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魔物資源活用機構  作者: Ichen
悲歓離合
2404/2962

2404. ヒューネリンガに集う ~③フォラヴの『回り道』・イーアンとドルドレン

 

 フォラヴが最初に伝えた『回り道』は、ゴルダーズ公の遺体探しだった。

 結果。見つかったのは、本人その人、生き抜いた大貴族・・・・・ 


 この話を最初に聞いたのは、仲間ではなく、ヴァレンバル公である。



 全てが終わってから、フォラヴは帰りがけにドルドレンに連絡し、ドルドレンも戻る道だったため、タンクラッドたちが居場所提供された、()()()()の場所を教えた。短く労い合い、無事を喜び、総長と部下は連絡を終え、フォラヴは―――


 ヒューネリンガという町の、また違う貴族(ヴァレンバル)の元に世話になった、その経緯。

 ゴルダーズ公の友人である貴族は、船が港に着いてすぐ、亡きゴルダーズ公の代わりに世話を申し出たようだった。



 ドルドレンから簡潔に伝えられたことで、フォラヴは少し寄り道し、ゴルダーズ公の船が倒れた川へ向かった。


 ・・・ゴルダーズ公。出会うなり、失礼な求愛、奇妙な好かれ方をした、嫌な相手としか思っていなかったけれど。

 彼は命をかけて、私たちを守ったことも事実で、もうアイエラダハッドを去るのだし、せめて冥福の祈りだけでも、と。


 船が大破した時、フォラヴは魔物退治で出ており、現場に居なかった。だが通過地点は覚えていた。近くまで行ったすぐ、大きな残骸が皮肉にも目印になり、フォラヴはそこへ降りて人の姿に変わる。荷物(※お土産)付きなので、両手は箱を抱えて塞がるが、祈るだけなら問題もないとそのまま歩いた。



 彼は、どの辺りで死んだのだろう――― 

 そんなことを思いながら、妖精の騎士は濡れた川岸を歩き、船の後部辺りで・・・何かを引きずった跡を見つけて立ち止まった。跡は新しく、それはフォラヴの目に、人体を引きずった跡のように映る。


 これを見なかったら、フォラヴはささやかな祈りを捧げて立ち去った。


 だが、壊れた船から死者を引っ張り出して、サブパメントゥや古代種が操ったのだろうかと考え、何となく・・・その跡の続く方向を見た。

 操られていたとしても、もう決戦は終わっているし、多くの不要は浄化で消え去ったと、妖精のおばさんに聞いている。


 だから、死体もない可能性が高いが。もしも、遺体が見つかったら、祈りはそこでと思い直した。



 フォラヴは、濡れた地面に残る跡を辿り、跡の消えたそこに焚火跡を見つける。

 焚火は消されていたが、燃やした臭いはまだ分かり、いよいよ不審が募った。ゴルダーズ公ではなくても、船員の誰かが生き延びて救われたかもと、焚火跡から離れ、周囲を見渡した。


 人の気配がほぼない、この土地。妖精の姿に変わったフォラヴは空中に上がり、僅かでも人間の気配がないか探ってみたところ・・・・・  川岸から焚火跡を通過し、その奥へ進んだ先、小さな舟場に人影があった。


 舟場と言っても、稼働していた時代はずっと昔か、かろうじて印象を留める朽ちた雰囲気。そこに、人が二人。周囲は何一つないため、救助しなければと船着き場へ降りて、そして驚いた。


 人の姿に変わったすぐ、振り返った人が『どうしてあなたが』と目を見開いたのだ。フォラヴも凝視して『まさか』と驚きが漏れた。二人の内の一人は、ゴルダーズ公だった。

 二人とも衣服はボロボロだったが、傷など目立つものはなく、対照的な不自然さから、どうしてだろう?と思ったが、話を聞いてさらに驚いた。



 ゴルダーズ公は、爆破からの数日。悪夢のような日々を生きていた。


 壊れた船の中で、半身は割れた板に挟まれて潰れ、腕も背もどこも骨折し、重傷。だが、『これが罰でなくて何でしょう』と本人は言うが、のけ反った頭に、折れた木材を伝う水が垂れ続け、飲む気はなくても、水だけは口に入り続けたと言う。


 壮絶な痛みと苦しみと冷え切る時間は続き、死ぬに死ねず、今にも死にそうな痛みから解放されることなく、意識を失ってはまた目が覚めることを繰り返した彼は、耐え抜いた奇跡に会った。



 それが、浄化の時間と重なると知り、フォラヴは『奇跡以外の何ものでもない。あなたは許された』と教えた。


 ()()()()()()、ゴルダーズ公の体を押さえつけていた板が壊れ、彼の全身は、下半身が浸り続けた川の水に落ちた。膨れて腐り始めたと思われる肉は、信じられないことに回復して戻り、満身創痍はどこも癒されていた。


 だが、出るに出られない状況は同じ。奇跡で、自分を固定した割れ板は外れても、出口もない難破船の中、外へ出るにはどうするかと考えた矢先、人の声が聞こえ、助けを呼ぶ。

 どうにか隙間から引っ張り出してもらい・・・ 助けたこの人もまた、もっと手前で魔物に舟を返され死にかけていたのが、回復してゴルダーズ公の救出が叶った。


 冷えた体をまずは暖めよう、と焚火を起こし、ここからどうするかと話し合い、舟場の古い綱を集めて筏作りを計画、舟場に移動したら、フォラヴに会った。


 これを聞いたフォラヴは、彼が生きるべきだったと理解する。『あまりにも重い状況を耐えたあなたに、何と声をかければ良いか分からない』と労い、そしてこの場で話し合った結果・・・()()()()()ことになった。


 二人を連れて戻れないことはなかったが、彼らはそれを望まなかった。体も回復したし、どこも同じ状態で、フォラヴは一人でも多くを救ってほしいと。


 自分たちのために救助を呼ぶのも、もしかしたら間違いかも知れないが、だが人間のことだから人間で、と大貴族は言った。


 何となく違う意味も含んでいそうに感じたが、フォラヴは二人がそう決めたなら、と了解する。ゴルダーズ公は『フォラヴに会えて元気も出た』と冗談を言い、失笑する妖精の騎士を送り出した。 

 この時、ゴルダーズ公は自分たちの話はしたが、旅の仲間の話は触れなかった。彼らの安否が分からないから遠慮したのかも、とフォラヴは少し・・・貴族の配慮を察した。


 ヒューネリンガは距離があっても、手前の町は船もある。わざわざ時間と人手のかかる方法を選択したゴルダーズ公は、考えでもあるのかもしれない。口を出すことではないので、フォラヴはヒューネリンガへ向かった。



 館を訪ねるなり、フォラヴは自己紹介より先に、ゴルダーズ公の生存を教えた。

 自分でも、この館に初めて来た男が、急にゴルダーズの話をするのはおかしいか・・・と思ったが、総長との連絡で、ヒューネリンガでオーリンたちが世話になるまでの経緯を聞いたし、生存報告のすぐ後に名乗れば、とそれで伝えた。


 先に名乗っても良かったと思ったのは、主ヴァレンバル公が『フォラヴ?ドーナル・フォラヴですか』と驚き、繰り返したこと。


 ゴルダーズ公の乗船名簿に名はあり、『特に丁重にもてなしたい』の一筆付き・・・と知ったフォラヴは、なんとも言えなかったが、執着されていたのが良く働いてくれ、ヴァレンバル公はすぐに信用して話を聞いた。


 現地の方角と場所を地図で確認し、そこから近い町にある船を出すと決め、彼はその町の知人に鳥文を飛ばした。

 どこも被害で、人が居るかどうかも分からない状況だけに、鳥文も無駄かもしれないけれど、と上着を羽織ながら急ぐ貴族は、自分も今から行ってくると支度を始めた・・・ここまでが、フォラヴの入室前の出来事。



 フォラヴはこれぞ、運命の導きと思わざるを得なかった。黙とうを捧げに行ったら、生きた姿を発見した。 


 アイエラダハッドはもう、貴族の時代が終了した。

 それでも、ゴルダーズ公は求められる人物で、生き残り再び生かされる人生の時間、決してなだらかな道ではないかもしれないが、彼だから可能なこともあるのだ、と・・・ゴルダーズ公に思ったこともない見解を持った。


 結果として、ゴルダーズが生存していたことと、最後の最後で繋がった再会。この時、移動する旅の仲間に有利に動くなど、妖精の騎士の想像にもなかった。



 *****



 ゴルダーズ公を発見し、苦境を越えた後、その為人を知った直後もあり、フォラヴの態度が、僧侶クフムに冷ややかだった。


 クフムが来たこと、どんな人物かは、ヴァレンバル公と話している際に『船の動力を製作していた』と少し聞いた。ヴァレンバルも自身が関与していただけに、立場がなさそうだったが、フォラヴはこの貴族よりも、『造った者』を元凶と見做す。元凶がなければ、誘惑もないはず。

 妖精の騎士の一言『汚名返上役』の示すところは、命を奪う代物を製造した一人がこの場にいる、とそれによる。



 さて。イーアン以外は、自分を目の敵にしていると知った、僧侶の状況。


 こんな流れで、彼は縮まっていたけれど、状況は好転する。それは、唯一、声を荒げもせず、侮辱もしなかった、その人・イーアンの登場。とはいえ、本当に()()かどうかは―――



「ザッカリアあああ―――っ!!ミレイオおおお―――っ!!」


 午前の空、キラッと白さが輝いた瞬間、響き渡る叫び。

 窓に駆け寄った二人は、急いで窓を開けて、飛び込んできた女龍に押し飛ばされた(※首抱えられて床に三人で倒れる)。


 泣いて、良かった良かった!と二人をぎゅうぎゅう抱きしめるイーアンは、何を言っているか分からないくらい嗚咽で言葉が乱れ、一生懸命心配と感謝を伝えている、それくらいしか理解できない。

『ザッカリアが死んだから』『全員抹殺』『龍が壊して』『ミレイオ危篤で』『ヤロウ殺しそこねた』『追い詰めて』とか、ちょっと言葉になった個所が朝から激しく、あとが泣いて続かないので、聞こえながら笑ってしまう周囲。


 でも、ザッカリアとミレイオは嬉しい。また涙が落ちるミレイオとザッカリアも笑顔で『締め付けが苦しい』を言い続け、床に倒れたまま喜び合う様子を、タンクラッドたちも笑って見守った。


 この後、青い龍に乗ったドルドレンが来て、こちらも窓から入室。イーアンと町の外で会ったそうで、そこで精霊と離れ、イーアンに付き添っていたミンティンに乗り換え。


 青い龍にお礼を言い、龍は空に帰り、ドルドレンも皆と再会を喜ぶ。

 わんわん泣くイーアンを立たせて、イーアンはタンクラッドやオーリン、フォラヴにもそれぞれ抱擁し、ドルドレンも同じように、生きて戻ってくれた二人に『話を後でゆっくり』と頼み、大切な仲間の生還を感謝し、しっかり抱擁して喜びを伝えた。


 フォラヴには、リチアリとイジャックのことを少し訊ね、妖精の騎士が『丸く収まりました』と微笑んだので安心。余談で『総長とシュンディーン、ミレイオを泊めた精霊の老婦人にも会いました』と言われ、ドルドレンは懐かしく思った。



 騒ぐように泣いた再会の後、はーっと一息ついたイーアンの目に、やっと僧侶が映る。


 あ、クフム。自然体で名を呼び、涙に濡れた目を拭きながら『無事でしたか』と側へ行き、『オーリンが連絡してくれたので~』だから一緒だとは思ったとか何とか、挨拶交えて話しかけた。

 が、僧侶の視線はずっと泳いでいるので、イーアンは背後を見る。そして状況を理解した。


 皆さんの顔が、もろ。胡散臭げ。もろ、嫌悪。もろに『重罪人め』のオーラが出ている。

 シュンディーンが一番分かりやすい。あんな美男子があんな怒った顔して、精霊に嫌われるだけでも縁起悪いのに、イケメンにこうまで嫌われるとは。



「あ~・・・あなた、()()()()していたからね」


「イーアン、そんなこと言わなかったじゃないですか」


「いえ、ちょっと言いましたよ。でも私は、あなたにも話した通り、『償って頂く』つもりですし、あなたも自覚はあるし、その分、ちゃんと動いて頂ければ」


「動きます、と約束したじゃありませんか。だから一緒にティヤーで、その、でも、説明を皆様にしてもらわないと」


「うーん。皆への説明については、少しお待ち下さい。私もまだ回復途中なので、一旦席を外しますけれ」


「え。置いて行かないで下さい!」


「む。よっぽど『嫌われてる感』を感じていらっしゃる。自業自得ですが、仕方ない。少し説明しておきましょう」


 少しじゃなくて、と縋る僧侶に、『後は自分でどうにかして』と突き放し(※冷たい)、イーアンは皆に向き直る。


 どうしてこいつを連れて行くのか、その話はクフム本人から粗方聞いたにしても、連れて行く提案をしたイーアンからは初。イーアンは皆に集まってもらい、シュンディーンとは向かい合う位置で、にこりと笑って説明を始めた。

お読み頂き有難うございます。

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