2387. アイエラダハッド決戦 ~三度目の白い筒『龍の爪痕』・攻撃完了後の各地
☆前回までの流れ
『呼び声』が、双頭の影を追って動き出し、コルステインがそれを知って、スヴァウティヤッシュに教えた後。イーアンは、異界の精霊たちと共に、ひたすら魔物退治を続けました。しかし魔物はもういないような雰囲気で、違和感。そうしている内に、三回目の連動が起こり・・・
今回は、白い筒対処前から話は始まります。
〇明日は一回投稿です。時間は未定です。どうぞよろしくお願い致します。
『龍の攻撃は、いつ終わるか』―――
大きな白と灰色のダルナに、空の途中で足止めされて尋ねられたのは、シャンガマックからの質問。
「攻撃?・・・白い筒のことですか。これから始まりますが、これで最後だと思います。シャンガマック、お父さんも、来たのですか?」
親子が出てきたらしいと分かり、イーアンは嬉しい。ダルナは『いる』とだけ頷き、話を続ける。
「攻撃の終わりは確定ではないのか。龍の破壊後、逃げる者を捕らえるため、シャンガマックが『檻』を立ち上げる。お前たちの攻撃が終了したら、『檻』が出るのだ」
ここで初めて、イーアンは『檻』の話も知る。なんのこと?と少し説明を頼み、掻い摘んで教えてもらった。
どうもセンダラが『妖精の檻』を使って、敵を捕まえるらしい。白い筒で乱れた、異時空亀裂だらけの大地で、こちらが手こずらずに逃げる敵を捕獲する方法である。
捕獲――― といっても。
当然、檻と檻の距離はあるため、完璧ではない。ただ全土に妖精の檻がわらわらと出て、そこに入った分は、魔の力も弱まり、檻から脱出できないという話で、檻がない場所については、引き続き、動ける人が退治。
そして、使うのは『妖精の檻』だが、呼び出して維持する役目は魔法使いらしく、これをシャンガマックが引き受けた。
イーアン、納得。テイワグナでは、シャンガマックが『龍の檻』を使ったと聞いた。自分が入ったあれ、と理解する。
誰が提案してくれたのか、二段構えの対処に感謝し、『攻撃は次で最後』と繰り返した。保証は出来ないが、もし連動の影響で四回目が立ち上がったら、これから行う三回目ほど強烈ではないと教えた(※意図的じゃないから)。
フェルルフィヨバルは頷いて、女龍に用を言いつける。
「終わったら、知らせなさい。彼(※シャンガマック)は動かない」
「え・・・ シャンガマックが来ているのも、私は知らなかったのに。私も予定があります(※自我持ち魔物保護)。そちらのどなたか、こちらへ回してもらえませんか」
言いに来いと命じるダルナに、イーアンは『誰か来てもらった方が』と頼む。白いダルナは少し考えて『お前を知っているダルナをよこす』と言った。フェルルフィヨバルは来ないのか、それを聞こうとしたら、彼はあっさり消えた。
とりあえず、イーアンも急がないとならないので、『シャンガマックたちが来ている』『筒の次は、妖精の檻』の情報を入れ、連動の場所へ飛んだ。のだが、続けて声が降ってくる。
「イーアン、ついておいで」
見上げたイーアンは、自分の上を飛ぶタムズに手招きされ、彼の後につく。タムズはイーアンが向かっていた方と逸れる空へ飛び、一方に片腕を伸ばして『こっちだね』と説明し始めた。
「海近くで既に発生した筒は、シムとルガルバンダだ。私と君が、今回はこっち」
「私とあなた?向こうは、シムとルガルバンダ?・・・四人ですか?」
「いや、五人だね。私たちの間に、もう一つ生じる。それをニヌルタが」
何ですって、とイーアンはタムズを凝視する。綺麗な顔でさらっと言ってのけたが、今回は三本立ての白い筒で、中間をニヌルタが対処と聞き、とんでもない破壊が、いや破滅が起きると直感が告げた。
「地、地上。地上がぶっ壊、ぶっ壊れて」
「そうだね」
「いえいえいえいえ、そうだね、って!タムズ、涼しい顔で言いますが、両端は海と山脈?間は」
「イーアン、落ち着きなさい。私たちは山脈ではない。山脈より、ほら。ここは平原だよ。山脈はニヌルタだ」
げーーーーーっ 三本立てが、アイエラダハッド上下分割しかねない~~~っ!! ただでさえ、もう二連発でデカいの打ち上げてるのに、最後は、横一文字で国横断する気かーーーっっ そこまでする話じゃなかっただろーーーーーっ
ちょっと待って、いくら何でも、と慌てふためく煩い女龍に眉根を寄せ、タムズはイーアンを小脇に抱えると、やめて放してとじたばたするイーアンの目をガッチリ覗き込み、『もう遅いよ』と静かに言い聞かせた。
「だって、タムズ。人間が住めるところ消えますよ」
「消えたって仕方ない。龍が来るとこうなると、前から話しているだろう。彼らは余ったところに住むんだね」
余ったところ~~~??!!! 他人事過ぎるでしょーーーーーっ!!!
そしてハッとする。さっき、ダルナたちに『二本大きいのが見えたら』と私は言ってしまった。やばい、まずい、三本よ、と大声で困るイーアンに、タムズも困る。
「もう時間がないのに。目の前にあるんだから、身動き取れない」
「でもお友達が」
「友達は、龍を知る機会だね」
死んじまうよっ!!! 無理言わないで!無茶言うな! 裏声のイーアンが喚いて、タムズはじっと彼女を見ると、『誰かに連絡するなら、早く』と譲歩してやる。
大慌てのイーアンは一生懸命イングを呼び、イングが頭の中に反応するや、『逃げてっ』と叫ぶように伝える(※呼んだのに)。一秒後、花の香りが漂い、白い筒とタムズとイーアンの横に、青紫のダルナが現れた。
「おっと」
男龍を見たイングの、冗談めかす言い方をそっちのけ、イーアンは飛びついて彼の両腕を掴む。
『味方のダルナたちが、自我のある魔物を保護に回っています!さっき別れたばかりで散ってるかも知れなくて、でもここから海岸へ向けて、凄い龍気が〇〇××〇〇』と支離滅裂な訴えを早口で浴びせ、イングは顔色一つ変えずに、相槌を打ちながら『分かった』と最後に了解した。
タムズは見ていて、本当に彼は解ったのだろうかと少し疑問に思ったが、ダルナと目が合い、何やら相手が同情的な視線を向けた気がして、彼もイーアンに合わせたんだなと理解した。
「イング、頼みましたよ。どうか皆に伝えて」
「大丈夫だ。すぐに広がる。要は、この『横の線』から離れるんだろ」
この線、とイングの腕が左右に動き、イーアンはがくがく頭を振りながら『そうです、あっちからこっちまで!』と必死。
「俺の魔法一度で聞こえなくても、聞こえた他の者伝いに連絡が届く」
「有難う、イングも逃げて下さい」
『そうだな(※素直)』としっかり頷いて、イーアンが腕を離したので、イングは『何かあればまた呼べ』と言い、花の香りを残して消える。タムズはちょっと首を傾げ、『皆あんな感じかね』と質問。
「あんな感じって」
「いや。まぁいい。ダルナ・・・君に従順で何よりだ」
瞬きする女龍は、うっかり素で『従順どころじゃないです』と言いかけたが、それはどう取られるか分からないので黙っておいた。タムズは白い筒を示し『始めるよ』と位置へ着くよう促す。
「ちょっと君は落ち着いたようだが。私たちの空を汚そうとしたサブパメントゥを、この三回目で滅ぼす気でいてくれ」
大きな白い筒の向こうへ回った男龍の声は、イーアンの頭の中に届く。ふ、と我に返るイーアンから、先ほどまでの感情が消えた。思うは、ザッカリア――― 追加でもう一声、タムズから配慮が届く。
「人間を消す気でやらなければ。私たちの意思は、目的に沿う。一応、他の三人にも言っておいた」
「はい」
そして、連動三回目の対処は、海岸線から開始する。
ボワッ・・・・・ 強風に似た龍気が突然、東から突き抜けた。
イーアンとタムズ、二人の龍気が一瞬で爆発的に増え、二人の間に挟まる白い筒は、初めて横に揺れるようにうねり、次の瞬間で東の空が爆発の光を放った。と同時、イーアンたち平原の筒もカーッと発光し、大気が殴られる勢いで地面を叩きつける。
音より早く、地面が白い光の中に埋もれて高さが消滅する。ニヌルタを中間に挟んだ激しい龍気の爆破は、異時空の亀裂も何もかも呑み込んで、白熱の一色に変えた。
五人の龍族の放った龍気は、アイエラダハッドの東から西、山脈を繋いで走り抜ける。それは一頭の壮大な龍のように、国の大地を抉り取った。
駆け抜けた、破壊の龍。
前代未聞の、男龍と女龍による超規模の破壊劇は、空に彼らの龍が飛び、海に巨大な黒い龍が姿を見せ、山脈にも七つの首を立てる多頭龍が現れたが、この伝説級の鉄槌で命を取られる人間は―― 幸いなことに ――誰一人いなかった。
*****
白い筒三本を空に返した、龍族による膨大な破壊。
アイエラダハッドの東西を分けていた山脈も、中北部に位置する一画は、地下数十mまで消し飛んだ。両端、西は平野で東は海岸、中心を山脈にした横一線、まるで柔らかな菓子に突き立てた匙を、真っ直ぐ引いたように・・・同じ幅の巨大な溝が大地を横切る。
ただ、『破壊と再生を司る、龍族の仕打ち』ということで、人間他、動く生き者は、これだけの破壊の後でも生き残った。
住処を失うにしても、体を傷つけられることはなく、この理由は、龍の狙った相手ではなかったから・・・など、他幾つかあり。
とはいえ、生き残った者たちは意識を失ったし、この現場を目に収めた者はいない。目に焼き付けた、だけで言えば、これほどの規模で起こったため、現地ではなく、他の場から見た者は勿論いた。
『やり過ぎだ』
馬車の民を保護したばかりの、精霊ポルトカリフティグは呟く。
龍族のとんでもない仕打ち直前、間に合った自分を褒めたものの、恐れ戦く馬車の民『太陽の轍』を収めることは出来ず、『下界』に騒ぐ彼らの声をしばらく聞き続けた。
*****
移動中の妖精も、遠目で見た白い壁を凝視した。『あんな規模を・・・ 』あれが龍族、と鳥肌が立った。
「アイエラダハッドの広さで考えれば、一部なのだろうけれど。それでもあれだけの衝撃は、アイエラダハッドの地形さえ変えただろう。まさに龍の怒り。これを龍の爪痕と言わず、何と呼ぶだろうか」
フォラヴは背後に体の向きを変えたそのまま、白い光が少しずつ、下から消えてゆく様子を見送った。
ふと、イオライで、シャンガマックの出した精霊の金色の壁―― あれを思い出す。イーアンがアオファを呼び、アオファが魔物を退治し終えた時、金色の壁は少しずつ下がって消えた。ここでは逆で、下から上へ向かって白い光は淡くなり、風景が戻る。
「あの時とは桁違いだけど・・・イーアン。あれから一年経って、ご自分が駆け上がった階段を理解されているでしょうか。規模はもう、あの時と比べ物にならない。それでもあなたがこうして、何かを破壊する時、それはいつも誰かのためで誰かを守る必死からであることに、今も変わりない。あなたなら、世界を守り抜くと私は安心できます」
空に消えた、龍気の壁を全て見終わった後、フォラヴは再び北へ向かう。
北部一帯の『妖精の檻』は、自分が担当・・・龍の攻撃三回目が始まる少し前、センダラから二度目の連絡を受け、『北部に出る檻を回って』と言われたので、フォラヴは急ぎで南を出た。
檻の中の敵を倒し、檻を全て閉じたら、北の治癒場・イジャックの元へ―――
「急がないと。『檻』が終わった後、すぐ人々が解放されるかもしれない。早くイジャックのところにも」
南の治癒場では、リチアリと共に話し続け、精霊シーリャも民との会話に付き添ってくれた。
シーリャの諭しは効果が大きく、攻撃的で取り乱していた民は、根気よく話すフォラヴに耳を貸し、親指大の姿のまま、理解を深めて受け入れてくれた。
妖精の姿のフォラヴは、治癒場で回復して漲る力を感じながら、間もなく立ち上がる『妖精の檻』に間に合うよう、急ぐ。
*****
避難したシャンガマックたちも固唾を呑んで、地上の壊滅を凝視。
イングの警告はあの後、瞬く間にアイエラダハッド中のダルナ他、異界の精霊へ伝えられ、聞き洩らした者も他に倣って逃げた。
獅子とシャンガマックも、仔牛程度ではやられかねないと、獅子が急いで狭間空間へ引っ張り込んだ直後、衝撃が大地を揺さぶり叩き、抉って貫き、削り取った。
「なんてことをこなすのか」
唖然とした顔で、狭間空間越し、透けて見える外に目を丸くするシャンガマック。獅子は息子をさっと抱え込み、肉球で彼の口を塞ぐ。
「言うな。聞こえたら、こっちも蒸発だ」
「いや。俺は悪い意味ではなくて、これほど凄まじいとは、と思って」
「あれが龍だ(※ここまでのは見たことないけど)」
鳥肌が立ったと、腕を摩るシャンガマックだが、不安そうでもある。『狭間空間に自分も入って精霊に叱られないか』獅子にそっと訊ねたが、獅子は『これで罰を受けるとなれば、死ねば良かったのかを、俺は聞く』とぼやいた。それもそうだねと、息子も深刻な面持ちで同意。
「まともに受けたら、跡形もなく死んでるぞ。仲間に殺されていいわけないだろ」
「あの破壊力、地上にいた人間が生き残ったと思い難い。死滅だろうか」
さぁな、と返事を遠慮した獅子は、龍が人間を死滅させても気に掛けないとも思えるし、女龍がいるので、特別な処置をした可能性もある、とも思った。
推測するなら、龍の目的は『ザッカリアを殺した相手への制裁』で、これだけを馬鹿でも分かるように示すとなると、『他を奪わない結果』に繋がる。この馬鹿は紛れもなく、残党のこと。
獅子は息子の問いは流し、『完全に終わったら出るぞ』・・・と言いながら、ぐずぐずと引き延ばして(※危険)待った。
「行くか、ヨーマイテス。『檻』を出す」
暫く状態を見た後で、褐色の騎士が立ち上がる。獅子も腰を上げ、『キーニティを』と、ダルナに確認させてからの順を促した。
お読み頂き有難うございます。
明日は、一回の投稿です。時間は未定です。宜しくお願い致します。




