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魔物資源活用機構  作者: Ichen
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2396. アイエラダハッド決戦後 ~浄と祓いの空③女龍退場とダルナ・勇者とトラの距離

☆前回までの流れ

アイエラダハッド浄化の下、シャンガマック親子、イーアンもダルナたちを守って、何とかやり過ごした時間。北部ではラファルに守られる形で、魔導士もどうにか経過。

今回は魔導士の話から始まります。

 

 魔導士がイーアン(仕事)を見つけたのは、結局、魔法陣を途中で頼った後。


 気配を辿ろうにも、イーアンのいつもの龍気は感じられず、『中部の南寄り』とだけ(※広い)ナシャウニットに教えられた辺りで、魔法陣を出し、イーアンの居場所を調べると、山脈の東側と分かった。


 ナシャウニットには、先ほど呼び出した短いやり取りの中で、女龍の手助けを命じられた。


 大いなる存在の介入で、薄れたあの直後。俺は力を戻せるものか・・・その確認でナシャウニットを呼んだのが、それはあっさり『大地に足跡を残すだろう』で回復され、そんなことより・・・とぱかり、女龍を迎えに行けと言い残し、精霊は消えた。


 三度に渡った龍の攻撃。最後の三回目が地上に与えた、甚大な被害と規模を見れば。女龍が龍気を減らし、動きに支障が出ているとしても、想像に無理がない。


 中部は、大きな影が東から西へと動いた後・・・龍気を使い込んだイーアンがあの影響を受けたのかと、バニザットは魔法陣に映った場所へ急ぎ、発見した。



 山脈を跨いだ少し先、裾野の森林が途切れ、傾斜した斜面に雪が残る。そこに半透明の白い光を帯びる龍気。椀でもひっくり返したような形の足元、青い布が位置を知らせるように光る。

 あれがイーアン、とやっと感じ取って魔導士の風は下りた。


「おい。イーアン」


 ぐるっと翻って緋色の布、もう一度翻って男に変わった魔導士が、名を呼んでしゃがんだすぐ、『あんた』と声がし、顔を上げると半球の龍気の内側にダルナだらけ・・・なんだこりゃ、と眉根を寄せたが、魔導士は事情を理解した。


「お前たちを守ったか」


 ダルナをあの巨大な影から守って、イーアンの龍気が尽きたのだろう。にしても、と疑問はある。


 イーアンも、自分のように()()()ていたのだろうか―――


 魔導士の手が女龍に触れると、青い布は光を鎮める。女龍を抱えたバニザットは、壁の内のダルナを見た。

 面識のある黒いスヴァウティヤッシュ・・・は、以前会った時と比べ、姿が変わったが、彼だとは分かる。目の合った彼は、黒い爪で壁をコツッと叩いた。



()()、退かせるか。魔導士』


「出られないのか。ダルナは動けそうなもんだがな」


『イーアンは龍気だけじゃなくて、魔法も混ぜた。龍気の固形化状態だろう。おおよそ、ダルナ』


「『ダルナが絶対、外に()()()()()()()に』か」


 先に遮って、頷く魔導士に、向こうも頷き返す(※全頭)。こいつらはこいつらで・・・魔導士視線でも、イーアンを守ろうとするダルナたちは、忠犬のように映る。イーアンも彼らを守るために必死だったから、慕われる要素は充分だが。


「お前らは、イーアンに龍気壁(これ)で囲まれるのを避けなかったんだな」


 避けられたはず。瞬間移動もこなすと知っているので、そう聞くと、魔導士に抱き上げられた女龍を見つめるダルナは、『彼女に従う』と短く答えた。魔導士はそんな彼らを漆黒の瞳で見渡し、どうしたもんかと溜息を吐く。


「イーアンもだが、お前たちの魔法は、この世界の魔法と原理も作用も違う。俺はそっちの魔法に手を出しては、罪に問われるかもしれ」


『じゃ、いい』


 あっさり断られて、眉根を寄せた魔導士。ダルナはお互いの顔を見合わせると、青紫のダルナが『イーアンをまず助けてくれ』と言った。一に彼女。二に回復。彼女が回復すれば出される、として彼らは待機を選ぶ。


 ちょっと考えはしたが、魔導士も了解した。どっちみち、そうなるだろう。

 しかしもっと、出たがる方へ粘るかと思いきや、ダルナの忠誠というか、習性というか(※ここでもそう)。イーアンに従うと決めたら、一直線と分かる。



 ということで、魔導士はテイワグナの時(※1688話参照)と同じように・・・雪が所々残る地面に直接置くことなく、ズォッと大きな鳥の巣を出し、女龍をそこに置く。ダルナが凝視する前で、魔導士は『龍気』と独り言のように呟き、空を見上げ、ひゅっと口笛を吹いた。


 その口笛は魔法ではないから、あってもなくても関係ないが、イヌァエル・テレンの龍の島にいたミンティンは首を擡げる。ずっと昔、魔導士にそうやって呼ばれていたのを思い出す。


 空で反応した青い龍は、女龍の龍気に似せて送られた合図に、すぐ地上へ飛んだ。



 ふわーっと光った空。夜の空に明るい白が広がり、それは一頭の青い龍を示す。来た来た、と見上げる魔導士の上にミンティンはやってきて、魔導士はミンティンに挨拶することなく・・・ 


「魔物は終わりだ。()()()()()。これ以上の面倒はもうないだろう」


 さっとダルナを振り向いて告げた後、緑色の風がひゅうっと夜の空気に流れた。



 ダルナたちが見つめる、ほんの数分だった。

 地面に鳥の巣が出て、女龍が寝かされ、魔導士が空を見て、青い龍が来て、魔導士は風になって消え、青い龍はダルナも龍気の壁も無視してイーアンを摘まみ上げ・・・『行っちまったな』スヴァドが夜空を見つめる。


「魔導士は、一緒に行かないんだな」


「都合があるんじゃないのか。とりあえず、イーアンは龍が連れて行ったから安心だろう」


「どれくらい、ここに居るんだろうな」


「分からんが、とにかく()()()()はいるから。終わったようだし」



 なぜ魔導士は、青い龍が来るまで待たなかったのか――― そんなこと、ダルナが知る由もない。


 ミンティンも、魔導士を捉まえることはしない。ずっとずっと昔、ズィーリーが倒れた時も、こうして『本当は呼ばれないはず』の方法で青い龍が来るのを、魔導士は遠慮がちに使っていたから。その時のズィーリーは、空とは違う場所で養生させていたけれど。


 ということで。ダルナ数頭は、このまま龍気壁の中で、女龍が来るまで待機。

 魔導士は、ナシャウニットに言われた仕事を終えてラファルの元へ戻り、イーアンは空へ運ばれた。



 *****



 ドルドレンが目を開けた時、穏やかな午後の光満ちる、温かな日差しに包まれていた。

 柔らかで温か。日に干した布団のような匂いと、ふっかりしたフサフサの毛は、ドルドレンに安堵の溜息を吐かせたが。



「む。()()()()?」


 光がフサフサっておかしいのだ、と思わず起き上がって、手をついたそこに理解する。自分を包む光も温もりも、『ポルトカリフティグ』驚いて灰色の目を丸くした勇者に、トラはゆっくり頷いて『大丈夫だ』と最初にそう言った。


 ドルドレンが辺りを見回すと、明るさや温もりは・・・いつも一緒に眠っていた時と同じで、自分たちのいる場所だけだった。外は暗く、精霊の寝そべる一部が、午後の光を灯したように穏やかな明るさと、初夏の温かさを満たしている。



「どうして。いつ俺は。ポルトカリフティグは、『太陽の轍』」


『それはもう、安全だ。聞きなさい』


 遮ったトラに、はいと答えてドルドレンは立ち上がりかけた膝を戻し、トラのお腹の横に座った。黙って見つめるトラの優しい顔は、少しだけ寂しさを帯びる。


 ふと、ドルドレンは腰の剣を見て、鞘にないので見渡した。剣は足元に転がっており、どうしてと思いながら、剣を引っ張り寄せる。鞘に戻しつつ、自分は先ほどまで、死体を操る邪臭と戦っていたことを思い出した。


 夕暮れが過ぎて夜が来ても、残った邪のものを探しては、戦っていた。のだが。不意に、冠が熱を上げて、その熱さで目を閉じたそこから記憶がない。


 剣と鞘に視線を向けたまま考えこむドルドレンを待ち、ポルトカリフティグは彼が何を思っているか想像を付け、『お前は』と話し出す。ドルドレンもトラを見て頷く。


『倒れたのだ。私は間に合ったが、移動はせずに保護した』


「保護。倒れた、俺が。間に合うとは?何から」


『お前の剣は、充分戦った。暫く、その剣を抜くことはないだろう』


「・・・()()()()、ということだろうか?」


 詳細は一切不明だが、精霊の伝えたい重要な点は伝わる。決戦が終わったのかと訊ねた勇者に、トラは瞬きして、少し輝きを増して周囲を見せた。


『見ると良い。あの黒い石を』


 トラの視線の先、薄っすらと照らされた夜の暗がりに、べたっと塗料でも塗ったような黒い石が幾つも見えた。あれは何だと目を凝らしたすぐ、トラは『お前が戦っていた邪の者』と教え、丁寧にドルドレンに状況を説明。



「では。もう。そうか。国中に散った、古代種は皆。魔物を含んでいようが何だろうが」


 精霊に告げられて、ふーっと肩の荷が下りる。そうかと頷いて、ドルドレンは黒い染みを見つめる。あれが、もう終わった証拠か・・・ ポルトカリフティグの説明は、もう少し続く。


『この国の地面に抑えつけられた。染みた、こびりつく、とも異なる。()()()()()のだ』


「抑えられて、その。大丈夫だろうか。大いなる力の介入で、そうなったとすれば問題ないのだろうが、民が再び生きるに、古代種が抑えられた土地は、人々に危険は」


『そうした地域は、昔から在った。三度目の時代で壊れたが、また新たに生じ、それは繰り返される』


 何の話かと思えば――― 合点がいったのは、モティアサス。あの土地のような状態になるらしく、モティアサスは『知恵の還元』を境に壊れたが、今回、土地に入った古代種の成れの果ては、モティアサス同様の、奇妙な性質を持つ地帯に変わる。


 ポルトカリフティグが言うには、これは()()()()()

 惑わされる人間も、また生まれるだろうが、惑わされず進む人間もいる。それだけのこと・・・らしかった。



 そして、ドルドレンが『間に合った』と言われたのは、精霊ポルトカリフティグが守った瞬間。ドルドレンは、大いなる力の下で判別を受けたかと言うと。


()()()()()()?」


『あの気に中てられたお前は倒れたが、すぐに私が守った。結論、判別を受けていない』


 良いのだろうかと、真面目なドルドレンは心配する。自分だけ逃げたみたいで、それは嫌だと思うのが顔に出たか、トラはじーっと見つめた後、徐に体を変化させ、戸惑う騎士の前で人に似せた姿に変わった。


 全身に縞模様の毛を生やした、トラと人の中間の姿。ドルドレンは久しぶりに見て、とても大きく感じた。精霊は、地面に座る勇者の前、両膝をついて背を屈め、見上げる顔の上で静かに話す。


『良いのだ。お前を守ると私が決めた。もし裁かれるのであれば、私が負う』


「もっとダメだ!そんなこと、俺は嫌だ」


 ギョッとする一言に、ドルドレンは思わず叫ぶ。それで寂しそうに見えたのかと分かるや、何でそんなことを、と精霊の緑の瞳に問う。



『ドルドレン。大いなる力に判別されて、お前がどこをどう問われるか、分からなかった。

 お前は()()()()のようではないし、勇者である以上、旅は最後まで続くだろうが・・・『勇者』として課せられた、輪廻のために裁かれたら、次の国は動けない・魔物の王と対面まで負荷がある、そうしたことは起こったかもしれない。私はお前が、それを受けるべきとは、思えなかった。

 お前と共にいる、と私が告げた意味。大いなる力を前にしても、お前を私の考える良い方へ導く。これは、人のそれよりずっと長く重く、大きい。理解しなさい』


 これも・・・ポルトカリフティグの選んだ、精霊の範囲解除その一つ。

 今すぐ裁かれはしなくても、次の地でこうした行為の連続が淘汰対象に変わるかもしれないが、それまでの役目にあった範疇を跨ぎ、自分の判断を選ぶ、いわば自己責任。


 ここまで話されはしないドルドレンは唖然として、首を横に振った。

 


「・・・そんな。俺を信じてくれて、守ったあなたが。裁かれる日が来るかもなんて、冗談じゃない。もしも、そんな時が来るなら、俺も一緒に」


『守った意味がない』


「嫌だ。絶対に嫌だ。ポルトカリフティグ、あなたが俺のために失われて良いなんて、決して思わない。・・・その()()()()()は?今はどこなのだ。俺をもう一度見てくれるよう頼ん」


 頼んで、と捲し立てたドルドレンが止まる。


 微笑む精霊は、ドルドレンの体を抱き上げて、フカフカの胸に包んでいた。

 逞しく、フカフカした両腕と胸に、ドルドレンを子供のように包み込んだ精霊は、『機会があれば次だ』と、今回の機会がもう終わっていることを教え、真面目で善良な男の頭に頬ずりする。


 しかし、と頬ずりされ続けるドルドレンは、不安を抱える。もし、ポルトカリフティグが罪に問われるなんて本当に起こったら、たまったものではない。


 何とか事情を聞いてもらえるよう、大いなる力に頼み込まねばと(※話してどうにかするつもり)、次に訪れるかもしれない恐ろしい裁判の時に覚悟する。


 それが筒抜けで伝わるポルトカリフティグは、この勇者の誠実さが、ただただ嬉しい。ずっと守ってやろうと・・・抱えた腕を少しずらして、顔の高さまで彼を持ち上げると、向かい合うドルドレンの高い鼻に、黒く湿る鼻先(※トラだから)を当てた。



「ちょっと。照れる」


『大事な勇者だ。お前こそ、中間の地に奇跡を運ぶ。私は支えて守ろう。お前専属で』


 少し恥ずかしそうな勇者に、精霊はきちんと大切なことと、今後の意思を告げる。ありがとうと、心から感謝を伝えるドルドレン(※鼻先ついてる状態)。ふと、ここで違うことを思い出し、口にした。


「そう言えば。俺にはお手伝いさんがいる、と聞いていたのだが。まだまだ会わない。あの話は一体」


『手伝い。それは、私でも問題ない』


「いや、違うのだ。そうではなく、勇者には元から知恵を貸したり、力の手ほどきをするような『お手伝いさん』的な立ち位置の」


『ドルドレン。私でも良いのだ。お前の聞いたそれは、思うに二度目の旅路で、私同様、勇者に()()()()()を与えた者のことだろう』


「極限?」


『前も話している。私は二度目の勇者と関わったのは、僅かな時間。私の範囲を超えた時、空の・・・()()()が勇者に選択を迫った」


 ドルドレンは固まる。(※極限の選択肢の恐れを想像)。ポルトカリフティグは鼻先を離して、げんなりした勇者に優しく微笑むと『お前にその心配はない』と言い、それから『空の誰か(※濁す)は今回の勇者に関わることもないだろう』と言い切った。


「俺に関わらないのか」


『そうなる。私がいる』


 断言されて、ドルドレンは再び感謝。有難う、ポルトカリフティグ。有難う、そんなに信頼してくれて。俺は頑張る、と逞しい腕に抱えられたままお礼を言うと、精霊はその腕を解くことなく横になり、『全てが落ち着くまで寝ていなさい』と言った。



 抱っこされた状態で眠るのは初めてで、なかなか寝付けなかったドルドレンは(※照)、どうせ眠れないからと・・・朝、一人になった時間で考えていたことを、ポルトカリフティグに話す。

 精霊は黙って耳を貸し、ドルドレンが言いにくいことも、静かに先を促して、彼の懸念を知った。


 それは、ドルドレンがサブパメントゥ(※呼び声)に感じた恐怖と、意識に潜む服従の話だった。

お読み頂き有難うございます。

今日はお休みするかもと思っていたけれど、出せると分かって投稿しました。少しの間不定期な投稿が続いて申し訳ないのですが、投稿できる時は早めに投稿するようにしたいと考えています。どうぞよろしくお願い致します。

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