表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔物資源活用機構  作者: Ichen
悲歓離合
2414/2964

2414. アイエラダハッド巡回の空 ~②ダルナから復興を・リチアリ再会

お読み頂き有難うございます。

 

『ドルドレンたちはここに』呟く声さえ、氷になって落ちるような、凍てつく風吹く氷河に立つ。



 留まる暇はないけれど、なぜかイングは、人里のない氷河と群島に寄ってくれて、その風景に数分、二人は佇んだ。


 イーアンは凍りつくそこに、何となく引き寄せられるものを感じる。シャンガマックを探してここまで来たドルドレンは、『氷河の祈祷師は私に似ている』と、話していた(※2014話参照)。

 その人に私が会うことはなかったな、と氷河の世界を眺めて去りがたい気持ちを思う・・・・・


『行こう』と静かに声をかけられ、頷いたイーアンはまたイングの片腕に乗った。

 ドラゴン状態のイングの小脇は、抱えられるというより、ちょこんと間借りして腕の一部に乗っかっている具合。イングはどうしてここに寄ってくれたのかな、と不思議だが、これを質問することもなく北東へ。



 北東は、人の住まいがないため、ザーッと見て人の気配がないか辿り、確認後に中北部まで一気に移動した。


 山間の町、村、集落を再現した時、グスキークで『あ!』と声を聞き、イーアンが下を見ると町民が手を振っていた。手を振り返した一回で、瞬く間に次へ行く。


 そして。感傷、しみじみ、そんなの吹っ飛ぶ現場を前に、イーアンは固まった。


()()()()もんだ」


「私は止めましたよ。でも、私もやったけど」


「ここに、町や村が」


「言わないで下さい。在ったでしょうけれど、跡形もないです」


「人もいないな」


「人間や生き物は、助かったと(※男龍が言ってた)」


「生き残っても、さすがに移動したか。()()()()から」


「・・・・・ 」



 どこからともなく囁かれ始めた、『龍の爪痕』の凄まじい規模に向かい合う。ひゅ~と吹き抜ける風の、やたら風通し良いことったらない。反省するところではないが、こんなになっちゃってと思う気持ちは、イーアンに一応ある。

 これを前にしたイングは少し考えて、右から左を見ると、抉られた巨大な溝、山脈さえ消えたそこに、ふむ・・・と鼻を鳴らす。


「道でも敷くか?」


「え。はい?なんて」


「人間は、道が欲しいだろう。お前も馬車が超えられない山脈に悩んで、王冠を使った。今、ほら。これが」


「あっ。そうですよ、本当!これが道になったら」


「遮るものは、全て消え失せた(※事実)。西も東も、行き来は楽だ」


 素晴らしい~ 大きなイングの鱗撫で撫で、イーアンは彼の素晴らしい思いつきを褒め、『道が造れるのか』を問い、イングは『傾斜が緩くなって、馬車が通れる平坦な角度と均し』その理解で良いなら、と答えた。


 有難さ、感謝感激雨あられ。イーアンは拝む勢いでお願いする。と、イングは仲間を呼び始める。あれ?と思ったら、違う御方が登場した。地上に降りた二人の前に、わらわらと小柄な背丈の皆さん・・・・・


「あなたたちが?」


「んー・・・?女龍?そうだよな。昼に見ると、違うな」


 わぁ!と手を打ち合わせたイーアンは、ここで再会した小鬼に『そうです私、あの夜にお会いしましたね』と生き残った彼らに喜んだ。彼らは見た目、変わりがなく、内包する力が戻った様子。とにかく無事で良かった、また会えた、と嬉しがる女龍に、小鬼の集団も微笑む。


 やってきたのは、白い筒二回目の夜、人里をすっぽり地下に引き込んで守った、小柄な精霊たち(※2380話参照)。


「道だ。西と東の両端にある町か村から伸びる、その間の道を敷く」


「いいよ(※あっさり)」


 前置きなしのイングの命令に、小鬼は何を訊き返すこともなく頷く。そんなすっきり引き受けられるの?と、潔い返事に驚く女龍だが、小鬼は女龍を見上げて『あんたがぶっ壊したから、手っ取り早い』と・・・喜びが真顔に戻ることを言った。



 凹む女龍を気遣って、イングはイーアンを下げ(※小脇)、小鬼の精霊にあれこれ細かな点を注文すると、後は任せたと浮上する。


「じゃあな、ダルナ。道はやっとくよ。またな。女龍」


「頼んだぞ」


 イーアンも表情が失せた複雑な心境で手を振り、ダルナは女龍を連れて、次へ移動する。デネヴォーグ近辺も、山脈沿いの古い町ピズラクや、工芸の町や村や集落も・・・ あのワタイー集落の舟が使う川は、岸壁が崩れていたが、『これは精霊の範囲』と切なく見送って、人里を再現して進む。


 レーカディを追った道のりで通った、水運の町やオガジャクあの辺りも、海岸線の集落も・・・ 空を飛んで見て来た、多くの風景をなぞりながら、人里を巡り巡る午後の時間。

 そうして、イングはヒューネリンガだけ順番を飛ばし、『あそこは最後』と南下。


 南の海沿い、港町、中へ進んで、平原を跨ぐ辺りで『あれは』とイーアンは待ったをかけた。


 小さなテントが無数にある。テントは移動式の生活の民族か、もしくは、放牧か。壊れたテントを脇に置いて、少ない数のテントが群がる小さな民族を見つけ、イーアンは『あれも』と指差す。


 もしかして、リチアリの・・・ リチアリの部族は南部と言っていた、と過った時、『イーアン』と聞こえた声にパッと下を見た。


「あ――――っ!」


 リチアリ―――っ 叫んだイーアンは、イングが掴むより早く飛び出し、草原へ急降下。馬に乗った男が手を振る笑顔に、イーアンは抱き着いて『また会えました』と喜んだ。リチアリも笑って抱き留め、体を少し離し、女龍の顔を見た。


「あの高さでダルナの影。現れて止まったから、もしかしてと名を呼びました」


「嬉しいですよ!ここ?ここがリチアリの」


「いえ、ここは私の部族とまた違うのですが。馬で、知らせを運ぶために訪ねていました」


 抱き着いたまま、馬の上で満面の笑みのイーアンに、笑い出したリチアリは『挨拶しに来たところで』と、テントから自分たちを凝視している人々を示した。うん、と笑顔で振り返ったイーアンに、空から声が降り注ぐ。


「イーアン。時間が」


「あ。そうだった」


 イングが下りて来たので、リチアリは大きな青紫のダルナに少し緊張。何となく面白くなさそうな感じなので、このダルナはイーアンが好きなんだと思った。


「行くぞ・・・ここも戻すか?」


 不満そうな顔で『戻すなら戻す』と言うイングに、イーアンはお願いする。そして、凝視しているテントに人たちは更に驚いて騒ぎ、テント再現で慌てふためく姿に、リチアリも目を丸くした。


「すごい」


「国中を回りました。彼が・・・素晴らしい能力で、民の生活の基盤を戻します」


「有難うございます。急いでいるんでしょう?行って下さい。またもしも、私が必要になったら、いつでも探して下さい。アイエラダハッドを守ってくれて、ありがとう。空神の龍。有難う、ダルナ」


 イーアンは抱き着いていた腕を解き(※忘れてた)、ニコッと笑ってお別れする。リチアリも笑顔で『最後に会えた導きに感謝します』と言い終わるなり・・・ 目を彷徨わせた。あれ?と思ったイーアンに、また視点を戻したリチアリが微笑む。


「あ・・・()()()()、会えそうですよ」


 彼はそう言うと、騒がしくなったテントから、数人の人がこちらへ来るのを見て『早くいかないとお礼で捉まる』と笑って、女龍に行くよう急かした。


「私たち、また会いますか?そう見えたの?」


 聞きながら浮上する女龍に、リチアリは笑って頷くだけ。青紫のダルナにひょいと胴体を掴まれた女龍は、答えも聞けないまま『さようなら~』と手を振る。


 飛び立つダルナとイーアンに手を振るリチアリは、『きっと。ルオロフがあなた方に頼むから(※2409話後半参照)』小さな独り言を落として、こちらへ来る人たちに向き直った。


 リチアリの馬に掛けた荷袋・・・そこに収まった、木製表紙の書と、忘れ形見に()()()()()()()()()、若い貴族の刺繡布を、また取り出す時を楽しみに。



 ―――それと・・・『ルオロフ』で、『イーアン』と来れば、頭に掠めたことも。


 イーアンの顔を間近で見た、二度目。一度目は餓死寸前の空腹、そして民の先導役で、気にする余裕もなかった(※2346話参照)。

 今はゆとりが心にあって、しっかり思い出す。紺色の僧服を着た精霊の顔と、彼女の顔が被ったあの日(※2330話参照)。


「ルオロフの言ったとおりだ。イーアンの表情にある優しさは、あの精霊になかったな」


 人種が似ている、と精霊相手に言うのもおかしいが、よく似ている気がしても、近くで見れば全然違った。


 あの精霊が気になるが・・・ もし話せるようなら、ルオロフと再会する時に聞いてみよう。リチアリは考えるのを止め、挨拶に来た部族と話し始めた。



 イーアンはイングと、南東部を回り、最後にヒューネリンガへ戻る。


 その頃にはもう、日も暮れる。イングは疲れたようで、ヒューネリンガの町を戻した後、騒ぎ出す声が空に響くのを聞き、『またな』と短く、大業をこなした終わりには、あまりにも謙虚な挨拶を残し、高貴な花の香りと共に夕暮れの空に消えた。



 この夜。ヒューネリンガのヴァレンバル公の館には、主が留守の状態で、イーアン、シャンガマック親子、コルステイン、そして意外な人物―― センダラとミルトバンが集まる。


 ヤロペウク以外の仲間全員が集った、ヒューネリンガの館。


 町の中では、破壊されたはずの町が、いきなり元通りの姿を取り戻したことで、隊商軍は慌ただしい。施設の一部屋で、眠っていた若き貴族は起こされることなく、この日はこのまま・・・ 



 出かけたヴァレンバル公は、夜も遅くにゴルダーズともう一人を連れて、金の舟で町へ到着。


 見えてきた町の灯りの多さと、瓦礫だった町影が、なぜか整列した状態に戻っている様子に驚きながら、川岸へ降り、静かに消えた金の舟の続き、『奇跡』をまざまざ感じる心と共に歩いた先は、馬車を借りに隊商軍で―――

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ