2379. アイエラダハッド魔物決戦 ~②子供ダルナと獅子と『キーニティ・スマーラリ』・気づく、闇
☆前回までの流れ
二回目の連動発生で、白い筒の対処に向かったイーアンは大規模の龍気を発生。片や、遠く離れた中北部は、ダルナと魔物退治を続けるシャンガマック親子。待機のヨーマイテスは、側に来た子供のダルナと話をしている内に、妙な展開が訪れました。
今回はシャンガマックの話から始まります。
〇今日の二回投稿です。どうぞよろしくお願いいたします。
驚いたのは、ヨーマイテスだけではなく、シャンガマックも―――
魔物退治に没頭していたシャンガマックは、味方のダルナたちが、空と山側を担当していたので、手前の草原に広がった魔物を倒していた。暫くして山側にいたダルナが、新たな一頭を連れて来た。
連れて来られたダルナは、真鍮色の変わった体つきで、複雑な絵に似た模様が胴に並び、フェルルフィヨバルに捕まったそうだった。
捕まえた? 眉根を寄せた騎士に、『逃げかけたから』と話すフェルルフィヨバルは、自分がこのダルナより強かったから、捕まえたことを前置きし、シャンガマックだけに聞こえるよう声を潜めた。
これは子供を探している、と。だが、逃げる理由に『他のダルナへの恐れ』を持っていて、簡単に話を聞かない。
他のダルナへの恐れ・・・それは?と不思議そうなシャンガマックは、捕獲とは言うものの、網や鎖があるわけではない、魔法の絡みで動かないダルナに話しかけ、出来るだけ親身に話を聞いた。
最初こそ、話したがらなかったが、『子供』に拘っていることと、他のダルナに恨まれる行いが過去にあった、までは解り、シャンガマックは少し気になったが、先に休ませた小さなダルナに、彼を会わせようと考えた―――
「親子だったのか」
見ている前で、『思い出した』『自分が親』と抱っこされ、抱っこするダルナの親子。
「似てないな」
首を傾げた獅子に、そういうこと言わないで、とシャンガマックは注意し、黙った獅子の横で頭を掻く。
彼はこの子を連れて行くつもりだろうか、気になるところ。恨みを買った行為があるような話で、この子を連れてどこへ行く気か。
もう少し話を聞いて、自分たちと一緒に行動するなら、そうした方が安全にも思うし・・・子供の心配が、頭を擡げる。
ということで、魔物退治もまだ残っているため、フェルルフィヨバルに後を頼み、シャンガマックは新しいダルナと子供相手に、事情を聞かせてもらえないかと尋ねた。親は嫌がったが、子供がシャンガマックに従う姿勢で、渋々、親も・・・以前、『女龍と話した』そこから口にし、自分の身の上を告白。
「女龍?イーアンに会っていたのか。彼女は何て?」
驚くシャンガマックに、女龍の仲間と知ったダルナは、態度を少し変える。女龍はそれきりで、子供を探すには探すが、と返事は消極的だったことを話すと、獅子と騎士は目を見合わせて『そりゃそうだろう』と同じことを思う。
聞けば、決戦前。女龍の状況は知らないが、やることだらけのイーアンに頼んで、どうにかなると思えないシャンガマックは、ダルナに『イーアンは忘れてもいないし、断ってもいない』立場的に、優先は難しかっただろうと推測を話した。
そして、問題の『裏切り行為・恨みを買う行為』についても、イーアンが同情したのは容易に想像がつく。
あの性格で同情しないわけがないし、まして、聞いていれば・・・このダルナは、始祖の龍とイーアンを同一人物と思い込んでいる印象。
とりあえず『イーアンは、初代の龍ではない』と重要なことを先に教えて、今度はダルナが驚いた。
「きっと、あなたの事情も辛い胸中も、理解している。あなたの痛みの矛先を、自分が受け止めたんだと思う」
イーアンが否定しなかった様子を、彼女の性格から解釈して話し、それから『あなたが他のダルナに攻撃されないよう、本当は守ってあげたかったのでは』とシャンガマックが続けると、ダルナは自分が名乗らずに離れたことを思う。
用があれば呼べと、鱗を渡したが、それを使うこともなかった女龍(※2325話参照)。
これも、シャンガマックが聞いて『子供を探して、他のダルナとの接触を避けている、と知ったら、そこら中ダルナの飛ぶ今、彼女は呼ぶに呼べないはずだ』と代弁する。ダルナは黙りこくり、腕の内の小さな子を撫でながら考える。
子供は終始、親とシャンガマックをの会話を聞いており、シャンガマックと目が合うたび、微笑んでもらうので、親に『一緒にシャンガマックと戦おう』と誘った。そんな簡単に決められない親だが。
「お前。名も言わないが。女龍は、名乗らない相手と話もしないはずだぞ」
不意に、獅子が口を出す。ちょっと反応したシャンガマックは、父が促してくれることに心で感謝して、下を向いて微笑む。
「鱗一枚で呼び出せ、とお前が譲歩したつもりだろうが。女龍が譲歩しているのは気付かなかっただろう。あの女は、対等に扱わない相手に、耳を貸しもしない。鱗を渡して受け取っただけでも、女龍が同情したくらいは察しが付く」
珍しく、イーアンの肩を持ってくれる獅子に、シャンガマックは有難い。そうだね、と呟いて、ダルナを見つめた。ダルナは何度か目を逸らし、子供の顔を見ては、子供に『一緒に』と・・・子供がシャンガマックたちと離れたがらない様子に、根負けしたのか、軽く頷き返した。
これを見て、シャンガマックは彼に提案。自分たちと一緒に来るなら、自分があなたの代わりに説明する、と。それで他のダルナが怒ったり、あなたを攻撃しようとするなら、俺が止めるとも約束する。
「その内、イーアンにも会う。そうしたら、俺たちと一緒にいる姿を見て、安心するだろう。その子も・・・」
「行くあてもない。子供と離れもしない。俺の名は『キーニティ・スマーラリ』」
「その子は?」
「名はまだない。力が付いたら・・・名を与える」
キーニティ・スマーラリは、子供が死んでいる可能性も考えていた。子供が誰にもやられないのは、以前の世界の話で、この世界で通用するか未知だっただけに、懸念は取れなかったと言う。
「分かった。じゃ、それはそれで」
最初に名前を聞いたような気もするんだけどね、と頭の中で獅子に伝える騎士は、獅子が『忘れたな』で終えたので、ちょっと笑って頷いた。
この後、シャンガマックは退治に戻り、ヨーマイテスは親子の見張りに残る。親子を攻撃されることがないように、と息子に命じられたので、待機で通す時間。
自分が側にいても関係なく、子との再会を喜ぶ、巨体のダルナの声の調子や、話しかけ方、これまでのことを尋ねたり教えたりを、耳に入れる気はなくても聞いていた。
それは、自分とミレイオには絶対になかった感情で・・・ バニザットになら通用し、理解出来るも。
そう感じ続ける自分に、なぜこんなことを気にするのか、と獅子は意識を遮断した。助かる道があるなら、助かるだろ。それで片付ければいいだけの・・・ミレイオの命。だと思っていたのが。
出口のない感情。痛みを伴わないが、そこに刺さって抜けない何か。ヨーマイテスはこれの片付け方に悩んだ。
獅子の気持ちはともかく。激しい時差の乱れは別として、決戦初日―――
シャンガマックとヨーマイテスの側に、絵を描くダルナが加わった。これは、後々、思ってもいない効果を生む。それと。
「何だあれは」
びゅっと吹いた一陣の風に、嗄れ声の嫌味付き。じろっと見た獅子と、顔を向けたダルナの親子の前に、緋色の布がバタッと翻った。その途端、ダルナの親キーニティ・スマーラリの目が怪しく光る。
「何の用だ。耄碌爺」
獅子の嫌味で返す挨拶は、若干の牽制。知り合い、と示した獅子の一言で、キーニティの目がちらっと獅子に動いた。
布は更に翻って、黒髪の魔導士に変わり、腕組みした姿でダルナの親を一瞥すると『俺に効くと思ってんのか』と見下し続き、合間を作らず獅子に吐き捨てる。
「情報を教えに来たと、いっぺんくらい感謝してみろ」
「早く言えよ」
「お前の上せる若造が」
「用だけ言え」
獅子の唸りに遮られ、魔導士は舌打ち。この二人は知り合いらしいと分かったダルナの親子だが、彼らが仲は良くないのも理解する。だが仲間なのか。嫌味の言い合いでも獅子は追い返さない。
追い返されない相手(※魔導士)は仰々しく咳払いして、肩越し、背後で魔物を倒すシャンガマックの魔法・精霊の魔法陣を指差すと、『使い方』と指摘。ぴくっと目を眇める獅子。
「小僧にどれだけ魔力が増えたか、俺にはちっとも分らんが」
「耄碌してるからだ」
「聞け。あれじゃ、あっという間に枯渇するぞ。大型魔法は引き上げて持続させないと、効率悪いくらい気付け(※指導)。お前みたいな天然と違う。全く、どれだけ一緒にいるんだ」
「・・・噛まれたくなかったら、さっさと用を言え」
傍らでダルナの親子が見守る獅子は、いきなり注意されて気分が滅法悪くなる。魔導士はどうでも良さげに、獅子の睨みを無視してから、次に山向こうの黒い影に腕を伸ばした。
「龍族の動きは知ってるだろ。あれの乱れで手に負えなくなったら、『檻』を動かせ、とキトラという精霊から示唆だ。お前じゃないぞ、若造にやらせろ。だが、他の『檻』が立ち上がる場合は、すっこんでろ」
「龍族の・・・後始末ってことか。手に負えない、目安はどこだ」
「『お前の種族』の動き、懸念が、始点」
これだけで会話が通じるのか。この後、獅子と魔導士は睨み合うように数秒の沈黙。
ダルナにはピンとこないが、獅子は小さく頷き『伝えておく』と、離れている息子を見た。魔導士は挨拶をすることなく、また緑の風になり、消える。
獅子は、『精霊の檻』をこの国でも使う可能性を、戻ってきた息子に教え、それからダルナたちと、次の退治へ移動した。
魔導士との会話の最後の沈黙は・・・ 白い筒がまだ続くことと、その目的―― 残党激減目当て ――について。ザッカリアとミレイオは未だに戻っておらず、しかし『命は繋がれた』ことを、獅子は頭の中に伝えられていた。
それと。獅子は別の疑問が残った。
老バニザットは、『檻』の話をしたが、必然的にアスクンス・タイネレと繋がるこれに対し、無反応を装ったこと。あれだけ、『アスクンス・タイネレと空行き』に執着している男が。
*****
なぜだ。
『脱け殻』は逃げ切ったが、仲間は、龍の餌食になりに出かけた。
まんまと消えた仲間・・・・・ あいつも、あいつも、と消えた面々を思うと、絶対に警戒していないわけがない奴らばかりで、その奇妙な自殺行為に疑念が浮かぶ。
『俺も、自分を崩しそうになったが・・・何だ。一体』
龍族が地上に来ているのは、重々承知。『呼び声』に命じられ、地中から出ずに、残っている人間を見つけては魔物に食わせたり、適当に操って殺し合わせたり、動かしていたというのに。
龍の力が、直下で走り抜ける強烈な衝撃(※白い筒)は、距離を取っていたにも拘らず、引きずり出された。自分の意識で表に出るなんて、あり得ないことが起き―――
『あの、龍の力。バカみたいな距離を移動するのか?何で一ヶ所にあるはずが、離れていてもいきなり食らうんだ?』
鎖の断片があったからか。『脱け殻』は頭を吸われたような錯覚から、一瞬で立ち直ってサブパメントゥに転がり込んだ。じゃら、と音を鳴らした鎖に視線を落として考える。これがあったから、サブパメントゥの力を保てたと思う以外ない。
自分以外は・・・恐らく、龍のあの力にやられただろう。
おかしい。あの筒から離れていても、だぞ?
『脱け殻』は、これで一層、やる気を失う。とっととこの国を出て、別の国で動くべきだろ、と犠牲の数に苛立った。苛つくのはもう一つ理由がある。塒に戻るはずが、通路がないのだ。地中から戻っていた道が、これまでに何ヶ所も壊れている。
サブパメントゥ内で、自分たちの使う通路に入り込む種族はいない。敵対する奴ら(※コルステイン側)はこっちまで来ない。忌み嫌う昔日の時以来、ここへは入り込まないはずで、それはあいつらが『こっちに呑まれる』と信じているからだ。
通路が潰れている――― 出て来た時は使えたものが。戻ってきたら埋もれて進めない。これも、もしや、龍の力のせいかと過った『脱け殻』に、このまま犠牲を増やす動きを続ける理由が見えない。
もし、龍の力が俺たちの思う以上に範囲を広げているなら、地中どころかサブパメントゥの最下層で籠っていた方がいい。
『呼び声』には相談せず、『脱け殻』は早めに引き上げる手を打つことにする。
あからさまでは『呼び声』の癇に障るだろうから、地中と地上に出る回数を利用して、石小屋(※移動遺跡)の準備を急ぐ。サブパメントゥに戻れず、龍の力を逃れた仲間が、石小屋でこの国を先に出るために。
龍に執着する『呼び声』は、まだまだ回復に遠い。
言い方を変えれば、あいつは安全じゃないかと、鎖の切れ端を憎々し気に握る『脱け殻』は、なぜか地上から離れない龍族相手、存在をくれてやる気などない。無論、仲間も同じ。
異常な量の、龍の力が巻き起こす状況で・・・『人間だって、龍共の餌食だろうが』と生き残れないことを見越し、放っておいても人間さえ巻き込んで殺すだろう、空の龍に人間狩りを譲る名目を立てる。
『龍が敵に回る。人間は僅かな残りで、空から来たあいつらに裏切られたと恨みを持って死ぬだろう』
それならそっちの方が、俺たちに都合が良い。『一つ目』もそんなことを言っていたなと思い出し、『脱け殻』の動きは変わった。
そして。地上移動の退路確保で、遺跡へ向かい勤しむ時間が増えたある時。『伝説到来』の影に、目を疑う。
『双頭だ。飛んで動いている』
お読み頂き有難うございます。
今日も後でもう一度、投稿があります。時間は未定です。どうぞよろしくお願いいたします。
すごく集中しているのですが、どうやっても年始(思うに七草粥くらい)まで続く気がします。どこかで一日三回投稿を行うかも知れませんが、とにかくアイエラダハッド編を詰め込み、次へ繋ぐ橋なので長いです。
皆さん非常にお忙しい時期と思いますので、どうぞお時間のある時にでも、無理なく読んで頂けたらと思います。




