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魔物資源活用機構  作者: Ichen
悲歓離合
2407/2962

2407. 決戦後報告 ~②ミレイオ・シュンディーン・タンクラッド・あの『矢』

 

 ―――【ミレイオの報告】



 次は、ザッカリアを指名されたが、『俺は最後で』と彼はミレイオに先を譲った。ミレイオは理由が分かるので、すんなり引き受けて報告を開始。


 今、黒い鞄はミレイオに戻されて、椅子の足元にある。



『動力』・黒い鞄を受け取った時を言いかけ、すぐに『ドゥージが』と変える。消えた彼の消息を掴めないまま過ぎたことを、『やっぱり私は、ずっと気にしている』と最初に置いた。これは誰もが同じ思い。


 しかし、行方知れずはどうにもならない。シュンディーンはこの話題に悔しさもあり、俯いていた。


『ドゥージについては祈るしか出来ない』でも忘れないように・・・そう短く締めたミレイオは、船の出来事へ続けた。

 乗船してすぐ、『動力』の話を聞き、それをオーリンや呼び出したイーアンに伝え、そしてあの事故。船は沈み、爆破し、ゴルダーズ他犠牲者が出て、残った船で目的地・ヒューネリンガより、手前の町へ向かうと決まった数時間後に、ザッカリアの死。龍族の攻撃予告。放火犯の侵入と取り押さえ、消失。


 魔導士に伝えに出かけた夜・・・『帰り道で、あいつ(※『呼び声』)がいたのよ』ドルドレンが先に話したけど、と総長の目を見て頷き合う。



「私を使()()つもりだったのよね。でもずっと『宝石()』の存在なんて忘れていた、そんな言い方もしたわ」


 この先も追い回される、用心した方がいい、とタンクラッドが言い、ドルドレンも同意見。ミレイオも、額に手を置いて『そうね』と疲れた溜息を吐いた。


 次に意識が戻った時の話に移り、精霊シーリャや、ザッカリアたちの話し声を聞くだけの『意識のない状態』を手短に説明した。


「この内容は重くて長いし、()()()()()()()()な気がするから、また時間を作って、しっかり話すわね。私にはどうにもできない、無力痛感だわよ。でも、いきなり」


 明るい金色の瞳が勇者を捉え『救われたの』と、熱っぽく告げる。真正面から受け止める灰色の宝石も、見つめ返してにこりと笑った。


「束縛が掻き消えた、あの瞬間。ふわーッと、目の前が明るくなって、私は自分の瞼が開いたと気づいたわ。覗き込んだヤロペウクの白い髭、その向こうに、あんたが」


 ザッカリアに微笑みかけるミレイオ。ザッカリアも笑顔で『俺、本当に嬉しかったよ』と頷く。その後の細かい状況は省いて、ミレイオの報告はここで終わる。


 ミレイオは、今すぐに話すのを躊躇った。自分が、世界を掻き回すほど重い宿命持ちである、あの話を(※2384話参照)。




 ―――【シュンディーンの報告】



「シュンディーンは、どうして黒い鞄と、あの僧侶と」


 詳しく聞いていなかったのもあり、ミレイオは精霊の子に話を振る。流れだけは分かったが、シュンディーンが僧侶と関わった経緯は知らない。


『それは、俺が話した方がいいだろう・・・オーリンを呼ぶか?』タンクラッドが口を挟み、オーリンから、決戦後半で戻ったシュンディーンの話を聞いた(※2397話後半参照)と言うと、シュンディーンは話してもらってもいい、と言った。


 何となく、オーリンはあの僧侶の扱いが上手い気がして、見張り番のオーリンにはそのままで、と思う。


 了解したタンクラッドは、聞いた経緯を教え、シュンディーンは目が合うと話に補足した。


「こんな説明でいいか?」


「うん」


 親方にお礼を言うシュンディーンは、続く話はさっきのイーアンが、と短い報告で済ませようとした。ミレイオは彼の、青年姿をじっくり見つめて、感慨深げに微笑む。


「そうだったの。ずっと大人の格好で頑張ってたのね。あんたは、ファニバスクワンに言われて・・・川の清めと」


「そう。封じる知恵を、親に渡すのが役目だった。川は酷かったから、あれは僕が()()()


 あれ、とは死体が埋め尽くした状態で、シュンディーンは言葉に変えず『流した』とだけに留めた。それから、知恵の名残を探したが残っていたのは、この町の港と離れたあの僧院だけで、結界を張り、()()―― 大いなる力 ――から保護した時、あの僧侶もいたことを話した。


 シュンディーンは、イーアンが先に僧侶と会っていたのを知らなかったし、僧侶はイーアンが守ってくれる印象から、シュンディーン(どこかの精霊)が自分を守ったと勘違い。

 話をして誤解を解いたものの、イーアンが馬車に連れ帰る約束をしたと分かり、シュンディーンは『黒い鞄を引き取って、あいつを置いて行きたかった』と吐露した。



 気持ちは分かる・・・・・ シュンディーン自体、子供どころか(※通常時赤ちゃん)。精霊だから、会話や思考は人間の幼児と比べ物にならないと知ったが、経験値はまだまだの彼なので、皆は彼に、よく頑張ったと褒めた。


 クフムを連れ帰ることになったのは、オーリンが決め、イーアンと連絡したから。『それで、あいつがここに居る。黒い鞄だけで良かったのに』と精霊の子は面白くなさそうに、まだ文句を言っていた。


 シュンディーンの報告はここまでで、彼からの重要な情報は『知恵は再び封じられた』ことだと、誰もが理解した。


 そして、その知恵は、次の国ティヤーに散っているというのも、また皮肉な導きなのだろうと。




 ―――【タンクラッドの報告】



()()()()()、いるだろう」


 次はタンクラッドと、順番が回ってきた親方は、開口一番、それを言った。キョトンとする数名もいるが、うん、と頷く数名もいる。

 ずっと頭の中を探られていそうな(※もぞもぞする)タンクラッドは、若干眉間にシワを寄せて目を閉じ、はー、っと大きな息を吐くと、腕組みした片手で外をちょっと差し『あれだ』と呟いた。


 皆が同時に見た、彫刻付き窓枠に縁どられる透明のガラス向こう・・・さっきまで何もなかった空に、ぽん、と銀色を輝かせる二つ首の大きなダルナが出た。タンクラッド以外、ギョッとする。その体躯、その異質な雰囲気、破壊力抜群の見た目。


「私は、初めてかも・・・・・ 」


 空色の瞳の『なぜ彼があなたの?』と訊きたげな印象に、フォラヴと視線を合わせた剣職人は『お前は船で、すれ違って見ていないかもと』と頷き、『あれは、俺から離れない』(※思考にそう言えと強制が入る)一蓮托生感強調を足す。


()()()()


 ドルドレンが繰り返す。ドルドレンも、館に合流した夜、魔導士とタンクラッドの問答『あのダルナは?』『銀色の二つ首』について、聞いただけで見ていない(※2376話参照)。町の外で戦っていた夕方は、タンクラッドはバーハラーに乗っていた。


 窓を境に向かい合う状態の、タンクラッドとトゥ。トゥは既に、館では知れた存在なのか、騒ぐ声もないので、ぷかぷか空中に浮いている。

 顔も姿も怖いダルナで、大きく左右に突き出す翼の内側は、瞳孔の輪郭をがっちり線に描いたような目が付いていて、それは瞬きした(※これも皆さんガン見)。


 頭痛の種くらいの仕草で、額に指を当てて目を閉じたタンクラッドは、溜息重く『離れない理由』を教える。


()()()()()()俺と共に動くのが決定だそうだ。出会い頭で、宣告された」


「すごい好かれ方ね」


「好かれてるんじゃないっ」


 間髪入れないミレイオをビシッと止め、タンクラッドは苦虫を噛み潰す顔で、窓も開けずに独り言。

 普通の声量で『お前が喋ると』とか『わがまま言うな』とか・・・ ドルドレンはこの状態を、あのダルナも頭に話しかけるからか、と理解。


 それは当たっていて、溜息が終わらないタンクラッドは、やれやれと面倒そうに窓へ行き、引き手を下ろした。キッ、と小さな軋む音と、開いた窓から入る風。午前の風に、アイエラダハッドの川の匂いが混じる。


 どう見ても、窓より顔の大きなダルナが近づき、どうするのかと皆がハラハラしていると、タンクラッドはぞんざいな口調でダルナに振る。


「ほらよ。開けたぞ(※窓開けろと言われた)」


「紹介しろ」


「今、しただろう」


「名前もだ。お前が言え」


 やたら上からのダルナに、なぜかタンクラッドは嫌がるわりに従っている具合。

 親方の性格でこのダルナ相手、大変そうだなと皆が見守る中、銀色の頭を一つ、窓から中へ入れようとするダルナの鼻面を片手で押さえた剣職人は、『窓が壊れる』と注意しながら、皆の視線を見ないように名を教えた。


「『トゥ』だ。名前だ。珍しいダルナでな。名乗ることを気にしない」


「どうでもいいことだ。必要な話をしろ」


「適当にお前が」


「俺が話すと、お前は困るんじゃなかったか。違うか、タンクラッド」


 ちっ、と舌打ちし、げんなりした親方はトゥ・・・『双頭のダルナ』が、なぜ自分と行動するのか、魂の繋がりその意味を装飾抜きで、はっきり、短く皆に伝える。

  それは、抵抗がある仲間もいると知っていて、止むを得ない宣言のように。



「サブパメントゥに()()()()()ためですって」


 血の気が引く勢いで声を上げたミレイオは、座っていた腰を浮かす。

 ミレイオは、危険な相手の呪縛から、皆の努力と愛情のおかげで、生還したばかり。ちょっとぉ・・・否定が口を衝くも、考えあってと分かる『双頭のダルナ』の威圧感に、それ以上続かない。


 その奥に座るドルドレンも『サブパメントゥ狙い』煽りか挑発かと取れる意図に、さっと顔を手で覆って戸惑う視線を見られないよう伏せた。

 そんなことをして、自分に接近されたら・・・ ドルドレンは()()()()が怖い。先の報告で伝えた、心が折られかねない()()()()()―― 以前の勇者の感覚 ――を、引き出されそうで、思わず顔を隠した。


 ザッカリアは何か見抜いたようで、トゥの動きは確実に必要だと、微動で頷く。レモン色の瞳を向ける、その思考を読んだトゥもまた、彼をちらりと見たが、特に話しかけなかった。


 数回瞬きしたフォラヴと、目の合ったシュンディーンは、朧気ではあるが、このダルナが背負う運命の目的に、理解を示す。


 シュンディーンは、サブパメントゥの混血。今や精霊の気の方が強いが、不思議なダルナの意思を聞く場に居合わせたことを、これも巡り巡る自分の宿命、その土台の一部かも、と思った。


 ざわついたのも数秒。シーンとした場で、何か言いたげなだんまりの雰囲気を、ひしひし感じるタンクラッドが軽く咳払い。



「あー・・・ まぁ、だからだな。どこへ行っても、こいつは俺と一緒だから。もし、この姿は見なくても、そこらにいると思って」


「お前が離れろと言うから」


「仕方ないだろう、犬猫と同じ大きさじゃあるまいし(※大きさの問題でもない)」


「何度もお前に貢献しているぞ。お前も()()()()()いるように」


()()()()は別だっ。頭の中、読むなって言ってるだろうが。船をここまで運んだのは礼を言ったぞ」


 言い合いになりそうな、珍しいタンクラッドの苛々姿を眺め、淡々と斜めにずれる発言を続けるダルナを眺め。


 皆は『ダルナとイーアンが最初の頃、大変だった』様子を重ねつつ、タンクラッドも大変決定だなと思った(※他人事)。


『ヒューネリンガまで、船を運んだ事実』は、オーリンとタンクラッド、そしてゴルダーズ公の従者や船員しか知らない。船を運んだ力は『王冠』と似ているのかもと、移動手段としての便利さは、皆の関心を引く。


 無論、わぁわぁ騒ぐ主に対応しつつ、トゥはこの場の全員の思考を拾うので、公認の()()()()()()らしいことを確かめた時点で切り上げることにする。


「そういうことだ。俺は、タンクラッドと行動を共にする。命じるのは、主、つまりタンクラッドだけだ」


 上から目線の従う宣言―― うん、と頷いた皆に、ダルナは主人にだけ『後でな』と告げると、ふーっと消えた(※さっぱり)。疲れたタンクラッドは、窓を閉め『俺の報告は、他にもあるが』と頭を押さえる。



「ちょっとな、眩暈がするから。重要な点だけ・・・ 退治した相手や、状況、目的は、トゥの話から想像してくれ。俺がこの場で、お前たちに伝えておきたいのは、()()()だ。見えるか?」


 ここで、もう一つの本題。懸念に変わった、サブパメントゥの武器関与疑念について、矢による傷痕を皆に示し、大いなる力の通過で回復したこと・『止まるな』と()()()()()(※2397話参照)・そしてヒューネリンガへ戻り、オーリンと話し合った武器の仮説―― テイワグナの工房が襲われた例え ――を聞かせ、部屋に数秒の沈黙を挟んだ。



「俺も()()()聴いたな」


 ボソッとザッカリアが呟きを落としたが、それは誰の耳にも届かない小さな音。少し笑って、タンクラッドおじさんは俺と違って『止まるな』と言われたんだ、と思った。やっぱり、俺はここから抜けた方が良い・・・とも。



 ―――【曰くつき矢】


 少しの静けさを終わらせたのは、総長。側にいた妖精の騎士に、『矢』で考えていたことを振る。


「フォラヴ、お前の傷も」


 ドルドレンが彼の傷を負った状態を指摘すると、妖精の騎士も控え目に『似ていますね』と肯定し、見た矢柄の模様・・・ どこかで見た、あの色使い、サブパメントゥだろうか、と考えた矢の話をした。


 部下に刺さった矢を思い出すドルドレンも、辛そうに『俺も引き抜く時にそうではないかと思った』と、矢の模様を覚えている範囲で細かく伝える(※2367話参照)。


 驚く皆に、『攻撃した・矢を射かけた者がそうか、は分からない。だが、話した相手は自らサブパメントゥと言っていた』それが一番疑問と、打ち明けた。


「時間は朝でした。明るかったし、サブパメントゥが出るとは思えなくて」


「たまにいるのよ」 「操っている者が、地上に出ているとは限らないのだ」


「そう聞いてはいたけれど・・・しかし、妖精の力を抑え込む()()がありました。私は人の姿でしたが、変化しようにも叶わず、光を帯びる私相手、なぜサブパメントゥの攻撃が効くのか・・・あの時間帯で、妖精より優位とは信じがたくて」


 フォラヴの疑問に、すぐ答えたミレイオとドルドレンは、続く『妖精がなぜ抑えられた』には答えが見当たらない。

 光と闇真逆の性質で、襲われた当人も困惑するように、サブパメントゥの手が出せると思えなかった。これは皆も不可解で、顔を見合わせるだけ。


 妖精の騎士は、矢の種類はタンクラッドに射られた矢と同じ可能性が高い、と話を結ぶ。

 ただ鏃についてはよく見ておらず、それはドルドレンも同意見だった。とはいえ、タンクラッドは『矢柄にあった模様で充分宣戦布告だ』と決定づける。


「武器、だ。ロゼールが戻り次第、輸出の動きも聞こう」


 タンクラッドがここで話を終えて、部屋は静まり返った。



 この後。 壁一枚挟んだ隣の部屋のオーリンが壁を叩き、見に行ったドルドレンは、数分戻らず。


 戻って扉を開けた時、彼の後ろに赤毛の騎士がいた。二人とも、沈んだ表情ではあったが、ロゼールの沈み方は、心配になるほど空気に滲んでいた。

 彼の腕には、一抱えの荷物。誰もが見ていた、あの風変わりな弓と矢筒、そして鞄。


「おかえりなさい。ロゼール。()()()()


 察したフォラヴが側へ行き、静かな声で迎えて微笑むと、顔を上げたロゼールの目に、涙が溢れ返って、その場でうわッと泣き出した。

お読み頂き有難うございます。

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