味は、何かあったのか」


「そう言わないでよ。来たから、こうしようって思ったんだし」


 取り引きは取引だからな、と念を押す魔導士は、ぶつぶつ言いながら、イーアン曰く『カガク系シロモノ(※少々バカっぽい表現)』の詳細を、魔法陣に落とし込む。


 暗い石造りの部屋に、黄緑色の淡い光の線が魔法陣を描き、人間大の魔法陣は装置や道具を、スーッと通過して戻ってくる。イーアンはこれをCTのようだ、と(※やってることは一緒)眺めた。



「あれ、何してんの?」


「CTスキャンみたいなこと。なんて言いましょうか。内部の断面図を、魔法陣に記録していると」


 狼男は面食らった顔で、魔導士の背中と魔法陣を見て『彼に任せた方が良くない?』と投げ出す一言を呟く。それができれば楽だけど。イーアンは苦笑して『彼の旅路ではないから、手伝ってもらうだけ』と答えた。



「おい・・・これも、か?」


 魔導士に聞かれ、そちらを見たイーアンは、彼が大きめの装置的な横にある、小物群を指差したので頷く。


 関連がピンとこないが、エサイが最初に話していた『複製』の印象がある、記号付きの小さいモノ。

 この小さいのは、どこから持ってきたのか。関係していそうな流れがないので、魔導士に記録で残してもらうことにした。


 とにかく、分からない尽くし・・・バラバラに考えた時、『もしかして』の、想像はあるのだが。



「持ち帰って、考えたいです。魔法陣で取りこんでもらった記録を照らし合わせて、目的と働きを粗方定めれば、まとめて壊す方法も見つかるかもしれないです」


 稼働していないから・・・ ボソッと落とした独り言。イーアンは、これが一番奇妙に思えた。

お読み頂き有難うございます。

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