2383. アイエラダハッド魔物決戦 ~檻の準備と周辺状況
☆前回までの流れ
センダラは檻の使い方を聞き、魔法を使えるシャンガマックを頼ることに。フォラヴ、ドルドレンを経由し、シャンガマックを探します。ドルドレンは、精霊ポルトカリフティグの『太陽の轍』に関わる用事を聞き、別行動を選び、単独で夜の森へ。
今回はセンダラの話から始まります。
〇本日は一回投稿です。明日は二回投稿です。元旦の投稿は、考慮した結果、お休みにしました。理由は後書きに~
ドルドレンが、夜中の森で敵と鉢合わせた頃。この続きは、もう少し後で・・・・・
連絡を取ってもらえたセンダラは、シャンガマック親子の元へ向かい、話しをし、交渉と確認をしつこく繰り返した後、どうにか檻を立ち上げる協力を得て、彼らの元を離れた。
「これで大丈夫・・・やっと、ね。探すのに少し手間掛かったけれど、龍族の最後の攻撃前に間に合った。無駄な時間を費やさずに済んで良かった。
シャンガマックと話したのは、初めてだけど。獅子の意見ばかり聞くから、話が進まなくてどうなるかと思った。
獅子は、ホーミットだったかしら(※名前覚えてない)。サブパメントゥで、息子扱いのシャンガマックは人間で・・・分からなくもないけど、ホーミットに話しているわけじゃないんだから、遠慮してほしいわね」
異種族で親子状態は、自分もそうだけに理解もするが、何でも口出すような過保護はどうなの?とセンダラは首を傾げた。
ミルトバンは子供だから、私は躾も世話もするけれど、シャンガマックは大人で、獅子が口出すことじゃないでしょ、と・・・自分を棚に上げるセンダラは、獅子の過保護に『邪魔よね』と、長引いた話の疲労をぼやいた。
「でも。『檻』の呼び出しを引き受けたわ。龍族の攻撃が終わったら、すぐ、すぐよ。『檻』が出次第、私は南で、フォラヴに北をやらせれば。待ってて、ミルトバン。あんたを岩から出すまで、もうちょっとだから」
どれほど注意されたところで・・・ふと気を抜けば、ミルトバンへの思いは他の思考を省く。
言いながら自分で気付いたセンダラは、少し黙って(※反省)はたと気付く。『フォラヴ!そうだ、彼に言わなければ』と動かす予定のフォラヴに、連絡を忘れていたのを思い出し、二度目の連絡をフォラヴに送った。
*****
妖精がいなくなった明け方、遠巻きに見ていたダルナたちが戻ってきて、シャンガマックに『休め』と促し、褐色の騎士が返事に困ったのを見て、獅子も『寝ろ』と仔牛を出す(※寝床)。
「ごめん。ちょっとだけ眠るよ」
「起こすまで寝ろ」
「うん・・・一つ聞いていいか」
「なんだ」
「先祖に『檻』のことを聞いた時も、気になったんだ。彼が使わないのは、自分の旅じゃないからかな、と。
センダラは俺が魔法を使うから、俺に頼みに来たのは分かるが、どうして俺より強力な魔法使いの先祖に『檻』を頼まなかったのか」
「忘れてるのか。それとも俺が言いそびれたか。お前とあの爺の圧倒的な違いは、魔力じゃない。『檻』は呼び出す者を選ぶ」
―――あれを呼び出せる人間なんて、そういないはずだ・・・檻の用途を知らないなら、尚の事。欲のある思考の者には応じもしないだろう。純粋な者じゃないと(※1704話参照)―――
ヨーマイテスが、テイワグナ戦後に呟いた言葉。これをもう一度、息子に教えると、褐色の騎士はぽかんとして『そうか』と、照れ臭そうに目を逸らした。獅子は当然と頷く。
「分かったか。お前くらいだ。序に言えば、例えセンダラ自身が『檻』を使おうとしても、反応しなかっただろうな」
センダラの思考が純粋ではない(※ミルトバン=私欲)と言い切る父に苦笑し、『それは分からないけど』と濁したシャンガマックは、教えてくれた礼を言い、仔牛の中に入った。
初っ端から力を使いっぱなしで、魔力も加減なく放出した後、留めに想定外の相手(※センダラ)に疲労した騎士は、仔牛の腹に横たわったすぐ、眠りに引き込まれる。
「寝たな」
フェルルフィヨバルが感じとる、騎士の寝息。来客の消えた空を少し見て、獅子に訊ねる。
「何の用だった。あれは、何の種族だ」
「ああ?さっきのか。妖精だ。子供みたいな顔の女だが、実力は妖精最強、ってところだ」
女王の次くらいに強いと言って過言ではない、と・・・滅多に高い評価をしない獅子が、さらっと言ったのが意外で、白灰色のダルナは獅子をじっと見た。
「お前がそこまで認めるほど、強い?そう思えない」
「見た目が人間みたいだったろ。妖精は本来の姿をとった時、真価を発揮する。あいつは今の姿で、充分過ぎるくらい強大な力を操る」
「面白い。で、お前たちは従うのか」
「言葉に気をつけろ。従うのとは、違う。強さは事実だが、話を聞いたのは優しいバニザットの温情だ」
獅子の睨む目は気にならないが、『バニザットの優しさ』と言われたら、フェルルフィヨバルも素直に頷く。だが妖精の用事を引き受けた以上、ここで足止めを食らうような印象の話だけに、目的はどうするのかと、それも尋ねる。獅子は何てことなさそうに『目的?』と首を横に振った。
「目的なんて、ない。龍が暴れる近くは、俺に都合が良くない。それで北上していた」
全体に魔物が出ている今、方角関係なく動いても、確実に倒すことになる。
目的なく北上しただけであり、ここで『足止め』状態でも、自分たちに問題は特にない・・・と、獅子は少し考えたように答えた。気になったことはあるが、それはダルナに話すことでもなし。
とりあえず納得したダルナたちは、シャンガマックが休む間、少し離れることになり、一先ず紹介済みのダルナの親子は、うろつくのは避けて、獅子の側にいることを選ぶ。
・・・地上絵から上がった、初日。北上移動を続けた獅子と騎士。シャンガマックが『一人で』と戦いに出ていた間は、獅子はそれを受け入れ、見ているに留めた。
獅子が出るのは、彼を休ませる交代くらいで、魔物が辺りにいなくなると、また次へ移動して、シャンガマックとダルナの退治。
龍族の攻撃地から距離を取ったのもあるが、二回の後は間が開くのか、三回目はまだで一日経過。魔物退治は、報告だけ聞く分に、『多いけれど魔物の要素が少ない』印象から、獅子は自分でも周辺情報を確認したかった。
ということで。息子の側を離れるのも嫌だが、センダラの頼みを引き受けた結果『ここから動かない』と決まれば、作業中に面倒があっては困るし、魔物退治序、調べに出る。
「・・・キーニティ。バニザットを起こすな。俺は退治に行くが、戻るまでここで」
「行ってくると良い。見ていてやる」
キーニティ・スマーラリ親子に仔牛を任せ、獅子は草原へ走る。近辺はきれいさっぱり、掃除が行き届いた様子。バニザットが精霊の魔法を使うので、サブパメントゥの石絵があったとしても、疾うに壊れている。
「あれだけ派手にやればな。バニザットの魔力は、魔導士といい勝負だ。いや、息子は若いから、もっと育つだろう」
走る足を止めず、息子を立てる獅子は、草原終わりまで来て、壊された祠の跡と、異時空の亀裂を見上げ、とりあえず対処。異時空の切れ目だらけ、一つ二つ別に、とも思うが。
「『妖精の檻』を立ち上げたら、息子は移動出来ない。俺は側にいるにせよ、手間が増えない方が楽だ」
こまめに動いて、異時空の切れ目を閉じておく。封じるのとは少し違うが、やっていることは同じで、閉じられる性質のものを見つけては、獅子はせっせと異時空を塞いで回る。この間、倒す相手は見かけもしなかった。
「偶然だが、近くに妖精系統の遺跡があったのも、関係しているのか。ただ、魔物が残ってる感じがないな」
敵は、ダルナと息子が倒しまくっていたので、今のところ見ない。
魔物は通路を開けられていれば、異時空の切れ目が側で繋がった時、そっちからも出てくる。だが、獅子が見回った広さに、魔物の片鱗もなかった。古い妖精の遺跡の名残があるので、その影響もとは思ったが、それよりも、もしかすると。
「魔物、終わってるんじゃないのか」
呟いてから、『決戦・・・でそれはないか』と思い直す。だが、始まってから二日程度で、これだけ姿を見ないと、いても僅か、のように思う。
もう一つの可能性もある。
決戦開始前に自分たちは出てきたが、乱れた時空が、空中も地上も蔓延っているため、『数日』経過しているとか。
「俺たちがその『数日』先にいるとかな。だが、アイエラダハッドはそれも違うような雰囲気だ」
見回った獅子は、踵を返す。閉じられない質の異時空の歪みは、放っておけば自然に戻る。ただ、通路として使われる場合もあるので、それはダルナに見張らせることに決めた。
自分たちがいる草原は、遠くに低い山塊が重なるように境界を引き、その内側にある、北部の盆地。中部に近いが、北に入った。
ここは道も人里もないが、山向こうは人間の棲み処があり、ダルナはそっちを担当していた。息子は、魔物が山越えしないよう、こちら側で発生したのを倒していた具合。
「破壊された人間の棲み処なんか見せたら。今のバニザットじゃ、倒れるまで動くだろう」
環境を知った獅子の配慮で、シャンガマックは人里を視界に入れない場所をあてがわれた。ザッカリアとミレイオの死、という衝撃がシャンガマックには強烈で、これを煽るような光景を見せる気になれなかった。
―――センダラの持ち込んだ話は、息子の気を逸らすには悪くない話だった。
決戦終わりまで、ミレイオたちの情報待ちで戦うものと思っていたが、センダラの私情絡みとはいえ『決め手の檻』を出してくれと頼まれた息子は、事情を聞きつつ交渉した。
自分たちは『感情による、禁忌への手出し』それを自惚れとされ、拘束された立場。
ここでセンダラの『ミルトバンを出したい』理由に付き合って、世界の流れに指をかけるような『檻』を出す手伝いを頼まれるのは、はっきり言えば『バカ言うな』の申し出だが。
センダラは、多くの事情を喋った。アレハミィと違うな、とヨーマイテスが思ったほど、自分の分の悪さや無力な部分を口にした。そのため、必死なのは伝わったが、自分の身内のためだけに動かすものではない『檻』。
ただ、話の間で鍵を見せ、その鍵の管理人との会話も隠さず話したため、息子は獅子に『それなら大丈夫では』と相談した。
『檻の鍵』を渡した者は、必要な全てを説いて聞かせ、センダラもそれを受け入れていた。
鍵の管理者は、妖精の女王の意向に忠実であり、『檻』使用自体は、精霊キトラの示唆であったから、息子はそれをセンダラにも確認した上で了解―――
「こういう流れになる、ってことだったんだろう。キトラの話がなく、センダラが『檻』を思いついて頼みに来たなら、んなもん、跳ね返すが」
魔導士が先に告げに来たのが良かったな、と獅子も思う。仔牛に戻ると、息子は起きており、ダルナの親子と話しをしていた。
「もういいのか」
「仮眠を取ったから、体は楽だ。それで、ちょっと気になったんだが、龍のあの白い筒。あれはここから見えないだろう?」
「・・・見えないどころか、離れるために距離置いたんだぞ」
「うん。そうだね。となると、後何回起こるか知らないけれど、檻の立ち上げ目安は、筒が終わってからだし」
「ああ、それか。ダルナに」
「イーアンに連絡しようと思って」
『ダルナに頼め』の言葉に被る、息子の『イーアンに連絡』の言葉。
獅子が嫌そうに顔を顰め、シャンガマックはちょっと笑って『ダルナに頼んで・イーアンに伝えてもらうよ』と言い直し、『ダルナ伝いでイーアンに終了の合図を貰おう』と決まった。
獅子は気に食わなかったが、あのバカでかい破壊を繰り返す張本人に『終了』を告げられるなら確か、と言われたらそうなので、渋々了解した。
獅子が了解したところで、動くのはダルナなので、シャンガマックは早速ダルナを呼び戻し、彼らに頼む。
相手が女龍、と聞いてダルナたちは少し固まる。イーアンと面識がないダルナもいるので、アジャンヴァルティヤとフェルルフィヨバルが対象になった。キーニティもあるが、彼は一身上の都合で動かさず。
アジャンヴァルティヤは、女龍と話が通じないので(※一方的過ぎる)、この用事はフェルルフィヨバルに頼むことにした。
ダルナが了解して、姿を消した後。シャンガマックは手に握った、一本の鍵を見つめる。
センダラが渡した、妖精の檻の鍵・・・・・ 不思議だが、この鍵を受け取った時、自分の着用する毛皮の祈禱衣が、少し力を増した気がした。
「その鍵、地面に差すだけだろ」
「ん?ああ、向こうの遺跡のね。少し離れているけれど、妖精の遺跡の名残がある場所で、使うから・・・妖精の遺跡も久しぶりだよね。テイワグナ以来だ(※1275話参照)。少し気になったのは、使い方じゃなくて」
じっと見ている息子に、獅子が土をちょっと掻く。うん、と頷くシャンガマック。鍵は、他に使い方はなさそうで、魔法陣も要らない。地面に鍵を差し、同じ言葉を十五回繰り返した時、檻が立ち上がる話だった。
「何か気になるか」
「ちょっとね。鍵をセンダラに返す時にでも、聞いて」
「俺が聞く」
息子に関わらせないよう遮る獅子に、苦笑してお礼を言い、シャンガマックは鍵を腰袋に戻す。獅子はぼんやりと明るい空を見て『お前が寝ている間に』と調べて回り、解釈した状況を伝えた。
魔物がいなくなれば、決戦は終わるはずだが、その魔物が非常に少ない予測について。
センダラの話の前。魔導士が知らせに来た時、『檻を使う目安』は、ヨーマイテスの種族―― 即ち、サブパメントゥの動き(※2379話参照)と教えた・・・そのことを。
お読み頂き有難うございます。
今日はこの投稿だけで、明日は二回投稿です。元旦は、お休みします。
元旦も関係なく投稿予定だったのですが・・・
内容が暗い回が当たると分かり、何とか調整しようと頑張ったものの、繋ぎが難しくて、元旦早々暗い話に悩んだ結果、やっぱり元旦に投稿しないことにしました。本日の活動報告にも、このことを少し書きました。
年末年始の忙しい中、読みに来て下さって本当に有難うございます。どうぞよろしくお願いいたします。




