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魔物資源活用機構  作者: Ichen
アイエラダハッド最後の魔物戦
2377/2965

2377. アイエラダハッド魔物決戦 ~ラファルの鎖・コルステイン静かな攻撃・胸懐と連動二回目

☆前回までの流れ

タンクラッド、オーリン、ドルドレンの三人に、魔導士が加わり、この四人で情報を共有。現状のアイエラダハッドと、戦い方の流れ、『檻』で対処か、魔物全滅で終了・・・の話まで、魔導士が指示する形で顔を合わせた時間は終わりました。

今回は、魔導士の話から始まります。

〇今日も一日二回投稿です。どうぞよろしくお願いいたします。

 

 ヒューネリンガから出た魔導士は、異時空亀裂を塞ぎながら、戻る道を急ぐ。『適度な手出し』は、疾うにはみ出て、その自覚もあるが。


「人間も減った・・・側に精霊のいる地域だけは、変わらず地上に人間もいるが。他は異界の精霊に匿われるやら、一帯を潰されて全滅やら、人間が地上に見えない事情も極端だ。

 亀裂くらいはな。細々、生き延びてる人間が、うっかり中に入り込むのを防いでやっても」



 魔導士の気配りは毎度だが、この一端で、ドルドレンたちに教えるのを遠慮した『危機一髪』がある。そのため、四六時中、部屋に戻っては様子を確認し、リリューの協力と、コルステインの承諾を得て・・・・・



「いるか」


「いるよ」


 強力にした結界を抜け、魔導士はラファルの部屋の扉を開ける。

 彼への挨拶は、安否確認に変わった。『いるよ』と答えた男の側へ行き、首回りやら手やらも、目で確かめてから、この一連が済むのを黙って待つ男に、『いいだろう』と確認済みの一言を与える。


()()だな」


 ボソッと呟くラファルに、『()()()()一回で済むから楽なもんだ』と返す魔導士。


 数時間置きに確認する、『ラファルの無事』。一日何度も様子を見に来る魔導士に、ラファルが苦笑いで謝るのも、一日一度は聞く。

 この、まめな確認の経緯。精霊の許可で、今は彼を表に出さずに済んでいるが、ついこの前、ラファルを別件で出した時に、襲われかけた。



 ―――コルステインが、リリューを呼び出した日。理由は言わなかったが、決戦近くで忙しそうなコルステインに、魔導士は了解した。


 その日は、ラファルを置いて行くのも気がかりで、魔導士は彼を連れて、魔物退治・・・だったのだが。

 比較的、目の届く場所で、結界も張って対処はしたが、異時空の揺れが近くで生じ、結界にも()()が出た。魔導士はそれに気づかず、ラファルも勿論気付かない。


 間一髪だった。あやふやな結界で待つラファルの、腕を取った相手。彼の声より早く、魔導士にもある『鎖』を伝って異変を知った魔導士が瞬間で弾き、撃退したが倒しておらず、そいつを逃がした。


 ラファルの腕からは()が落ち、血の出ないラファルの腕に、残った鎖がめり込んでいた。


 痛くはない、と本人は言ったが、魔導士は即行連れ帰って、『サブパメントゥの鎖』の、めり込んだ残り半分を慎重に取り出し、ラファル―― 見た目はメーウィック ――の腕の損傷を、()()の形で補修した。


 鎖は、魔導士の首にかかる鎖と合わせて、長さを調整し、ラファルに新しく付けてやった。これがあったから、気付けた。


 不幸中の幸い、というべきか。それとも、狙いが『ラファル()』と『サブパメントゥの鎖(美味しい餌)』で、本末転倒というべきか。


 とにかく、互いに分けておいた『鎖』に救われた。ラファルを連れて行かれたら、彼自身も危険だが、旅路の悪化も目に見えている。コルステインとリリューにも話したところ、リリューは絶対に離れなくなった。


 実は、今も近くにいる。それでも魔導士は数時間置きにラファルの様子を見に来ている。


 コルステインはラファルが襲われかけた時、鎖から流れた『気』に気付いたらしいが、魔導士が防いだのも同時に感じており、『大事に至っていない』と捉えたようだった。

 だが、鎖の一部を奪われたため、コルステインもこの時以降、一層・・・反逆のサブパメントゥに警戒を強めた―――



「すぐ行くんだろ?」


 ラファルが尋ね、魔導士は首を横に振ると、煙草を出して火をつける。長椅子に座るラファルの横、煙草を吸いながら、窓を見つめて『コルステインに話すことがある』と短く答えた。


「俺のことで、何かが」


「違う。()()()()()()()のことで、だ」


 考えると苛々してくる、ミレイオの一件。殺されたと知った時は、何かが音を立てて壊れた気がした。だが、精霊に命を繋がれた確認があり、バニザットはそれで平静を保っている具合。どこにいるのかも分からない。俺に会ったあの後、ミレイオが襲われることを、なぜ気にしなかったのかと、自分も責める。


 ドゥージは精霊の手の内に収まった・・・だろう、と見当をつけている。氷河の群島は精霊の領域、恐らく、ドゥージは何らかの形で守られたはず。


 ラファルもここに居る以上は、どうにか守れる。それなのに、ミレイオも狙われることを俺はなぜ、重視しなかったか。


 サブパメントゥの対立に巻き込まれないよう、彼をサブパメントゥ出入り禁止にした、とコルステインが言っていたのは、ミレイオが捕まる機会を減らすためだった。


 どこに居たって、捕まる時は捕まるだろうが、サブパメントゥ(本場)に踏み込まないに越したことはない。俺はそれを、忙しさにかまけて、後回しに――



「バニザット。大丈夫か?」


「あ?ああ・・・問題ない」


 魔導士の煙草は、普通に火が伴う。煙草の火種が、彼の口に着くほど近くなっているのに、明後日の方向を見ている魔導士に、ラファルがちょっと声をかけた。

 熱くないんだろうけどさ、と遠慮がちに添えた彼に、『いや、考えごとだ』と注意してくれた礼を言い、煙草を宙に消す。


「コルステインを呼ぶのか」


「呼んだ。もう来る・・・近くにいたようだ」


 そう答え終わる前に、窓の向こうの暗がりに青い霧が浮かんだ。魔導士は窓へ寄って、結界を緩めてコルステインに気遣い、そして『ミレイオが』と聞いたばかりの情報を伝えた。



 この後は・・・ ラファルに毎日の注意を伝え、外にいるリリューに後を頼み、バニザットは出かける。


「てんこ盛りだな。『檻』の発動は、俺が伝えた方がいいだろう。子孫(※シャンガマック)と、センダラ・・・イーアンは別にいいか。で、『失われた知恵』か。イーアンが片付けに行ったらしいが・・・俺は放っておくのが良さそうだな」


 知恵がまだ、どこかの僧院に――― そんなものに、関わり合いになる気はない。


 それよりも、『檻』。この『檻』の存在は、魔導士の生前の野望を阻む、要素の一つだった。だが、大きな障壁だったとはいえ、名を聞けば、沸々と望みも再熱する。


「今回は、先に『檻』と来たな・・・先にやられちまったら、アスクンス・タイネレに入り込む隙間もないが。()()()()()()、あの大陸の影くらい、見せてやりたいもんだ」


 ミレイオ、どうにかせんとな・・・ どこに居るかも分からない、自分の子の宿命を想う。気持ちを切り替えた魔導士は風に変わり、獅子のいる中北部へ。



 *****



 ミレイオに何があったかを、コルステインは全く知らないわけではなかった。


 魔導士に話を聞いた時、自分も若干知っていたことは伝えなかった。彼はとても怒っていたし、コルステインも『最新の状況』として情報を受けとるのみで、他にすべきことがあるため、ミレイオが殺されかけたことに『じゃ、対処を』・・・とはならず。頷くに留める。


 コルステインの反応が薄いのは珍しくもないので、魔導士は溜め息を吐いてから『話はこれだけだ』と〆て終わった。

 魔導士も、小耳に入れておこうと期待はそれくらいで、コルステインたちが何をどう判断するのかまで、口出ししない。


 知らせてくれた配慮に、礼を伝えたコルステインは・・・ラファルをチラッと見て、無事を確認して離れる。


 ミレイオが、『呼び声』に捕まった状況は知らなくても、その後のことを知るコルステインにとって、今は龍を刺激しない方が重要であり、そしてイーアンたちの味方である、それを示す動きが()()()()するべきことだった。



 立場的に、の話だが。コルステインにすれば、反逆の同種は、目の上の瘤どころか、とんでもない荷物以外の何者でもない。


 ザッカリアがやられたのをロゼールに聞いた時、すぐに反逆側のサブパメントゥが絡んだと気づいた。

 これで龍族がサブパメントゥを一掃しかねないと感じたコルステインは、言い逃れより早く、反逆の同種鎮圧を考え、あれらの動きが活発になったのを逆手に取り、地下の国で行動を取った。



 残党サブパメントゥの移動通路を塞ぐ―――



 早い話が、閉め出すのだ。自分たちから見て分かる攻撃をすると、この先の旅路に都合が悪い。


 塞ぐ案。これは、少し前からコルステインが考えていて(※2178話参照)、アイエラダハッド以外の国に通じる通路を、先に潰そうか、どうしようかで迷っていた。だが今回のことで、近い位置から始めた。


 だから、地下の国で移動する道を、単純に塞いで使えないよう、家族と自分側のサブパメントゥにも命じて、あちこち潰し続けているのが、コルステインの最近。


 これが簡単ではない。付近に残党がいる場合は少なくないので、誘導して表に出し、がら空き状態で通路を潰す。潰してしまえば、地上から戻れない・同じサブパメントゥ内で使えない、その状態へ。


 相手に見つかりそうだと姿を消すしかなく、対戦を避け、どうにか順調である。

 目立つコルステインたちが動くのも良くないので、自分が動かないのは気になるが、コルステイン一家は指示と補佐に徹底していた。



 この動きの折りで、というべきか。

 コルステインは、意外な味方を得た。それはダルナで、ザッカリアとミレイオを手にかけた『呼び声』を追う、スヴァウティヤッシュ。


 地上で龍族の仕打ちが始まったすぐ。イーアンの『ミレイオ探し』、その続きを引き受けたダルナは、思念を操るサブパメントゥを()()()()()()()()力を持っていた。


 彼の追う『呼び声』が、居場所を掴まれかけた時、怪訝に感じていたコルステインは、地下の国にまで思考を飛ばす何者かを確かめに動き、意思のやり取りで、顔を合わせるに至った。



 無論――― 最初は一筋縄で信用するわけもない。お互いに、攻撃じみた構えもあった。


 が、世界の根元に近いコルステインは、イーアンと同じような立ち位置、スヴァウティヤッシュの操作が及ばなかった。とはいえ、コルステインも、スヴァウティヤッシュへの操作が可能・・・とまで、自由が利かず。


『話をきけ』『お前は誰だ』のやり取りで、探り探り・・・確認を繰り返し、お互いの利害が一致すると理解し合った。


 決め手はイーアンであり、コルステインは自分たちがイーアンの仲間で味方であることを態度で示したくての行動。

 片や、スヴァウティヤッシュはイーアンの友達で、彼女の願いを引き受けたからミレイオを救おうとしている行動。



 スヴァウティヤッシュは、『呼び声』を捕まえ、ミレイオを捕獲した呪いを解きたい。それはすぐには難しい、とコルステインは教え、今は地上へ奴らを引きずり出した方が良いと意見した。


 話を知るに、イーアンに直に攻撃された『呼び声』は、ラファルの鎖を奪った本人か。普通、消滅しているものが、()()()()()()()時点で、どうにか存在を保つには叶ったと見えるものの、決して無事なわけもない。


 地下に身動きせずいるのは、その衝撃の回復を待っているのだろうと見当をつけた。この期間、『呼び声』はミレイオに再度手を出せるほど、力を使えると思えない。これを見越しての、コルステインの言葉。


 そして『呼び声』が関わったのなら、あれが動き出した時に教えてやる、と協力体制を伝えたところ、ダルナはそれに頷く。


 こうした経緯で、コルステインは『ミレイオの危機』詳細を知り、また、スヴァウティヤッシュの力を有効利用する案も思い付き、残党サブパメントゥを地上へ誘導出来ないか、と相談を持ち掛けた。


 龍気に影響しないダルナで、自分と近い、高い能力を持つスヴァウティヤッシュは、適役でしかない。


 コルステインは全部を喋りはしないが、龍と仲間の信頼のため、自分たちの静かな未来のためと、嘘のない理由を沿え、ダルナはそれを真実と見て、コルステインと組んだ。サブパメントゥも、ダルナも、嘘は言わない。



 コルステインの選んだ行動は、決戦に似合わない地味。だが重要で、味方となったスヴァウティヤッシュの動きも・・・皆が思うよりずっと、決戦の好転に一役買ったと知るのは、もっと先のこと。



 *****



 夜。サブパメントゥが動くに適した時間が来て、アイエラダハッドの南部で生じた白い筒の連動は、次に中部へ移る。


 イーアンは製造院から出て、とっぷり暮れた夜の始まり、白い筒の波動に呼ばれて急いで現地へ飛んだ。


 途中、見過ごせない魔物の群れを見つけては、土地の邪と混じったそれを倒したが、自我を持つ魔物は見えなかった。


 それでも気にはなるので、環境を見て、少し時間を使う物理的な倒し方を試みたりもした。龍気一消しではない方法は、相手を見つけやすい。いずれも、人のいなくなった人里近く。遠慮はあるが、人間がいないことを確認した上。


 水浸しになっていた丘での発生は、土砂を起こして、先の楔型陥没地に土ごと押し流した。

 林が壊された低木の続く平野は、起こした風で雲を引き込み、暴風と雪で傾いだ木々を倒し、対する魔物の動きを見て、『対象者はいない』と判断する。

 何だか、魔物の要素はあるけれど、それよりも別種の方が%的に多く感じた。どちらにしても、龍気以外の倒し方は効果がある。



「龍気は、タムズの教えてくれた方法で維持しているのもあるし、始祖の龍の()()があるから・・・すごく使った気がしても、まだ平気。

 でも、自然体で回復する方が、体に負担が少ない。精気を削るようなぶっ続けは避けねば」


 反省するも、男龍には注意されるだろう。だが、今日は仕方ない。事情は、精霊がこの世界から取り上げた『危険な知恵』・リチアリが命懸けで挑んだ『知恵の還元』に因む。


「私しか・・・きっと、応じられないような。以前の世界から来た、危険な知恵の()()()()()女龍だから。私たちがいた世界の魔法を、許されている立場だから」


 重い立場だなと、投げ出したくなるが、ここで繋がったのも意味があるのだろう。


 燃え盛る怒り―― ザッカリアとミレイオの件 ――の熱を、形を変えて保っているように感じている。大事な仲間の死への怒りも、暴走の未来を持つ知恵への制御も、視点を高くすると同じ熱に混じる。これが龍族の、大別する怒りや判断の視点かも、と思う。


 だが、思うだけで・・・またすぐに忘れてしまうこともあるだろう。



 一歩引いた視点で考える時間の終わり、前方に空へ伸びる光の線を捉えた。


 あれが二回目の連動か、と思ったが、ちょっとおかしいことも気づく。テイワグナのイル・シド集落で、初めて白い筒を見つけた時と似ている(※1076話後半参照)。


「あれ・・・()()()()が近くにないのでは」


 なくても筒は上がる。どこかに沈んだまま、少し離れた場所に筒だけが出る感じ。イル・シド集落はまさにそうだった。


「もしや。あの時も異時空が絡まっていたから、ここもそうかも」


 イル・シド集落の時、ドルドレンたち騎士が先に向かい、筒の中に閉じ込められた。筒が消えると、そこに存在していたものが消えてしまう場合もあるが、集落では『時間が変』なだけで中身は残った。


 アイエラダハッドは既に異時空の亀裂だらけ。そこかしこで時間が揺れ、時空の歪みで、物質の状態に危険な変化も与えている。

 あの場所に人がいませんようにと目を瞑り願って、女龍は夜空を急いだ。



 この時。余談だが―― イーアンは、製造院に向かう道で持っていた『黒い鞄』を持っておらず。理由については、もっと後で・・・・・

お読み頂き有難うございます。


後でもう一度投稿があります。明日も二回投稿です。

一話ずつに、詰め込んで詰め込んで、削れるところは削って、それでも年内に終わらないのですが、とにかく毎回一話が長いので、どうぞお時間のある時にでも。


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