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魔物資源活用機構  作者: Ichen
出会い
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23. イーアンの仲裁

 

 ドルドレンとイーアンが食事を持って東寮の突き当りの部屋へ向かうと、そこには数人の騎士がいて、道具や木材を片付けているところだった。内一人が近づいてくる二人に気が付き、顔を上げた。その男はイーアンに怒っているような視線を投げた。



「総長、いま一応穴だけは開けました」


 木材を片付けながら、イーアンをあからさまに視界から外して言う。ドルドレンはその表情に気が付いた。


「手間をかけてすまない。早急の手配に助かった」


「総長命令ですから」



 血気盛んと思われる年齢の騎士は立ち上がって、面白くなさそうに棘のある返事をした。白っぽい金髪に白い肌。まだ20代半ばくらいの生意気そうな顔をした騎士は腕に木材の切れ端を抱え、イーアンを無視して総長にだけ頭を下げると横をすり抜けようとした。他の騎士も工具を持って後に続こうとしたその時。

 イーアンのチュニックに木材が引っかかって押され、イーアンがよろめいた。


 若い騎士はそれに気が付き、振り返った顔に眉根を寄せたが、すぐに木材を引っ張ってイーアンの服から乱暴に外すと、小脇に抱え込んで大きく溜息をつきそのまま大股に去ろうとした。


「待て」


 ドルドレンの温度のない声が響く。若者は振り返らずにぴたっと足を止める。他の者は俯き、その場に立ち止まった。


「言いたいことがあるなら、今この場で俺に言え」



 若者は振り返り、ドルドレンから目を逸らしながらイーアンを睨んだ。イーアンは少し憐れむような視線を返した。


「総長に言いたいことはありません。自分はこの『穴開け』の片付けの後にすることがあるので失礼します」


「そうか。『穴開け』については実に助かったと礼を言う。が、その八つ当たりを自覚して、弱い者に的を定めたことを今ここで謝れ」



 ドルドレンの表情は硬く、的確に問題点を指摘した。若者は白い肌を見る見るうちに赤くして、怒りが顔に表れた。『なんでだよ』とこぼした声に黒髪の総長が目を細めた。


「ディドン。遠征前の忙しい時に煩わせたことはすまないと思う。だが、人のために動くことと雑用扱いの意味を重ねることは間違いだ。

 お前たちが行なってくれた作業は、保護された者の安全を高めたのだ」


「言わせてもらいますが」


 総長に静かに説教をされた若者・ディドンは食ってかかった。


「雑用でしょう。その保護した女が仕事増やしてるのは事実じゃないですか。

 テントだってそうですよ、命懸けの訓練の時間だと毎度言っていますよね。何でそんな中で総長とその女が寝るテントを作れって言うんですか。そんな上司(あたま)だから他の隊のやつが死んだりするんじゃないですか」



 ディドンの吼え声に周囲が緊迫した。穴開け作業を共にした他の者は少しずつディドンから離れている。


 廊下の奥の方で『ちょっと言い過ぎだろ・・・』と戸惑う声も聞こえる。

 ドルドレンはディドンから視線を外さなかったが、両手に持った盆だけは誰かに向けて差し出した。イーアンが動こうとすると、どこからともなく滑り込んだ騎士が『いい、いい』と止めて食事の盆を受け取って下がる。



「言いたいことは他には」



 ドルドレンの声が一段階下がった。体から何か出ているように、周囲の重力が増える。

 ドルドレンの灰色の瞳は瞬きさえしないでディドンを刺し、ディドンは勢いで不満をぶちまけたことに引っ込みがつかなくなり呻いた。



「俺の指示を、都合よく取れと思われても仕方ないかもしれない。

 だがな、ディドン。 イーアンを蔑むような言い方は完全にお前の八つ当たりだ。

 そして俺が不甲斐ないことによって仲間が死ぬと」


 震える声が怒りとも悲しみともつかない言葉になった時、ドルドレンの横にいたイーアンが前に進んだ。

 イーアンは何も言わずにディドンの前に立ち、頭一つ分高いディドンの強張った頬に手を当てた。


 ディドンはビクッと体を僅かに動かしたが目を見開いてイーアンを凝視した。意外な流れに周囲もどよめく。ドルドレンも『何』と驚きの声を漏らす。



「ディドンさん、私が突然来たことで迷惑をかけていることに心から反省しています。

 でも腹立ちの勢いにつなげて、ドルドレンが仲間を死なせたような言い方をしないで下さい。あなたが仲間を失って苦しいのと同じように、ドルドレンも苦しんでいます。来たばかりの私でさえそう感じるのですから、あなたや皆さんの方が彼の苦しみをもっとずっと、理解しているでしょうに」



 イーアンは若者の頬をそっと撫でながら、憐れむように伝えた。



「私に関しましては本当に謝っても謝り切れません。大切な時に世話を焼かせてしまって・・・・・ 

 私の存在がすでに不快かもしれませんが、今後皆さんの手を煩わせないで、出来るだけ急いでお役に立てるよう約束しますから、どうぞ目をしばし瞑ってもらう事は出来ないでしょうか」



 イーアンはそこまで言い終わると、鳶色の瞳をすっと閉じて、ディドンの頬に当てていた手を引いて会釈した。ディドンは口が半開きのまま動揺している様子で瞬きを繰り返し、さっきまでイーアンの手が添えられていた自分の頬に手を当てた。


 ドルドレンも胸中複雑そうな険しい表情で一部始終を見ていたが、イーアンの行動に何も口を出さずにいた。イーアンが自分を振り向いて寂しそうに微笑んだのを見て、ドルドレンは困った様子で大きく頭を横に振った。

『イーアン』と呟いて腕を伸ばし、イーアンを引き寄せてその背に手をあてがい、部屋に入るようそっと促した。


 そして立ち尽くすディドンを一瞥し、「お前の意見を今後も忘れずにいよう」と告げるとドルドレンも部屋の中に消えた。



 ディドンの周りに他の者が集まり、固まるディドンを引っ張って木材と工具を片付けに行った。廊下に出てこのやり取りを見た者たちは、この後夕食の話題にディドンとイーアンの話で盛り上がった。





お読み頂きありがとうございます。

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