2406. 決戦後報告 ~①シャンガマックの連絡・フォラヴ・ドルドレン
〇もう数回、報告のまとめが続きます。ちょっと長くなっていますが、アイエラダハッド戦のそれぞれに大切な話なので、どうぞご了承ください。
イーアンが、また出て行った後。部屋に残った者たちは、報告の共有に移った。
僧侶は信用もないので、見張りに一人置いて(※オーリン)隣の部屋に場所を移し、まずは連絡珠でドルドレンがシャンガマックを呼ぶ。
珍しく早めにシャンガマックは応答し、互いの無事を喜んだすぐに、彼は『ザッカリアはどうしましたか。ミレイオは』と急いで訊ねた。
二人は戻ったとドルドレンは教え、自分も先ほど会ったばかりで、彼らは近くにいると言うと、シャンガマックが無音状態。
多分、喜びで泣いたのだと察し、ドルドレンは彼に、二人と話すかを聞こうとして、袖をザッカリアに引っ張られたので、珠をザッカリアへ渡した。
微笑む少年は、褐色の騎士と、何の話しをしたのか。
短い数十秒後、レモン色の瞳がミレイオを見て、ニコッと笑い返したミレイオが珠を受け取る。が、笑顔は、一瞬で真顔に戻り、険しそうな皺を顔中に浮かべたミレイオは、そこからずっと目が据わっていた。
恐らく、獅子が相手と知る。ザッカリアは『シャンガマックにも褒められた』と嬉しそうにはしゃぎ、ドルドレンはミレイオ(※長引いてる)を見ないように、少年の話に合わせて彼を褒めるに務めた。
「代わるんじゃなかった」
ブスッとしたミレイオが『せっかく生き延びたってのに』とぼやきながら珠を返し、機嫌が悪いと分かるので、誰も内容を聞かず、ドルドレンも『そうか』で終えた。
「ミレイオは、正確には死んでないんだろ?」
ふと思ったことで、話を変えたタンクラッドの質問に、ミレイオは『多分ね』と答えながら、椅子に座り直す。背凭れに寄りかかり、『ギリギリで命はあったのかも』と自覚していることを付け加えた。
精霊シーリャが繋ぎ止めたのが、『命』か『魂』か『存在』か・・私に判別つかないのよと、皆の視線に返す。
これを聞いて、フォラヴは『サブパメントゥは、人と体の作りが違うから、肉体は死の状態にあったかも知れない』とシーリャの報告の印象を伝えた。
「俺は死体から、生き返ったのを忘れない」
ミレイオ生死の話に、横から割り込んだのはザッカリア。死体の一言で皆が彼を見る。本人から言われると、どう答えていいやら。死体になった理由は、『集団暴行による殺害』である。
ザッカリアとしてはそこではなく、『蘇生したすごい体験で、命を実感した感動(※2362話参照)』を伝えたかっただけだが、皆の反応が引いているので、伝わらなかったと分かり黙った。
ここでドルドレンは、『スヴァウティヤッシュの呪縛解除』や、『ヤロペウクを呼んだ朝』を、今話すべきかと思ったが―― 流れを整えた方が記憶しやすいかと、ミレイオ・ザッカリアには詳細を後でお願いし、最初にシャンガマックの報告を持ってくる。
―――【シャンガマック親子状況】
「シャンガマックたちは、東にいたが、今は西に向かっている。ヒューネリンガへは、滞在期間に余裕があれば行きたい、と話していた」
西の用事は分からないけど、とくっつけ、ドルドレンはうん、と頷く。
言われたままを伝えているので、自分に質問しないでほしいところ。お父さんにいつ邪魔されるか分からない、彼との短い通話は、毎回細部が掠れがち。
「滞在期間・・・言い方が旅行みたいだな」
苦笑したタンクラッドに、ドルドレンも目を瞑って頷き『それは精霊次第だ』と答える。そう、彼らはまだ刑が解かれたわけではないのだ(※拘束期間)。
完全に出所(?)が叶ったら、教えてくれるだろうと、親方と話す総長の言葉で、シュンディーンは小首を傾げた。
「僕が聞いた時・・・親は、『二人を閉じ込める感じ』じゃなかったけど」
全員が振り返り、ビクッとしたシュンディーンは皆を見て『あの二人の強さに敵う敵は、今はいないって』とファニバスクワンの言葉を続ける(※2370話参照)。
そんな~?? そんな最強っぽい感じに、いつの間に~~~ 刑って修行だったのか~~~
驚きがボロボロ洩れる場で、精霊の子は『まだ戻されないのでは』とやんわり解釈を添え、『多分、二人は旅の切り替え時、一緒ではないか』と思ったことも話した。
だが、シュンディーンはちゃんと覚えていない(※赤ちゃんだから注意力散漫)。『彼らの強さの前で、立つに等しい敵はアイエラダハッドにいない』と親は場所を限定していたが。
ということで、誤解も混ざって仲間内には『シャンガマック親子も、ティヤー行きは一緒の可能性大』と浸透した。
獅子と騎士については以上。次の報告はフォラヴに進む。
―――【フォラヴの報告】
「私が、船を離れた時からですか?」
『それでいい』とドルドレンに促され、フォラヴは『ミレイオ救出手段を相談に、妖精の女王に会った』から始め、『女王に、センダラとの接触を避けないと危ない』と忠告を受けたこと、避けねば、深刻な結果を招く危険がある、と話した。
皆は、センダラの名が度々上がる最近、二人の妖精の接触を回避する理由は何か、少し引っかかる。
できれば人数と戦闘力が増えてほしい中、女王の言葉に疑問もあるが、フォラヴには質問しない。フォラヴもまたその理由を深く知らない。
精霊シーリャを頼ったフォラヴは、シーリャと会話し、ミレイオを繋ぎ止めてもらった。その後、集落の人々に襲われ、死にかけたと・・・ここは長くなるので、報告は簡単にする。
ミレイオもドルドレンも顔が曇り、ザッカリアとシュンディーンは動揺する。この箇所が気になるタンクラッドは、自分の報告時、矢について掘り下げようと思った。
空色の瞳に感情を含まず、フォラヴは少し言葉を考えてから、『総長が見つけてくれて、総長と共に行動する精霊に、一時的な回復を与えられた。全快は、南の治癒場で行った』と余計を省いて言うと、皆も安堵の表情に落ち着く。
治癒場ではリチアリと会い、リチアリの抱える、民への想いを手伝う、と決めたのは。
忠告されたばかりの『接触回避』を、重く捉えた理由による。死にかけた流れを思えば、一つ所に潜む方が良いと考えた・・・と思いを添えた。
リチアリの手伝いを終えると、今度はセンダラに呼び出され、センダラが妖精の檻を出すために、シャンガマックに頼んだと聞き、『妖精の檻が出現する。北部を回れ』と命じられた(※強調)。
センダラによる命令―― 同情の視線を、有難く受け止めて。
フォラヴは『檻』の北部全体を担当し、極北の治癒場にいるイジャックが、同じ悩みを持つのではと懸念もあったため、早く行きたかったと話し、最後の最後に『ロゼールに偶然会いました』と報告する。
『ロゼール』に皆が反応したので、彼はコルステインと一緒だったと微笑み、それから、檻の対処完了後に極北の治癒場に向かい、迎えに来てくれた精霊の老婦人と共に、イジャックの手伝いをし・・・それから、と話を切った。
「私は見ました。空に大きな、大き過ぎるほど・・・別の空だと言われたら、信じそうな影を」
ハッとした全員を見渡し『皆さんもご存じです』と、それが同じものと断言する。
あの影は精霊とは少し違うようだけれど、アイエラダハッドを均すと精霊の老婦人が教えてくれたこと。
そして、老婦人からシュンディーン用のお土産を預かったこと。
その後、帰り道で総長に生存報告し、皆の集合場所ヒューネリンガを知り、その前にゴルダーズ公の遺体に追悼を考え動いた、までを一気に話した。
―――【フォラヴによる、ゴルダーズ公の報告】
ゴルダーズ公を嫌がっていたフォラヴの発言に、事情を知る皆は彼を見つめた。フォラヴは結論から話す。
「彼は生きていました。凄惨な数日を生き延び、あの巨大な均しによって、彼は生きる道を再び授かった」
『生きていたのか?』後悔を感じたタンクラッドが、事故後に探せば良かったと呟いたが、フォラヴは首を横に振り『気付けないです』と、ゴルダーズ公から聞いた恐ろしい耐久状態を教え、場は水を打ったように静まり返る。
想像を絶する、苦しみの孤独。話だけ聞いても、内臓が出ていたり骨折や崩壊が肉体にあったのでは、と内容から察する。彼はそれでも、絶命を許されなかった。言い方を変えれば、それを越えて生きる資格を得た、と表現するのか。
フォラヴも、曇る皆の表情と同じ思い。一呼吸置いて、続ける。
「でも、彼は生き延びたのです。彼がまだ、アイエラダハッドで必要とされるからでしょう。彼を探しに来た人も一緒に、私はこちらへ連れようと提案したけれど、彼らはそれを断り、私に一人でも多く救ってくれ、と言いました。何か考えがありそうにも思え、私はヒューネリンガへ向かい、ヴァレンバル公にこの話をしたところ」
「それでか。それで、馬車が」
タンクラッドが窓の外へ視線を向け、『先ほどのが、そう』とフォラヴも頷き、私の今までの話です、と終えた。
―――【ドルドレンの報告】
フォラヴが救われた、そこに話を戻したドルドレンは『次は俺が』と話し始める。
ドルドレンは、早い内に精霊ポルトカリフティグを出かけ、決戦前から出没していた、土地の邪を多く含む地域を巡った。
これは勇者がすべき仕事、と最初からポルトカリフティグが定めていたもので、ドルドレンもそれに倣い、ただひたすら『人間相手と言っても大袈裟ではない』退治を繰り返したという。
ドルドレンはアイエラダハッドに来た当初、人間の見た目を切るのは嫌がっていた。精霊が横にいるとは言え、自分一人で剣を振るうのは、どれくらい堪えるだろう。気付けばどこでも、彼は『人間染みた相手』に剣を抜いていた。
囲む視線に憐みを見たドルドレンは、少し微笑んで『慣れはないが、自分が実行する立場』と諦めた口振りで、話を次へ進める。
そうして過ごし、サブパメントゥがやけに増えたと思っていたら、龍の攻撃『白い筒』が生じて、ポルトカリフティグはそれに合わせるように大きく移動した。
移動した先で、フォラヴが倒れた現場を見つけ、急いで救出し、南の治癒場へ。
行った先で精霊キトラに会い、キトラは『一人は残る』と予告した。
何のことか分からなかったが、中に入ってリチアリと再会し、リチアリから『古王宮崩壊と、知恵の還元』『精霊の指輪に呼ばれた祈祷師二人』の事情を聞き、フォラヴを治癒した後、集めた民への説明を、フォラヴが手伝うことに決まった。
その後、ヒューネリンガで合流したドルドレンは、タンクラッド、オーリン、魔導士の揃ったここで、中間報告共有後、また忙しく出かけ、今度はポルトカリフティグの用事で単独となる。
そして西部へ一人飛んだドルドレンは、『聖メルデ騎士僧会と一緒に戦った』とシュンディーンに視線を向けた。
あの白い面を使ったよと教えたら、皆も驚いて内容を聞きたがり、呼び出した時の荘厳とした印象を話した。
「だが、戦闘中にサブパメントゥが現れたのだ」
これが、鬼胎を抱く問題。自分ではない意思が、従いかけた怖れを打ち明ける。絶句するミレイオの顔が引き攣り、ドルドレンは『同じ奴だとは気付いていなかった』と彼の罪悪感を止める。
「でも、私のことも」
「違うのだ、ミレイオ。あの男は、勇者を探して嗅ぎ付けた、と言っていた。きっかけは俺であり、ミレイオではない。思考を読まれて、ミレイオの仲間と知ったあいつは、それで脅迫を始めたが」
「ごめん」
「謝ってはいけない。ミレイオではないのだから。それに、ここが思うに、最重要のどんでん返しだった」
どんでん返しの一言に息を吞む皆を見渡し、ドルドレンは『ダルナ・スヴァウティヤッシュ』の話を先にした。非常に稀な能力の持ち主で、サブパメントゥより何枚も上手。
聖メルデ騎士総会の亡霊と共に生じた、異時空の現場に入り込んでいたおかげで、彼はドルドレンの窮地を救い、相手のサブパメントゥに吐かせた。
それも、『相手が気付いていない自然体で』と話すと、凝視したミレイオの顔に怯えが走る。意味をゆっくり理解した他の者たちも、顔を見合わせ『なんと』と呟くが、そこから言葉が出てこない。
「イーアンの友達だ」
「心強い」
即答したタンクラッドは、似た様な力量のダルナ(※トゥ)に追っかけられている身なので、それはそれでと頷いた。どこかで会っているダルナかもしれないが、顔を見ないと思い出せない(※会う数が多過ぎる)。
このスヴァウティヤッシュのどんでん返しにより、『何か起きた』と察したらしきサブパメントゥは逃げたが、既に『自分の口から、呪縛解消の言葉を伝えてしまっていたのだ』とドルドレンは教え、ミレイオに微笑んだ。
「俺も言える。俺が言わなければいけないかと思って、反復したから」
「発音できるの?・・・言わなくていいわ、何が起こるか」
「そうだな。ミレイオを奪いかけた言葉の対、俺も口にする気になれない」
うん、と頷くミレイオに『もう大丈夫だ』と言い、それからヤロペウクに知らせた経過と、スヴァウティヤッシュが誘導をかけた際に、どうやらミレイオは救われていたことを話し・・・・・
「ダルナと別れた後は。ポルトカリフティグが来るまで、一人で残った魔物を退治した。気が付いたらポルトカリフティグが来ていて、決戦は終わった、暫く剣を抜かなくていいと」
大いなる力の判別を回避した自分については、言い淀んだが―――
皆はそこより、精霊の発言『暫く剣を抜かなくていい』に引っかかり、次の魔物が出るまでの期間を訊ねたが、ドルドレンも詳しく知らないので、話は終了。
次はミレイオの報告―――
お読み頂き有難うございます。




