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魔物資源活用機構  作者: Ichen
悲歓離合
2427/2962

2427. ズィーリー事情・龍気と魔法と、男龍の連携

 

 さて、どうしようか。


 イーアンはミンティン付きで、イヌァエル・テレン手前の空に浮かび、真剣に考える。時刻は昼。


 男龍に頼る前に、タンクラッドに相談・・・と思ったら、タンクラッドに断られた。瞬殺に近い断られ方で、理由は()()()()。タンクラッド的に、拒絶反応が出ていた。



 ―――『お前が喜ぶ、お前の力になる。のは、嬉しいがな。謎解きも楽しめる。とはいえ、小石で確実に絡む相手(※始祖の龍)を思うと』



「仕方ありませんよね。『小石を探したいのですが』と訊ねたら、秒速で『いやちょっと』のお返事。もう、絶対イヤって伝わりましたから、無理は言えません。

 一応、理由を聞いたら、始祖の龍を避けている感じだし。『始祖の龍愛』っていうの?親方でも、()()の嫌なんですね。ご自分もかなり重いのに(※事実)」


 参るなーとぼやく女龍の話を、ミンティンは聞き流す。



 ・・・ミンティンは知っている。ズィーリーが、重い男ルガルバンダ(←彼も)に、言い寄られて大変だったのを。


 ズィーリーは、本当に可哀そうなほど、龍気が少なかった。

 怒ればそれなりに出たが、イーアンや始祖の龍のように、通常時から龍気放出(※余ってる)している状態なんて、彼女には程遠かった。


 それに加え、幾つもの事情からイヌァエル・テレンへ()()行こうとしなかったズィーリーは、確かに龍気が常に不足していた。


 気にかけたルガルバンダが、『絵を使う』方法を教えたことで、ズィーリーが龍気不十分を解消したのは事実だが。

 ズィーリーの性格上、受けた恩を返そうとする義理堅さが、彼女を悩ませた。


 無いと困る、龍気―― この問題を解決した男龍に、早い話が借りが出来た(※ズィーリー視点)わけで、本当に感謝しているにしても、彼の要求や願いを受け入れるのとは別の話であり、しかしルガルバンダは、『もっと力になれる』と自分の存在を押した。


 ルガルバンダ=しつこい。そして、思い込みが激しすぎる。


 青い龍もよく感じたことだが、彼は全く自覚がなく(※天然)、ズィーリーは彼に願いを訊ねられる度、頭を下げて『ごめんなさい。でも感謝しています』を常套句の如く、繰り返したのだ。悩んでいたのも知っている。



 あれに、比べれば―――


 首に跨って『どうしようかなあ』とぼやくイーアンは、全然問題ないも同然だろうと、ミンティンは思う。


 イーアンが小石を欲しがるのは、イヌァエル・テレンへ、龍気補充に通うのが面倒だからであり、持ち前の龍気も『龍族最大』に近づく膨大さなので、通いたくなければ、地上でバカスカ龍気を使わなければ良いだけの話である(※ミンティン厳しめ)。


 小石を持っている方が、確かにイーアンの突発的な活躍に役立つから、それで何度か手助けしたが(※在り処を教えてあげる・口に入れて隠してあげる・男龍振り切る、他諸々)、ここまで来たら、もう拘らなくても。



「タンクラッド。久しぶりに、コルステインのさばさば加減を感じて、比べたのかも知れませんね。始祖の龍は、『時の剣を持つ男』に、生まれ変わっても手助けしようと、ああされていらっしゃるだけ、と思うのだけど~・・・ って、ここでぼやいても、時間勿体ない。うーん、頼るのやだな~。でも、行くか」


 どうやら決意したらしい女龍の声に、青い龍はちらっと見る。目が合って、嫌そうな顔で『頼むことにします』と言われ、ミンティン了解。


 イヌァエル・テレンへ入り、ルガルバンダに会おうと、彼がいる確率の高い子供部屋へ向かうと、子供部屋手前で銀の翼がひゅっと遮る。


「イーアン、来たのか」


「ファドゥ。出かけていらしたんですか」


「そうじゃない。あなたが近くにいると思ったから出てきた」


 あら、と止まる女龍に、ファドゥは下を見て『ルガルバンダもいるけれど』と先に伝えてから、良かったら話をしたいと言った。イーアンもそのつもりで来たので、青い龍を降りて子供部屋で話をする。


 心なしか、お礼を言ったミンティンに、『頑張れよ』的な視線を貰った気がするイーアンは、頑張ろう、と自分に言い聞かせ、()()()()()()ように努力しようと思った。



 子供部屋に入る前から、龍気が高いなと感じていたが、扉を開けるなり大きくなった子供たちがイーアンに群がり、ぬおっと空しく声を上げた戸口で倒された(※仔牛並みのが群がる)。


「皆、イーアンを待っていたよ」


 子供たちを退けながら笑うファドゥに、『そうでしたか』と起き上がりつつ、この前も来たのにとイーアンは思うが。どうやら、群がった理由は。


「私?龍気ですか?でも・・・そんな増えてもいないのでは」


「子供たちは敏感だからね。イーアンは、大仕事をこなす度、龍気の幅が広がるようだ」


 ファドゥに子供たちを退かしてもらいながら、群がる子たちをナデナデして一緒に歩くイーアンは、自分で気付いていない変化にまたも『鈍さ』を思う。子供たちは龍気の大きい女龍に、我も我もとついてきて、二階の床に座るルガルバンダの側に行くまでの間、子供に囲まれた状態。


 ルガルバンダが笑って子供たちを転がし(※遊んでるつもり)、それどうなのと思うイーアンの視線を気にもせず『よく来てくれた』と挨拶をする。イーアンも『話をしようと考えた』と開口一番伝えると、ルガルバンダは少し驚いた。


「イーアンも俺に話が」


「そうです。あなたも私に話をしたいと思っていらしたようですが」


「そうだ。この前は言わず仕舞いで。俺はズィーリーの時も」


「同じです。私も、そのことで来たのです」


 遮って、イーアンは薄緑色の男龍を見つめる。()()()()、こそ――― できたんだ、と知った以上。避けて通れない(※小石が入るまでは)。


「あなたは、始祖の龍の時代を見て、あの絵模様の使い方を知ったのですね」


「そうだ。ズィーリーにも役立つと分かったから。イーアンにも教えたな」


「はい。だけど私は、自分だけでは辿り着けませんでした。他の作用は、絵模様の組み合わせで出来ても、『地上にいながら、龍気を引き込む』ことだけは、存分ではありません」


「そうだったのか・・・ 小石に拘るから、()()なのかと思ったが、そうではなくて」


 面倒? その意味は尋ねず、イーアンは首を横に振って、一呼吸置き『他の男龍はこれをどう思うでしょう』と、手段に邪魔が入らないかどうかを先に確認。ルガルバンダは僅かに首を傾げた。


「別に。何も」


「本当に?ビルガメスは」


「『女龍が、男龍と連携』に、文句はないだろう。多少は、まぁ。ビルガメスも()()()()()だし、あんまり俺ばかり頼れば、何かしらは言うだろうが、その時はお前の都合と事情を汲んでからのはずだ」


「言われると納得しますね」


 ハハハと笑ったイーアンに、ファドゥもルガルバンダも笑う。ビルガメスは、自分も、となりそうだけど、役目交代を言い渡すなら、ルガルバンダが行う内容相応か、それ以上を用意するだろう。

 分かる性格だけに、ならいいかとイーアンも咳払いして話を進める。


()()()()()をお持ちの、ルガルバンダ。あなたは、『始祖の龍が使った絵模様を、私に合わせて指示』できますか」



 ―――始祖の龍の絵模様、その組み合わせ。(ほど)き方。これを、ルガルバンダの能力が正確に捉える。



「無論」


 緩く波打つ髪をかき上げたルガルバンダの、淡い緑の透ける体に、陽光が差し込んで輝く。この姿にふさわしい、過去も未来も時を行き来し、()()()()()ことが可能な能力持ち。凄い力だと、イーアンは改めて、彼ら男龍を神々しく感じる。


「私はもしかすると、ズィーリーよりも頻度が高い。いや、もしかするとではない。かなり高い可能性で」


「分かってるよ」


「私に合わせる、その意味を」


「全て言われないと分からないほど、俺が鈍いと思うか?」


 黙る、女龍と男龍。じっと互いの目から視線を逸らさず、イーアンは『本当に?』の念押しを鳶色の瞳で突き付け、金色の瞳が真っ直ぐ見下ろす、微動だにしない直視に、静かに頷く。



「絶対、ですよ」


「俺には今、息子のファドゥもいる。お前が求める時、俺の移動はファドゥも手を貸す。男龍最速だ」


 イーアンは、中間の地を守ろうとする意思が、非常に強い。誰もが知る、これまでの女龍の動き、どの一瞬にも間に合うと男龍は約束する。龍の約束は破られない。例外もない。ルガルバンダが約束した以上、そこにファドゥの名も入ったなら、尚更。



「・・・もし。何かの事情・理由によって、私の求めに合わせられない時は、どうぞ早めに教えて下さい」


「その時は先に言う。約束を違えるわけではない」


「大丈夫です、理解しています」


 ルガルバンダはやっと微笑み、イーアンもニコッと笑った。ファドゥは運びを見ていたが、()()()()()()()と分かりホッとした。



 *****



 青い龍とも離れた後なので、イーアンは男龍二人に見送られながら、一人、イヌァエル・テレンを後にした。


 次は、異界の精霊たちと会う。トゥが、先に知らせてくれているはずなので、誰かしらに呼びかければ、わっと集まるイメージだが。



「どうかしらね。空で呼ばない方が良いのかな。地上とか、水中の精霊もいますものね」


 多分、混じっていそう・・・イーアンは南側、向かいにティヤーの影を臨む海岸近くに降りると、ぐるっと180度見回した。



 アイエラダハッド南は貿易が盛んで、南東も全体的にそう、と話しでは聞いているけれど、人間の近寄らない場所はどこにでもある。ここはそうした雰囲気だなと感じた。


 誰もいないし、民家もない。この近くまで道も通っておらず、せり上がる崖の角度が急だからか、低木林が広がる一帯は、人の手が入った跡もなかった。


 わざわざ、高い崖の上に来る用事など、なかったのかもしれない。

 崖の突端から眺めると、この場所から下がった海岸続き、うんと離れた岬に灯台がある。船に合わせた人々の生活は、低地が良いのだろうと何となく感じた。



「ここなら、異界の精霊が集まっても、大丈夫でしょう。背後も低木林がずっとあるし、ダルナが空に何頭か浮いていたって、ダルナならもう、人々も恐れないだろうし」


 見慣れない異界の精霊の姿に、イーアンは気遣うので、ダルナは良しとする。


 そして、『イング。来て下さい。一緒に移動する皆さんと会います』・・・龍気をぱーっと広げたイーアンが、イングを呼び始めた途端。


 風が空から渦を巻いて落ち、え!と見上げた直後、次は眼前の海が、ボッと白い波頭を立ち上げて噴く。ぐわっと驚き、のけ反った足元がグラッと揺れ、あっ、と下を見た瞬間、女龍を高々持ち上げる小山が、地面を壊して現れた。

お読み頂き有難うございます。

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