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魔物資源活用機構  作者: Ichen
悲歓離合
2411/2962

2411. センダラ北上・約束と異界の精霊①

 

 シャンガマックたちが南東へ向かう時間、蛇の子ミルトバンを連れたセンダラは、北上中。



「仲間は、()()()なんだよね?」


「だから?」


「何で俺たちは」


「逆へ向かう、って言ったんだから、それで納得しなさいよ」


 ミルトバンは黙る。旅の仲間は、南から海へ進む話なのに、なぜ北上するのか。見当もつかないが、次の国に移動する時くらい、合わせても良さそうに思う。以前とは違って、祭殿以降は『関わる』回数も増えたのに・・・・・


 センダラは、夜明けに泣いていた。泣いているだけなら、『かわいそう』で済むのが、消えかけていて焦った。


『ミルトバンがいないなら死のうと思った』と度肝を抜かれることを言われ、『俺は()()()んだから、センダラも待ってよ』と思わず注意したら、センダラの顔がいつもに戻った(※=仏頂面)。


 ハディファ・イスカンで、俺はセンダラをずっと・・・ こう言いかけた側から、起き上がったセンダラは、あっという間に透けかけていた体を元に戻し『行くわよ』と、ミルトバンを妖精の布に包んで(※雑)飛び立った。


 センダラは、せっかち――― すぐに思い通りにならないと、何でも極端。


 ミルトバンは、自分が間に合って良かったと胸を撫で下ろす(※センダラ消える)。自分が岩に変わった時間など、思い出したくもないのか、センダラがミルトバンに()()()()に触れる質問をすることはなかった。



「心臓に悪いわ」


「センダラ。妖精なのに、心臓あるの」


「そういうこと言ってんじゃないわよ」


 ボソッと言われた言葉に返したら叱られ、ミルトバンはまた黙る。こんな関係でも、彼女は自分を、本当に大切に愛してくれていて、それも分かるから別に良いけれど。

 でも、旅の仲間と全く接触しない日々は、ミルトバンから見てもどうなのか・・・と思う。それについては聞くなとばかりに撥ねつけられるので、しつこく聞かないようにしている。



 センダラも、ミルトバンに言われるまでもなく、頭から離れない―――


 フォラヴが死にかけたと聞いて、もう交代の時が差し迫っているのを感じた。


 もしフォラヴが馬車を抜けるなら、フォラヴの後は自分が埋めるため、今までのような『無関係』を決め込むわけにいかず、旅の馬車の動きに合わせないとならない。ミルトバンと離れる気はないにしろ、センダラにとって、非常に()()()()()()()()だった。



 会話は途絶え、暫く無言になった状態で、北部の空を突っ切った。そして目当ての地へ着いたのは、真昼間・・・ 北部極東端の海、その上空に二人は止まる。


 ミルトバンを包む妖精の布を、センダラはぐいっと深く下ろし、光も、これから現れる気も、彼に影響しないようにする。


 見下ろす一体全てが、『火山帯』。ここへ来た用―― 魂の橋渡しフィガンと、氷河と火山のエジャナギュの面 ――この国を離れるに当たって、未使用の面を返すためだった。



 *****



 アイエラダハッドを離れる準備は、センダラだけではない。イーアンとダルナたちも、出国に合わせて()()()


「全員解除は、可能かどうか」


 ダルナ以外の異界の精霊(※居場所様々)は収集が困難で、とにかくダルナと、近くにいる異界の精霊の解除を先に頼もうと、巌の一つへ向かっていた。


「頼んでダメなら?これまで通りと言われたら。イーアンも、タンクラッドも移動しているのに」


「それは、戻ってくるしかないでしょう」


 横を飛ぶレイカルシ・リフセンス―― お花をくれる赤いダルナ ――の質問に、イーアンは『呼ばれるごとに戻る』と言い難そうに答える。


 実のところ、それは約束しづらい。だから、一斉解除してもらえるなら、後々、手間取らされずに済むと思って、頼みに行くところ。情けないことに、言われるまで思い出せなかった。取っ掛かりはイングの話で、『あ、それどうしよう』と思ったのだ。



 ―――イングは人魚のオウラに、『解除していない場合、いつ力を戻すのか』と聞かれ、それでイーアンに伝わった。


 余談だが、昨夜イーアンが、『龍気壁』で守ったイングたちは、さっきまで中に居たため、することもなく、今後を話しながら出た話題。


 イングは常にオウラ付きなので、オウラを起こして(※起こされるまで寝てる)見える未来を聞こうとしたら、オウラはそれより『力はもう戻るのか。イーアンたちがこの国を出たら、そのままか』と―――



 言われて思い出したことは、他にもある。芋蔓式に、あれもこれも。


 気付いた側から口に出したら、イングたちは耳を貸しながら『自分がそれは』『じゃ、連れて行くか』の協力体制を取り始め、今、集められる全員で移動している。

 飛行できない者は、一つ所で待つよう伝えた後。報せも、状況によって、ダルナが回してくれる手筈は整えた。



「言われるまで気付かなかった・・・というか。やること連発・多過ぎて、頭が付いて行かない」


 はー、と溜息を吐く女龍の右に、黒いダルナが回りこんで、ちょいとイーアンの体を引き寄せる(※=胴鷲掴み)。なに?とくたびれた顔を向けたイーアンに、『翼を畳んで休め』とスヴァウティヤッシュは労った。


 龍気切れを起こして落ちた姿に衝撃を受け、気配り著しいダルナは心配する。


 イーアンは『大丈夫ですよ』と遠慮したが、胴体を掴まれているので、これでもいいかと思い直し『重ね重ねすみません』と翼を畳んで任せた。


「俺に言え」


 横に面倒なのが来て(※イング)女龍を渡せと手を出すが、スヴァウティヤッシュは眇めた目で見ただけで、取り合わなかった。


 スヴァウティヤッシュから見ると、イングは()()。言い方を変えると、()()のだ。


 疲れているイーアンを気遣うはずが、彼女に気遣わせる本末転倒が、彼には度々ある。 

 ・・・加減を知らないイングに、疲労する女龍を渡す気もなく、すまなそうに見上げるイーアンに『問題ない』と頭の中で伝え、横から離れない青紫のダルナを無視しながら、見えて来た巌の湖へ急いだ。


 この()()()。距離ではなくて、数を言う。

 空に集ったダルナと、異界の精霊の群れは、アイエラダハッドの浄化を免れた者たちで、飛行可能な能力持ちだけだが、それにしたってこれほど数がいるのかと、向かい合った時、イーアンは魂消たし、嬉しかった。


 圧巻で、壮観。空を流れる雲の上に飛ぶ彼らは、地上に影を落とさない配慮で、群れになって空を進み、その様はモザイクのカーテンを広げたように色とりどりで、地上から見上げれば、きっとオーロラが動いているように見えると、イーアンは何度も振り返って微笑んだ。



 ―――同じように空を覆うとはいえ、あの、悪魔のような影とは違う。


 恐ろしい姿をゆっくりと大空に広げた、巨大な重さの時間。あの影も、帯を引くように美しい色の粒子を星屑のようにまき散らしていた。

 見た目はとても恐ろしく、パッと浮かんだのは『悪魔』のイメージだった。どう見ても、それしか思い当たらなかった。


 あの影を見た者は、きっと怖れを抱いただろう、とイーアンはぼんやり考える。恐怖に見える形があるならあれだ、と言われたら納得する。それくらい、分かりやすい『恐ろしさ』だった。


 それなのに・・・イーアンは自分と共鳴するものを感じていた。


 どこか私と同じ波動があったような。だから、『悪魔』の見た目で『違う』何かなのかと・・・正体の確認は出来ないけれど、強烈で不思議な印象が残る。



 スヴァウティヤッシュが下降し、他のダルナたちも次々に下降する。雲の上を移動していた異界の精霊は、高度を一気に下げ、湖沼の水辺へ大きな色のカーテンが、空気を孕んで落ちるように、滑らかに地面へ皆が下りた。


 湖は広く、周囲に木々は少ない。かなり離れたところから、地面が傾斜を作って上がり、斜面には同じ樹種の林が見られる。ぽかんと開いた場所に水が溜まった雰囲気の湖で、開放的。波打ち際は、近くに火山もないのに、火成岩に似た多孔質の石が埋め尽くしていた。


 薄青い空に、なびく雲。アイエラダハッドは冬なのに、ここは暖かく少し変わっている。目的の巌は、湖の中から突き出ており、水から出ている岩の上部は、絵が描かれていた。

 下ろしてもらったイーアンは翼を出して、皆に待ってもらい、巌の側へ飛ぶ。この後ろに、顔見知りのダルナが一頭続く。


 振り向いたイーアンは『あなたの解除の際に、訊きます』と、ここへ来る前に伝えたことをもう一度言い、ダルナは揺れるように長い首で頷くと、女龍に並び『俺の名前は尋ねないか?』と、水色と赤の混じる目を向けた。


 このダルナは、イーアンを南西へ連れて行った、『ダルナ退治の群れ』の一頭(※2326話参照)。


「解除し終わったら、伺います(※急ぎ)」


「聞いても聞かなくても良さそうだな」


 そんなことありませんよと首を横に振り、イーアンはニコッと笑う。名前・・・今さら、聞かなくても。やたらドライで人間的なダルナなので、あっさりこのまま、会いたい時に会って、何となく付き合っていける軽さがいいや、と思うくらい。

 当のダルナは少し残念気に『そう』としつこくはせず、ぷいっと首を下に向け、自分の力が籠る巌を見下ろした。


「俺は。存在を変えてこの世界に残るが」


「はい。アイエラダハッドを出るのですよね」


「そうだ。俺の力は()()()()()()()力じゃない」


 ふうん、と返したーアンは、そう言えばこのダルナの戦闘方法を見ていなかったと思い出す。一緒に戦いはしたが、離れていた。

 力の種類はいろいろあるのがダルナなので、知らなくてもそれはそれ。ちょっと彼を見つめてすぐに巌に向き直り、『では、始めますよ』と開始する。


 今回で、解除業務は最後になるかも知れないし、今後も持続するかもしれないし(※持続=呼び出しで戻る)。

 出来れば最後にして~と願いながら、女龍は湖に突き出た巌の赤い絵紋様に、白い龍気を当てた。


 ぐぉっと吹き上がる風と飛沫。水中に沈んでいる分の紋様が岩を離れて絡みながら立ち上がり、ばらけては繋がって輝いては散って、水飛沫は宙に留まりぐるぐる巌の上を回転する。


 いつもと違う、とイーアンが驚く横で、ダルナも不思議そうに目の前の光景を見守る。湖岸にいる他のダルナも、解除した数名は『?』の視線を見交わし、何かが異なると気づいた。


 龍気が注がれる白い紐を潜っては遊ぶように、気付けば奏でる音が聞こえ、水から撥ねる飛沫と、落ちてはまた跳ぶ飛沫が音楽を作っている。絵紋様はどんどん散って、集まっては絡まって蔦のように空へ広がりながら・・・・・


「え?まさか」


 イーアンの鳶色の瞳に映った、空八方から輝くリボンのような物がこちらへ来る様子。それらは光を受けて赤く閃き、どんどん集まって、あれよあれよという間に湖の真上は絵紋様が透かし天蓋を組む。


「きれい」


 ビックリして笑ってしまうイーアンは、見事な美しい光景に、思わず拍手。感動して『なんてきれいなのか』と圧倒される。並ぶダルナは、イーアンの嬉しそうな笑顔に『へぇ』と可笑しそうに笑みを浮かべた。


「いつもと違うのか」


「こんなの初めてです。もしかすると、アイエラダハッド中の」


 感動の笑顔で返事をしかけた時、赤い絵紋様の作る透かし天蓋は、ふわーっと花咲くように中心から開き、ひゅおっと風立つ音共に、あの大きな古代の精霊が巌の上に現れた。



『伝えよ。封印を終えた時に。何れを選ぶか』


 あ、と緊張する一瞬。いつもと違う光景の続き、いつもと同じ質問が直球。慌てたイーアンが『その前に』と声を張り上げた。声に応じて、青い布がクロークの内側でふーっと真っ青な光を膨らませる。精霊の顔が向き、女龍を見下ろした。


『イーアンの声を先に』


 青い布が古代の精霊にきっかけを出す。有難うと心で感謝したイーアンに、見下ろす大きな顔は少し頷き、イーアンは急いで用を伝えた。

お読み頂き有難うございます。

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