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魔物資源活用機構  作者: Ichen
悲歓離合
2410/2965

2410. 騎士と獅子の朝・古代民族ファナリの助言と贈り物

 

 シャンガマックとヨーマイテスは、ドルドレンから連絡を受けた後―――


  ザッカリアもミレイオも生き返り、シャンガマックはザッカリアと、ヨーマイテスはミレイオと話したことで、胸いっぱい(※シャンガマックが)。


 涙を拭き拭き、騎士は獅子の背に乗って、思うことをあれこれ話し、『やっぱり時間が許すなら、皆に会いに行こう』と気持ちを伝えた。獅子はどっちでも良さそうだったが『そうだな』とは返した。



 ―――ミレイオに。 黒い小箱の玉が写した未来について、ヨーマイテスは直前まで迷い、結局、言わずに置いた。


 連絡珠応答をミレイオに代わったので、これをシャンガマックは『あの話か』と思ったが、言わなかったと後から聞いて、それはそれで・・・と深くは訊ねなかった。


 ヨーマイテスの胸中は複雑で、一先ず『生きて戻ったミレイオ』に、追い打ちをかける内容―― 空とイーアン ――の話は言えず、毎度のように・・・適度な嫌味で(※『死にかけるような間抜けをするな』とか)連絡はただの注意で終わった形。



 口数が自ずと減る。そんな獅子を気遣うシャンガマックは話を変え、『空を覆った重圧』の話題を持ちかける。仲間にそれを聞くのを忘れた、と言うと、獅子は少し考えて『会ったら聞けばいい』と答える。


「俺たちが食らった、あの時間。あれも・・・センダラには聞かなかったが、他の連中(※仲間)はどうか、知っておいても良さそうだ」


「センダラは堪えていなさそうだった。俺もとりあえず何ともない。魔法も使えるし、ヨーマイテスも」


「変化なし」


 だよね、と頷き合うが、直後確認はしたので、時間経過して問題ないと改めて確認した具合。他の仲間に影響が出ていると思い難いが、獅子は気になっていた。


 この時点では―― あれの影響によって、ザッカリアが抜けることを、彼らは知らない。



 あの出来事の後で、戻ったダルナとも話し、自分たちと動いたダルナは全頭無事。労い、礼を言ったすぐ、彼らは用があるとかで早々に離れた。そして、二人は南寄りの西を目指していた。


「ここ?」


「俺もお前も、飛べないからな」


 獅子と一緒に移動した『ちょっとだけサブパメントゥ通過(※緊張)』で時間を短縮し、出てきた先は西の山脈の()()()


 飛行移動が出来ない二人は、地続きの移動に頼るだけで、位置確認が難しい。シャンガマックは、ジョハイン(自分の龍)を呼べるのだけど、さすがに父を乗せることは出来ないし、龍を呼ぶ、と言えば、父の機嫌も悪くなるので『そうだね』と無難に頷く。


「センダラが言っていたのは・・・ 死火山とか、そんな話だったね」


「お前が来るかもしれない、と聞いているなら、相手が場所を教えそうなもんだ」


「それはどうかなぁ」


 息子贔屓の獅子に苦笑して、シャンガマックは髪をかき上げ『随分明るい』と山脈の雪と氷の中、僅かに見える空を見上げた。黒と白と銀と青。刳り貫かれるような空は、真っ青で輝きに満ちる。雪と氷の反射が強く、空までの距離はとても眩しい。


 急峻に聳える山々の連なりの内に立つ自分たちは、ちっぽけに感じる。山の頂が青い空を刻むように突き出ていて、風は僅かな湿気―― 彼の息 ――も、瞬く間に凍らせるほど冷たい。息を吸い込むと咳が出る。目も、薄目にしていても痛い。


「バニザット。冷えるぞ。降りるな」


 背中に乗ってろ、と言われて、一度は下りた獅子の背に跨り『目安が欲しいな』と、顔まで毛皮のフードを寄せる。振り向いた獅子は『その前に、お前の顔が』と心配そうに呟いた。


「この、皮膚を切るような冷え方。極北を思い出すよ」


「比じゃないぞ。あっちは風が吹けば、温度が動いた。ここは気温が()()()。風は吹いても、冷たさが巡って出ない。人間には危険だ」


「うーん・・・でも探さないと。『俺が行く』と伝えてもらえたなら、帰るわけには」


「お前の体が先だ・・・俺の使う力、炎は移動に適さない。お前、結界を自分にだけ張れるか」


 あ、と頷いたシャンガマックに、獅子はすぐそうするように言い、顔の周りだけで良いから結界で包めと助言。そういう手もあるかと気づいて、やってみると・・・上手くいって、褐色の騎士は、はーっと深呼吸できた。フードの隙間を埋める淡い黄緑色の光が、褐色の顔の前につるっとかかる。


「楽だ。なぜ今まで、思いつかなかったのか」


「今できたなら良い。俺もそこまで考えなかった。悪かった」


 謝らないでと笑って撫でられ、ヨーマイテスは息子の苦労に鈍い自分を、やや恥じる。何やら凹んだ獅子を励まして、シャンガマックはいざ探索開始。


 探すのは、この毛皮の模様・・・これを作ったらしき、古代民族―― 妖精の鍵の管理人。



 ―――センダラが鍵を取りに来た時。


 返す際に、この毛皮の祈祷衣には魔法が掛かっていることを話し、鍵を使って力が増えた印象(※2383話参照)を話したら(←獅子が)、センダラから思いがけない言葉を聞いた。


 鍵の管理者は、妖精の女王に授かった『妖精の気温』で、人間の役に立つよう、文明を築いていたそうな。シャンガマックの服の模様と似た模様は、管理者の居所にもあった、とセンダラは口数少なめで答えた。


『よく知らないわ。ちょっと聞いただけだし。でも()()じゃないの?』センダラはそう言って鍵を受け取るなり、さっさと消えてしまったが。


 気になるにしても、確かめる術もない。これはこれと獅子は切り捨て、シャンガマックたちが移動し始めた矢先。妖精はなぜか戻ってきた。

 魔法陣をさっと出したセンダラは、それを地図代わり『ここよ』と前置きなく一部を指差して、言い難そうに顔を背ける。


『あんたたちが行くなら・・・別に行かなくても良いけど。とりあえず、()()()()()()()、とは言っておいたから』


 突発的。意外過ぎる、思いもよらない気遣いに驚いたシャンガマックは、目を丸くして絶句。獅子は息子がセンダラを見つめる(※驚いてるだけ)のが面白くないので『行く』と短く答え、頷いたセンダラは消えた・・・続きで、南西の山脈、ここ―――


 さて、どこかなと、氷を踏んで歩き出した獅子の背から、頭上を見回すシャンガマックの目に、あっさりそれは応えた。



()()。あれか?ヨーマイテス」


「かもな。あれか」


「いきなり出て来たね」


 なんでだろう、と一ヶ所の山の頂を見上げる息子に、獅子は『お前の結界』とボソッと呟いた。息子の使った精霊の力で反応したのか。山脈の一つが、ふーっと穏やかな桃色の光を粒子で飛ばし、それはどうやっても目印で呼ばれているとしか思えない。


「目印だけじゃないな。匂いが違う。生きている匂いだ」


「本当だね。植物が光孕んだ時の、あの馥郁とした感じ」


「駆け上がるぞ」


 獅子は一度体を人に変え、息子を抱え上げると、氷の山肌を飛び上がりながら、あっという間に頂まで駆け抜けた。ハイザンジェルのリーヤンカイ以来だ、としがみつくシャンガマックは、舌を噛みそうで黙っていたが、金茶の髪をなびかせる焦げ茶の大男は、息子を度々見ては微笑む余裕があった。


「前もこんなことあったな(※1144話参照)」


 うん、と頷くだけの息子に少し笑い『もう少しだ』と大きな頂の縁まで辿り着き、頂上で見下ろす。

 吹き付ける風の冷たさも強さも、ヨーマイテスに何の影響もない。昼の陽射しにさえ立てる、サブパメントゥ・ヨーマイテス。シャンガマックは、改めて彼がすごく思える。


「何見てるんだ」


 横顔に受ける、息子の視線に気づいて訊ねたヨーマイテスに、シャンガマックは笑み『いつも獅子だから』と前置きし、人の姿でこうして、昼の光を受けるあなたがとても眩しく、改めてすごいと思ったんだ、と伝えた。父は無表情で頷いたが、抱える片腕の力が強くなったので、照れたと分かった。


「・・・このまま、この下へ飛び降りる」


「え」


 照れの間合いにニコニコしていたら、ギョッとする事を言われ、サッと下を見たと同時、暗い火口に僅かな緑を湛える―― かなり下 ――へ、ヨーマイテスはひゅっと飛んだ。わ、と声が漏れたすぐ、直下して着地。そこは、中天に差し掛かる太陽を迎えるように、春の野原が広がっていた。


「おお・・・美しい。これが妖精の気温の、成せる技なのか」


 ふと、毛皮服も温もりが上がった気がして、シャンガマックはやや暑い手袋を外してベルトに挟み、結界も要らないか、と顔の前に張った黄緑色の光も消す。


「あっちだな」


 次々と、見つけるヨーマイテス。彼が見た方を向くと、火口を作る内壁の一部に亀裂があり、そこから妖精の空気が呼ぶように漂う。


サブパメントゥ()が行くのもどうだか」


「うーん・・・ダメなら、止められると思うけど、一緒に行けるところまで行こうよ」


 まぁそうだなとヨーマイテスは息子を下ろさず歩き、ふわふわと光の粒子が漂う中を歩く。岩の亀裂まで来て立ち止まる。やはりここまで、と言いたげな碧の瞳がシャンガマックを見たので、シャンガマックも父の配慮に『行ってくるよ』と一人、奥へ進んだ。


 亀裂にしては、通路として整った印象も受ける暗がり。進んで間もなく、小柄な人影が前に立つのを見て足を止めた褐色の騎士は、『勝手に入って済まない。俺はセンダラの仲間の』と詫びから入った挨拶を言おうとしたが、相手は『こちらへ』とそれを遮り、体を横へ傾ける。


 室内に続くと分かり、後に従ったシャンガマックは、静かな装飾の部屋に驚いた。振り向いた小柄な人物は、人の顔ではなく、どことなく獅子や猫を連想する特徴を持ち、白目のない目は精霊にも思えたが、本人曰く『精霊ではなく、妖精でもない』らしくて、勿論、人間でもない。古くからいる民族で、ひっそりと今は世界の端々に息づく話。


 先に説明されたシャンガマックは、腰かけるように言われて長椅子に掛け、必要なさそうな流れではあれ『名乗りたい』と伝え、促してもらってから自己紹介。名は言えないが、サブパメントゥの父も表で待っていると教え、相手は頷く。


 彼は名をファナリと言い、精霊と妖精の棲む山脈に、今も昔も同じ場所で()()()している、と笑った。


 センダラの話も少し触れたが、ファナリは『私のように問いかける管理者が必要な種族』と妖精について捉えているようで、特にセンダラを困った相手とは見做していないようだった。妖精はそういう性質が度々ある・・・程度の、大らか。


 それから本題。ファナリは、騎士が来た理由をとりあえず訊ねたが、話を聞いている間、ずっと相槌を打ち、終わると同時『そのとおりです』と教えた。彼はずっと来客の衣服を見ており、『()()()を訊ねに、私の仲間が来るだろう』と、鍵を返したセンダラにも言われていた。


 なので、『毛皮の衣服の紋様は、自分たちの民族が遺した』とすぐに話し、パッと明るくなった騎士の顔に微笑む。


「シャンガマック。真面目で真っ直ぐな戦士よ。精霊に愛された、大地の魔法使い。妖精の檻を立ち上げた、純粋な心。あなたは次の国で、それを着ないでしょう」


「あ。ああ・・・そうかもしれない。アイエラダハッドは寒かったから、これを」


「だとしても、持っていた方がいいです。いつか、私の民族に会う時、話が早いから」


「ファナリの民族が・・・そうか、世界中にいると、さっき話していた彼らに、これを見せれば」


 そうです、とファナリは微笑みながら立ち、話が終わったと思い、シャンガマックも腰を上げる。小柄なファナリが側へ来て、シャンガマックの袖に触れると、ふーっと片腕が温まった。

 少し驚いた顔だったか、ファナリは『私たちが側にいれば、紋様はこうして教えるでしょう』と()()を示す。それで、と続ける言葉を、有難さに感じ入るシャンガマックは遮り、先に約束する。


「暑い国かもしれないし、毛皮服を持ち歩くのも難しいかもしれないが。あなた方に、いつ会うともしれない。俺は出来るだけ、この服を離さずに置いて、いつでも尊い民族に会う構えを、保とうと思う」


「誠に頼もしく優しい、シャンガマック。大丈夫です。いつも持ち歩かなくても」


「ん?でも」


 シャンガマックが―― 自然体で話を被せて、最後まで聞かないから。

 話そうとしていたことを遮られていたファナリは、可笑しくて少し笑い、『見ていて下さい』と黙るよう促し、騎士の両腕をとんとんと手の平で叩いた。


 毛皮服は生き物のように、ファナリの命じに従う。


 しゅーっと・・・見る見るうちに毛皮はぺったんこになり(※シャンガマック凝視)、ふっかふかだった見た目は、ぺらっぺらのチュニックの薄さに変わった。しかしチュニックにしては艶も張りもあり、さながら鞣し革状態。あの不思議な大きな黒い紋様を残したまま、白い毛は白色の鞣し革。上下共に、靴も腰のベルトに差した手袋まで(※全身セット)・・・・・


「こ。これは」


「次の国では、()()()が適当でしょう。長袖ですが、呼吸もする。熱くてもあなたを陽射しから守り、濡れても即乾く。熱がこもることも、水分を抱えることもない」


 洗いたければ洗って、と扱いも教えてくれるファナリに、驚愕するシャンガマックは自分の足から背中から、両腕を上げた脇やら忙しく見回し『すごい』と笑い出した。併せてファナリも笑い、彼の背をちょっと叩いて『お父さんが待っています』と、今度は本当にお別れで、送り出す。


 シャンガマックは笑顔でお礼を言い、会えたことを忘れないと喜び、握手をして手を振りながら、ファナリの元を後にした。


 見送るファナリも微笑み絶やさず。褐色の騎士が光の外へ消えるまで見送り、『あれだけ付き合いやすいと楽なのに(※センダラが)』と呟いて、良い出会いに感謝した。



 出てきた息子の気配に、ヨーマイテスはパッと振り向き、姿の変わった彼に眉根を寄せる。どうした、と聞く父に笑い、『ティヤーでも着ていられるって』とシャンガマックは、中でのことを簡単に話した。


 元はと言えば、獅子が防寒用に、狭間空間の宝の一つを、持ってきた代物(※1739話参照)。


 こんな形で時を越えて、我が息子を守るとは。似合っている、と褒め、少しはにかんだシャンガマックは『嬉しい』と素直にお礼を言った(※父はこんな息子が可愛い)。



「さて。どうしようか、この後・・・ファニバスクワンに何かしらで、報告を伝えた方が良いのか」


「精霊が迎えに来るまでは、こっちも出ていて良いはずだろ。戻す気なら、ファニバスクワンから連絡が来る」



 そしてシャンガマックたちは―――


()()()


「うん。大丈夫そうだし」


 ()()()()()()()()()だ、とヨーマイテスは言い、用がありゃファニバスクワンも来やすいだろ、と言いながら息子を抱え上げ、再び来た道を戻る。


 春の野原を包む、火口の切り立つ内側の岩を跳び上がり、蹴りながら瞬く間に真上へ出ると、一度だけ『火口の春』を振り返り、目が合った息子と微笑み合って、今度は真っ逆さまに近い角度を、凍る岩を蹴って飛び降りた。


 二人が着地する瞬間、ヨーマイテスはポンと・・・シャンガマックを上に投げ、うわ、と投げられた体が落下しかけたところで、獅子に変わって飛び上がった金茶の背中が、息子を受け止め、影へ向かって走り出す。


 爽快に笑うシャンガマックの明るい声が、南西の山脈の裾に木霊し、二人は闇の国サブパメントゥへ。そのまま、獅子は一気に目的地―― ()()()()、川ばかりの ――南東ヒューネリンガを目指す。

お読み頂き有難うございます。

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