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魔物資源活用機構  作者: Ichen
悲歓離合
2408/2962

2408. 決戦後報告 ~③ロゼール・ザッカリア離脱宣言

 

 ―――【ロゼールの報告】



 弓を先に見たオーリンも、言葉を失くしたらしく、こちらの部屋へは来ない。


 ドゥージの荷物だからと、ロゼールは真っ先にオーリンのいる場所へ。コルステイン伝いで、火の消えた暖炉の影から出て、驚くオーリンと部外者(※僧侶)に鉢合わせたが、オーリンは即、気付いた。


 赤毛の騎士の腕に抱えられた荷物に、何も言わずとも察したオーリンは、大きく息を吸ってから、くるりと背を向けるや否や、隣の壁を叩いたという。



「オーリンを一人にするのは心配だ。俺がクフムの見張りにつく間、オーリンを、ガルホブラフに任せようと思う」


 皆にそう言い、了解を得たドルドレンは、ロゼールの背中を撫でて『後で皆に聞くから、先に話して』と静かに言い、泣きながら頷くロゼールを離れた。


 退出した総長が扉を閉め、暫くして空が龍の光をふんわり渡した後。オーリンが空へ上がるのを窓から見送る皆は、ロゼールの嗚咽が静まるのを、ただただ待った。何かを聞いたところで、声も出ないくらいに泣いている男を追い詰めるように感じた。


 こうして少しの時間が過ぎ、ロゼールは涙まみれの顔を拭いては、溢れる涙に追われを繰り返し、ようやく、そっと荷物を机に置いた。手放すのを嫌がるように、両手は弓と矢筒に添えられたまま。


 もらい泣きするミレイオも、立ち上がって側へ行き、『ドゥージの馬に乗ってあげて』ロゼールに言った。また泣き始めるが、頷くロゼール。ぎゅーっと彼の頭を抱え込んでやり、ミレイオは『辛いわね』と呟く。


「報、報告し・・・ないと」


 ぐすぐす鼻をすするロゼールがミレイオの胸で言い、ぐしゃぐしゃの顔を覗き込んだミレイオが『私が代弁するから、このまま話してごらん』と引き受ける。しゃっくりも続いて、すぐ泣くので言葉が聞き取りにくいロゼールに、皆もそれでいいと促した。



 ロゼールが過ごした数日間――― 


 ハイザンジェルとテイワグナを行き来し、コルステインたちに手伝ってもらって、アイエラダハッドの各地に装備を振り分けた。

 出来上がった側から、書類やら伝票やら手続きもその場で済ませ、大急ぎで装備配達。機構に戻って書類を渡し、アイエラダハッドに配れるだけ配った後は、機構のある本部で必要な書類を片付けて、それで戻ってきたのが『あの夜』の船だった。


 ザッカリアが死んだと知って、居ても立ってもいられなかったが、龍族が動くと聞き、自分は何ができるか考えた。がそれも束の間で、ささやかに得た情報をミレイオに伝えた後は、コルステインに呼ばれてそのまま一緒に動いた。


 コルステインたちの行動に関しては、他言無用の雰囲気があったため、これは『サブパメントゥのことで』と濁し、彼らも決戦を支える影役者で立ちまわっていた話だけはした。


 そして、コルステインの用事も終わりかけの日・・・ ドゥージがいるそうだ、と聞いたのが、氷河の一画。


『あの時が?』と気づいたフォラヴは、ロゼールを見つめたが、ロゼールはミレイオに抱き寄せられていて顔を上げなかった。


 決戦終了頃、何か大きな大きな気が通過し、コルステインが良いと言うまで地下から出られなかったが、安全とされた後、急いで地上へ出たロゼールは、目安にされた凍る風の群島を探し始めた。そして。



「・・・()()、話しても良いの」


「は、はい」


 先に聞いたミレイオが、少し配慮して聞き返し、ロゼールはしゃくり上げながら頷く。

 小声のやり取りに何かと思ったが、ロゼールはある人物に会ったことで、ドゥージの状態を正確に知った、とミレイオは話を続けた。


 その人物は『氷河の祈祷師』・・・このことは名乗りもなかったので知らないが、人に見えて人ではない、精霊とも違う誰かは、皆になぜか『氷河の祈祷師』を連想させる。


 正体は分からないものの、ドゥージは彼に預かられた状況にあり、()()()いると教えられ、そして荷物を渡された。


 今、皆の前にある弓引きの弓は、風変わりな形はさておき『普通の木製』である。弓も、ドゥージを包んでいた、あの異様な気配も、置かれた荷物から微塵も感じられなかった。誰もがこれを『浄化された』と思う。



 ここまで聞いて、ドゥージについて、もっと掘り下げたいにしても、親方は確認すべきことへ質問する。


「テイワグナからも運んだ、と言っただろう。テイワグナは最近、襲われなかったか?サブパメントゥに」


 濡れた紺色の目を親方に向けたロゼールが、『どうして知ってるんですか』と驚き、タンクラッドは矢の話をする。

 ロゼールが来る前にも話したように、自分の顔に薄っすら残った傷痕を示しながら、鏃の特徴的な作りはダマーラ・カロに頼んだ、ダビの鏃の応用に思うと伝えると。


 ダマーラ・カロ自体は襲われていないらしいが、首都へ運ぶ道で何度か襲撃されている報告が出ていた、とロゼールは答え、この情報に皆の表情が強張る。


「人を襲ったのは、はっきりした情報がないのね?ただ、()()()()()()曖昧と噂が」


 ミレイオの重ねる質問と確認で、ロゼールの話は大体理解できた。サブパメントゥは、テイワグナで出没している。それどころか―― 『ハイザンジェルも』フォラヴは耳を疑う。


「決定ではないみたいよ、もしかすると、ハイザンジェル僻地のサブパメントゥ遺跡とか、そうした所かも」


 噂の地域は遠く、人々を襲うのは正体知れず、魔物ともつかない噂。


 ロゼールの伝える報告はここまで。彼の情報は『ドゥージの状態』『テイワグナの武器輸送時、サブパメントゥらしき襲撃あり』と『ハイザンジェルも噂が立つ』こと。




 ―――【ザッカリアの相談】



 報告の最後はザッカリアだが、ロゼールの飛び入り、そして次の国で面倒になりそうな、武器の話の後・・・場は暫し騒めいていたため、誰もザッカリアの報告へすぐ進まなかった。


「俺さ」


 ざわざわと、隣り合う者同士で話をしていた皆に、ザッカリアは一言声をかける。

 気付いたのは、近くにいたシュンディーンで、目を瞬かせた彼にザッカリアはにっこり笑った。シュンディーンは笑顔を返すより早く、ザッカリアから感じ取ったものに『どうして』と聞くでもなく、驚きが口を衝く。


 その声で、ミレイオたちが次々に振り返り、シュンディーンの凝視にザッカリアが頷き、精霊の子への返事も含め『俺は、一度抜ける方がいいと思うんだ』と言った。


 すぐさま、『なぜ』『急に』『蘇生のことか』『抜けなくても』と反応した大人が慌て騒ぐ。ザッカリアは、皆が止めてくれるのを有難く思い、ちょっと微笑んだまま黙っていたが、タンクラッドが何を思ったか退室。すぐに入れ替わりで、ドルドレンが部屋に入って来た。


「ザッカリア。お前、『旅を一度抜ける』と」


 親方に聞いたまま繰り返し訊ね、面食らったドルドレンは側へ行き、『確実なのか』を事情さておき―― ザッカリアが言うなら、何かあると見越し ――離脱以外の余地はないかどうか・・・尋ねる。

 ザッカリアは総長を少し見つめて考え、視線を床に落とすと『確実、かな』と短く呟いた。



「いつだ。今日?今すぐ、と言っているのか」


「ううん・・・じゃないけど」


「でも。お前は離れるつもりなのだな?『一度抜ける』とは、次に旅に戻る日が来る、と解釈して良いか」


「そう言ったつもり。俺ね、総長。皆が感じた『大いなる力』は、知らない場所にいたんだけど」


 徐に、理由を話し出した少年に、総長は彼の椅子の横にしゃがんで、話を促す。


 皆も声を静め、ザッカリアの話を聞いた。それは端的で無駄を省いた、『見通す力の持ち主』の発言。



 ―――巨大な秤の時、直に影響されなかったが。


 ザッカリアに聴こえた『問いかけ』は、自分が一時的に退場する知らせと捉え、彼の意識に自分が関与する未来が掠めたのも併せ、一番近い未来での関与は、恐らく次の国ではなく、()()()()だと感じたそう(※2402話参照)。



「だから。俺もそれが良いような。理由はこれだけじゃないんだけど、背中を押されたというかさ。ここから、しないといけない動きは、旅していたら難しいし」


「・・・そうなのか」


 頷き、ドルドレンは自分が裁かれていないことを、ここでまた意識した。ザッカリアは、少し話を逸らし『タンクラッドおじさんは、進むように言われたんだよね?』と呟き、ドルドレンは『そう言っていたな』と答える。


「シュンディーンは?」 「僕は関係なかったかも」


「ミレイオも関係ないよね」 「そうね、()()()()にいたからか」


「フォラヴは何か聞こえた?」 「私は、いえ。姿を見ましたが、影響はなく」


 ここで、一度、場が止まる。フォラヴは、『大いなる力』はアイエラダハッドを均す意味だったと思っていたが、どうもそれだけではなかったと感じ、妖精の騎士の反応で、他の者も『どこにいても、仲間によって選別対象がある』と気づいた。


 未だ、しゃっくりが収まらないロゼールに視線が向いたが、ロゼールは首を横に振り『コルステインが俺をサブパメントゥへ連れて行った』と、それで地上の影響を知らないと話す。大きな気は感じたが、コルステインと一緒で、彼には分からず仕舞い。


 ザッカリアの表情は、感情が見られず、ただ、自分はやはり()()()()()()耳に届いた・・・そのことを深く感じたようだった。


 うっかり答えたが、ミレイオは自分も同じヤロペウクの元に居て、影響しなかったと返事したのを迂闊だったと思う。



「・・・俺だって、抜けたくないよ。でもいつか抜けるのは、分かっていた。俺は問われたんだ。これで決定しても、間違えていないと思う。理由は漠然としていたけれど、今は漠然ではなくて」


 少し、気にしていそうな言葉の多さに、ドルドレンが遮って続きを促す。


「旅路に使う時間は、別の行動の必要を求めているのだな?」


「うん」


 分かった、とドルドレンは了解する。え、と驚きの声が包むが、横に並ぶ総長の灰色の瞳に、少年も微笑んで『有難う』と受け入れた彼に礼を言った。


 それでいいのか、離れるのいつなんだ、と周囲が騒ぐが、ドルドレンも寂し気に微笑みを浮かべたまま、ザッカリアの手を握って『ギアッチにもちゃんと伝えるように』誤解のないよう、と添える。


「総長。ギアッチは、俺の死んでるというか、魂状態で話してね」


「うん?そうなのか」


「それでギアッチは、俺が魂じゃなくて、()()()でハイザンジェルに戻っておいで、って。旅や世界は、まだ俺を求めているから頑張んなさい、って言ったんだ」


「そのとおりだ。さすがギアッチ、魂相手にも教師である」


「お父さんだもの・・・あ、総長もだけど。だから、生き返ってすぐ、旅を抜けることだけ聞いたら、意味ないと思われそうだし、その辺はちゃんと言うよ」


「それが良い。ギアッチは賢い男だ。お前に常に助言するだろう。ギアッチとの連絡は、出来れば続けてほしい」


「うん・・・どうなるか分からないけど、出来るようにするよ」


 淡々と交わす、別れの挨拶手前。それまで後ろで騒いでいた皆も、二人の会話に黙り、諦めの溜息が続く。総長が認めてしまったのでは、ザッカリア離脱は仕方ない。ザッカリアは旅の仲間だが、ドルドレンの部下であり、ドルドレンと親子の(※第二のお父さん役)関り。


 まして、ザッカリア・・・未来も見通す目が、そう決めたのであれば。ミレイオは『もう、言っちゃった』とばかりの落胆ぶりを隠すことなく、残念がった。



「お前が生き返っているの、嬉しいのに。喜ぶ前にドゥージさんが。お前まで」


 傍へ来たロゼールはザッカリアの両肩に手を置き、泣き止んだ涙顔をまた歪め、ザッカリアは彼をぎゅっと抱きしめる。


「生き返ったよ」


「もう死なないでくれよ」


「頑張る」


「お前、いつ戻ってくるの。ギアッチに渡すものがあれば届けても」


「まだ一緒だよ。ロゼールは?」


 抱き合いながら、少年はロゼールの優しさに感謝して、彼を労わり、ロゼールもまたザッカリアに気遣う。この時間は続き、ザッカリアは『今日でお別れ』とは言っていないものの、皆と代わる代わる抱擁・挨拶を続けた。



 そうしているうちに、一階に人の声が大きくなり、慌ただしい物音と共に声は聞こえなくなる。


 間もなく、窓の外に、丘を降りる人を乗せた二頭の馬が見えたが、丘を下った裾に回る道には、こちらに向かう馬車が一台・・・駆け下りた二頭の馬は、馬車とすれ違う時だけ少し速度を落としたが、そのまま町へ行き、代わりに馬車が道を上がり、敷地に入った。


 この様子に、フォラヴがもしやと気づいたところで、廊下に急ぎ足の足音が響き、部屋の扉が開くや否や、久々に顔を見せた『ゴルダーズ公の従者』が戸口に立ち、彼は集中する視線に喜びの笑顔を返した。


()()()()が、皆さんに」


 最初の言葉と共に、フォラヴが、従者の横をすり抜けて走った。驚きの報告に加え、さらに驚かされるが、皆も彼の後を追って部屋を出て、一階へ―――

お読み頂き有難うございます。

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