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魔物資源活用機構  作者: Ichen
アイエラダハッド最後の魔物戦
2391/2964

2391. アイエラダハッド決戦 ~ミレイオ呪縛の行方・自我付き魔物対処

 

 スヴァウティヤッシュに、彼が知る状況と、これからどう動くかを聞いた後。


()()()大丈夫かも知れない』と言ったドルドレンは、ヤロペウクを呼ぶことにした。

 呼び出したことはないし、呼びかけ方も知らない・・・朝の印象もない、微妙な仲間ではあるが、『ヤロペウクに頼むのが一番早い』・・・こと。そして、自分は彼の仲間だから、多分応じてくれると思って。



「あなたが、ミレイオの側へ行ければ良いのだな?」


 ダルナに確認し、『その方が絶対安心だろ』とダルナが頷いたので、ドルドレンは空中でヤロペウクの名を何度も呼んでみた。どこに居るのか、聞こえるかも分からないが、声にしてはっきりと呼びかけること、数分―――



()()じゃないか」


 並んでいたダルナの首が、肩越し後ろに向き、長い尻尾の先が下を差す。壊れた大地が段差になった影の辺り、人の姿がポツンと見えた。


「急に空気が変わった。()()()だろう」


 じっと下を見たスヴァウティヤッシュが呟き、ドルドレンはダルナを待たせて、まずは自分だけ先に降りる。近づけば、間違いなく『十人目の仲間』とはっきり分かる。


 ドルドレンが地面に降り立つと、影になった岩に寄りかかる男は『俺を呼んだか』と尋ねた。


「俺はドルドレンだ。あなたが、ヤロペウク」


 精霊の祭殿で見てはいるが、向かい合って話したことはない相手。

 大きな体躯と白い髭、裾の長い毛皮の上着は、ヤロペウクを古代の王のようにも感じさせる。彼は、少しドルドレンを見つめてから、低く太い声で静かに返事をした。


「そうだ。ミレイオのことか」


「そう・・・あの、上を見てくれ。黒いダルナがいる。彼が、ミレイオの呪縛を解く手伝いをしたい、と」


「ふむ。()()()か」


「ん?」


 ヤロペウクがあっさり来てくれたのも意外だったが、返った一言も意外。

 分からなそうに瞬きする顔に、十人目の仲間は『あのダルナをこっちへ』と視線を空に向けた。ドルドレンが呼ぶ暇もなく、聞いていたダルナは下に降り、バサッと翼を畳んでから、左右を少し見た。


「妖精の檻。もう出ないか?」


「心配いらない。一度に出た分が全てだ」


 ダルナの心配は、時間差で檻に捕まるかも知れないと考えていたらしいが、ヤロペウクはそれをきちんと払拭。目の合った黒いダルナに『ミレイオの呪縛を解く?』とヤロペウクは用件を聞く。


「俺なら出来るだろう」


 頷いた黒いダルナは、相手を読むことはしない。この男は、読まなくても話が早そうだから・・・そのとおりで、四の五の言わずに、ヤロペウクは微動のように頷く。


()()だな」


「信じるか?なら、急ぎだ。あんたの所に、ミレイオがいると聞いた。俺に会わせ」


「会う必要はない。お前は仕事を片付けた」


「・・・ホントかよ」


 瞬きするスヴァウティヤッシュに、ヤロペウクの白い髭が少し揺れた。ちょっと笑ったのか・・・鋭く真っ直ぐな視線は、向かい合うダルナを見据え『助かったな』と、一言。


「ミレイオが助かったのか?」


 脇で話を聞いているだけのドルドレンが驚いて口を挟み、ちらっと見たヤロペウクは『先ほど』と言う。


 ダルナとドルドレンは目を見合わせ、ドルドレンは安堵の溜息を吐いた。十人目の仲間は、ミレイオに何が起きたかを簡潔に話し、『決戦が終わったら、ミレイオとザッカリアを戻す』と約束した。彼らを戻すのは落ち着いてから、と言ってくれる仲間に、ドルドレンは何度も感謝を伝えた。


 ドルドレンの感謝の言葉の間、黙っていたスヴァウティヤッシュは、目が合った男に、最後にもう一つだけ尋ねる。


「『どっち』だった?」


「・・・『呪縛した方』だ」


 赤と水色の混じる瞳が、じっとヤロペウクを見つめ『そうか』と返し、白い髭の口元は薄っすら開くと、ドルドレンには聞き取れない何かを囁き、ダルナが瞬きしたので『また呼べ』とだけ言い残して、岩の後ろへさっさと歩いて行ってしまった。


 ぽかんとするも、岩の後ろに消えた男が戻らないので、ドルドレンが後ろへ回ってみたが、もう彼はいなかった。


「帰ったのか。自在に消えたり現れたりすると思っていたが」


「出没の仕方がいろいろありそうだな」


 ドルドレンは苦笑いしてダルナの言葉に頷き、彼を見上げて『有難う』と心からお礼を言う。スヴァウティヤッシュは長い首を左右に揺らし『俺が手伝ったのは少し』と礼を遠慮した。


「ひとまず。片付いたな、一番の悩みどころ」


「悩みはたくさんあるが、ミレイオは確かにそうだ」


「俺が言ったのは、イーアンにとってだ。イーアンは『私の姉さん』と言っていた。ずっと気にしていたから、片付いたみたいだし、すぐ知らせてやらないと」



 私の姉さん―― その言葉に、ドルドレンも頷いて俯く。イーアンは、ザッカリアを殺されて放心状態だったと聞いた。その後、ミレイオまで失うと知った時、どれほど辛かったか。それでも、龍の立場でこなさなければならない状況は、彼女を悲しみに留める時間を与えず・・・・・


 ドルドレンが俯いて黙っているのを、スヴァウティヤッシュはじっと見つめ(※読んでる)『連絡』とボソッと呟く。ハッとしたドルドレンは、そうだそうだ、と慌てて腰袋に手を入れて、珠を取り出し、イーアンに連絡する。が、出ない。


「出ない」


「じゃいいや。俺が行くよ。お前はさっき言ったが、こうなるともう、()()()退()()しかないから」


「分かった。では、俺は精霊を呼ぶ。イーアンに心配要らないと伝えてくれ。頼んだ」


「・・・ドルドレンのことも、すごく心配してたよ。またな」


 黒いダルナは少し笑うような顔を向け、またなと尻尾を振ると、ふーっと風に紛れて消える。森の黒土の香りだけが残り、ドルドレンも精霊ポルトカリフティグを・・・『呼べないな』と苦笑して、またムンクウォンの翼を出した。


「ポルトカリフティグが迎えに来るまでは。彼も『太陽の轍』にかかりきりだろうし」


 少しの間、一人で考えるのも悪くない、とドルドレンは思い、様々な想いを―― 過去の勇者の恐れも ――抱えて、午前の空へ飛んだ。


 妖精の檻は大地に点々と見られ、その合間合間に、時空の乱れの切れ目が挟まる空がある。

 時空は乱れているのだろうが、切れ目の数は変わっていなさそうなものの、『時間が異なる風景』はもう無かった。イーアンたちの攻撃で、何かが変わったのかもしれない、と思った。


「イーアン。ミレイオは無事だよ」


 呟いて微笑んだが、黒髪の騎士は、心底微笑む気になれなかった。自分は・・・サブパメントゥに、何の約束をしているのか、それを思うと。

 今回の一件に、全く関係なかったし、与り知らぬことと言えば、そうだったのだが―― まるで自分が、ミレイオを陥れた様な気がして。


 ドルドレン自身はこの時。 気づいたようで、気付き切れておらず。


 彼の『次の国へ運ぶもの』は、まさに、転生を繰り返して、尚切れることない、サブパメントゥ因縁の開始―――



 *****



 ここで少し、龍族の攻撃三回目が終わった後に、時間を戻す。



「戻ったな」


 見上げた空に、ギラっと光る目立つ金属の体。外へ出て待っていたシャンガマックと獅子は、キーニティ親子が帰って来たので、側へ行く。



 ―――『龍族攻撃終了』を聞きに行ったのは、フェルルフィヨバルではなく、キーニティ・スマーラリ。


 単に、フェルルフィヨバルが、何度もシャンガマックの側を離れるのを嫌がった理由からだったが、『攻撃直後は、他のダルナもそういないだろうし、女龍に安否報告と思って、お前が行ってこい』と送り出された次第。


 そう言われてみればと、キーニティは確認役を引き受け、仔ダルナも一緒なら、万が一も対応できる(※仔ダルナ無敵)と、彼ら親子は女龍のいる空へ出かけ、そして戻ってきたところ―――



 小さな仔ダルナと、大きな真鍮色のダルナは、空にふっと現れたすぐ、草原に降り、獅子と騎士に『龍族の制裁は終わった』と教え、子供連れはイーアンに喜ばれたことも序に伝えた。 シャンガマックも、良かったと微笑む。


「それは喜んだだろう、会えて良かったと思う。では、やるか。『檻』を出そう」


「シャンガマック。その前に、話がある」


 妖精の檻を立ち上げようと言った側から『話が』と止めたキーニティに、シャンガマックは振り向く。

 ダルナは仔ダルナを足元に引き寄せると『イーアンの手伝いに行く』と言う。仔ダルナも、親を見上げて頷く。シャンガマックは瞬きして、うん、と了解の意味で頷いたが、とりあえず少し質問。


「イーアンを・・・手伝うとは?何かあったか?頼まれたのか」


「頼まれたわけではないが・・・手伝おうと考えた。今は、龍の制裁の後で、他のダルナも空に少ない。女龍が()()()()を、一緒に捕まえようと」


「ちょっと待て。魔物は終わってるだろう、捕まえるってどういうことだ」


 キーニティの話が分からな過ぎて獅子が遮り、手伝いの説明を問うと、ダルナは女龍に聞いたままを伝え、獅子と騎士は顔を見合わせた。『自我のある魔物』同時に口にした、意外な理由。


「魔物が自我?イーアンはそれらを助けていたのか」


「どうでもいいだろうに」


 驚くシャンガマックの横で、獅子がケッと吐き捨て、息子にちらっと見られて(※注意)目を逸らす。


「じゃ、キーニティもその、自我のある魔物を捕まえるのか?彼女と一緒に」


「俺が捕まえた方が早い。絵に変えて集めて、後から事情を伝えればいい、と言ったら、イーアンは喜んだ」


「・・・そう。そうなのかな(※複雑)。いきなり捕まえられて、逃げなければいいが」


「絵に変えてしまえば逃げようはない。絵のままでも話せば聞こえる」


 キーニティの能力を、話でしか聞いていないシャンガマックはピンとこないが、どうもイーアンは既に知っているらしく、キーニティの発案に賛成したという。とりあえず、もう話は決まっているようだし、シャンガマックは『それなら』と送り出す。


 ただ、これから妖精の檻が立ち上がるため、そこに紛れてしまったら、『自我持ち魔物』も()()()()()倒されるかも、と懸念は教えた。


「俺が立ち上げるのを、少し待つことは出来るが、待って、数十分程度だ。その間で、全部を集めることは不可能だと思うし、事前にセンダラに注意を促しても聞かないと思うし」


「論点も視点も重視点も違うからな)


 センダラへの意見は同意する獅子。救出したいと願う話に、冗談でも苦笑は出ないが、事実である。


 これもキーニティは理解しているようで、ちょっと北を見て『イーアンが』と対策その二を教えた。提案で、異界の精霊同士で、協力して救い出せる率が高まると言う。


「数十分、もらえるか」


「分かった・・・そうだな、三十分くらいが限度、と思ってほしい。この三十分でも、捕まえなければいけない敵を、逃がすかも知れないから」


 シャンガマックの妥協を得て、キーニティは話を終え、子供を連れて急いで飛び立つ。あっという間に、空に消えたダルナは――



 *****



「イーアン。三十分だ」


「はい。有難うございます。では、まそら。まそらと、お友達(?)。お願いします」


 攻撃が終わってから、北の空にまそらたちを呼んだイーアンは、キーニティと相談した方法を、実行開始。


 まそらの翼に映る各地と、対象を探知し特定する能力持ちが、『自我のある魔物』を見つけ出し、キーニティはまそらの翼越しに、それを絵に変える。


 移動せず出来るか、やってみなければわからなかったが、まそらの翼は透過しているに近い状態で、絵は翼の奥にある、実際の風景と存在を丸ごと手に入れた。


「できた」


 キーニティの手に、一枚の絵が乗る。そこに、魔物であって()()()()()()()を向けた存在が描かれている。


「これ、そうですよ!」 


 上手く運んでホッとするイーアンたちは、顔を見合わせ、『急いで』と、自我のある魔物を回収し始める。『檻』に閉ざされてしまったら、もう手が出ないが、そうなったら『檻』以外の場所に逃れた魔物を対象に、保護すると決めた。


 探知と特定は、十数頭いるキメラが行い、まそらはそれを翼伝いに映し、青い両翼に次々と異なる魔物が見える。キーニティは一瞬で絵にするので、キーニティの横でイーアンはクロークを広げ、重なる絵をどんどん置いてもらう。



 こんな方法も使える――― 協力したことで、意外過ぎる方向から、想像しなかった展開が実現する・・・ 広げたクロークに、魔物の描かれた絵が積み重なっていく感謝を想いながら、イーアンはこれでどれくらい助けられるか、考えた。


 探知できても、側へ行かないと集められなかった能力。

 映し出せても、それは同じ。絵にしてしまう能力があっても、探すことは出来ないのも同じ。

 もっと早く、互いの能力を理解して、手を組んでいられたら、と思うのは違うが、少しそれも過る。ただ、今はクロークに重なり続ける絵を見つめ、全部集められるようにと、祈るのみ。


 まだいるか、まだいそうだ、とキメラが話しているのを聞きながら時間は経ち・・・そして。朝陽差す地上に水色の円形が、パッと光を放つ―――


『自我のある魔物集め』はここから、檻以外の土地対象。

 それと。この後、イーアンは戻ったスヴァウティヤッシュに会う。

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