表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔物資源活用機構  作者: Ichen
悲歓離合
2417/2962

2417. 貴族として・14人の晩 ~①離脱とドゥージと不穏な武器

 

『動力』もですが―――


 僧院にいた僧侶は、イーアンが連れてゆくため、館に一人来ている。ゴルダーズ公は、酒の揺れを見つめながら無言で、ヴァレンバル公の話を聞いた。


 僧院は、精霊が消したようで、ヒューネリンガの港も、動力や船、倉庫ごと消されていた。これは、()()()()()()()()のを知っている。港跡に着いた時、何もなかったのを見た。



「ティヤー、ですか」


 話の中に出なかった国名を、見当を付けたゴルダーズ公が呟く。向かい合う少し若い貴族も頷いて、酒をもう一杯注ぎながら、過去の僧院の動きを思い出す。


「僧院がティヤーに・・・神託がどうとか、よく話題に出ていた時期がありましたから」


「では、旅の彼らもティヤーへ行くのか。ハイザンジェルには戻らないのですね」


「恐らく。確認はしますが、仮にティヤーへ向かうのであれば、私たちに手伝えるのは『船舶移動』」


()()()()の、ね」


 品良く一口含んだ酒を呑み込み、ゴルダーズ公は額を掻いた。『償いになるやら』本音の呟きに、ヴァレンバルも宙を見つめて『そう願いましょう』と・・・船で対処するのは皮肉だけれど、と続けた。



「ティヤーからの輸出入は、半月前から止めています。魔物が悪化したから、向こうも運航便が減っていたし」


「南東の港、全てで?」


「そうです。私が開けるのなら、オガジャク(※港町の一つ)の先が手配しやすいです。私の親戚がいます。船を待つ間も、親戚の別荘を借りられます」


「あなたの親戚、無事でしょうか・・・ 訊きにくいですが」


「無事です。ハイザンジェルへ避難していました。川から海、海から川、で。鳥文で、魔物が終わったから戻ってくるよう、伝えてもいいと思います。数日は連絡に使いますけれど、数日なら旅の彼らも、余裕があるかも知れないし」


 親戚に頼むと言うヴァレンバル公の話で、ゴルダーズ公も少し思い出す。自分の権利の航路と、若干逸れる南。


 以前、隊商軍のために船を使った時、ヴァレンバル公に任せ、彼はハイザンジェル王国からアイエラダハッド南東まで、最速最短の航路を用意した。海に出るが、領海は彼ら一族が管理しているため、動きは自由で、アズタータルの町が本拠地・・・だったかな、と考えながら確認。


「オガジャクの先と言うと、アズタータルの町ですか・・・ ティヤー直行便が確か、旅客船で」


「はい。ティヤーに受け入れるよう、同時手配します。オガジャクは、大量輸送の貨物船が中心ですから、アズタータルが良いでしょう。船は、ティヤーから出してもらえば。待機日数は1~2日必要ですけれど、整備他問題なくすぐ乗れますし、どれも良い船で、新天地への送り出しに丁度良いです」


 壮年の貴族の言葉に、ゴルダーズ公は容器を見ていた顔を上げた。暖炉の灯りで明暗が濃く映る表情には、何か強張ったものが見える。

 ここまでの話、『旅の行き先がティヤー仮定』なので、先走ったかなと、口元を押さえたヴァレンバルに、ゴルダーズ公は一つ間を置いて、予想外の返事をした。



「アズタータルから出航は、いいと思います・・・ 話を変えますが、ティヤーには、『知恵の還元』は()()()()()()()。それなら、まだ貴族の名が、後少しは(まか)り通る。アズタータルの旅客船を使うのでしたら、もう一つ()()()()()、旅の彼らが面倒に会わないよう、貴族も同船してはどうでしょうか」


「・・・あなたが同船、と言っていますか」


 驚くヴァレンバル公に、ゴルダーズ公は小さく首を横に振り『適任者がいます』と酒の容器を空にした。


「さすがに、()()()()再現されていないと思うけれど・・・『知恵の還元』で崩壊した話ですから」


 まさか、と声が漏れた貴族に、頬杖をついたゴルダーズ公は『そうです』と視点を合わせる。



「ヒューネリンガに()()来たのも、運命でしょうね。ウィンダル家の資産が、今、どれくらい残っているか全く分かりませんが、私が買い取って、彼を自由にする方法もあります。古王宮がないとなれば、彼をここに留めるものもないでしょう。


 ウィンダル家は、ルオロフ以外に子がいないと記憶しています。エルーの子は、赤子の内に亡くなっていますし、ウィンダル家を継ぐ直系は、確か養子のルオロフだけです。

 ルオロフがデネヴォーグで事業を始めた時も知っていますが、この状況下でデネヴォーグへ、会社の確認に移動するのも困難なはず。

 彼は若いし、貴族には珍しいほど、親戚筋の乏しい家系。アイエラダハッド最高峰の家系であれ・・・ 今や、彼は思うに『天涯孤独』の身の上。エルー(※父親)は、自宅で遺体を発見されたと、隊商軍でも確認している。ルオロフには、引き留めるものがないのです。


 後は、彼の推測できる範囲でも、財産と呼べるものがあれば、私が買い取ることで、自由を得るでしょう。ウィンダル家を取り上げるわけではなく、彼の代わりに私が資金を作り、彼の立場を整えることも可能。

 そして、『ルオロフ・ウィンダル』が旅の彼らとティヤーに動くなら、ティヤー入国は()()()()()に楽ではありませんか?」


「ティヤーで・・・アイエラダハッド貴族の時代が終わった、と知られ出したら。ルオロフは、危険では」


「危険?そんなことにはならないでしょう。彼が貴族として効力を使うのは、入国の最初だけですよ。彼がいる間に、旅の皆さんが手続きを済ませてしまえば、ルオロフの役割は完璧です」


 一抹の不安を持つヴァレンバル公に、ゴルダーズ公は『みすみす、危険を冒せとは言わない』と安心させた。

 とにかく、名の知れた立場が同行すれば、保証人に近いわけで、そこだけ押さえたらルオロフは戻っても良い・・・と、年上の貴族は先を読む。



 魔物資源活用機構の資料で、テイワグナ、アイエラダハッド入国時の報告を読んだゴルダーズは、彼らが国に後押しされた派遣の存在であれ、常に右往左往して、不自由だったことが気になっていた。


 ただ、これまでなら、興味のある報告書、その程度の目の通し方で済んだが・・・ ゴルダーズ公の脳裏に、フォラヴ(あの妖精)が過る。彼が悩まされるような事態は避けてやりたい(※個人的に)。


 自分が行けたらと思わなくもないが、ウィンダルの方が適役。自分は、母国を建て直すだけの、手腕も実力も経験もある。この国を離れるわけにはいかないのだ。


 立場は最高。数百年間、アイエラダハッドに名を轟かせた大貴族、ウィンダル家なら―― ティヤーのならず者も、下手に手は出さないし、()()()()()()の神官たちも、腫れ物扱いで警戒する。



 暫し黙った後、ゴルダーズ公は、酒瓶を傾けてくれたヴァレンバル公に容器を差し出し、少し酒を足してもらった。


「ティヤーに『神託紛い』で贈答した知恵の名残を、旅の彼らは回収するでしょう。回収の意味は、察しているとおり・・・ 僧院や神殿も、危険な思想の古老と神官ばかりです。そこへ近づく以上、打てる手は、打っておきたい。

 旅の彼らにこんな心配は、もしかすると失礼かもしれませんね。でも、心の優しい彼らだから、私たちが補える手伝いはしても良いと思うのです。ルオロフ次第ですが」


「ルオロフに朝、会いに行きましょう。隊商軍は、彼を館へ連れて来るような話でしたが」


 迎えに行こうと同意したヴァレンバル公に、それが良いと頷いたゴルダーズ公。互いに視線を止めて笑い、この後、少し話してから、休む挨拶を交わし、それぞれの部屋に入った。

 ゴルダーズ公は泥のように眠り、ヴァレンバル公も感謝の祈りを捧げ、物事が滞りなく運ぶよう願う。



 翌朝は、若い貴族を、館の皆に会わせる予定―――



 *****



 二人の貴族が眠った頃。二階の一室には、ヤロペウク以外の14名が揃った。


 大部屋で、何より。暖炉と側に置かれた寝台、その上に掛かるランタン付近は、柔らかい灯りを広げるが、寝台の影とその奥の壁側は、部屋の半分を占める暗さ。


 ミルトバンはセンダラと共に来たが、ランタンが濃い影を落とす寝台の奥で、コルステインが『こっちへ』と気遣い、この間だけ―― センダラは断ったにせよ ――ミルトバンは同じサブパメントゥ・青い霧コルステインに影で守られる。


 旅の仲間だけではなく、同行者も同席の状況、同行者は自然と固まって、気付けば半々に分かれた具合で座りが落ち着いた。


 部屋の扉には鍵をかけ、明るいランタン側に、イーアン、ドルドレン、シャンガマック、ヨーマイテス、タンクラッド、ザッカリア、フォラヴ。イーアンの反対側にオーリン。

 ここから影の暗がりで、シュンディーン、ロゼール、ミレイオ。センダラはミルトバンの側にいたいので、ミレイオの横だが、コルステインは妖精に離れているよう(※コルステインが嫌)命じ、コルステインとミルトバンは、光の反射もない部屋の角。


 僧侶クフムはこの時、隣室で就寝。強制的にコルステインに眠らされたので、起きることはない。



 ―――既に、再会と無事を祝い労う挨拶は、各自一分程度であれ、済んだ。


 もっと話し込みたいが、『生きて会えて良かった』『無事だったか』のやり取りが一度でも交わせたなら、御の字(※センダラとお父さんは、こういうのがない)―――


「では。()()()()を決めよう」


 ドルドレンの声が静かに響く。申し合わせたように集まった偶然の機会、実に貴重な顔合わせ。今しか話せない。次に会うのはいつか。そう思うと、ドルドレンは的確に必要なことを、最初に押さえる。


 手っ取り早く、箇条書き話法で、重要事項の連絡優先。斜め向かいにいるザッカリアに、すっと手を向けた。


「始めに伝える。ザッカリアが抜ける」


 へ?とシャンガマックの目が少年を捉え、息子を寄りかからせていた獅子もそちらを見た。イーアンの目が丸くなり、じっとザッカリアに視線を注ぎ、聞こうとして口を開きかけたが、ザッカリアが先に喋った。


「また戻るよ。でもティヤーは離れる」


 イーアンの唇は開きかけたまま、シャンガマックも難しい顔で、急な離脱に戸惑ったが、獅子は『昔もそうだったな』と低く重い呟きを落とした。さっと皆の視線が向いて、獅子は少年に『二度目の旅路に比べれば、お前は長くいた』と、抜ける立場が前提のような言い方をした。


 コルステインは、声だと聞こえないが、獅子から頭の中に伝えられ、ふぅんと頷いただけ。


「理由は・・・聞かない方がいいのか?お前の死に、関係しているのか」


 シャンガマックが静かに尋ね、レモン色の瞳が褐色の騎士を見る。少し言葉を考えた少年は、『離脱を決めたのは蘇った後のことで、皆が受けた特別な時間に、自分は考えるよう問われた』と、正直に教えた。


 ザッカリアは、最後まで一緒ではない仲間・・・ いつだったか、シャンガマックは占った時にそう見た覚えがあった。それを思うと、連なるように友達―― フォラヴもそう、と記憶に掠める。フォラヴも最後まで一緒ではない、と占いが・・・・・



 そうかと残念そうに褐色の騎士は黙り、代わりにイーアンが『いつですか』と続ける。心配する女龍に微笑んだザッカリアが首を傾げ、『まだもうちょっと、一緒だよ』と答え、離脱話は終わる。



「訊きたいことは多いものだ。だが、今は時間が貴重。話を進める」


 丁寧に切ったドルドレンに、イーアンも黙り、ドルドレンは次の連絡に移る。


「二つめは、ドゥージについてだ。現時点で分かった情報は、彼は精霊の守りにある、それだけだ。彼の武器と備品は、ロゼールが預かった。彼の馬ブルーラは連れて行くし、今後ロゼールが乗るだろう。ドゥージはいつか、解放されるその時にまた会える」


 数奇な運命を背負った男の行方は、誰も見ていない。ただ、精霊が彼と共にあるのが、希望に感じる。しん、とした沈む場に、センダラだけが分からなさそうに眉を寄せたが、特に発言はなく、ドゥージの話もこれで終わり。



「三つめ・・・これは、誤解を生むと長くなるので、幾らか要素の推測を割愛することを、前以て伝えておく」


 この割愛箇所は、サブパメントゥが絡んでいる可能性―― コルステイン、センダラの連れ、ミレイオ、ホーミットがいるので、語弊や誤解から無駄に傷つけたり意識させたくないので伏せる。


「武器に気を付けてくれ。現時点、弓矢は警戒対象だ。イーアンやコルステインなら、矢も刺さらないから問題ないだろうが、フォラヴの妖精の力が封じられた事実から、侮ってはいけない。見た目は、普通の弓矢の可能性が高く、仕込まれたものは、人間の範囲を超える恐れを持つ。よくよく注意してくれ」


「私には効かない」


 腕組みした姿勢で即行反論した妖精の女に、言いそうだなとドルドレンは思っていたので、とりあえず『分かっている』と頷く。


「俺と息子が、そんな無様な目に遭うと思うか?」


 お父さんも反論すると分かっていたから、シャンガマックが『そういう意味じゃないよ』と困って獅子を宥めるのを、『思わないのだ』と横からドルドレンは補佐した。


「思わないが。しかし、注意はしてほしい、と頼んだ。タンクラッドは、ダルナと共に空にいたところを、矢で攻撃された。彼に鏃を刺さらなかったが、鏃から出た毒は、タンクラッドの皮膚を焼いた。大いなる力の後、彼の傷は回復し、一安心であれ・・・ 矢が刺さらなくても、危険だと覚えておいてほしいのだ」


 フォラヴが危険だったと知ったシャンガマックは、心配で彼を見た。気付いた妖精の騎士は微笑んで、小さく首を横に振り『大丈夫』と無言で伝える。

 その微笑みに頷いて返したが、さっき思い出した、フォラヴが()()()()()()()占い結果・・・ それが恐ろしい理由ではないよう、祈るばかり。



「では。伝えたかった三つは話したので、次だ。時間はまだ・・・あるか」


 そう言うと、ドルドレンは普段会わない仲間を見渡し、彼らが頷いたり否定しなかったりの返事をしたので、続く話へ進んだ。

お読み頂き有難うございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ